【永遠の物語】
シカゴ郊外にある寂れたアパートの一室で、男はニュースを眺めていた。日本の東北地方で起きた光明神教と日本政府との戦闘は世界中で大々的に報道され、光明 永遠(こうめい とわ)の行方は大きな関心ごとなのである。
(トワ………。行方不明か。)
男の名前はフリードマン・ジゼル、33歳の白人で光明神教の信者である。フリードマンが光明神教に入信したのは2年前の冬の日であった。
西暦2038年12月20日
クリスマスも近い12月の夜、妻と子供の3人で外食を済ませた帰り道、フリードマンは奇妙な人物と出会う。
ザッ
「!」
人気の無い田舎道に、ふらりと現れた男が目の前に立ち塞がったのだ。
「なんだ、貴様は!」
そして男は質問をする。
「ここはどこだ?」
「なに?」
「ここはアメリカなのか?西暦何年だ?」
「……………。」
その男の言動の意味がわからず、フリードマンは困惑する。
「…………。ふむ、まぁ良い。それより腹が減った。」
やせ細った身体の割に眼光だけが鋭く光る。
「子供がいるな。子供を差し出せばお前達夫婦は助けてやろう。」
「な、なんだと!?」
「子供は栄養価が高い。俺の能力を回復させるには丁度良い。」
「!?」
この男は危険だと察知したフリードマンは、迷うことなく懐の拳銃を抜き出した。
「失せろ!すぐに立ち去れ!さもなくば撃つぞ!」
「…………拳銃か。」
フリードマンの妻は携帯電話を取り出し警察に電話をする。しかし、応答は無い。
「…………電波が届かない。」
「ママぁ!周りが真っ暗で何も見えないよ!」
「!?」
子供の声を聞きフリードマンは、周りを見回した。家族と不審者が対峙している場所から数十メートル離れた先の景色が見えない。
(どういう事だ?)
それから、フリードマンが上空を見上げると、やはり暗闇が広がり星空は全く見えない。
「貴様………、何をした!」
「何を………?結界のことか?」
「結界?」
「知らないのか?捕食者が獲物を狩る時は邪魔が入らないように結界を張るのは当然だ。」
「捕食者……、貴様、何者だ!?」
「失礼な奴だな。人間だよ。見て分かるだろう。」
こいつは人間では無いとフリードマンは直感する。姿形は人間そのものだが、明らかに人間とは違う。
ズキューン!ズキューン!ズキューン!
間髪入れずに、フリードマンが放った銃弾が得体のしれない男に命中した。少なくとも2発は当たったはずだ。
「痛………。拳銃………、なかなか面白い武器だな。このスピードに、この威力、覚えたぞ。」
「なに!?」
ズキューン!ズキューン!
「ぐはっ!」
「きゃあぁぁぁ!!」
「パパ!」
そこでフリードマンは、信じられない光景を目撃した。男が右手を構えると、その指先から銃弾を発射したのだ。フリードマンが放った銃弾がそのまま2発、正確にフリードマンの身体を貫いた。
「ぐ………。馬鹿な……………。」
やはり、この男は人間ではなく化物だ。このままでは、家族皆殺しに合う。
「……………。」
すると、男はフリードマンの後方へと視線を向けた。
(……………なんだ?)
ピカッ!
暗闇から光が射し込み人影が見える。
「結界を破ったか。何者だ?」
そこに現れたのは2人の親子の姿だ。
「どうやら間に合ったようですね。早くお逃げなさい。」
「お前は……、いや、助かった!」
それからフリードマンは、妻と子供を連れて、光が射し込む方向へと走り出す。必死であったため、その親子の名前を聞く事もしなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ………。お前達、無事か!」
幸いなことに、妻と子供には怪我もなく、フリードマンの傷もそれほど深くは無かった。
「パパ……見て!」
そして、子供が指差す方向を見るフリードマンは、呆気に取られた。そこには、不審者の姿も親子の姿もなく、何事も無かったような街並みが広がっていたからだ。
「何が起きたんだ?」
その翌日からフリードマンは、不審者の正体と2人の親子の素性をインターネットで調べ尽くした。
光明神教───光明 永遠(こうめい とわ)
(日本人か……………。)
あの不審者が何者なのかは、結局はわからなかったが、親子の素性は判明した。そして、フリードマンは、光明神教に入信する事になる。
その時、玄関のチャイムが鳴り、フリードマンは我に返った。
(こんな遅くに誰だ……………。)
ガタ
ギギ……
ゆっくりと扉を開けると、そこには2人の若いアジア人が、1人の少女を抱きかかえていた。
「追われている。匿ってくれ。」
「は?何を言っている。」
「フリードマン・ジゼル、光明神教の信徒だろう?頼む!永遠様を預かってくれ!」
「!?」
その腕に抱かれている少女は、2年前にフリードマンを助けた少女、光明 永遠(こうめい とわ)であった。
