MARIONETTE- シンドウ

【Aブロック決着①】

ビビッ!

(アリス002…………、それに003まで倒されたか。)

対する日本国防衛軍の機動兵士は3人が残っており、圧勝で予選トーナメントを勝ち抜けると踏んでいたアレクサンダーの算段は大きく崩れた。

(防衛軍か……………。予想以上に強い。量産型アリスが全員敗退するとは思わなかった。)

中央西側のバトルフィールドには、まだ4人の機動兵士が残っており、現在フィールドに立っている機動兵士は8人。決勝トーナメントへ進めるのは4人であり、半分は脱落する。

そして、アレクサンダーと対峙する防衛軍の機動兵士。

御鏡 釈迦(みかがみ しゃか)─────

第一歩兵部隊の副隊長のはずだが、その戦闘能力は副隊長なんてレベルではない。

ジリ…………。

シュン!

シュバッ!

ガキィーン!

ビリビリ…………。

ブワッ!

ザザッ!

(一瞬たりとも気が抜けない。)

いや、おそらく戦闘能力はアレクサンダーの方が上だろう。わずかではあるが反応速度も瞬発力もアレクサンダーが上回っている。

しかし────

ズバッ!

『!?』

ビビッ!

『損傷率42%』

(まただ……………。)

御鏡 釈迦はアレクサンダーの意識の外から攻撃する。

(気配を消す事に長けた機動兵士なのは知っていたが、まさか目の前で戦っている相手の攻撃が意識出来ないなんて事が有り得るのか。)

スピードではない。戦闘の最中に、御鏡 釈迦の存在が薄れて行き、アレクサンダーの意識の外へと消えて行く。

(マリオネットの性能が本人の持つ気配を消す能力を高めているのか…………。)

『これは、早いところ決着を付ける必要が有りそうだな。』

『……………。』

『さすがだ御鏡 釈迦、予選で奥の手を見せる事になるとは。』

シャキィーン!

アレクサンダーが構えるのは黄金の光学剣(ソード)である。

(何をする気?)  

これまでのところ、互いに数回の損傷を負いほぼ互角の戦いを演じている2人であるが、日本国防衛軍には他に生き残っている機動兵士が2人いる。もうすぐ2人がこの戦場へ駆け付けるはずだ。

(あと少し耐えれば私達の勝利…………。無理に戦うよりも受けに徹した方が得策ね。)

御鏡 釈迦は慎重な兵士だ。もっとも勝利の確率が高い選択肢を優先する。

『行くぞ!』 

ゴゴゴゴゴゴォ!

(この気配は…………。)

ズサッ!

アレクサンダーが右足を大きく踏み込み、一瞬で釈迦との距離を詰め寄った。

『アレクサンダー・アタック!!』

『くっ!』

釈迦はアレクサンダーの光学剣(ソード)の軌道に合せて光学剣(ソード)で身を護る。

ズバッ!

ガキィーン!!

大きく振り下ろされた黄金の剣(ソード)を受け止める釈迦。

(さすがに反応が速い。)

だが────

ズバッ!

『!』 

『俺の剣(アレクサンダー・アタック)は、その程度では防げない。』

ビビッ!

『損傷率!リミット・オーバー!』

『なにを……………。』

バチバチバチバチバチバチバチバチ!

ドッガーン!


ザッ!

ザザッ!

『釈迦!』『御鏡!』

そこに駆け付けたのは、日本国防衛軍の2人の兵士、神坂 義経第三統括隊長と鬼塚 弥勒第一歩兵部隊隊長である。

『遅かったな。』

『まさか、釈迦が敗れたのか……………。』

防衛軍の中でも、その実力が高く評価され統括隊長達とも同列と噂される『睡蓮の釈迦』を持ってしてもアレクサンダー・ルーカスには敵わない。

『さすがはアメリカ軍の将軍ってところか。』

鬼塚の装甲の耐久値は残り30%、神坂のは耐久値は41%と後が無いが、敵は1人。逃げるわけには行かない行かない。アレクサンダーは決勝トーナメントに上がっても防衛軍の強敵になる。

『鬼塚………、なんとしてもアレクサンダーを倒すぞ。』

『当たり前だ、釈迦の仇は俺が取る!』



【Aブロック決着②】

イギリス連邦共和国、エレノア隊の機動兵士である、エレノア・ランスロット、エドガー・ブランザム、ジム・ベスタの3人は、ロシア連邦共和国のクレムリン親衛隊トップ・ファイブの1人であるエレナ・クレシェフを追跡していた。

イスラエルのバトルフィールドの多くは、荒野が広がっている戦場が多いが、エレナが逃げ込んだ地点は古い建物が並ぶ市街地である。

(止まった……………。)

それまで、逃げるように走り出したエレナ・クレシェフの動きが止まり、一転してイギリス連邦の機動兵士を迎え撃つ態勢に入る。

ビビッ!

『エリー、ベスタ、来るぞ!』

副隊長であるブランザムの指示により3人は等間隔に並ぶように戦闘態勢に入るが、道路の幅は5メートル程度と狭くほぼ真正面からエレナを迎え撃つ事になる。

『モデル・メデューサ!』

第二形態へ移行したのはジム・ベスタである。イギリス軍だけではなく大会に参加している機動兵士の中でも最年長にあたるベスタの能力は、長く伸びる光学兵器(スネーク)による長距離攻撃だ。

シュルン!

しかし、四肢を光学兵器に変化させるエレナにはベスタの攻撃は通じない。スピードに劣るベスタでは、エレナを倒す事は出来ない。

シュルルルルルル!!

だからこそ、ベスタの狙いはエレナの拘束にある。1対1では勝てなくても、イギリス連邦には他にも2人の機動兵士が残っている。

『モデル!ホーク!』

シュン!

エレノア隊副隊長であるエドガー・ブランザムの『マリオネット』から巨大な羽が伸びると同時にブランザムは上空へとジャンプをする。機動兵士であれば十数メートルのジャンプなど容易いがブランザムの跳躍はその比ではない。

太陽光が照り付ける遥か上空へ飛んだブランザムは、光学槍(ランス)を前方へと構えた。

『行くぞ!』

ベスタとブランザムの攻撃はほぼ同時に行われるが、イギリス軍にはもう1人の機動兵士がいる。

(エレナ・クレシェフはどう動く!?)

エレナの動きを見極めようと、エリーは大きな瞳を凝らして、神経を集中させた。

『……………問題ない。』

『!』『!』『!』

ビュン!

エレナの狙いはジム・ベスタだ。両腕から伸びる光学兵器(スネーク)は既に見ている。同じ罠には嵌らないとばかりに、鋭い手刀でスネークを払い除け一直線にベスタへと襲い掛かる。

(甘いな………。)

ビカッ!

『メデューサ・アイ!』

次の瞬間、エレナの目の前が光り輝いた!

簡単に言えば『目眩まし』の原理で、いきなり大量の光を浴びせられた事により、エレナは視界を失った。相手の耐久値を削る事は不可能でも動きを止める事は出来る。

グワン!

『ホーク!スクリュー!!』

ベスタの光線の直後に、天空から急降下したブランザムの光学槍(ランス)がエレナ目掛けて放たれた。

ビュン!

ガキィーン!

『!』

それをエレナは、勘だけで受け止めると、そのまま空中へジャンプをした。

グワン!

空中右回し蹴りだ!

シュルルル!

ガシッ!

その足を今度はベスタの光学兵器(スネーク)が空中で絡みとる。

『ユニコーン・ランス!』

更に追い打ちを掛けるように、ブランザムと入れ替わるように現れたエリーが光学槍(ランス)を突き出した。

シュバッ!

ガキィーン!

『!』『!』

エレナとエリーの瞳が交錯し、そのままもつれるように落下する2人の機動兵士。

『ベスタ!着地点を狙え!』

とブランザムの叫び声が聞こえるもベスタは攻撃に難色を示す。

『ダメだ!エリー隊長に当たる!』

『くそ!』

ならばとブランザムが光学槍(ランス)を構えて一直線に走り出した。

『ブランザム!?』

『ホーク!スクリュー!!』

『!』

『エリー!よけろ!!』

ズバッ!

『!』

ビビッ!

『損傷率86%』

ブランザムの光学槍(ランス)は、エリーの装甲をすり抜けるようにしてエレナに命中した。

『良し!』

あと一息でエレナ・クレシェフを倒せると、ブランザムが声をあげるのと同時に、エレナはジム・ベスタの方へと大きく跳ねた。

『!』

シュバッ!

ババババババババババババ!

『ぐはっ!』

『ベスタ!』

バチバチバチバチバチバチ!

ドッガーン!

『くっ!しまった!』

イギリス軍最強の機動兵士部隊であるエレノア隊の隊員がエレナ1人に3人も倒される始末。

『しかし、エレナの耐久値は僅かのはずだ!エリー!行くぞ!』

『ブランザム!待って!』

『……………なに?』

『どうやら予選は終わったみたいよ?』

『!?』

慌ててモニターを見たブランザムが目にしたのは、コングラチュレーションの文字と試合終了のメッセージである。 

『これは…………。』

『エレナは、あと1人を倒せば試合が終わる事を知っていたみたいね。』

既に戦闘態勢を解除したエレナ・クレシェフが一言つふをやいた。

『…………………問題ない。』




【Aブロック決着③】

35名で争われる予選は、4人の機動兵士が残った時点で終了となる。

ロシア代表
エレナ・クレシェフ

イギリス代表
エレノア・ランスロット
エドガー・ブランザム

そして

アメリカ合衆国代表
アレクサンダー・ルーカス


表示された名前を確認したブランザムが、大きく嘆息すると、エリーの方を見て微笑みかける。

『お疲れエリー。2人は予選突破だ。』

『お疲れ様デス!他の隊員もありがとうでした!』

Aブロックに戦力を集中したイギリス連邦にとって、2人の予選突破は及第点という所だが最低限のノルマは果たしたと言える。仮にエレノア隊がバラバラに予選に参加していたなら状況は更に厳しくなったはずだ。

『残る1人は合衆国のアレクサンダー将軍か、このブロックには優勝候補が2人もいたのかよ。』

『日本は負けたのですね。怜ちゃん………。』

『誰が参戦していたかも分からない。控室に戻って状況を確認しよう。』



バトルフィールド北部

アレクサンダー・ルーカスに2人掛かりで戦闘に挑んだ、天才神坂と波動剣の鬼塚は敗れ去った。

(強い……………。これが米国最強の機動兵士。)

神坂と鬼塚は、アレクサンダーを挟むように左右から攻撃を仕掛けた。

まず、アレクサンダーが警戒したのは鬼塚だった。剣を交えれば動けなくなる必殺剣はアレクサンダーにとっても脅威であり、それを封印する必要がある。

『ビッグバン・アタック!』

ビキィーン!

鬼塚はビッグバン・アタックの軌道を読み、巨大な光学剣(ソード)で、その斬撃を完璧に防いだが、先程とは違いアレクサンダーは鬼塚との距離を一気に詰め寄っていた。

ビュン!

『!』

そのスピードは、反対側から攻撃を仕掛けた神坂をも上回り、一瞬にして鬼塚の装甲の耐久値を奪い去った。

バチバチバチバチバチバチバチバチ!

ドッガーン!

グルン!

ガキィーン!

『!?』

驚くべきは、その反応速度である。防衛軍の中でもスピードと瞬発力に定評のある神坂の一撃を、振り向きざまに防いだアレクサンダーは、そのまま次の剣で神坂の胴体を薙ぎ払った。

ズバッ!

ビビッ!

『損傷率89%』

天才、神坂 義経をも上回る瞬発力とスピード。かつて、世界最強の機動兵士と謳われたシリウス・ベルガーの域を超えたアレクサンダー・ルーカスの黄金の光学剣(ソード)が、神坂の構えた光学剣(ソード)の数ミリ左側を通過して、神坂の胸部に突き刺さった。

グザッ!

『損傷率!リミット・オーバー!』

(馬鹿な…………。)

バチバチバチバチバチバチバチバチ!

ドッガーン!

それは今から数分前の出来事だ。


「立てるか?神坂隊長。」

鬼塚の手を取り立ち上がった神坂は、同じくシンクロが解除された状態の阿弥陀丸と御鏡 釈迦、そして大和 幸一を見る。

(これほどのメンバーでを揃えても勝てないのか。)

予選Aブロックを通過した日本の機動兵士はゼロ人。2人の統括隊長が共に予選敗退という最悪の結果となって終わる。


日本国防衛軍 控室

「まさか神坂統括隊長まで負けるとは思いませんでした。」

夢 香織が呟くと、伊集院 翼が立ち上がった。

「運が悪かったな。相手が強すぎた。」

「伊集院統括隊長…………。」

大会初日の戦闘はAブロックとBブロックの2試合が行われる。そして、Bブロックの代表を任される統括隊長は伊集院 翼である。

伊集院 翼(いじゅういん つばさ)

不知火 詩音(しらぬい しおん)

榊原   望愛(さかきばら のあ)

伊東   修(いとう  しゅう)

羽生 明日香(はにゅう あすか)


「明日香…………。頑張って。」


「…………ありがとうございます。」


七瀬統括隊長に見送られた羽生 明日香(はにゅう あすか)の表情もどこか暗い。予選Aブロックのメンバーで1人も決勝トーナメントへ進めなかった防衛軍の控室は重い空気に包まれていた。



中華人民共和国 控室


控室の最前列で試合を観戦していたのは、中華人民共和国を代表する機動兵士の3人、李 王偉(リ・ワンウ)、李 雪麗(リ・シュェリー)、周 劉偉(シュウ リュウエイ)である。


「壮絶な試合だったな。武闘の大会とは全く違う、真剣による戦闘か………。」


「リュウエイ、お前の注目は誰だ。」


ワンウの問いにリュウエイはアレクサンダーの名前を上げる。


「やはりマリオネット大国アメリカの将軍だけある。日本の機動兵士も決して弱くは無かった。」


「純粋な戦闘技術ならロシアのエレナですね。彼女との戦闘は普通の機動兵士では厳しいわ。」


横からシュェリーが口を挟む。中華人民共和国は予選Aブロックでは早々に全員が敗退したため、序盤からモニターが開放され3人はほぼ全ての対戦を観戦していた。


「私達には武闘の心得があります。エレナ相手でも互角にやり合えるけど、他の機動兵士では勝てないでしょう。」


いかにも、シュェリーらしい物の考え方だとワンウは苦笑いをする。シュェリーは、シュリング流の武術が最強だと思っているのだろう。


「そういう兄さんは、誰が印象に残っているのですか?」


「そうだな。」


ワンウは一呼吸を置いて2人に質問をする。


「今の予選で、一度も損傷を受けていない機動兵士が1人いる。」


「……………え?」


「イギリス連邦のエレノアだ。」


言われるまで気付かなかったが、確かにエレノア・ランスロットは一度も攻撃を受けていない。


「底が知れないという意味では、エレノアが決勝トーナメントでは戦いづらい相手ではあるな。」


イギリス連邦共和国のエース、エレノア・ランスロット。


「そろそろ行くか。」


そして、ワンウは他のメンバーに声を掛ける。


「次は俺達の番だ、予選を通過しなければ決勝の心配をしても仕方がない。」


「それは、そうだ。」


「中華人民共和国の機動兵士の強さを見せてやれ!」


シュリング・カナムの意志を受け継いだ、3人の戦いが始まろうとしていた。