MARIONETTE- シンドウ


【クローン①】


Aブロックの予選が開始されてから45分が経過した頃、全ての国が戦闘に参加したことにより、控室にあるモニターの映像が全て公開された。


フィールド北部では、アメリカ合衆国と日本国との戦闘が始まり、フィールド東部では、ロシアとドイツの戦闘に決着がついた所でイギリス連邦が乱入する。


現在までに生き残っている機動兵士は、総勢18名と半数以上が健在であるが、いよいよ戦闘は渦中へと差し掛かっていた。


「なによ、あれ…………。」


アメリカ合衆国の機動兵士の4人はどれも同じ顔をしている。そして、驚く事に日本国を代表する機動兵士達と互角の戦闘を演じていた。


「神坂統括隊長が押されている?信じられ無い。」


最前席でモニターを見ていた夢 香織(ゆめ かおり)が思わず呟いた言葉は、全ての日本の機動兵士達が思っている事だ。


「嫌な予感が的中したわ。」


「坂田隊長……………。」


「あれは、おそらく桜坂 神楽(さくらざか かぐら)のクローンよ。」 


「クローン!?」


ざわ!


「噂くらい聞いた事があるでしょう?PROJECT ALICE、アメリカの科学者が研究していると言う噂。」


「桜坂 神楽がアメリカに引き渡されたのも、それが理由だからな。」


「伊集院統括隊長まで…………。」


「今回、アレクサンダー将軍が世界大会を開催した理由が分かった。アメリカは絶対の自信を持って大会に望んでいる。」


「そんな……………。」


「日本はおろか、他の国々にはアメリカに勝てるだけの戦力は無い。」


「……………。」


しん────


「などとアレクサンダーが考えているなら、甘いな。」


「伊集院統括隊長…………。」


「世界には想像を絶する化物がいる。このAブロックにも1人居るだろう?」


ざわ!


「ロシア連邦共和国エレナ・クレシェフ。あれをどうやって倒すんだ?」




フィールド東部


イギリス連邦共和国最強の部隊であるエレノア隊がロシア連邦共和国の機動兵士を強襲し、2人の兵士を瞬殺し、5対1の戦況を作り出す。残る機動兵士はエレナ・クレシェフのみであり、エレノア隊にとっては理想的な展開となっていた。


『ユニコーン・ランス!』


『ホーク・スクリュー!!』


エレノア隊の隊長であるエリーと副隊長であるブランザムの同時攻撃を、エレナは両腕でしっかりとガードをして、そのままブランザムの懐に潜り込んだ。


『な!?』


ズボッ!


『がはっ!


ビビッ!


『損傷率22%』


エレナの攻撃の恐ろしい所は一度の攻撃では終わらない所だ。光学剣(ソード)であれば剣を何度も振りかざす必要があるが、光沢を帯びた手刀による攻撃は瞬時に複数の攻撃を叩き込む事が出来る。


ダダダダッ!


『ぐっ!ちょっ!待て!』


『損傷率39%!損傷率48%!損傷率65%!』


『止めなさい!』


グワン!


その背後からエリーの光学槍(ランス)がエレナの背中に向けて放たれた。背中は機動兵士の急所でもあり、一撃で大きなダメージを与える事が出来る。


ビカっ!


『!?』


しかし、その攻撃もエレナの左足の蹴りによって防がれる。


『なに!それ!』


光学槍(ランス)が足に当たってもエレナの耐久値が減少する事は無く、またしてもエリーの攻撃が防がれた。


『身体が光学兵器だなんて反則デス!』


『エリー、助かった!』


何とかリミット・オーバーを免れたブランザムが光学槍(ランス)を構えて態勢を立て直す。


『エリー隊長!ブランザム!避けろ!』


『!』『!』


『モード!アルマジロ!』


マーティン・ロイドの黒い装甲が大きな塊へと変貌し、一直線にエレナの元へと突撃する。


ギュルン!!


見た事の無い攻撃にエレナは一瞬 戸惑うが、スピードならエレナの方が上である。素直に相手の攻撃を受ける必要もなくエレナは右後方へと飛び跳ねる。


が、しかし


『!?』


エレナの動きを読んだエリーが、先回りをして光学槍(ランス)を突き立てた。


シュバッ!


ガキィーン!!


その攻撃を両腕でガードしたエレナであったが、直後に黒い弾丸と化したマーティンがエレナの背中に衝突する。


ズガガガガガガガガガッ!


ビビッ!


『損傷率28%』


クルン!


『!』


シュババババババババッ!!


『うぉ!なんだ!?』


すかさず反転したエレナの手刀による連続攻撃により、マーティンの衝突の威力を相殺し、更に光学盾(シールド)の耐久値を削り取る。


『ちょっ!止めろ!』


シュバババババババッ!


エレナの高速連打による素手での攻撃は、そのスピードを更に加速させる。


シュバババババババッ!


ドッガーン!!


アルマジロの装甲(シールド)が粉砕された。


クンッ!


『馬鹿な!俺の光学盾(シールド)の耐久値は通常の5倍だぞ!?』


『逃げろ!マーティン!』


こうなると、マーティン・ロイドには為す術がない。一方的なエレナの攻撃により、一瞬にして装甲の耐久値までもが消滅する。


バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!


ドッガーン!


『マーティン!』


『くっ!』


『一旦下がれ!態勢を立て直す!』


イギリス連邦の機動兵士4人が、一列に並びそれぞれの光学兵器をエレナへと向ける。


『まさか、マーティンの装甲が破られるとは!』


『みんな!落ち着いて!』


『エリー!?』


『マーティンの攻撃は効いている!彼女とて無敵では無い!』


(確かに………。僅かではあるが、マーティンの攻撃が当たり『マリオネット』の耐久値が削られる反応があった。)


『私達なら行けるわ!みんなで力を合わせれば、トップファイブだって倒せる!!』


『そうだな、エリー。』


ホワイト・A・チェスターの装甲が黄色い光沢を放ち、グングンと巨大化して行く。


『モード!トリケラトプス!』


第二形態へと移行したチェスターが、エレナを睨みつけた。


『マーティンの戦闘で分かった事がある。』


『…………チェスター?』


『身体を光学兵器に変える特異な戦闘スタイルと、スピードに優れたエレナ・クレシェフには、まともに戦っても勝てない。エレナを倒す方法は圧倒的な質量による力技だ!』 


ギュオォーン!!


トリケラトプスの巨大な角を模倣した光学槍(ランス)の大きさは、通常の兵器の数倍はある。


『その華奢な両腕ごと、ぶち抜けば良い話だ。』




【クローン②】


フィールド北部


ビュン!


ガキィーン!


グルン!


『!』


ガキィーン!


ビリビリ


(ちっ!反撃の糸口が見つからない…………。)


第三統括隊長の神坂 義経は、相手の攻撃を見極め、隙を突いて反撃する事を得意とする。普通の機動兵士であれば、攻撃を繰り出した直後が一番狙いやすい。


しかし


ビュン!


ガキィーン!


(この女…………、全く隙が無い…………。)


純粋な剣技で神坂 義経と渡り合える機動兵士など、防衛軍の中にもいない。スピード、瞬発力、テクニック、動体視力、あらゆる能力が非常に高い。


(既に10分ほど渡り合っているが、一瞬でも気を抜けば装甲を削られそうだ。)



『ぐわぁ!』


『!?』


バチバチバチバチバチバチバチバチ!


ドッガーン!


神坂がすかさず面前のモニターを確認すると、仲間の機動兵士の表示が1つ消滅しているのが見えた。


ビビッ!


『殺られたのは誰だ!』


『阿弥陀丸だ!すまない!助けに行けなかった!』


マイクロエコーから聴こえて来たのは大和統括隊長の声である。戦場は広く仲間達が戦っている姿は見えない。


ビュン!


『!』


ガキィーン!


ビリビリ!


(くそっ!仲間の耐久値の確認をするヒマも無い。)


神坂と戦っている敵は、金髪の美しい女性兵士であるが、表情に変化が見られない。


『貴様…………、名前は何と言う?』


思わず質問をした神坂に、その女性は意外にも返答をした。


『アリス……………。』


(…………なに?)


『アリス002号。』


機動兵士である以上『アリス』の名を知らぬ者はいない。『マリオネット』の完全適性遺伝子を持つ少女が発見されたのは西暦2052年の事で既に8年も昔の話だ。


『妙な違和感があるとは思ったが、そういう事か。道理で強いはずだ。まさか、他のメンバーも全員『アリス』か?』


『……………。』


(これは厄介な事になった。下手をしたら、防衛軍の機動兵士は全滅する。)


楽観主義者の神坂 義経でも、この事態には焦らざるを得ない。



フィールド最北部


神坂が戦闘を繰り広げている更に北へ2kmほど進んだところでは、防衛軍第四統括隊長 大和 幸一(やまと こういち)がアメリカ軍の兵士と戦っていた。


(まずいな………。)


幸一の相手は、金髪の美しい女性の兵士であるが、その実力は相当に高く一瞬でも気を抜けば耐久値を全て持って行かれそうになる。ここまで、何とか持ち堪えてはいるが、損傷率は53%と半分を越えており、予断の許さない状況が続いている。


何がまずいのかと言うと…………。


ビビッ!


(ちっ!来たか……………。)


目の前にいる敵とは違う別のアメリカ軍兵士が現れたからだ。


ザザッ!


木下 阿弥陀丸を倒した もう1人の女性兵士が、幸一の前に現れ、同じ顔をした女性兵士が並ぶ形となった。


(やはり、こいつら……………。)


桜坂 神楽のクローン兵士──────


ヨーロッパの戦場でも、似た顔の兵士がいたのを覚えている。アメリカ軍のゲイリー将軍に付きそうように行動をしていた機動兵士の名は、確か『プロトワン』と言ったはずだ。噂には聞いていたが、アメリカ軍は『アリス』のクローン人間の製造に成功している。


シャキィーン!シャキィーン!


2人のアリスによる同時攻撃!そのスピードも瞬発力も世界トップクラスの剣技で、二本の光学剣(ソード)が幸一に襲い掛かる。


ガキィーン!


ズバッ!


(くっ!)


ビビッ!


『損傷率67%』


(こんなの、絶対に勝てないだろ…………。)


ドクン


(いや、違うな。)


別に幸一が決勝トーナメントに進む必要は無い。防衛軍の誰かが1人でも多く勝ち残る事が重要だ。


(2人は無理でも、1人だけなら道連れに出来る。)


狙いは最初から戦っている左側の兵士。おそらく耐久値は3割程度は削っているはずだ。


北条 帝(ほうじょう みかど)が幸一に語った事がある。機動兵士としての実力なら俺の方が上だろうと、みかどは本気で思っていた。しかし、幸一、お前には勝てない。ここ一番の時にお前は実力以上の力を発揮する。


(本当かよ、みかど………。)


ならばと


鋼色の装甲をまとった幸一が、同じく鋼色の光学剣(ソード)を前方に構えた。


(ここ一番ってのは、今だろう?)


瞬発力に勝る敵兵を一撃で仕留める方法は1つしかない。幸一がもっとも得意とする必殺技………。


──────バスタード・キャノン


(この一撃に全てを賭ける………………。)





【クローン③】


一方、アレクサンダー・ルーカスと鬼塚 弥勒の戦場。


『ビッグバン・アタック!』


ズバッ!


ガキィーン!


『はぁ………、はぁ。』


遠距離攻撃を続けるアレクサンダーに対し、鬼塚は軌道に合せて光学剣を振るっていた。


(こいつ…………、少しづつビッグバン・アタックの軌道を掴んでやがる。)


『どりゃあ!』


『!』


ザッ!


ブルン!


鬼塚の攻撃に対しては、アレクサンダーは剣を合わす事なく避ける事に徹している。このため、2人の戦闘は予想外に長期化していた。


『第一歩兵部隊隊長の鬼塚か………。少し舐めていた。』


『む?』


『将軍の俺が手間取っていては、他のメンバーに示しがつかない。次で決めるぞ。』


シリウス・ベルガーの『ビッグバン・アタック』は、精神力を光学剣に乗せて放つ必殺剣だ。つまり、精神力の強さが剣の威力と比例する。


ゴゴゴゴォ


『!』


今までの気配とはまるで違う。


『俺がシリウスに劣る部分など無いと証明しよう。』


軌道を読めたとしても強大なパワーの前には防ぎようがない。鬼塚の装甲の耐久値は残り30%、次の攻撃を喰らえば間違いなく殺られるだろう。


ドクン


ドクン


『行くぞぉ!』


ブワッ!


アレクサンダーが光学剣(ソード)を振り上げた刹那


────────グサッ!


アレクサンダーの背中に光学剣(ソード)が突き刺さった。


ビビッ!


『損傷率23%』


『…………!』


ブルン!


シュバッ!


アレクサンダーが背後へ振り抜いた剣に反応した御鏡 釈迦(みかがみ しゃか)は、素早くアレクサンダーとの距離を取った。


『睡蓮の釈迦!』


(いつの間に…………。気配が全く感じられなかった。)


『鬼塚隊長!早くこの場を脱出して下さい!』


『釈迦…………なに?』


『この場は私が引き受けます!鬼塚隊長はアリスの相手を!』


『アリス!?』


『ちっ!』


ビュン!


ガキィーン!


ビリビリ


アレクサンダーの剣を釈迦は細長い光学剣(ソード)で受け止める。


ビビッ!


『アレクサンダー将軍!』


そこに現れたのは釈迦と戦闘をしていたアリスである。


『アリス004!来るな!!』


(!)


ダッ!!


アリスを見つけた鬼塚の反応は速い。巨大な光学剣(ソード)を天高く振り上げ。


グワン!


垂直に振り下ろした。


『波動剣!』


ガキィーン!


ビリビリ!


『!?』


鬼塚の剣を受け止めたアリスは、直後に身体が硬直し身動きが取れない。鬼塚 弥勒(おにづか みろく)の『波動剣』を初見で破れる機動兵士など存在しない。


『アリス!!』


シャキィーン!


『!』


『動かないで!』


鬼塚の攻撃を止めようとするアレクサンダーの動きを牽制するのは、御鏡 釈迦(みかがみ しゃか)だ。氷のような冷たい視線で釈迦はアレクサンダーの動きを封じる。


バシュッ!


『損傷率27%』


『どうした?動きが止まっているぞ。』


バシュッ!バシュッ!ズバッ!


バチバチバチバチバチバチバチバチ!


ドッガーン!


剣を交えれば相手の動きを封じる必殺剣。アリスがどれほど優れた機動兵士であっても、動く事が出来なければ意味が無い。鬼塚の攻撃にアリス004は無抵抗のまま戦場を去る。


(鬼塚の波動剣…………。)


鬼塚さえ封じれば、4人のアリスによって日本の機動兵士は殲滅出来ると考えていたが、予想が外れた。


アレクサンダーの計画を破ったのは、御鏡 釈迦。

そして、アリスの天敵とも言える鬼塚 弥勒。


『さすがだ、最初の敵がお前達で無ければ、アメリカ合衆国は圧勝していただろう。』


ジャリ


『鬼塚隊長、アレクサンダーに構わず他のアリスを。』


『釈迦………わかった。』


シュバッ!


鬼塚が去るのを見送るアレクサンダーに、釈迦が質問をする。


『追わないのですか?』


『……………。』


先ほどの一撃、背後からの攻撃をアレクサンダーはかわす事が出来なかった。下手に動けば、御鏡 釈迦に殺られる可能性がある。


『俺に損傷を負わせた人間は、シリウス・ベルガー以外では始めてだ。』


『…………そう。』


『今回の大会、お前が決勝トーナメントへ進めば合衆国の強敵になるであろう。』


シャキィーン!


睡蓮の釈迦───


───悪いが───


─────全力で潰させて貰う







予選Aブロック

日本国防衛軍
神坂 義経
大和 幸一
鬼塚 弥勒
御鏡 釈迦

アメリカ合衆国
アレクサンダー・ルーカス
アリス001
アリス002
アリス003

イギリス連邦共和国
エレノア・ランスロット

エドガー・ブランザム

ジム・ベスタ

ホワイト・A・チェスター


ロシア連邦共和国

エレナ・クレシェフ


──────残り13名