MARIONETTE- Еmma


【決着①】


ビシュバシュッ!!


羽生 明日香の繰り出した光学剣(ソード)が、シーザー・クレシェフの装甲の耐久値を消滅させ、そして七瀬 怜の光学剣(フルーレ)がシーザーの脳天を貫いた。


ぶちゃ!!


本来、機動兵器『パワードスーツ』に護られている人間の身体を貫く事は不可能である。シンクロが解除されない限り、装着している人間を傷付ける事は出来ない。


『七瀬統括隊長!』


『やったわ!手応えはある!』


シーザーの脳から真っ赤な鮮血が飛び散り怜の右腕が赤く染まる。


アロン・ファスナーの仮説は正しかった。装甲の耐久値が再生するまでの時間はわずか0.8秒。その刹那の時間に七瀬の光学剣(フルーレ)は正確にシーザーの脳を貫いた。


『ギガァギャアァァガハッ!!』


ビキビキビキビキビキビキ!!


『ギギ…………………。』


ついに、シーザーを倒したと、怜と明日香が顔を見合わせたその時、シーザーの持つ光学剣(ロングソード)が、無造作に怜の装甲を貫いた。


バシュッ!


『!』『!?』


『損傷率!リミットオーバー!』


バチバチバチバチバチバチバチバチ!


ドッガーン!


「な!」


『シーザーがシンクロしている!?』


確かに怜の攻撃は、シーザーの装甲が再生するより早くシーザーの脳天を貫いたはずだ。しかし、シーザーは死んでいないどころか、装甲が再生している。


『そんな…………。』


シュバ!


『七瀬!危ない!』


ガキィーン!


既にシンクロが解除された怜への攻撃を、間一髪で防いだのは大和 幸一である。


『ギギ………ギャオォーン!!』


『こっちだ!七瀬隊長!!』


「大和隊長!助かりました!」


完全に不意をつかれた一撃であり、幸一がいなければ怜は殺されていただろう。


ドクン


ドクン


(倒せなかった………。)


ドクン


ドクン


(脳を破壊したのに、シーザーの装甲が復活した。こんなの…………。)


────絶対に勝てない



羽生 明日香の損傷率は、既に73%と危険水域に達しており、一撃か二撃で破壊される。怜のシンクロは解除され、幸一の耐久値も僅かしか残っていない。


『ギャオォーーン!!』


対するシーザーの装甲は完全に復活しており、最初から耐久値を削る必要がある。


(無理よこんなの…………。アロン、あなたの仮説は間違っていた。)


シンドウが作り上げた『パワードスーツ』に弱点は無い。


「明日香!」


『七瀬統括隊長!』


「さっきの攻撃は効いているわ!シーザーの様子がおかしい!」


『!』


『ギガ…………ガガガガガガ!!』


シュバッ!


『!』


ガキィーン!


シーザーの攻撃を明日香は光学剣(ソード)で受け止める。


『ギャガガガ!!』


バシュッバシュッバシュッ!!


ガキガキガキィーン!


(これは……………。)


『グギャ……………ガガガガガガガガガガガガガガガ!』


(苦しんでいる!?)


『パラサイト』は人間ではない。未来世界の科学者達が『パラサイト』を調査した結果、『パワードスーツ』を装着している人間は既に死んでいる事が判明している。しかし、その人間が腐る事無く動けるのは、『パラサイト』が外部からエネルギーを吸収しているからである。


人間を餌として、人間の脳からエネルギーを吸収し、自らが寄生している人間へとエネルギーを分け与える。


(そうか!)


『パラサイト』にとって寄生している人間の本体はエネルギーの貯蔵庫のようなもの。シーザー・クレシェフの脳が破壊された事によりエネルギーの伝達が上手くいっていない。


『ガガガ!ギギャッ!ガガガガガガガガガ!!』


『はっ!』


ガキィーン!


ビリビリ!


(もう一度………………。もう一度、シーザーの脳を破壊出来れば、倒せるかもしれない。)


それでも『パラサイト』は戦闘を止めない。光学剣(ロングソード)を繰り出すスピードも、身体能力も衰えているようには見えない。


ガキッ!


バシュッ!


ガキィーン!


ビリビリ


『はぁ、はぁ……………。』


今、この戦場にいる機動兵士は、明日香以外には3人いる。大和 幸一、レッドマジシャン、レッドオーシャンであるが、3人の装甲の耐久値は限界に近く、とても戦える状態ではない。


いや、まともな状態であっても『パラサイト』を相手にするのは厳しいだろう。それほどシーザーの『パラサイト』は強い。


『ギャガ!』


バシュッ!


(しまった!)


ビビッ!


『損傷率79%』


そして、もう明日香自身の装甲が保たない。


もう限界………………。



『ガガガ……………!?』


ズザッ!


そこでシーザーは、ぐるりと後ろへと振り向いた。


(…………なに?)


『ギャガガガガガガガガガガガガ!!』


バッ!


まるで何かを発見したかのような雄叫びをあげて、一直線に走り出す。


(誰かいる!?)


誰かが戦場へと歩いて来るのが見える。


(民間人?)


『危ない!殺されるわよ!!』


それは、腰まである長い金髪の少女。エメラルドグリーンの美しい瞳を輝かせ少女は言う。


「なに………この化物!」


『ガガガ!!』


「うざいなぁ……………。」


「『マリオネット!』オン!」


ギュィーン!!


少女は『マリオネット』を装着し杖状の武器を構えた。


(機動兵士!?)


明日香が面前のモニターを確認すると、新たに1人の機動兵士の反応が点灯している。識別反応はドイツ連邦共和国のものだ。


ビカッ!!


まばゆいばかりの光を放つ光学杖(ロッド)は、明日香が今までに見た事の無い種類の光学兵器である。


『ナーデル!』


シュルシュルルル!!


バシュッ!


『ガキャ!!』


ビビッ!


『損傷率36%』


シュバッ!


『ナーデル・ツェーン!』


ブワッ!


その武器の先端から飛び出したのは、無数の光り輝くワイヤーであった。




【決着②】


「もう8年も昔の話だよ。」


ハンプティ・ダンプティは自らが育て上げた2人の機動兵士へと語り始めた。


「キティ…………、お前が『アリス細胞』の適合者第一号なのは知っているだろう。10億人に1人と言われる『マリオネット』に適合した遺伝子を持つ少女『アリス』、その遺伝子を受け継いだお前は、現在いる機動兵士の中でもトップクラスの実力を誇る。」


「ハンプティ………、いきなり、どうしたのよ。」


「まぁ聞け。これから合流する『グレーテ』の話だ。」


コードネーム『グレーテ』───


「本名不詳、当時の年齢で8才。グレーテとはコードネームでありグリム童話から私が名付けた。それは可愛らしい少女であった。」


そして、実験が開始された。


ドイツ国内から選ばれた子供達に『アリス細胞』を注入し拒絶反応を見る実験だ。全くの別人の遺伝子と融合させるのだから、普通は拒絶反応を示す。


「多くの子供達は『アリス細胞』に拒絶反応を示して亡くなって行った。」


「……………。」 


「その中でキティ、お前は特別だった。お前の『アリス細胞』への適合率は94.8%、これは奇跡的な数値だ。その後、数年掛けてお前は拒絶反応の克服に成功した。」


「ふふん。そんなの当たり前…………。」


「しかし、グレーテの適合率は100%だ。」


(?)


「100%………?それは、どういう事?」


「遺伝子的には同一人物。グレーテは本物の『アリス』なのだよ。」


「…………まさか。」


「10億人に1人の遺伝子を持つ『アリス』と同じ遺伝子を持つ少女『グレーテ』。しかし、グレーテはドイツ政府の命令により研究対象から外されてしまった。」


「………それで。」


「その後は、いくら情報を辿っても見つからなかったのだが、シュバルツ・カイザー大将の娘だと?冗談だろう?そんなのは嘘に決まっている。」


ビビッ!


「おい、ハンプティ・ダンプティ。」


「どうしたグリム。」


「昔話も結構だけどよ。そのグレーテが到着したようだぜ。」


「なに?」


「しかも『マリオネット』を装着しやがった。これから逃げようって時に何を考えてるのか。」


「なんだと!?」




『ナーデル・ツェーン!』


シュルルルルル!!


『ガガ!?』


光るワイヤーの数は10本、その全てがシーザー・クレシェフを目掛けて放たれた。


バシュッバシュッバシュッ!!


『ギャオォーン!!』


ビビッ!


『損傷率49%』


『ガギャッ!』


シュバッ!


しかし、シーザーも攻撃を止める事はしない。ワイヤー攻撃を受けながらも、鋭い光学剣(ロングソード)が少女を目掛けて打ち込まれる。


ガキィーン!


『ガガ!?』


しかし、その刃はグレーテには届かない。光学杖(ロッド)の反対側から光の剣(ソード)が現れシーザーの攻撃を受け止めたからだ。


『化物のくせに速いじゃない。』


でも…………。


シュルルルルル!!


『それでは、グレーテのワイヤーは防げないわ。』


バシュッバシュッバシュッバシュッ!!


『ギャオォーン!!』


ビビッ!


『損傷率73%』


それは信じ難い光景であった。手負いとは言え『パラサイト』を一方的に攻撃する少女を明日香は茫然と眺める。


(あの武器はなに?)


いや


(………あの少女は………何者なの?)


『ギャオォーン!ガガガガガガガガガガガガ!!』


バシュッ!


ヒビッ!


『損傷率13%』


『あら……………。やはり速いわ。スピードだけならグレーテよりも速いかも…………。』


少女はシーザーの攻撃を受けても平然としており動じる様子は見られない。


しかし、少女はシーザーの装甲の秘密を知らない。どんなに強い機動兵士でも、まともに戦えばシーザーには勝てない。


ザザッ!


「明日香!?」


『これが最後のチャンスかもしれない!』


羽生 明日香は走り出した。七瀬統括隊長が倒された今となっては『パラサイト』とまともに戦える機動兵士は明日香以外には彼女しかいない。


『アナタ!闇雲に攻撃してはダメ!!』


『…………ん?』


『その『マリオネット』には再生能力があるの!』


『再生………能力?』


『私の指示に従って!!』


『………………。』


(うざ……………。)


わざわざローマにまで来たかと思えば、化物が暴れているし。このお姉さんは意味不明の事を言い出す。


(まぁ、でも………。)


その切羽詰まった表情は、真剣なのだろう。


ビビッ!


『どうすれば良いの?』


『私が合図をしたら、アナタの最大の攻撃を打ち込んで!一撃でシーザーの耐久値を削り取れるほどの強力なやつ!』


『…………やっぱり、うざ!』


『行くわよ!』


ザザッ!


『はぁぁぁぁ!!』


返事もしていないのに、お姉さんは化物を目掛けて突進して来る。


『仕方がないなぁ……………。』


そして少女は光学杖(ロッド)を前方に構えた。


『ギギ!ガガガガガガガガガガガガ!!』


シュルシュルルルル!!


光学杖(ロッド)の先端から伸びた無数のワイヤーが絡み合い1本の巨大な剣(ソード)が造られて行く。それはシーザーの持つ光学剣(ロングソード)よりも更に長い強靭な刃となる。


『ナーデル・アインス。』


ビュン!


ズバッ!!


そして、電光石火の突きである。目にも止まらぬ高速の突きがシーザーの腹部に命中した。


『ギャオォーン!!』


『音速剣(ソニック・スラスト)!!』


ズバァアァァッ!!!


その高速の突きに勝るとも劣らない高速剣が、シーザーの脳天を貫いた。


(まだよ!)


しかし、明日香の攻撃は止まらない。


(脳を完全に破壊する!)


『アポロン!!』


ブワッ!!


明日香が繰り出した技はアロン・ファスナーの必殺技だ。精神力を光学剣(ソード)に乗せて一気に力を解放する高威力の技を、エマの記憶を受け継いた羽生 明日香が爆発させた。


ドバッァァァン!!


大地をも吹き飛ばす攻撃にシーザー・クレシェフの身体は木っ端微塵に吹き飛んだ。


『ちょっ!きゃあぁぁぁ!!』


すぐ近くにいたグレーテも、巻き添えを食って吹き飛ばされたのは言うまでもない。





【決着③】


『明日香!』


真っ先に駆け付けたのは大和 幸一第五統括隊長である。


『はぁ、はぁ……………。』


『やったか!』


『大和統括隊長…………、まぁ、なんとか。』


脳はおろか身体まで吹き飛ばされたシーザーがシンクロ出来るとは思えない。


「明日香!大丈夫!?」


七瀬統括隊長が遠くから走り寄って来るのが見える。


『疲れました………。七瀬統括隊長。』


ビビッ!


『ちょっと!あんな大技を近くで使うなんて聞いてないわ!』


金髪の少女が頰を膨らませて文句を言っているのが聞こえる。


『アナタ……………。』


そして明日香は深々と頭を下げた。


『ありがとう。アナタがいなければ私達は勝てなかった。』


『え?』


『そうだな。誰かは知らないが、俺からも礼を言う。ありがとう。』


『いえ、まぁ、あれくらい……ごにょごにょ。』



「『マリオネット!』オン!」


「『マリオネット』!オン!」


ギュィーン!ギュィーン!


『!』『!』


と、その時、2つの機動兵士の反応がモニターに表示される。


『これは……………。』


ザッ


ザッ


ザッ


現れたのは小柄な女性の機動兵士と、まだ幼なさの残る少年兵士である。識別反応はドイツ連邦共和国。


ビビッ!


『お前がグレーテか。』


声を掛けたのは、少年兵士の方だ。


『迎えに来た。ロシア軍の追っ手が来る前に脱出する。』


そして、幸一は女性の兵士を見て目を見開いた。


『お前は…………。シャルロッテ・ファナシス!?』


『…………なんで私の事を知ってるの!?』




西暦2060年5月9日未明


ロシア軍と日本国防衛軍との戦闘は幕を閉じた。ロシア軍の犠牲者は13人で、その中にはクレムリン親衛隊の総帥であるシーザー・クレシェフも含まれる。


「そうか………。シーザーが戦死したか。」


テレイサ・トルスタヤは、レッドマジシャンの報告を聞いて目を伏せた。


「それでは私は失礼する。」


「待てマジシャン。」


レッドスコッチは、レッドマジシャンの肩に手を乗せマジシャンを呼び止める。


「なにか………用ですか?レッドスコッチ。」


「シーザーが日本の機動兵士に負けたというのは本当ぞ?」


「……………。」


「日本国の機動兵士は4人中1人が戦死し3人に逃げられた。そんな話が信じられるとでも?」


「何が………言いたいのです?」


「貴様…………、裏切った訳ではあるまいな。」


「ふん…………、馬鹿馬鹿しい。」


「……………。」


「私の部隊の兵士も3人が殺されたのです。私は今、非常に機嫌が悪い。余計な詮索をするなら、レッドスコッチ。アナタでも容赦しない。」


「なんだと!」


「よすのだスコッチ。」


「テレイサ…………。」


「今は仲間内で争っている場合ではない。事態は急を要する。」


「…………エルサレムか。」


「アメリカめ、やってくれるわ。」


ロシア軍がヨーロッパで連合国と戦闘をしている間にエルサレムがアメリカ軍によって落とされた。


「まさか、アメリカ軍に、これほどの余力があるとはな。」


エルサレムを護っていたロシア軍の機動兵士200名あまりは、ほぼ全滅したと言う。


「テレイサ、どうするぞ?エルサレムに行くのか?」


「いや………、状況は不味い事になっているわ。」


「と言うと?」


「エルサレムに保管してあった機動兵器がアメリカ軍の手に落ちた。」


「…………機動兵器『シンドウ』ですな。」


過去に未来から贈られて来た全ての未来兵器をも上回ると言われる未来最先端の『パワードスーツ』。


その名も『シンドウ』──────


その『パワードスーツ』を装着した者は絶対的な強さを発揮し、普通の機動兵士など足元にも及ばないという代物だ。


「しかし、あれは我々でも触れる事が出来なかった代物ですぞ。『シンドウ』に触れる事が出来る者は世界最強の機動兵士のみ。どこまでが真実なのか。」


『シンドウ』と同時に贈られて来た聖書『バイブル』による立体映像。そこで語られたのは、機動兵士同士による戦闘を行い最後に勝ち残った者が『シンドウ』を所有する権利があると言うものだ。


「笑うなよミゲイル。」


「む?」


「アメリカのアレクサンダー・ルーカス将軍から連絡があった。」


「なに?」


「奴は聖書『バイブル』の言葉を信じたようだ。」


「と、言いますと?」


「機動兵士による世界大会を実施するとほざいている。是非とも私達ロシア軍にも参加して欲しいとな。」


「!」


「現在、戦争中だと言うのに、面白いでしょう?」


「ふは…………、愚かな。」


「しかし、参加しない訳にも行くまい。」


「テレイサ…………お前。」


「聖書『バイブル』の話が真実であるなるば、この世界大会とやらで優勝した機動兵士が『シンドウ』を手にする事になる。未来世界最強の『パワードスーツ』を……。」


「それは…………。」


「クレムリン親衛隊トップファイブの名に賭けて、私達は負ける訳には行かない。」


優勝して


────『シンドウ』を手に入れます。




西暦2060年5月10日


アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、そして日本の連合国と、ロシア連邦共和国との停戦協定が締結された。これに伴い日本国の機動兵士基地である『マウンテン・ドーム』を包囲していた中華人民共和国の機動兵士達は撤退する。


日本国 横浜 マウンテン・ドーム


「とりあえず全面衝突は真逃れましたね。」


日本国防衛軍特別歩兵部隊第二統括隊長、香織は安堵の息を吐いた。


「七瀬統括隊長、大和統括隊長、そして羽生 明日香隊員はイギリス連邦によって保護された。もうじき帰って来るだろう。」


マウンテン・ドーム内の会議室にいるのは3人の統括隊長、伊集院 翼(いじゅういん つばさ)第一統括隊長、夢 香織(ゆめ かおり)第二統括隊長、神坂 義経(かみさか よしつね)第三統括隊長である。


「今回はアメリカに救われたな。さすがは西側最強のマリオネット大国だ。」


「もう1日でも遅ければフランスとドイツは降伏していた可能性が高い。首の皮が一枚繋がった感じだ。」


停戦協定の期間は二週間であり、その間に戦力を整える事が出来る。


「それより本題に移るぞ。」


伊集院が2人の統括隊長に合図をすると、2人は端末に映し出された動画を確認する。


「これが聖書(バイブル)って奴か………。」


「ホログラムですね。この男が未来の世界を支配したと自称する『シンドウ』です。」


エルサレムを奪還したアメリカ合衆国の将軍アレクサンダー・ルーカスは未来から贈られて来たと言われる聖書(バイブル)を全世界に公開した。


「そして、これが未来の世界最強のパワードスーツ。」


───シンドウ───


立体映像とは別に、未来から贈られて来たと言う最新型の『パワードスーツ』の映像も公開された。


「パワードスーツに自分の名前を付けるセンスは分からないけれど、見た感じは普通の『マリオネット』に見えるわね。」


「あれが、大会の優勝者に渡される。」


ゴクリ………。


伊集院は告げる。


「日本国防衛軍は全力で優勝を狙いに行く。頼んだぞ、香織、義経。」



イギリス連邦共和国  ロンドン

イギリス連邦軍最高本部


「怜ちゃん!!」


「エリー!?」


イギリス連邦に保護された防衛軍の機動兵士、七瀬 礼の元へ駆け寄ったのは、イギリス連邦最強部隊の隊長、エレノア・ランスロットであった。


「久しぶりなのデス!」


「え、えぇ、ほんと久しぶり。」


2人は武蔵学園時代の校内戦で戦闘経験がある。


「あ、エレノアさん。その節は助けて頂き………。」


「明日香!明日香も無事で何よりデス!」


満面の笑みを浮かべるエリーは、素直に2人との再会を喜んでいる様子だ。


「明日香、あなたも面識があったのよね。」


「それより、例の映像はあるか?」


そこへ大和 幸一が割り込んで来る。例の映像とはアメリカのルーカス将軍が公開した聖書(バイブル)に他ならない。


「その辺の端末で見れるぜ、待ってろ。」


幸一の要請に答えたのは、エレノア隊の副隊長を務めるエドガー・ブランザム大佐だ。


ブン


すぐに映像が流れ、ホログラムが浮かび上がった。


「…………シンドウ。」


その映像に映し出されたシンドウは、エマ・スタングレーの記憶にあるシンドウと同一人物であり、羽生 明日香は映像に釘付けになる。


(未来の世界で時空間移動の技術を持っている国はイスラエルだけ…………。)


つまり、シンドウはイスラエルを滅ぼし時空間移動の装置を奪った事になる。イスラエルは…………、いや、人類はシンドウに負けたのだ。


(アロン…………、サラ様……………。)


ブン


(!)


そして、次に映し出された映像に、明日香は目を丸くした。アメリカのルーカス将軍が機動兵士の大会を開催し、その優勝者に与えられると言う未来兵器。


──────マリオネット『シンドウ』



ガタン!


「そんな!」 


驚き立ち上がる明日香を周りの兵士達は不思議そうに見る。


「明日香………どうしたの?」


明日香が驚くのも無理はない。なぜなら、映像に移された赤と白の独特の配色が施された『パワードスーツ』は…………。


パラサイトであるシンドウそのもの────


ガタガタと震えが止まらない。


エマ・スタングレーの仲間達を次々と殺し、祖国であるイスラエルを滅ぼし、人類を恐怖のドン底に陥れたシンドウが、そこに居る。


(エマ…………………。)


そして、明日香はエマ・スタングレーに告げる。



私達の戦闘は────


────────終わらない






      MARIONETTE- Еmma  END