MARIONETTE- Еmma
【怜と明日香①】
西暦2060年5月9日
ベルリン連合国前線基地
シーザー・クレシエフの演説後は、士気が著しく低下しており、もはや敗戦が濃厚となっている中、ドイツ連邦共和国陸軍大将シュバルツ・カイザーの元へ本国より連絡が入った。
『はっ…………。はい。…………了解しました。』
ツー
ツー
内容はカイザーの予想通り、ロシア側の要求を全面的に受け入れること。事実上の降伏である。
もっとも、この場所には日本国の機動兵士はいない為に差し出す日本兵はいない。昨日のうちに逃げたのは正解であったとカイザーは思う。
(しかし、問題は山積みだ。)
ロシア側の要求は、全ての機動兵士のシンクロの解除と『マリオネット』の破壊。この世界から全ての機動兵器『マリオネット』を消滅させると言うが。
(そんな事を信じられるものか……。)
連合国が『マリオネット』を差し出せば、もはやロシア軍に対抗する手段が無くなる。
ビッ!
プルル、プルル
カチッ!
『…………………。』
『ハンプティ・ダンプティか……………。』
『カイザー…………、ずいぶんと久し振りだな。』
『お前に頼みがある。』
『頼み?…………今頃、私に何の用かね?』
『お前に預けたい機動兵士がいる。名はグレーテ・カイザー、我が娘だ。』
『……………娘?』
『グレーテがヨーロッパ大陸から脱出するのを手伝って欲しい。』
『………馬鹿を言って貰っては困るよカイザー。自分の娘のみを助けようなどと、それでも誇りあるドイツ連邦共和国陸軍の大将かね。』
『グレーテは、『アリス細胞』の被験者だ。』
『!』
『お前なら知っているだろう。シャルロッテ・ファナシスにも劣らない適格者がいた事を。』
『お前の娘…………だったのか?』
『ここでロシア軍に手渡す訳には行かない。頼む!助け出してくれ!』
『ちっ…………。こちらも大変だと言うのに厄介な頼みごとを。』
『大変?…………ハンプティ、お前どこにいるんだ?』
『……………ローマだ。今、まさに目の前で機動兵士同士の戦闘が行われている。こちらの脱出計画が台無しだよ。』
シュバババッ!
ガキィーン!
『ダブルフルーレ!!』
ズバッ!
『ぐわっ!』
ビビッ!
『損傷率48%』
『一旦引け!ラグノフ!!』
『こいつ!強いぞ!』
ローマ市街地での戦闘が開始してから既に30分が経過している。ロシア側の機動兵士は15人、対する日本側の機動兵士は4人であるが、既にロシア側の機動兵士は3名が命を落としている。
(何という因縁か……………。)
日本側の機動兵士には見覚えがある。当時はまだ高校生であった機動兵士「大和 幸一」と「北条 帝」の2人が著しい成長を遂げてロシア軍の機動兵士と戦っている。
(女性2人の機動兵士は初めて見るが…………。)
日本国の機動兵士は4人が4人とも相当な実力者なのは間違い無い。人数の不利を個人の実力で補っている。
「キティ…………。どう思う。」
ハンプティ・ダンプティが隣にいる小柄な女性に話し掛けると、キティと呼ばれた女性は楽しそうに笑った。
「ふふ…………。とても楽しそうだわ。特にあの黒髪ロン毛の機動兵士。ロシアの兵士では彼女の動きを捉える事は難しいわね。」
「お前なら可能かね、キティ。」
「当然。」
金髪の女性は、今にもシンクロしそうな勢いである。
「おいおい、キティさんにハンプティさんよ。俺達の敵はロシアだろうが?さっさと加勢して倒しちまえば終わりだろ?」
コードネーム『グリム』は、ドイツ連邦共和国にて秘密裏に開発された『アリス細胞』適格者の1人であり、年齢は15歳とまだ若い。
「焦るなグリム、ロシアの兵士はあれだけでは無い。」
「あん?」
「我等と同じく戦闘の経過を見守っている兵士が複数人、それにシーザー・クレシェフが来る。」
「シーザー?誰だそいつは?」
「この戦争を企画した大馬鹿者だよ。」
「ふぅん。変な奴だな。」
カイザーの話では、グレーテの所在地はドイツ・ミュンヘン。ローマまでの移動時間は小型ジェット機で1時間という所だ。
「まぁ、私達は脱出の機会を伺うまでだ。ゆっくりと高みの見物でもしていれば良い。」
『うぉりぁぁぁぁ!!』
ズバッ!
『ぐぉ!』
バチバチバチバチ!
ドッガーン!
『5人目倒したぞ!』
『大和統括隊長、無理しないで!』
『一度も殺られてねぇよ!』
ビビッ!
北条隊員の損傷率は21%、羽生隊員の損傷率は17%、怜と大和統括隊長は損傷を負っていない。
(行ける!)
『このまま全力で制圧しましょう!』
『ラジャ!』
『当たり前だ!』
『任せて!』
4人が揃ってからの日本の機動兵士の攻撃は凄まじく、ロシア軍の3つの部隊を圧倒している。その戦闘をシンクロせずに見守っているのはロシア軍の特殊部隊、マジシャン部隊だ。
(しかし、妙だな……………。)
先日、戦闘した時はダビデ王こと羽生 明日香の動きは私の想像を越えていた。しかし、今日の戦闘では特に目立つ所は無い。
(別人………………。まさかな。)
「マジシャン!機動兵士の反応よ。」
「!」
レッドオーシャンの示したレーダーに3つの反応が浮かび上がる。
「レッドパンサー………。来たか。」
残り2つの反応は、新人の機動兵士だろう。
ビビッ!
『!』
(機動兵士の反応!?)
日本の機動兵士達もレッドパンサーの存在に気付いた様子で警戒態勢に入る。
『七瀬統括隊長!新手が3人接近して来るぞ!』
『3人…………。』
通常の機動兵士の部隊なら、5人〜6人編成が基本であり3人の編成は珍しい。
『大和統括隊長、北条隊員、2人で対応出来るかしら?』
『2人?こっちの方が人数は多い、俺1人でも大丈夫だ。』
『いいえ、嫌な予感がするわ。こちらの10人を片付けたらすぐに加勢に行きます!』
『片付けたらって……………。』
(簡単に言ってくれるぜ。)
しかし、今日の七瀬統括隊長の動きは神掛かっている。5人のロシア兵士のうち3人を倒したのは七瀬統括隊長であり、奴等は七瀬の動きに付いて来れない。
『わかった!帝(みかど)、行けるか?』
『問題無い!行くぞ!』
ザザッ!
大和統括隊長と北条隊員が居なくなった事で、この場での戦闘は2人対10人となる。
シャキィーン!
七瀬 怜は神経を集中し、敵の機動兵士の動きを観察する。
(右の兵士と左の兵士が動く…………。)
シュバッ!
ガキィーン!
グルン!
ズバッ!
『ぐっ!』
『てめぇ!』
(次は後ろ……………。)
シュンッ!
怜は2本目の光学剣(フルーレ)を後方へ突き出し威嚇すると、そのまま身体を回転させて高速の突きを繰り出した。
ジュババババッ!!
『がっがっ!ぐぉ!?』
バチバチバチバチバチ!
ドッガーン!
(6人目……………。)
『残り9人!』
【怜と明日香②】
『とりゃ!』
ガキィーン!
『く…………。』
羽生 明日香を取り囲む機動兵士の数は4人。中でも『赤いサソリ』の異名を持つ機動兵士、レッドスコーピオンは歴戦の兵士である。
(ダビデ王か…………………。)
サウジアラビア戦線では、我が軍の包囲網をただ1人掻い潜り、クレムリン親衛隊の追撃からも逃れたと言うが…………。
(防戦一方で、殆ど攻撃して来ない。なぜだ?)
シュッ!
『!』
ガキガキィーン!
『はぁ、はぁ…………。』
(やはり、攻撃を受けるだけ…………、4人相手だと、護るのが精一杯に見える。)
ザッ!
『警戒しすぎた様だ。お前達!総攻撃を仕掛ける!』
『ダー!』『ダー!』『ダー!』
赤いサソリの部隊の真骨頂は、連携攻撃にある。四方からの同時攻撃に羽生 明日香は、光学剣(ソード)を無造作に振り回した。
ガキガキガキィーン!!
『!』『!』『!』
(なに…………!?)
全ての攻撃が防がれた────
他の3人の日本の機動兵士と比較すれば、明らかに動きが遅いように見える。しかし、なぜ当たらない。
『はぁ、はぁ…………。』
(息切れも酷い…………、体力的にも劣っている。)
ジャキ……………。
レッドスコーピオンの真っ赤な光学剣(ソード)の刃が明日香に照準を定める。
(これを、かわせるか!)
シュバッ!
ガキィーン!
ズバッ!
『ぐっ!?』
ビビッ!
『損傷率58%』
損傷を受けたのは、明日香ではなくスコーピオンの方だ。
(この女…………。異質すぎる。)
レッドスコーピオンは多くの機動兵士と対戦して来たベテランの兵士であり、自分よりも強い機動兵士とも戦って来た。剣を交えると、その兵士の強さが分かる。
羽生 明日香はそれほど強くないと、スコーピオンの経験が告げるが、しかし攻撃が当たらない。
(なんだ…………、この違和感は?)
『はぁ、はぁ……………。』
明日香の額から流れる汗は、かつて経験した事の無いほどの大量の汗で、単に戦闘による体力の消耗とは違う。
(私は………………。)
ぐらりと視界がぼやけ、感覚がおかしくなる。
(……………エマ。)
明日香はエマへと話し掛ける。
(エマ…………、私………………。)
本当に酷い戦闘でした。
(…………エマ?)
ヨーロッパ連邦共和国の機動兵士達は、全ての力を出し切ってシンドウと戦った。シュバルツ・シュナウザー、ハインリッヒ・ハンドラー、アン・スカーレット、SS級と呼ばれた兵士達は、本当によく戦った。
(………………なにを。)
それでも、勝てなかった。
(!)
『あと僅かでシンドウを倒せるわ!』
『一気に行くぞ!』
『うぉおぉぉぉ!!』
シンドウは、もはや満身創痍。
装甲の耐久値は僅かしか残されていない。
誰かの攻撃が当たれば勝てると、共和国の機動兵士達は最期の攻撃を仕掛けた。
しかし
ズバッ!
『ぐぉ!』
ビシュ!
『きゃぁ!!』
バシュン!
『ぐほっ!』
バチバチバチバチバチバチバチバチ!!
ドッガーン!ドッガーン!ドッガーン!
『ハンドラー!シュナウザー!』
極東戦争の英雄達が次々と倒され
ズバッ!ズバッ!
ことごとく首を切り落とされた。
それでも諦める訳には行かない。
『はぁ!!』
『ふん!』
ガキィーン!!
『死ね…………。』
ズバッ!
『シュミット!!』
バシュ!
(!)
『貴様………………。』
シンドウに斬られたゴールドシュミットが、その直後にシンドウの胴体を斬りつけた。
バチバチバチバチバチバチバチバチ!
『相打ちだぜ、ざまぁ見ろ…………。』
『シュミットぉ!!!』
ドッガーン!!
全滅……………。
明日香は周りに転がる共和国の機動兵士の遺体を見回した。
『シンドウ…………。』
『残るはお前だけだエマ。』
(おかしい……………。)
最期のゴールドシュミットの攻撃、いや、それ以前にもハンドラーやシュナウザーの攻撃でシンドウは倒されていたはずである。
しかし
『なぜ…………、貴様は倒れない。シンドウ!』
『……………。』
『既にマリオネットの装甲の耐久値は限界を越えているわ。』
『ふん。くだらんな…………。』
『なにを……………。』
『私を誰だと思っている?世界最高にして最強のパワードスーツ。マリオネットの完成形だぞ。』
『……………。』
『装甲の耐久値など、私は既に克服している。』
『!』
【怜と明日香③】
『明日香!!』
ガキィーン!
ビリビリ!
『七瀬…………統括隊長………?』
『私の後ろに下がって!』
『え?』
『そんなにフラフラでは戦えないわ!』
『ふらふら?私が………?』
『自覚が無いの?』
『………………。』
(顔色も悪い…………。)
『とにかく、ここは私に任せて。』
残るロシア軍の機動兵士は9人、しかし時間を掛けているヒマは無い。怜は味方の機動兵士達の損傷率を確認する。明日香の装甲の損傷率は17%で、先程とは変わっていない。これほどフラフラの状態で一度も攻撃を受けていないのは奇跡とも言えるだろう。
しかし、問題はそこでは無い。新たに現れたロシア軍の機動兵士3人の元へ向かった大和 幸一と北条 帝の損傷率が大幅に増加している。大和統括隊長の損傷率が52%、北条隊員は63%と危険水域と言える。
(この短時間で、あの2人にここまで…………。)
いったい、何が起きているのか。
ザッ!
ザザッ!
『!』
『レッドスコーピオン!』
『キリングか…………。』
『あの女、只者ではない。迂闊に近付くと斬られるぞ。』
『日本国防衛軍の統括隊長だろう。噂には聞いている。』
『くそっ!少人数だと思って甘く見ていた。俺の部隊は3人が殺された。』
『俺の部隊は1人だ。』
『くっ…………。マジシャンの野郎は何をしている!』
『マジシャン……………、マジシャン部隊か。』
日本国防衛軍の逃走を察知したロシア軍は全部で4つの部隊をローマへと送り込んだ。キリング隊、マッドハンター隊、赤いサソリの部隊、そしてマジシャン部隊。
『あいつらシンクロもしないで何をしている!逃げやがったか!』
マジシャン部隊と言えば、ロシア軍の中でも精鋭中の精鋭部隊。デストロイ部隊が崩壊した今では、単独の部隊ではロシア軍最強とも言われている。
『落ち着けキリング。奴等に手柄を奪われるくらいなら逃げて貰って結構だ。』
『お前………。』
『3人1組で交互に攻撃する。』
『!』
『どんなに強くても人間だ。連続で攻撃を浴びせ続ければ隙が出来る。俺達は、まだ負けていない。』
『くっ!了解した!』
『行くぞ!』
シャキィーン!
ザザッ!
そこから、ロシア軍の怒涛の攻撃が始まった。9人の機動兵士が次々と怜に襲い掛かり攻撃の手を休めない。
バシュ!
ガキィーン!
グルン!
ズバッ!
『くそっ!』
『損傷率65%』
『休むな!攻撃を続けるぞ!』
たった1人の機動兵士、七瀬 怜への連続攻撃は確かに有効な手段に見える。
(凄い……………。これが七瀬統括隊長の実力。)
その連続攻撃を、2本のか細い光学剣(ソード)で防ぐ姿は美しさえあると、羽生 明日香は戦闘を眺めていた。
『ダブルフルーレ!!』
ズバッズバッ!!
ビビッ!
『損傷率!リミットオーバー!』
バチバチバチバチ!
ドッガーン!
グサッ!
「ぐわぁ!」
『ミゲル!!』
残り8人────────
『くそっ!怯むなぁ!!』
ビシュ!
『!?』
ビビッ!
『損傷率13%』
(しまった……………。)
『はぁあぁぁ!!』
『そう何度も!』
ガキィーン!!
2本の光学剣(ダブルフルーレ)でレッドスコーピオンの攻撃を十字受けする怜。
『馬鹿が!両手が塞がったぞ!』
『!』
シュバッ!
『くっ!』
『損傷率38%』
『そのまま行け!キリング!!』
キリング隊長の光学剣(ソード)が怜の腹部を目掛けて放たれる。
『くっ!』
その光学剣(ソード)を怜は右足で大きく蹴り上げた。
バシッ!
『な!?』
ビビッ!
『損傷率48%』
シャキィーン!
シュバッ!
『そんな…………。』
バチバチバチバチバチバチ!
ドッガーン!!
『キリング!!』
光学剣(ソード)を蹴ればダメージを受けるのは、七瀬 怜の方であるが、怜は躊躇する事なく光学剣(ソード)を蹴り上げた。そして、その隙にキリングを斬り付け装甲の耐久値を奪い取った。
バシュ!
『…………7人目。』
15人いたロシア軍の機動兵士が残り8人となる。
『化物が………………。』
しかし、怜の装甲の耐久値も残り半分。
シャキィーン!
『次は誰が来ますか?』
『なに?』
『次に死にたいのは、どなたですか?と言っています。』
『!』
レッドスコーピオンは、味方の装甲の耐久値を確認する。
(損傷率70%以上が4人…………。このまま戦えば確実に犠牲者が増える。)
『貴様…………、死ぬのが怖く無いのか?』
『………………。』
『俺達の攻撃を凌いでも次の刺客が来る。既にレッドパンサーがローマに来ている。』
(レッドパンサー?)
『クレムリン親衛隊の総帥にして、ロシア軍最強の機動兵士の1人だ。その損傷率では貴様でも勝てないぞ。』
(そうか……………。)
大和統括隊長と北条隊員が戦っている敵はシーザー・クレシェフ、先日の演説をした男。
(どうりで苦戦を強いられているはずだわ。)
ザッ!
『七瀬統括隊長。』
『明日香…………。』
『行って下さい。2人を助けに…………。』
シャキィーン!
『私はもう大丈夫です。ここは任せて下さい!』
(……………明日香。)
『いえ、私達2人なら早く片付けられるわ。まずは、ここにいる8人を殲滅させます。』
『!』『!』『!』
七瀬 怜─────
──────────羽生 明日香
(ここまでか…………。)
レッドスコーピオンは光学剣(ソード)を下ろし仲間達に命令する。
『退却するぞ!』
『!?』『隊長!』
『これ以上、犠牲者を出す訳には行かない。俺達の負けだ。』
ザッ
ザッ
『シンクロ解除!』
シュン
シュンシュン!!
『…………七瀬統括隊長。』
『えぇ、こちらは終わりましたが、大和統括隊長達が心配です。明日香、体調は大丈夫ですか?』
『はい。少し記憶の混乱が起きただけです。』
『記憶の混乱?』
エマ─────
エマの記憶が、完全に明日香の脳裏に焼き付いた。
『でも、未来で起きた出来事の全てを理解しました。』
未来──────
未来の世界では、日本国が世界を滅ぼすとシーザー・クレシェフは述べた。世界を救う為に人類は協力して日本を滅ぼす必要があると。
中東 エルサレム
アメリカ合衆国空母艦隊がエルサレムに到着したのは西暦2060年5月9日未明の事である。艦隊を率いるのは、アメリカ合衆国の最高司令官、アレクサンダー・ルーカス将軍である。
「クレシェフ…………、未来からの贈り物である聖書(バイブル)を根拠に世界中の人間に訴えかける演説は見事であった。」
例え、その中に嘘が散りばめられていても、それを嘘だと指摘出来る人間はいない。ヨーロッパ戦線で大敗した連合国であれば、ロシア側の要求を受け入れざるを得ない。
贈り物は必ずエルサレムに現れる─────
逆に言えば、エルサレムを支配したものが、この世界の主導権を握る事が出来る。
エルサレムを護るロシア側の機動兵士の数は200人弱、そしてロシア軍の主力はヨーロッパ戦線に派遣されており、エルサレムは手薄の状態。
(クレシェフ………判断を見誤ったな。)
サウジアラビア紛争で大打撃を受けたアメリカ合衆国には、エルサレムを攻撃するほどの戦力は無いと、ロシア側は高を括っていた。
(甘いぞ、クレシェフ。)
ビビッ!
「『マリオネット』、オン!」
ギュィーン!
『全隊員へ命令する!ロシア兵士を殲滅し、速やかにエルサレムを奪還しろ!』
(米国の狙いは、最初からヨーロッパ戦線には無い。エルサレムの奪還こそが最優先事項だ。)