MARIONETTE- Еmma
【完全シンクロ➀】
西暦2☓92年
勅使河原 神童(てしがわら しんどう)、それが彼の名前だ。代々科学者の家系で産まれ、知能レベル(IQ)は280を越える超天才である。
極東戦争から遡ること8年前の西暦2☓92年の話になる。関東平野の海岸沿いにある極東の島国で産まれた神童は、中学二年生となった。
ビビッ!
『シンクロ率48%』
『!?』
バシュッ!
『ぐわっ!』
バチバチバチバチバチバチ!
ドッガーン!
「神童がまた負けたぞ!」「ガリ勉野郎!」
連戦連敗、それが中学二年生の神童の戦闘記録であった。神童は生まれつき身体が弱く、運動神経は皆無に等しかったのだが、それ以上に致命的なのはシンクロ率である。現代戦争の中核を為す『パワードスーツ』での戦闘では、装着した人間とのシンクロ率が物を言う。平均的な一般生徒のシンクロ率は60〜70%であり、優秀な生徒ほどシンクロ率は高くなる。しかし、神童のシンクロ率は最大でも50%に届かない。これでは勝てるはずも無かった。
バコッ!
「痛っ!」
「父親が優秀な科学者だか知らねぇが、生意気なんだよ!」
「金持って来いよ。お前んち金持ちだろうが。」
勅使河原 神童(てしがわら しんどう)は執拗なイジメに合っていた。この時代は、世界的に戦争が絶え間なく起きており、機動兵士としての実力が何よりも優先される時代である。勉強は出来ても戦えない人間はゴミクズと同じであり、特に世間知らずで精神的に成熟していない中学生であれば、尚更この風潮があった。
ゴホゴホッ!
「うわっ!きったねー!ゴキブリ食いやがった!」
「ゴキブリ野郎!!」
イジメは日に日にエスカートし、神童の精神は大きく歪んで行く。
こんな世界──────
──────崩壊すれば良いのに
「父さん…………。今日、学校でさ…………。」
「あぁ?そんな奴らは放って置けば良い。シンクロ率など今に関係なくなる。」
「関係無く?」
「そうだ。もうすぐ完成するぞ!誰もがシンクロ率が100%になる夢の機動兵器だ!」
勅使河原 宝前(てしがわら ほうぜん)
機動兵器『マリオネット』研究の第一人者であり、『強制シンクロ』装置の開発者でもある宝前は、世界的に有名な科学者である。
「お前も早く科学者になれ。戦場で戦うなど頭の悪い馬鹿のする事だ。機動兵士になどならんで良い。」
父さんが開発した『強制シンクロ』装置は、世界に革命をもたらした。才能に関係なくシンクロ率が100%になる機動兵器は、すぐに世界のトレンドとなる。
そして、数年後
シンクロ率100%……………。
「これだけではダメだ。」
アメリカ合衆国もヨーロッパ連邦共和国も、ユーラシア連邦までもが『強制シンクロ』装置の開発に成功した。勅使河原博士の研究は他国に真似され優位性を失った。その上を行く必要がある。
シンクロ率200%
シンクロ率300%
シンクロ率400%
被験者を使った人体実験はエスカートして行き、多くの犠牲者を出した事がマスコミに報道された。
「神童!てめぇの親は人殺しだ!」
「殺人者の子供が!」
高校に進学した後もイジメは無くならない。いつしか神童は学校へ行くのを辞めて研究に没頭するようになる。
(父さんの研究では、シンクロ率の限界は200%、それ以上のシンクロは脳に重大な影響を及ぼし、長時間のシンクロは生命維持を難しくする。)
機動兵士など、みんな死ねば良い────
西暦2☓95年
この年、研究所で重大な事件が発生した。
「勅使河原博士!大変です!」
「どうした?」
「被験者097号が!マリオネットが!暴走しています!」
「なんだと?神童!お前も来い!」
二人の親子が駆け付けた先で見たのは、信じられない光景であった。
『ギギ…………。ギギギギ……………。』
「あれが097号だと?」
「心拍停止!生命反応無し!しかし、シンクロ状態が続いています!」
「何を馬鹿な事を………。死んだ人間が動けるものか!」
「脳波はどうなってる!」
「神童?」
神童には一つの仮説があった。『強制シンクロ』装置により、強制的にシンクロ状態となった人間の脳と機動兵器『マリオネット』には互換性がある。『マリオネット』に搭載されているPSAIと呼ばれる人口知能が、人間の脳とシンクロした場合、人間の脳波を複写する性質があり、状況によっては人間の脳にとって代わる事すら可能となる。
「脳波………、微弱な電気が発生しています。しかし、あり得ません!死んだ人間の脳から脳波が発生するなど…………。」
(人間ではない。)
神童は確信する。
脳波を発信しているのは人間ではなくて『マリオネット』の方だ。正確に言えば、脳を動かしているのは機動兵器『マリオネット』であり、現在は脳の複写を継続中って所だろう。
ブン……………。
神童はモニターを確認する。
(シンクロ率738%……………。)
とっくに限界は越えている。問題は『マリオネット』が複写を開始した時のシンクロ率と要因だ。何かキッカケがあるはずだ。
『ギギギギ…………。』
グワッ!
バキバキバキバキ!!
「研究室の扉が壊されました!」
「警備の機動兵士は何をしている!殺しても構わん!殺せ!!」
研究所に配置されている機動兵士の数は3名。政府直轄の兵士の実力は国内でも高いレベルにある。勅使河原博士の命令を受けた3名の機動兵士が研究室に駆けつけ、暴走した被検体の対処にあたった。
『ギギギギ……………。』
バシュッ!ブワッ!
『ぐぉ!』『うわぁあぁぁ!』『!!』
神童は冷静に時計の針をカウントしていた。心拍停止から既に8分が経過しており、それでも動き続ける097号。
バシュッ!
バチバチバチバチバチバチ!
ドッガーン!
一人目
『助けてくれぇ!』
バチバチバチバチバチバチ!
ドッガーン!
二人目
「何をしている!役たたずが!」
バチバチバチバチバチバチ!
ドッガーン!
怒鳴り散らす父親とは対照的に、神童の興味は全く別の所にあった。三人目の警備兵が殺されるまでの時間が4分であり、合計では12分。最終的に0097号が息を引き取るまでに31分が経過していた。
(……………面白い。)
後に連合国の間で『パラサイト』と呼ばれる自立型機動兵器が誕生した瞬間である。
【完全シンクロ②】
西暦2☓☓0年
その年は、人類にとって忘れられない年となる。
──────極東戦争
人類が初めて『パラサイト』と遭遇し、多くの犠牲者を出した極東戦争の末期。
ビビッ!
『前方距離300m!』
『左右に別れて下さい!私は中央から交戦します!』
『ラジャ!』『ラジャ!』『ラジャ!』『ラジャ!』
バシュン!ズサッ!バババッ!
ガギガギガキィーン!!
多くの機動兵士にとって、超人的な戦闘能力を誇るパラサイトは脅威以外の何者でもない。5人編成の機動兵士全員が1体のパラサイトに全滅させられたなんて話はよく聞く話だ。
ズバッ!
ビビッ!
『損傷率38%』
『くっ!』
エマの役目はパラサイトを引き付ける事にある。普通の兵士であれば、パラサイトとの1対1の戦闘など5秒と保たない。しかし、瞬発力に優れるエマ・スタングレーのスピードが不可能を可能にする。
グンッ!
エマのスピードが加速して、薄桃色の光学剣(ソード)が、音速の領域へと突き進む。
『はぁあぁぁぁ!!』
バシュバシュバシュバシュッ!!
『ガガ!』
『今よ!』
ビュン!ザッ!ザザッ!
『うぉりぁ!』
これが、エマ達の戦闘だ!人類最大の長所である連携攻撃こそが、パラサイトを倒す秘訣となる。パラサイトの両側から一斉に光学剣(ソード)を振り下ろす3人の機動兵士にパラサイトは対応出来ない。
ズバッ!スボッ!バシュッ!
『損傷率59%』
『グガァ!!』
『アロン!お願い!』
『任せろ!』
そして、最後の一人、アロン・ファスナーはエマと同じ将来を期待されるイスラエル軍の機動兵士である。エマがスピードと瞬発力を武器に戦う機動兵士とするなら。
ゴゴゴゴゴゴォ!
アロンは、その強力な精神力を、光学剣(ソード)に乗せて戦う機動兵士。
『天剣!『アポロン』!』
『ギ………?』
ザバンッ!
『ブギャ!』
目を疑うほどの巨大化した光学剣(ソード)が、一瞬でパラサイトの耐久値を削り取った。
バチバチバチバチバチバチ!
ドッガーン!
ビュン!ザッ!シュバッ!
ザクザクザクザクザク!!
シンクロ解除と同時に、エネルギー源である人間部分の脳を破壊されては復活する事も出来ない。戦争末期には、既にパラサイトの撃退方法は確立されていた。
『はぁ、はぁ…………。やったわ。』
『エマ、損傷率は?』
『48%、まだ大丈夫よ。』
『エマさんに、負担ばかり掛けて申し訳無い。』
『今日は2体倒した。戻ってマリオネットを修理しよう。』
ザッ
ザッ
ピピ…………。
戦場を去る5人の機動兵士の上空に浮かぶのは、ステルス性能を兼ね備えた超小型ドローンである。目的は連合軍とパラサイトとの戦闘の監視であり、パラサイトの遺体の発見にある。
「回収しろ。気付かれるなよ。」
指示を出すのは勅使河原 神童(てしがわら しんどう)、21才となった神童はパラサイトの研究を続けていた。
「神童博士……、パラサイトの数も随分と減少しました。敗戦は濃厚です。」
終戦末期まで生き延びた連合国の兵士は強者揃いであり、パラサイトとの戦闘経験も豊富になっている。多くの犠牲者を出した連合国も馬鹿ではない。徐々にパラサイト側が不利になるのは予想の範囲内である。
「なぁお前、パラサイトの弱点は何だと思う?」
神童は問う。機動兵器『マリオネット』と人間が一体となる事により、スピードもパワーも桁外れの能力を得た機動兵器『パラサイト』。1対1 の戦闘であれば大概の兵士に勝てるだろう。
「知能だ。」
神童は断言する。
「パラサイトには猿並の知能しかない。人間の脳を完全に複写出来ていない未完成品だ。」
「知能ですか…………。」
極東戦争により連合国の機動兵士によって破壊されたパラサイトの数は300体を越える。そのうち、回収に成功したパラサイトの数は27体であり、神童はその27体を解剖し分析している。平均で83%、最大で91%、パラサイトは人間の脳を完全に複写しきれていない。
(前頭葉の複写に問題がある。)
カタン
「まぁ、良い。遺体の回収を急げ!サンプルは多い方が良い。」
ブン
ハインリッヒ・ハンドラー
シュバルツ・シュナウザー
アロン・ファスナー
極東戦争では、多くの英雄が誕生した。超人的な戦闘力を誇るパラサイトに対して、一歩も引けを取らずに連合国を勝利に導いた英雄達。神童の個室に設置されている、数十台にも及ぶモニターに英雄達の画像が表示される。
(ふん…………、戦う事しか能のない馬鹿どもが。)
他の人間よりも、運動神経に優れ、マリオネットとの相性(シンクロ率)が良いだけで英雄になれる世の中。神童をイジメていた学友どもと同じ側の人間だ。
「ふふ…………。ははははは!」
こいつらを皆殺しに出切るなら、どれほど気分が良い事か。IQ280を越える天才科学者である神童こそが、真の英雄に相応しい。
ピッ
ブン!
そして、室内に設置されている全てのモニターが一人の女性を映し出した。
エマ・スタングレー
神童はエマの映像を静かに見つめる。
(驚異的なスピードに瞬発力……………。)
強制シンクロ装置無しで、この実力は神童の理解を越えている。
(素晴らしい……………。しかし、まだ早い。)
エマを殺すのは自分でなければならない。
「待っていろ、エマ。そのうち俺が迎えに行く。」
こうして、多くの犠牲者を出した極東戦争は人類側の勝利により幕を閉じた。
【完全シンクロ③】
極東戦争から2年後、エマ・スタングレーが初めて彼と会ったのはヨーロッパ戦線であった。
ヨーロッパ連邦共和国第28区
パラサイトを討伐する為に現地へ向かったシュバルツは、2つの異常な光景を目撃する。
ビビッ!
『隊長…………、どう言う事でしょう。』
単独行動を好むパラサイトの反応が一箇所にまとまっている。極東戦争での経験上、こんな事例は見た事がない。
『…………7………8体か、多いな。』
面前のモニターに映る黄色い点滅は8つあり、この周辺には、他のパラサイトは見当たらない。一方、シュバルツ・シュナウザー総隊長が指揮する部隊の人数は40名。5人編成のチームが8組あり、パラサイト一体あたり5人の計算となる。
(ギリギリ行けるか…………。)
『周囲を取り囲むぞ。』
『ラジャ!』『ラジャ!』『ラジャ!』『ラジャ!』
ザザッ!
シュバルツの判断は進行である。ヨーロッパ連邦共和国の兵士の中でも最上位と言われるシュバルツにはプライドがある。同じSS級兵士のハンドラーやイスラエルからの助っ人であるエマの部隊に負ける訳には行かない。
問題は…………深い霧にあった。
ビビッ!
『前方距離300m、未だに目視出来ません!』
西側の海岸ならともかく、東部に位置する第28区で霧が発生するのは珍しい。戦闘経験が豊富なシュバルツですら。ここまで視界が悪い状態での戦闘経験は無い。視界が悪いと言う事は連携が取りづらいと言う事だ。
ビビッ!
『パラサイトと遭遇します!』
『良し!一気にケリを付ける!』
ババッ!
(条件はパラサイトも同じはずだ…………。)
ブワン!
『!』
ガキィーン!
霧の中から現れたパラサイトの攻撃を、間一髪で防ぐ事に成功したシュバルツは、すぐに反撃に転じた。
『ブルーランス!』
蒼いイナズマの異名を取るシュバルツの武器は細長い光学槍(ランス)である。共和国の中でも随一の槍の名手は、続けざまに3度の突きを繰り出した。
シュシュシュバッ!
しかし、当たらない。まるで霧に溶け込むようにパラサイトは消えて行く。
(くそっ!邪魔な霧だ!)
ビビッ!
『隊長!』
ビビッ!
『ぐわぁ!』
ビビッ!
『助けて!』
バチバチバチバチバチ!
ドッガーン!
そして、マイクロエコーから聞こえて来るのは、仲間達の悲鳴である。霧により連携攻撃を封印された共和国軍は、次々とパラサイトの餌食となって行く。
(くそっ!攻撃に出たのは失敗か!これでは、まともに戦えない!)
この時点で、視界は殆ど無くなっており、とても戦える状態ではない。
『全員!一旦、撤退する!』
(それにしても、おかしい…………。)
霧の多いロンドンですら、ここまで酷い濃霧は記憶に無い。そして、パラサイトが集結している旧市街地を中心に霧が広がっているように見える。
(まさか、人工的に霧を?俺達の連携を乱すのが目的…………。)
ザザッ!
撤退するシュバルツ達をパラサイトが追ってくる様子は無く、その行動すら不可解に見える。まるで誰かに統率されているような印象を受ける。
ビビッ!
『被害状況はどうなってる!』
『マスタング隊、一人殺られた。』
『シューマ隊、こっちも一人です。』
『アルバルトが殺られた!くそっ!』
装甲の損傷はあるものの、完全に倒された兵士は3人。対するパラサイトの数は8体のままであり、先制攻撃は失敗だ。
『シュバルツ隊長、霧が………晴れて来ました。』
『……………。』
シュバルツは空を見上げる。目の前の敵ですら見えない程の濃霧が徐々に消え去り、明るい陽射しが射し込んで来た。
(どうする…………。行けるか。)
3人が殺られたとは言え、数的優位はこちらにある。
ビビッ!
『損傷率が50%以下の隊員は待機!それ以外は出撃する!』
『ラジャ!』『ラジャ!』『ラジャ!』『ラジャ!』
既に霧は晴れて、視界は良好だ。仮にあの霧が人工的なもので罠であったとしても、同じ手には乗らない。
『霧の発生を注意深く観察しろ!』
『ラジャ!』
ザザッ!
モニターに映るパラサイトの数は11体。
(………………11体?)
いや、3体の識別反応は味方の兵士を示しており、ヨーロッパ連邦共和国のマリオネットを装着している。
(生きている?)
殺られたはずの3人の兵士が生存している。シュバルツの頭は混乱していた。人間とは物事に希望を見いだす生き物であり、仲間が殺されたと言う情報こそが間違いであると認識する。しかし、これは司令官として間違いである。詳細不明の情報は、精査して作戦を練り直すのが冷静な判断であろう。ハンドラーやエマに負けたくないと言う意識がシュバルツの判断を鈍らせる。
『行くぞ!』
ダッ!
ヨーロッパ連邦共和国の機動兵士達が、パラサイトが集結する旧市街地へとなだれ込んだ。人数に勝る共和国軍と、個体の能力に勝るパラサイトの、本日 二度目の戦闘が始まる。
バシッ!
ズバッ!
バチバチバチバチバチ!
ドッガーン!
ビュン!
『ぐわっ!』
バチバチバチバチ!
ドッガーン!
1体パラサイトを倒したかと思えば、仲間の兵士も次々と殺られて行く。
『くっ!うぉりぁ!』
ズバッ!
バチバチバチバチバチ!
ドッガーン!
ズボッ!
シュバルツの蒼い槍(ブルーランス)が3体目のパラサイトを殺した時には、周囲の仲間は殆どいなかった。
『はぁ………。ふぅ。』
『シュバルツ総隊長!』
『シューマ…………、無事だったか。』
ビビッ!
『残っているのは、私達3人だけね。』
『アン………お前も無事か。』
残る仲間の機動兵士は僅かに3人である。
『ギギ…………。』『ギガ…………。』『ギギギギ。』
『シュバルツ総隊長、気付きましたか?』
『あぁ…………。あのパラサイトは…………。』
────アルバルトで間違い無い────
最初の戦闘でパラサイトに殺されたはずのアルバルトが、パラサイトに取り込まれている。
『アルバルトは生きていたのではなく、パラサイトとして復活したって事か……。信じられんな。』
『『強制シンクロ』もしていない我が軍の兵士が、どう言う理屈なのでしょう?』
『それは分からない。』
ビビッ!
『シュバルツ総隊長!シューマ隊長!そんな事を話している場合では有りません!』
生き残っているパラサイトの数は4体であり、そのうち3体のパラサイトに囲まれている状況は、絶体絶命とも言える状況だ。更に………。
ビビッ!
残る1体のパラサイトも接近しつつある。
(ここまでか………。)
流石のシュバルツ・シュナウザーでも4体のパラサイトと戦うには無理がある。人類がパラサイトに勝つ方法は、複数の兵士で一斉攻撃するに限る。
『総隊長!』
『!』
『諦めるのは早いです!ハンドラー総隊長に、エマ総隊長の部隊にも連絡をしました!少し遠いですが、機動兵士の機動力なら10分と掛かりません!』
『アン…………。そうだな、諦めるのは早い。』
4対3であっても、10分くらいなら持ち堪えられる。
『ブルーランス!』
3人の機動兵士が戦闘態勢に入った時、ほぼ同時に4体目のパラサイトが現れた。
ズサッ!
『!』『!』『!』
(なんだ………この感覚は?)
他のパラサイトとは異質の感覚を察知したシュバルツは、4体目のパラサイトの顔を見る。
(東洋人……………。極東戦争で戦ったパラサイトと似ている。)
しかし、決定的に違うのは、その瞳には精気が感じられる事だ。単なる死体となった他のパラサイトとは明らかに違う。
ビビッ!
『シュバルツ・シュナウザーか。』
『!』
(しゃべった!?)
『誰だお前………パラサイトでは無いな。』
『………………。』
『なぜパラサイトと共にいる?どこの国の兵士だ?』
『質問が多いな…………。一つづつ答えよう。』
ゴクリ
『俺の名はシンドウ。俺の国には名前が無い。』
『なに?』
『正確には消されたと言うべきか。お前達、連合国に。』
『なんだと?』
かつて、ユーラシア大陸の東側に存在した極東の島国。先進的な科学技術と強大な経済力で世界を支配するかに思われた極東の島国は、地図の上から抹消された。その国は国名を名乗る事を禁止され、他国がその国の名を語る事すらタブーとなる。
『貴様…………、極東の島国の機動兵士。生き残りがいたのか。』
極東の島国の機動兵士は二年前の極東戦争で全滅したはず。パラサイトに取り込まれた兵士も、そうでなかった兵士も一人残らず死亡した。
『極東戦争の英雄、シュバルツ・シュナウザーよ。俺の実力を図るには丁度良い。』
『!』
『勝負だシュバルツ………。』
『…………。』
(おかしい…………。)
シュバルツは辺りを見回した。
(他の3体のパラサイトが動く気配が無い。)
『……………?あぁ、心配するな。パラサイトは動かない。』
『なに?』
『全てのパラサイトは俺の支配下にある。』
『!』『!』『!?』
『……なんだと?パラサイトが人間の言う事を聞くのか!?』
驚くのも無理は無い。パラサイトの人工知能は人間とは比較にならない程に低く、人間の言葉を理解出来るのかも怪しいとされている。
『人間?………お前、一つ勘違いをしている様だな。』
『………どう言う事だ?』
ズサリ
シンドウは光学剣(ソード)を構えて、ゆっくりと口を開いた。
『俺は人間ではない。パラサイトだ。』
『!?』
(有り得ない。人間と同じ言語を交わし、精気すら感じられる男がパラサイト?)
『もっとも、他の出来損ないのパラサイトと一緒にされても困るがな。』
シンドウは告げる。
『我が名はシンドウ、世界で唯一『完全シンクロ』に成功した機動兵器。』
つまり
──────マリオネットの完成形だ──────