【大陸対戦二回戦①】


マゼラン帝国が大陸を統一した後に始まった『大陸対戦』は今年で12年目を迎える。そして、この日、ザグロム自治領所属の魔導士カリウス・メイスナーは『魔導対戦』での連勝記録を8へと伸ばし大会新記録を更新した。


「さすがだなカリウス。」


声を掛けたのは、2回戦の『騎士対戦』に出場する騎士代表のエース、モーリス・セクタである。


「次は俺の番だ。お前ほどの圧勝は出来なくても、頑張って来るぜ。」


大会を見に来ている観衆は、カリウスの勝利に大いに盛り上がっているが、カリウスの心中は穏やかではない。


(……………さすが?圧勝?モーリスも、観衆も、いったい何を見てやがる。あの魔導士…………。俺の全身全霊の魔法を打ち消しやがった……………。)


絶対の自信を持って放った『アイス・ジャベリン』が、黒い球体に吸い込まれ消滅した。円盤が割れたのは、吸収される過程で僅かに掠めたに過ぎない。先程の戦闘は、カリウス・メイスナーの完全なる敗北であった。


(あんな凄い魔法は見た事が無い。アリス・クリオネ…………。覚えておこう。)




一方のアルンヘイル陣営


「ごめんなさい。負けてしまいました。」


深々と頭を下げるアリスにサイリスは優しく声をかける。


「正直、驚いた。あのカリウスを本気にさせたんだ。良くやった。」


「え?」


「カリウス・メイスナー……、想像以上の魔導士でしたわね。私でもおそらく負けていたわ。」


「モトさん…………。」


「サイリス、わかってるな。アリスの健闘を無駄にするなよ。」


「バーバリーさん。」


一戦目を落としたアルンヘイル自治領は、もう負ける訳には行かない。2戦目は『騎士対戦』で両陣営のエースが激突する大一番である。


「それでは、行って来る。」


サイリス・ロードリアは、そう言い残しフィールドへと上がって行った。




マゼラン帝国陣営


「カリウスか…………。やはり俺達の前に立ち塞がるのはカリウス・メイスナー。奴を倒してこそ、マゼラン帝国の完全勝利と言える。」


「はぁ、トールギス先輩は気楽で良いっすね。」


「なに?」


「カリウスは魔導士ですぜ?カリウスは必ず一戦目に出て来るっす。先輩が奴と当たる事は無いでしょう?」


マゼラン帝国総合学園、魔導学科2学年

アッシュ・ランザム


彼は、数多くの生徒を抱えるマゼラン帝国の中で、2年生ながら『大陸対戦』のメンバーに抜擢された魔導士である。


「ならば、どうだ?勝てそうか?」


トールギス・ゼネアスの問いに、アッシュは笑いながら答える。


「いやいや無理ですって。カリウスに勝てる魔導士なんて高校生の中にはいませんって。昨年と同じく『騎士対戦』と『混合対戦』で勝てば良いでしょう。」


「ふん。最初から諦めてどうする。」


「はいはい、そう言うの要りませんって。ほら、試合が始まりますよ。ザグロムのモーリスは強いって噂ですから、見といた方が良いんじゃないっすかね?」 


優勝候補筆頭のマゼラン帝国にとっては、次の試合の事など念頭に無く、決勝で当たるであろうザグロム自治領を警戒している。 そして、アルンヘイル自治領とザグロム自治領の『騎士対戦』が始まった。




サイリス・ロードリア

VS

モーリス・セクタ


「アルンヘイル如きに負ける訳には行かない。」


シャキーン!


モーリスは重心を低く構える受け身の剣。相手の出方を待ってから動くタイプの騎士である。


ジャリ


しかし、それはサイリスにとっては好都合だ。パワーに劣るサイリスはスピードを信条とした攻撃型の剣を得意とする。


(モト……………。)


コスタリア出身のモトは大会への出場を禁止された。口には出さないが悔しいに違いない。


(アリス…………。)


突然の『魔導対戦』への参加であったが予想以上に健闘した。謝る必要はどこにも無い。


(バーバリー、マリー…………。)


ここで、サイリスが負ければ二人は一度も戦うことなく敗戦する事になる。何としても負ける訳には行かない。


(神経を研ぎ澄ませ!)


サイリス・ロードリアは、ここで負けるような騎士ではない。


バシュ!


「!」


サイリスは左足を大きく蹴り上げて、一瞬でモーリスとの距離を縮めた。狙いはモーリスの左肩、右斜上から木刀を一気に振り下ろす。


ガキィーン!!


ビリビリ


モーリスは、その一撃を素早い反応で防ぐ事に成功するが、それは計算のうちだ。弾かれた木刀をそのまま奴の足元へと滑らせ、左足を払い除ける。


ブルン!


(!?)


しかし、サイリスの攻撃は空を切り勢い余ったサイリスはモーリスに背を向ける形となった。


(しまった!)


バシュ!


「ぐっ!」


背中に激痛が走る。しかし、モーリスの体勢が悪かったのか致命傷には至らない。二撃目が来る前に距離を取らなければならない。


バッ!


慌てて距離を取ったサイリスはすぐさま木刀を構え直した。


(む!)


モーリスは、攻撃に転じる様子はなく、あくまで待ちの構えである。


(なるほど、そういう戦闘か…………。)


相手に仕掛けさせて、隙を付くのがモーリス・セクタの戦闘スタイル。派手さは無いが堅実な戦法とも言える。


(しかし、それなら怖くは無い。)


真剣と違い木刀での戦闘では、小手先の剣で相手を倒す事は出来ない。


ザッ!


「うぉりゃぁぁ!!」


再び攻撃を仕掛けるのはサイリスであるが、先程と違うのは木刀を振り上げることなく正面から突き刺す事だ。


ビュッ!


サイリスの突きに対して、モーリスは打ち払うのではなく、身体を右へと逸らし反撃に転じる。


バッ!


「危ない!」  


サイリスは慌てて左腕を曲げて防御体勢に入るが、モーリスは左腕ごと薙ぎ払う。


バシュ!


「ぐっ!」


ビキビキ!


骨の折れる音が響きサイリスは激痛に顔を歪める。


「サイリス!」「サイリスさん!」


しかし、これはサイリスの狙い通りでもあった。


「うぉりぁぁぁ!!」


「!」


左腕を折られても負ける事は無い。サイリスは激痛を我慢してそのまま右足を振り上げる。


(な!蹴りだと!?)


予想外の攻撃に受け身の取れないモーリスの腹部を、サイリスは思い切り蹴り上げた。


ドガッ!


「ぐっ!」


相手の体勢が崩れた今がチャンス!


「二連剣!!」


ズバ!ズバッ!


直後に、得意とする高速の突きを放てばモーリスはかわす事が出来ない。


「ぐわぁ!」


手応えはあった、しかし、まだ手は緩めない。相手を戦闘不能にするには、機動力を削ぐ必要がある。


(つまり、足だ!)


バシュ!


バキボキ!


「ぎゃあぁぁ!!」


足を折られては、さすがのモーリスも戦う事は出来ない。


「それまで!勝者!アルンヘイル自治領所属!サイリス・ロードリア!!」


わっ!


(ほぼ計算通り………。)


何とか3戦目に繋ぐ事が出来たと、サイリスは胸を撫で下ろした。





【大陸対戦二回戦②】


(アルンヘイルが勝ったか………。)


これで1対1。勝負は最終戦までもつれ込む。試合を観戦していたトールギス・ゼネアスは、隣に座る女性騎士へと話し掛けた。


「今の試合、どう見る? まさかモーリスが負けるとは思わなかったが。」


トールギスの予想では、ザグロム自治領の2連勝が濃厚だと踏んでいた。しかし、サイリスと言う騎士もなかなかの実力者、3戦目の結果によっては決勝の相手はアルンヘイルになる。


「真剣であれば、先に二撃を喰らったアルンヘイルの負けです。」


「………………。真剣であれば……か。」


それを言えるのは、実際に真剣で戦っている近衛騎士団のシャルロットだけだ。トールギスを始め、この大会に参加している生徒達は騎士剣の帯刀を許されていない。


「次はいよいよ『混合対戦』、両自治領の実力が問われる。面白くなって来たじゃないか。」 



『騎士対戦』で負傷したサイリスとモーリスの二人は、治療班による応急処置が行われていた。


「痛っ!」


「サイリスさん!大丈夫ですか!?」


心配するマリー達に、サイリスは笑顔を見せて答える。


「マゼラン帝国には優秀な治癒魔導士が多い。明日までには何とかなるさ。」 


アンドロメダ大陸の医学とは、治癒魔法の事であり優秀な魔導士であれば骨折程度の損傷は1日で治す事も可能だ。


「マリー、そろそろ試合が始まる。」


「はい。」


第十二回を数える『大陸対戦』であるが、トーナメント一回戦は全て2連勝で決着したが為に3戦目に突入するのは今回が初めてだ。『魔導対戦』『騎士対戦』に続く3戦目は、騎士と魔導士が共同で戦う『混合対戦』と呼ばれる種目である。


そして、過去の大会で、最も多くの負傷者を出しているのが『混合対戦』であり、より実戦形式に近い戦闘が繰り広げられる。


ザッ


ザッ


(伝統的にザグロム自治領は騎士より魔導士の育成に力を入れている。ザグロムのエース騎士であるモーリスは別として『混合対戦』に出て来る騎士のレベルはそれほど高く無いだろう。)


バーバリーの予想では、怖いのは魔導士の方だ。


『混合対戦』では魔導士による騎士への魔法攻撃が認められている。アルンヘイル騎士学校へ通うバーバリーにとって、魔導士との戦闘経験は殆ど無い。


「バーバリーさん。」


「マリー?」


「大丈夫、魔法攻撃への対処なら私に任せて下さい。」


「…………そうだったな。」


マリーは光の魔導士であり、防御魔法を得意としている。『混合対戦』に於いて、マリーの存在はアルンヘイル自治領を圧倒的に有利にしている。


決勝戦進出をかけた大一番

『大陸対戦』準決勝の3戦目

『混合対戦』が始まる。


わっ!


「ザグロム!頑張れよ!」


「アルンヘイル!負けるな!」


大観衆が見守る中、両陣営の選手達が登場する。二人の騎士はフィールドの上へ登り、二人の魔導士は味方陣営のフィールドの外側に待機。魔導士がフィールドへ上がる事は許されず、攻撃はフィールドの外から行われる。


(マゼラン帝国の試合はまだか…………。)


その時、会場に現れたのはマゼラン帝国近衛騎士団に所属していたグエル・ウォーレンであった。


「む?…………ウォーレン殿!」


それに気付いたのは、近衛騎士団の団長、ロベルト・ミルガルドである。


「来ていたのか。随分と久し振りだ。」


「シャルロットの出番は、まだの様子だな。」


「あぁ、彼女は『混合対戦』に出場だろう。出番は無いかもしれぬぞ。」


かつて、大陸戦争の初期には、ウォーレンとロベルトは共に戦地で戦った盟友であり、当時の近衛騎士団No3でもあったウォーレンがロベルトの上官でもある。


「しかし、驚いた。ウォーレン殿の娘が近衛騎士団に加入し、今度は『大陸対戦』に出場させろとは。全てウォーレン殿の差し金か。」


「そんなところだ。シャルロットには経験が必要だ。」 


「ふ………経験ね。」


シャルロットの実力は近衛騎士団の中でも上位に位置する。今更、高校生の大会に出場して経験も何も無いだろう。つまり、目的は別にある。


大陸戦争当時の近衛騎士団には、マゼラン帝国の今後を左右する幾つかの選択肢があった。


『剣聖』ファンベルク・ガードナーと共にマゼラン帝国を裏切り、帝国と戦う選択肢。近衛騎士団を辞めて戦争から手を引き引退する道。マゼラン帝国の騎士として、抵抗勢力と戦争を継続する道。


そして、ウォーレンは引退し、ロベルトは戦争を継続した。当時の団長であったファンベルクに追随する騎士は1人もいなかった。


「ウォーレン殿、何を考えている。」


「…………。」


「ウォーレン殿には子供がいないだろう。シャルロットはお主の実の子ではない。」


「あぁ、彼女は養子だからな。」


「ふむ。問題は誰の子供かだ。」


「…………………。」


「この一年、シャルロットの戦闘を見てきたが、彼女の戦闘スタイルは団長によく似ている。」


団長、それは、ロベルト・ミルガルドの事では無い。大陸統一戦争当時の団長、つまり『剣聖』ファンベルク・ガードナーを指している。


「ウォーレン殿、何を企んでいるのだ?」


「………考えすぎだ。それより次の試合、『混合対戦』が始まる。」





【大陸対戦二回戦③】


帝国歴149年 12月


大陸北部に位置する帝都の冬は寒い。山頂には雪が積もり、平野部でもそろそろ雪が降る頃である。


(結局、『大陸対戦』に参加する事になっちゃったわね。)


サイリスとバーバリーに誘われた時は、マリーは大会への参加に消極的であった。『大陸対戦』とはマゼラン帝国と7つの自治領が親睦を深める為に行われる大会であり、これはつまり『戦勝国』のセレモニーとしての意味合いが強い。


近年では、大陸南部出身の二等国民から優秀な騎士や魔導士を引き抜く自治領も現れたが、旧パラスアテネ神聖国や旧魔導国家連合、他にもマゼラン帝国と敵対した三等国民が大会に参加する事は許されていない。それゆえにマリーには大会に参加する事に抵抗があった。


『マリー、君が幸せな生活を送れるのは、三等国民や二等国民の犠牲があってこそ。それを忘れてはならない。』


ゼクシードの言葉が胸に刺さる。


それでもマリーが、大会への参加を決意したのは、仲間達の存在があったからだ。モトにサイリス、そしてバーバリーは、『悪魔教徒』に拐われたマリーを命懸けで助けに来てくれた。


(ここで、負ける訳には行かない。)


大会への参加が拒否されたモトの為にも。傷を負いながらも『騎士対戦』で2連勝したサイリスの為にも。急な参戦で健闘したアリスの為にも。


「バーバリーさん。行きましょう。」




ザグロム自治領の選手は、既にフィールドで待機していた。1人はザグロム魔導学園3年生でカリウスの同期であるアムロス・バッキンガーと言う名の炎の魔導士。カリウスの影で目立たないが、基本的にザグロム自治領の魔導士はレベルが高く、実力は高いと思われる。


もう一人は、ザグロム中央学園の一年生、デボス・ラ・デボラスと言う名の騎士だ。背が低く細身の身体に長い髪からは女性騎士を想像するが、登録を見る限り男性らしい。顔は黒髪に隠れて見る事が出来ない。


(それにしても、あんな前髪で前が見えるのかしら?)


『これより、アルンヘイル自治領、ザグロム自治領の『混合戦』を開始します!魔導士はフィールドから降りて下さい!』 


ドクン


ドクン


光の魔導士であるマリーの攻撃魔法は、おそらく通用しない。ならば、する事は1つだ。


『始め!!』


「スター・プロテクト!!」


「ファイア・ストーム!!」


試合開始とともに、両陣営の魔導士が同時に魔法を詠唱した。


アムロスの狙いは、アルンヘイルの騎士であるバーバリーへの魔法攻撃である。『混合対戦』では先に相手の騎士を倒した方が勝ちなのだから常套手段と言える。


ボボボボ!


しかし、バーバリーは平然と木刀を構えた。


ボワッ!


フィールドの端から端への魔法攻撃となると、かなり飛距離があり、騎士のスピードなら避ける事は容易いはずだが、バーバリーはそれをしない。


(やはり………、この程度の魔法ではマリーの防御魔法を突破出来ない。)


バッ!


炎の中から抜け出したバーバリー・ダグラムの狙いは相手の騎士だ。見たところ炎の損傷は全く無いように見える。


「な!どういう事だ!?」


動揺するアムロスに、カリウスが叫ぶ。


「よく見ろ!防御魔法だ!」 


「防御魔法?あの女、光の魔導士か!ならば!」


ボボボボボボボボ!


「炎の波状攻撃を喰らわせてやる!」


防御魔法はその性質上、時間差の攻撃に弱い。1度目の攻撃は防げても、二度目、三度目の攻撃に併せて防御魔法を張るには、相当な技術を要するからだ。


ボボ!ボワッ!ボボボボ!


(あの魔導士、なかなかの実力がある。)


マゼラン帝国代表のトールギスはアムロスをそう評価した。並の高校生なら複数の魔法を同時に操るのは難しく、単発攻撃が基本であるが、アムロスは同時に7つの炎を操り、更に時間差での攻撃を行っている。


(カリウス・メイスナーは別格としても、さすがはザグロムの魔導士。決勝戦は侮れない相手になりそうだ。)


ボボ!ボボボボ!ボワッ!


グン!


「!」


ガキィーン!


ビリビリ


「せんぱ〜い!」


バーバリーの攻撃を受けたデボスが、アムロスへと言葉をかける。


「先輩の魔法、全く効いて無いみたいですけど、真面目にやってます?」


「なにぃ!」


(いや、アムロスの魔法は文句の付けようが無い。)


フィールドの近くで観戦しているカリウスには分かる。炎のエレメンタルの流れは実に見事で、時間差での攻撃も狙い通りである。それでいて、全くダメージを与えられなかった。そして、魔法が当たる瞬間に防御魔法を放った様子は無い。


(つまり、あれは持続魔法だ。)


「アムロス!奴は持続魔法の使い手だ!防御魔法の効力が切れるまでは無駄撃ちはするな!」


「持続魔法だと?」


ビュン!


ガキィーン!


「うぉりゃあぁぁ!!」


「おっと!」


ザザッ!


バーバリーの攻撃は止むことがなく、デボスは防戦一方となっている。


これは、予想外の魔導士が現れたものだと、カリウスは苦笑した。『混合対戦』のはずが、アムロスの魔法が無力化され実質的に『騎士対戦』となっている。魔導士にアドバンテージのあるザグロム自治領としては相性が悪い。


(ふふ……………。)


そして、カリウスの助言を聞いたドラグナー・モトは、思わず笑いそうになるのを押し留めた。


いや、カリウスの助言は実に正しい。マリーの防御魔法は並の攻撃魔法をほぼ無力化出来るのだから、いくら攻撃をしても無駄だと言える。


しかし


マリーの持続魔法が途切れる事は無い。


(マリーの防御魔法を常識で考えてはダメよ。並の魔導士であれば数分しか保たないような魔法を、マリーは半永久的に持続出来る。)


マリー・ステイシアの魔導士としての才能は、群を抜いている。




【大陸対戦二回戦④】


アルンヘイル自治領 VS ザグロム自治領


決勝進出を懸けた大一番は佳境を迎えていた。


一戦目の『魔導対戦』は、前評判通りの実力を発揮したカリウス・メイスナーがアリス・クリオネを敗って先勝。2戦目の『騎士対戦』はアルンヘイル自治領のサイリス・ロードリアが勝利を収め1勝1敗とする。


今大会、初めて3戦目にまでもつれ込んだ『混合対戦』は、ザグロム自治領のアムロス・バッキンガーの攻撃魔法をマリー・ステイシアが完全に封じ込める予想外の展開となっていた。


試合が始まって5分が経過してもマリーの防御魔法が途切れる事は無い。


「馬鹿な…………。どれだけの魔力を保有しているんだ。」


呆然としているアムロスを見て、デボス・ラ・デボラスは嘆息する。


(はぁ、情けない。)


魔導士の強さは、主に2つの要素で決まる。まずは、魔導士本人が保持する魔力の絶対量であるが、これは遺伝的要素が強く魔力を簡単に増やす事は出来ない。2つ目はエレメンタルを操作する技術的な問題がある。どんなに魔力が強くてもエレメンタルを操れなければ意味が無い。


騎士であるデボスから見ても、アムロスとマリーの力量には格段の差があった。


(まぁ、アムロス先輩の助けなど最初からアテにはしていない。問題は他にある。)


「とりゃ!」


ガキィーン!


「はっ!」


バシュ!


「くっ!」


バーバリーの攻撃をかわしてカウンターを繰り出すデボスの攻撃が当たるのは、これで七度を数える。


(普通の戦闘なら、とっくに勝敗がついてる。)


しかし、バーバリー・ダグラムが倒れる気配が全く無い。


(この魔法………、魔法攻撃のみならず、物理攻撃にも有効と来てやがる。)


魔法 対 魔法であれば相手の魔力を上回れば攻撃を防ぐ事は簡単に出来る。しかし物理攻撃を防ぐのは簡単ではない。エレメンタルの質量が物体の質量を上回るなど、相当な技術が無いと不可能だからだ。


それが出来るのは、訓練を積んだ一流の魔導士だけで、高校生のレベルで物理攻撃を防ぐ魔法を扱える魔導士など見た事が無い。


(俺と同い年の少女が、扱える魔法では無いだろう。)


もはや、アムロスの攻撃魔法は完全に無力化し、バーバリーが攻め続けるところをデボスが切り返す展開が続いている。


ざわ!


ざわざわ!


「あの光の魔導士、只者ではない。」


「これは、アルンヘイルが勝つぞ?」


観戦している観衆も、ようやく事の重大さに気付き始めた。『混合対戦』に於いて相手の攻撃を無力化出来る魔導士ほど心強い魔導士はいない。


(はぁ………。攻め方を少し変えるか。)


味方の魔導士が役に立たない以上、デボス・ラ・デボラスは自らの力で勝たねばならない。しかし、それはデボスが今まで行って来た事と何ら変わりない。


(他力本願など性に合わない。)


細身の身体で騎士を目指すなら、自らを鍛え上げる必要がある。その為に技術を身に付けた。


バシュ!


「くっ!」


デボスの木刀がバーバリーの右足を打ち抜いた。


「そんな攻撃など、効かないと分からないか!」


ブワッ!


すぐさま反撃に出るバーバリーの攻撃を、デボスは軽い身のこなしでかわして見せる。


「あんた、状況がわかって無いね。」


「なに?」


「あんたの攻撃は俺に1度も当たっていない。この圧倒的な実力差の前に立っていられるのは、あの魔導士のお陰でしょうが。」


「ぐっ…………。」


「恥ずかしく無いのかい?ほら、掛かって来いよ。」


「なめるなぁ!」


ブルン!


(そんな大振りが当たるかよ。)



バシュ!


「ぐっ!」


デボスの狙いはバーバリーの右足の踵(かかと)にある、つまりアキレス腱だ。防御魔法とて完璧ではない。魔法攻撃は完全に防げても、物理攻撃を完全に防ぐ事は出来ない。同じ箇所を何度も打ち込まれたなら、必ずダメージは蓄積する。


バシュ!


「ぐぉ!」


(留めだ!)


「牙突!!」


グザッ!!


デボスの高速の突きが、バーバリーのアキレス腱を打ち抜くと、バーバリーは膝からガクリと倒れ込んだ。


(………決まったな。)


そう呟くとトールギスは次の試合の為に立ち上がった。


(二人の騎士としての実力は雲泥の差がある。)


アルンヘイルの騎士の実力は、我が校に入れば中の下と言ったところだが、ザグロムの騎士は上位ランカーと互角に渡り合える。


(光の魔導士の援護を受けてすら、その実力差を埋める事は出来ない。)


「勝者!ザグロム自治領所属!デボス・ラ・デボラス!!」


わっ!


「バーバリーさん!」


マリーはすぐにバーバリーの元へ駆け寄ると、治癒魔法を発動する。


「くそ…………。マリー、すまない。負けてしまった。」


「いえ、それより傷の手当です。」



『混合対戦』の敗北により、アルンヘイル自治領の二回戦敗退が決まった。