【天才魔導士①】


大広場から逃げ出したマリーとサラは、アルンヘイルの郊外にある山岳地帯を南方へと進んでいた。


「マリー……。1つ質問がある。」


「はい。なんでしょうか?」


あれほど強大な魔力を発していたのは、間違いなく古代の『魔導書』によるものだ。しかし、マリーの手には『魔導書』は見当たらない。


「先日の魔導書………。持っているのだろう?」


「え?…………はい。」


「見たところ、何も持っていないようだが。」


「あぁ、それは……………。」


マリーが魔法を解除すると、漆黒色の『魔導書』が手元に現れた。


「普段は見えないように隠しているんです。」


「…………、光の魔法か。なかなかの技量だな。」


そう言えば、サラの睡眠魔法も、マリーは光の魔法で防いでいた。つまり、マリーは日頃から自らの身体を魔法で防御していると言う事になる。


(永続魔法か………。魔導士としての素質はかなり高い。)


どんなに優秀な魔導士でも、長時間、魔法を使い続ければ魔力が消耗する。普通の魔導士であれば永続魔法を滅多に使う事はない。しかしマリーは、防御魔法を日常的に使いつつ、更に魔導書を隠す永続魔法を掛け続けている事になる。

もともとの魔力の総量が多いのか。それとも効率的に魔法を使う術を知っているのか。いずれにしても、簡単に出来ることではない。


ザッ


ザッ、ザッ、ザッ


ピタ


(!)


そこでサラは足を止めた。不思議に思ったマリーが話し掛けようとしたが、サラはマリーの言葉を遮る。


「静かに!」


「イースさん!?」


「敵だ…………。追っ手が来ている。」


「!」


「しくじった………。どうやら優秀な魔導士が、マゼラン帝国にもいるようだ。」


探知魔法を使える魔導士は多いが、せいぜい数キロメートルが限界である。広場から急いで立ち去ったサラ達を追跡するのは簡単ではない。


「正確な数はわからないが、かなりの人数の兵士に囲まれている。いや、第三騎士団の全員が追って来ていると考えるなら、50人と言ったところか。」


「50人!!」


マリーは驚いて目を見開いた。カール・バウアーが魔法で騎士を攻撃したことは確かに問題があるし、マリーがカールを庇ったのも確かだが、ここまで大事になるなんて、想像も出来なかった。


「イースさん………。どうしよう………。」


「落ち着けマリー。」


奴等の目的はマリーではない。


「悪いマリー。助けるつもりが、逆に巻き込んでしまったようだ。マゼラン帝国騎士団がアルンヘイルに来た目的は、おそらく俺を捕まえる為だ。」


「え?………どうしてイースさんを!?」


「俺はパラスアテネの魔導士だ。」


「パラス………アテネ?」


「大陸南部にあった魔導国家さ。もう10年も昔の話だ。マリーが幼い頃に滅亡している。」


「そんな…………。それで狙われているのですか?」


「あぁ…………、なにせ俺は………。」



世界最高の魔導士だから



しゅるるるる!


ぶわっ!


「!?」


どこからともかく現れたのは、水と風の魔法防壁である。その防壁がマリーの身体の周りを二重に包み込む。


「これは…………。」


「魔法による防壁だよ。大抵の物理攻撃なら防ぐ事が出来る。合わせて気配も消しておいた。簡単に見つかることは無い。」


何重にも張り巡らされた高度魔法。


「では、行って来るよマリー。」


俺が人を殺すところも、俺が殺されるところも、マリーには見せたくない。サラの頭にそんな想いが過ぎった。


(敵の気配は徐々に近付いて来る………。)


魔導士と騎士の戦闘は、いかに、自分に有利な間合いで戦えるかで決まる。魔導士に有利な間合いは100メートル〜300メートル。それ以上離れると、魔法の威力と精度が落ちるし、近くなれば騎士のスピードには敵わない。


(現在の距離は1000メートルと言うところか。)


まだ、敵は油断している……が、サラ・イースターを、その辺の魔導士と同じと見ないことだ。


「カッター・スプラッシュ。」


サラが幼少の頃から得意とする風の魔法の射程距離は1000メートルを大きく越える。サラは両腕を天に広げ、10のカマイタチを作り出した。


シュルルルル!!


「まずは10人の命を頂こうか。」



それは、マゼラン帝国騎士にとって、完全に意表を突く攻撃であった。目視すら出来ない距離にいる騎士を、遠距離から正確に攻撃出来る魔導士など想像も出来ない。しかも、複数魔法の同時攻撃である。


シュルル!


ズバッ!


「ぐわっ!」


「な!魔法か!?」


ズバババッ!


「ぐぉおっ!!」


「気付かれてる!一気に行くぞ!!」


ザザッ!!


(この距離で攻撃を仕掛けてくるか。面白い!)


フリューゲルの顔から、思わず笑みがこぼれる。簡単に倒せる敵であれば、わざわざ帝都から来た意味が無い。マゼラン帝国の一個騎士団が来たからには、相応の相手でないと割に合わない。


シュルル!


「封殺剣!!」


ズバッ!!


フリューゲルは、サラの風の魔法を、騎士剣の一振りで薙ぎ払う。


ザッ!


遠距離では魔導士には敵わない。まずは距離を詰めることだ。予想を遥かに越える遠距離魔法の使い手であっても、魔導士への対策はただ1つ。


バッ!!


(接近戦に持ち込めば100%勝てる!!)


フリューゲルのスピードが加速する。


『フリューゲル副団長、方角が少しズレています。』


『イスターシャ………。』


『距離400メートル。若干右寄りへ修正して下さい。』


『了解だ!』


ババッ!!


マゼラン帝国第一魔導士団の魔導士イスターシャの存在は、マゼラン帝国にとって非常に大きい。大陸随一の探知魔法の使い手でありながら、精神魔法により遠距離にいる兵士とも意思疎通が出来る。天才魔導士と噂されるサラ・イースターであっても、彼女の存在は予想していないはずだ。


「……………。」


(1人近付いて来る。………速いな。)


マゼラン帝国の騎士は50人にのぼり、あまり魔力を消耗させたくないが仕方がない。他の騎士は後回しにして、まずは1人に集中する。サラは天空に両手を広げ、新たな風の刃を作り出した。


ギュルルルル!


先程の刃よりも一回り大きい強靭なカマイタチが狙うのは、マゼラン帝国第三騎士団の副団長フリューゲルだ。


シュバ!ギュルルルルルル!!!


距離にして200メートル。今回の攻撃で仕留め損なえば、近距離戦闘になる。


(確実に仕留める!)


ブワッ!!


「!」


四方から迫る無数のカマイタチを、同時に叩き落とすのは不可能。フリューゲルは瞬時にそう判断し、刃を避けることに専念する。


バッ!


ズババババッ!!


(くそ!逃げ切れない!)


「封殺剣!!」


シュバッ!


「ぐわっ!」


(足を斬られた!)


フリューゲルの左足のふくらはぎから、大量の血が吹き出した。騎士にとって機動力を失うことは、致命傷に等しい。これでは次の攻撃から逃れることは出来ない。


ギュルルルル!!


残されたカマイタチが一斉にフリューゲルに襲いかかる。万事休すと思った次の瞬間、フリューゲルは何者かの蹴りにより大きく吹き飛ばされた。


ドガッ!


「痛っ!」


シュバババ!!


「誰だ!………団長!?」


「馬鹿野郎!1人で突っ走るな!!俺がいなければ、今の攻撃で死んでいたぞ!!」


そこにいたのは、第三騎士団の団長グラウドマンである。


「だが、よくやった。奴がお前に魔法を集中したお陰で包囲網は完成した。」


「包囲網だと?」


「サラ・イースターは我々騎士団の騎士に取り囲まれている。この距離から50名近い騎士が一斉攻撃をすれば逃がれる事は出来ない。」


『イスターシャ!』


『はい。』


『一斉攻撃の合図だ!!』


グラウドマンの号令により、帝国第三騎士団の総攻撃が始まった。




【天才魔導士②】


(外の状況がわからない…………。)


魔法防壁に囲まれたマリー・ステイシアは、サラの身を案じるしか出来なかった。


パラスアテネの魔導士…………。その国の名前は知っている。歴史の授業でも教わった悪の帝国の名前だ。


マゼラン帝国の首都がある大陸北部では、魔導士よりも騎士の地位が高く、大陸統一戦争の英雄はどれも騎士ばかりで、魔導士の名前が出て来ることは無い。一方、大陸南部では魔法の技術が発達し、魔導国家が次々と誕生した。その中でも、もっとも強大で広大な領土を所有していたのがパラスアテネ神聖国である。大陸統一戦争とは、騎士と魔導士の勢力争いの戦争でもあった。


戦争に勝利し、大陸を統一したマゼラン帝国が支配するこの世界では、やはり騎士の地位が高く、魔導士は騎士を支える者として認識されている。魔導士は、兵士としては二流扱い、そんな風潮がある。


(つまりイースは、パラスアテネ神聖国の生き残りの魔導士で、それで帝国騎士団に狙われている………。)


「そんな…………。」


相手は何十人からなる屈強の騎士達である。たった1人の魔導士が勝てるわけが無い。


(助けなきゃ…………。)


マリーが参戦したところで、何の戦力にもならない事はわかっている。しかし、マリーの脳裏にはイースを助けることしか思い浮かばない。サラ・イースターはマリーの命の恩人であり、恩人を助けることは人間として当たり前のことだからだ。


ドクン


ドクン


マリーは、両手を胸の前で広げ、光の魔法を解除した。


(うっ……………。)


すると、漆黒の魔導書が現れ、周りの空気を一変させる。何という禍々しいオーラだろうか。



『悪魔禁書』



それは、千年の昔に造られた禁断魔法の手引書である。


(悪魔を召喚すれば、イースを助けられるかもしれない。)



その頃、魔法防壁の外の世界では、サラと帝国騎士団の戦闘が繰り広げられていた。


シュバババ!!


ズバッ!


「ぐわぁ!」


「団長!また1人殺られました!」


「敵は1人だぞ!両腕と両足を斬れ!さっさと捕らえろ!」


「しかし!ぐわっ!」


「!」


(何人殺られた………………。10人か…………、20人か……………。)


帝国騎士団の目的は、サラ・イースターを捕えて、パラスアテネの残党の隠れ家を聞き出すことにある。しかし、奴を捕えるのは至難の技だ。捕えることは殺すことより遥かに難しい。


(敵の力量を完全に見誤った…………。)


これは、団長であるグラウドマンの責任だ。


「作戦変更だ!殺せ!殺して構わん!責任は俺が取る!!」


「!」「!」「!」


「このまま第三騎士団が敗北すれば、マゼラン帝国のメンツが丸潰れだ!必ず殺せ!!」




「はぁ………、はぁ…………。」


(それにしても数が多い………。マリーを護る為に防御魔法を使いつつ、幾人もの敵と戦うには、さすがに骨が折れるな。)


サラ・イースターの魔力の総量は、魔導大国パラスアテネの魔導士達の中でもトップクラスである。しかし、50対1の戦闘は想定していない。どんなに優秀な魔導士でも、魔法を立て続けに使えば魔力が底を尽きる。


(しかし、逃げる訳にも行かない。)


逃げようと思えば、逃げ切ることは可能だろう。しかし、残されたマリーはどうなる。遠くへ離れたら、さすがのサラでも魔法防壁を維持することは出来ない。


(一か八か…………。)


サラ・イースターは両腕を天に伸ばし、自然界に存在するエレメンタルへと意識を集中する。


ゴゴゴゴォ………………。




ざわざわ


「!」


(…………何だ?)


周りに茂る木々が、ざわざわと揺れ動く。これは大気が震える時に起きる現象だ。グラウドマンは、嫌な予感に思わず声を張り上げた。


「急げ!早く奴を殺せ!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴォ!!


これは、魔力だ。しかも尋常ではないエレメンタルが一箇所に集中している。魔導士ではないグラウドマンでさえ、ハッキリと認識出来るほどの膨大なエレメンタルが、サラ・イースターへと集まっている。


パラスアテネの四天王の1人

天才魔導士サラ・イースター


(冗談では無い………………。)


噂には聞いていたが、噂以上の化け物だ。奴を生かしておけば、間違いなくマゼラン帝国にとって脅威の存在になるだろう。


ザッ!


ザザッ!


「捉えた!」「死ねぇ!!」


数十人の帝国騎士が、一斉にサラに襲い掛かった。防御魔法を展開するだけの余裕は無い。サラは残された全ての魔力を攻撃魔法へと集中する。


「トルネード・スプラッシュ!!」


ブワッ!!


ギュルルルルルルル!!!


「!」「!」「!」「!」


サラを中心点に巨大な竜巻が発生し、その渦が急速に膨れ上がった。


「ぐわっ!」「ぐぉおぉぉ!!」


ズバッ!シュバババッ!!


切れ味鋭い風の刃が、次々と帝国騎士の身体を切り刻み、サラの近くにいた騎士ほど身体が細切れに斬り裂かれて行く。


「!」「!」


「カマイタチの竜巻か!!離れろ!!切り刻まれるぞ!!」


ズバッ!シュバッ!ザクザクザザッ!!


「ぐわっ!」「ぎゃあぁぁ!!」


シュバババババッ!!


「馬鹿な……………。」


一斉攻撃が裏目に出た。グラウドマンの号令により、全員で襲い掛かったが為に、カマイタチの竜巻から逃れる事は出来ない。


「くそぉ!うぉりゃ!!」


ブワッ!!


迫るカマイタチを無理やり騎士剣の風圧で抑えつけようとしたグラウドマンであったが、それでも完全に防ぐことは出来ず、風の刃が容赦なく斬り掛かった。


ズバッ!シュバババッ!


「ぐっ!ぐおぉぉ!!」


ブシャッ!


強固な鎧も役には立たないほどの切れ味。サラから最も遠い位置にいたグラウドマンでさえ、この有り様なのだから、近くにいた騎士達は見る影も無い。


ボタボタと、グラウドマンの全身から血が滴り落ちた。


「痛っ!」


気付けば左腕の肘から先が無くなっている。それでも、グラウドマンは幸運であったに違いない。目の前に広がる仲間達の遺体は原型を残さないほどに切り刻まれているのだから。


「全………滅…………?」


マゼラン帝国第三騎士団の精鋭達が、たった1人の魔導士によって壊滅したと言うのか。


しばらく呆然と立ち尽くしたグラウドマンであったが、竜巻の中心点にいた蒼い髪色の魔導士が倒れているのが見えた。


「サラ………、イースター…………。」


(魔力が尽きたか……………。)



【天才魔導士③】


ふと視界が明るくなった。


サラの防御魔法により、魔法防壁に閉じ込められていたマリー・ステイシアはぐるりと辺りを見回した。


「魔法が………解けた?」


マリーは『悪魔禁書』を片手に走り出す。目的はサラを探すことだ。


「イースさん!イース!!」


魔法が解けたと言うことは、戦闘が終わったのか、或いはサラの身に何かがあったのか。いずれにしても悪い予感しかしない。


しばらく走ると、マリーは辺りに転がる無数の肉片を目の当たりにした。


「うっ……………。」


それは、マゼラン帝国の騎士達の遺体である。胴体が斬り裂かれ、手足が飛び散り、ある者は首だけになっている。目を覆いたくなるような光景をマリーは確かに目撃した。


(これが………本物の戦闘……………。)


イースは無事なのか。


これほどの騎士を相手に、たった1人でイースは……。


(!)


「イース!!」


蒼色の髪の青年を見つけたマリーは、思わず声をあげた。


(倒れている。まさか…………。)


遠目では分からないが動く様子は見られない。急いでイースの下へ駆け寄ったマリーは、イースの心臓に耳をあてた。


ドクン


ドクン


(…………生きてる。)


思わずマリーの瞳から涙が零れ落ちた。おそらく魔力を使い果たし気絶したのだろう。


「良かった………。でも、どうしよう。」


非力なマリーではイースを運ぶことは出来ない。かと言って、この状況を帝国騎士に見つかればイースは確実に捕まる………、いや、殺される。


そして………。


マリーは、1人の騎士を見つけた。マゼラン帝国第三騎士団、団長グラウドマンだ。片腕を失った騎士が、ゆっくりと近付いて来るのが見えた。


「パラスアテネの魔導士か………。恐ろしい男だ。」


騎士はそう粒やいた。


「敵ながら見事と言う他は無い。魔導士がこれほど強いとは、正直、驚いている。」


ゆっくりと、そして確実に距離を詰める騎士。


シャキィーン!


「!」


そして、その騎士は騎士剣を前方に突き出した。


「だからこそ、確実に殺さねばならぬ。この男はマゼラン帝国にとって脅威となる。」


「止めて!!」


マリーは、両手を広げてイースを庇うように立ち上がった。


「イースは私を助けただけなの!私達を追って来たのも貴方達です!イースは悪くない!」


「………………少女よ。その男を庇うならお前から斬る。」


「!」


ドクン


ドクン


「…………いいわ。」


「なに………?」


「斬れるなら私から斬って下さい。」


「………………。」


(馬鹿が……………。)


「どけっ!」


「きゃっ!」 


満身創痍のグラウドマンであるが、幼い少女を払い除けるくらいは訳がない。


シャキィーン!


騎士団の仲間は失ったが、この男を殺れるなら悪くはない。ようやく大陸を統一し平和が訪れたのだ。反乱の芽は摘んでおく必要がある。気絶しているサラ・イースターの首を刎ねれば全ては終わる。


ドクン


ドクン


(なんだ……………?)


ドクン


ドクン


グラウドマンの額から大粒の汗が滴り落ちた。


ゾワッ!


(この気配は………………。)


何かがおかしい。敵であるサラは気絶しているはずなのに、異様なまでの強大な魔力が膨らんで行く。そして、グラウドマンはゆっくりと少女の方へと振り返った。


ブシャ!!



「……………が?」


バタリ!





マゼラン帝国第一魔導士団の魔導士イスターシャは、グラウドマンの気配が消滅したのを感じ取る。


「どうした?イスターシャ。」


フリューゲルが尋ねると、イスターシャは静かに首を横に振った。


「まさか………、第三騎士団が全滅したと言うのか?グラウドマン団長も………。」


コクリ


「………馬鹿な。相手は1人だぞ?」


「フリューゲル副団長、戻りましょう。これは帝国にとっての一大事。私達も本気で取り掛かる必要があります。」


パラスアテネ神聖国は、まだ滅びていない。神聖国の主力の魔導士は未だに健在。それを帝都にいる皇帝陛下に知らせなければならない。


「しかし、奴を取り逃がせば、隠れ家が………。」


「サラ・イースターの魔力は覚えました。私ならサラがどこに隠れても見つける事が出来ますわ。」


「……………。」


魔導士と言う人種は、これだから気味が悪い。フリューゲルは内心でそう思ったが口には出さなかった。


「わかった。帝都へ戻ろう。」



後に『アルンヘイル事件』として歴史に刻まれる、サラとマゼラン帝国第三騎士団との戦闘は、サラ・イースターの完全勝利で幕を閉じた。しかし、その影で悪魔の存在があった事は記録には残されていない。