MARIONETTE- Еmma

【ベルギー戦線①】

『マジシャンズ・ナイフ!』

シュバババババババッ!!

それは有り得ない光景であった。光学短剣(ナイフ)を投げて戦うなら分からなくも無いが、十数本からなる無数の光学短剣(ナイフ)を空中に浮かせて、一斉に撃ち込む事など不可能だ。

シュン!

ガキィーン!

バッ!

『くっ!』『うぉ!』

ビビッ!

『損傷率38%』『損傷率22%』

一撃の威力は高くは無いが、防戦一方では、いつかは殺られる。

『カラクリがあるはずです!』

そう叫んだのは高岡 咲(たかおか さき)だ。光学短剣(ナイフ)を操っている何か。おそらくピアノ線のような細長い糸で操っている。

『飛べ!空を斬れ!』

北条 帝(ほうじょう みかど)の号令で、8人の兵士達が一斉にジャンプする。

シュバッ!バッ!ババッ!

キラン!

(見えた!)

『とりゃあ!』『はっ!』『うぉぉ!!』 

スパ!スパ!スパッ!!

ボトボトボトボトッ!

すると、空中の剣が音を立てて地面へ落下する。

『くそっ!こんな子供騙しに!』

『あの男だ!俺が奴を殺る!他のメンバーは統括隊長達の援護を頼む!』

『ラジャ!』『ラジャ!』『ラジャ!』

グン!

『うおぉぉぉぉ!!』

雷神トールを彷彿させる北条 帝の派手なマリオネットが、レッドマジシャンを目掛けて突進する。

『ほぉ、なかなかの気迫。怖いなぁ。』

しかし、レッドマジシャンは慌てない。

『マジシャンズ・ナイフ・リターン!』

ふっ!

シュバババババッ!

『!』『!』

『みかど!後ろよ!!』

打ち落としたはずの光学短剣(ナイフ)が、再び空中へと浮かび上がり、北条目掛けて放たれた。

『な!馬鹿な!』

『帝様!ごめんなさい!』

ドガッ!

『うぉ!?』

唯一、光学短剣(ナイフ)に反応していた羽生 明日香(はにゅう あすか)が、帝を突き飛ばし敵の攻撃をま逃れる。危機一髪での回避は明日香のファインプレーだ。

『明日香………、助かった。』

『いえ!それより今の攻撃…………。』

攻撃短剣(ナイフ)を操っていたはずの糸は断ち切ったはずなのに、どうやって動かしたのか。

その様子を見ていたマジシャンも、少しばかり驚いた。

(彼女が『ダビデ王』、噂の信ぴょう性はともかく、スピードだけは超一流、侮れませんね。)

ズサッ!

『レッドマジシャン、私も行こう。』

『レッドマスター?』

『何人か強い機動兵士がいる。我々も本気で行かねばならん。』

『………そうですね。頼みます。』

普段は戦闘に参加しないレッドマスターが、自ら参戦を申し出るのは珍しい。

ガシュ!ガシィーン!

レッドマスターは、右腕に装着されている光学銃(ガン)の安全装置を外し、防衛軍の兵士に標準を合わせた。

ビッ!

ビビッ!

バキューン!!

『!』

ズバッ!

『ぐぉ!』

『損傷率53%』

この攻撃に防衛軍の兵士達は驚きの表情を見せる。

『マサル隊員!』『光学銃(ガン)!?』

バキューン!!

『!』『マサル!避けろ!!』

ズバッ!!

『ぐわっ!!』

『損傷率!リミットオーバー!』

バチバチバチバチバチ!

ドッガーン!!

『マサルが殺られた!』

『新庄!マサルを連れて脱出してくれ!』 

『ラジャ!』

す─────

『!』『!』『!』

『マジシャンズ・ナイフ!』  

シュバババババ!!

グサグサグサグサ!!

「ぐほっ!」 

『マサル!』『マサル隊員!』『!』 

シンクロが解除された状態で無数の短剣が突き刺されば助からない。

ザッ!

『明日香!』

直後に羽生 明日香は、マジシャン達の元へと走り出す。狙いは光学銃(ガン)を撃った中年の男だ。

機動兵士の戦闘に於いて光学銃(ガン)を使う兵士は珍しく、実戦では殆ど見掛けない。理由は簡単で、現代の科学技術では連射が効かない事にある。最大で二射連続攻撃が限界であり、その後は1分程度の充電時間を要する。しかも相手が高速で動き回る機動兵士となれば、光学銃(ガン)を命中させる事すら難しく、充電時間中に攻撃されるリスクが大きい。

つまりレッドマスターが、光学銃(ガン)の充電をしている今がチャンス!

『まぁ、当然にそう来るな。』 

ビュン!

コードネーム『レッドアロー』

ガキィーン!

『ダビデ王、相手にとって不足は無い。』

『!』

『アロー・ブラスト!』

ズバッ!

ビビッ!

『損傷率18%』

(しまった!)

『アンタも相当に速いみたいだが、スピードなら負けねぇ。いざ!勝負!!』 

ガキィーン!

ビリビリ!




大和 幸一 VS レッドスモーク

ガキィーン!

(くそっ!まだか!)

防衛軍特別歩兵部隊第五統括隊長である、大和 幸一(やまと こういち)は、ひたすら光学剣(ソード)を振り続ける。敵対する『レッドスモーク』の実力は相当に高く、光学盾(シールド)を掻い潜り損傷を与える事は不可能に近い。ならば、光学盾(シールド)の耐久値を削り取るまで。

『うぉりゃあぁぁぁ!!』 

ガキィーン!

ビュン!

『くっ!』

ガキィーン!

(こいつ……防御型のくせに、なぜ速く動ける!)

国内の模擬戦では、幸一に勝てる機動兵士は数えるほどしかいない。ゆえに慢心していたのか、それともロシア軍の機動兵士の実力が高いのか。

(損傷率67%…………。もう後が無い。)

『どうした?動きが鈍いぞ。』

レッドスモークの巨漢が更に大きく見える。

──────これが、本物の戦場

模擬戦とは違い、負ければ死ぬのは確実である。統括隊長などと言われて浮かれていたのか。相手との実力差を実感するにつれ、恐怖で動きが鈍くなるのが分かる。

ビュン!

レッドスモークの光学剣(ソード)が、幸一へと降り掛かる。

『!』

ガキィーン!

その攻撃を、何とか防いだ幸一であったが、レッドスモークは反対の手に持つ光学盾(シールド)で幸一を殴り付けた。

ドガッ!

『ぐほっ!』

吹き飛ばされながらも、幸一は自分の耐久値を確認する。

(損傷率に変化は無い!盾ではダメージを受けない!) 

ブォ!

しかし、問題は次の攻撃だ。態勢を崩された幸一では、レッドスモークの攻撃をかわせない。と、その時、幸一の目の前に飛び込んで来たのは、見慣れた黄色い装甲の機動兵士である。

『オーディンス・ランス!!』

ガキィーン!!

『みかど!』

『何をやってる!早く立て!!』

『助かった!』

ザザッ!

悔しいが、今の幸一ではレッドスモークには勝てない。しかし、2人なら話は別だ。高校時代から共に戦って来た北条 帝(ほうじょう みかど)の動きは完璧に把握している。

『さっさと、こいつを倒して他の仲間の支援に向かう。行くぞ!』

『わかってら!』

ザッ!ザザッ!

レッドスモークの特徴は、巨大な光学盾(シールド)で、相手の攻撃を防御しつつ、隙を見て攻撃に転じるカウンター戦術である。巨漢に似合わないスピードに苦戦を強いられた幸一であるが、神坂隊長や七瀬隊長と比べれば動きは遅い。おそらく、左右からの同時攻撃には対応出来ない。

右から北条 帝、左から大和 幸一、大和学園最強世代と言われた2人の同時攻撃を、凌げるものなら凌いで見ろ!

『ふん…………。』

しかし、レッドスモークには慌てる様子は見られない。1人を光学盾(シールド)で防ぎ、1人を光学剣(ソード)で叩き斬る。

ビビッ!

『シンクロレベルβ(ベータ)』

ビュン!

『!』『!』

レッドスモークの動きが加速する。

パワータイプの巨漢に加え、防御型のマリオネットを装着しているレッドスモークが、大和と北条の動きよりも速く動ける理由。

ガシッ!

光学盾(シールド)が大和の光学剣(ソード)を弾き返し、次の瞬間には北条の光学槍(ランス)にも対応する瞬発力。

ズバッ!

『ぐっ!』

『損傷率28%』

(こいつ!)




羽生 明日香 VS レッドアロー

シャキーン!

ビュン!

ガキガキガキィーン!

(なに、この人!?)

ロシアの兵士にしては、小柄な体格で明らかにスピード型のレッドアローであるが、それにしても速すぎる。

(明日香!右!)

ガキィーン!

(後ろへ飛んで!)

ブワッ!

ブルン!

『!』

ズサッ!

『ほぉ、よくかわしたな。』

『ふぅ…………。』

エマの指示が無ければ何回、斬られていたか。このレベルの戦闘は明日香には経験が無い。

(なんなの、この人……………。)

(明日香………。ここからは私が表に出ます。)

(エマ………………。)

(おそらく、彼等は普通では有りません。)

(普通ではない?どういう事?)

(まともに戦闘しても勝てないわ。)

ゴクリ

『ん?どうした?足が竦んで動けないか?』

ズサ

『ならば、そろそろ決着を付けるか。』

ビビッ!

『シンクロレベルβ(ベータ)』

ビュン!

レッドアローのスピードは明らかに、異常な速度である。この動きに慣れない機動兵士であれば、一瞬で殺られてもおかしくない。

ガキィーン!

『お!』

ズバッ!

『損傷率17%』

『おぉ!?』

エマ・スタングレーは、アローの高速の剣を見極め、逆にカウンターの一撃を打ち込む事に成功する。

『……………ダビデ王か。やはり油断ならん。』

『あなた………、その装甲。』

『…………………。』

『強制シンクロ装置を内蔵していますね。』


────強制シンクロ装置────


『…………なぜ、わかる。』

未来の世界で『パラサイト』を生み出した悪魔の兵器。

『今すぐ、強制シンクロを解除しなさい。』

『なんだと?』

『その装置は、人間の脳への負担が大きい。そして、下手をしたら取り込まれます。』

『取り込まれる?』

この時代の科学者が『強制シンクロ』装置を開発しても、何らおかしな事ではない。日本国防衛軍に於いてもアスカが使っていたマリオネットは『強制シンクロ』装置を内蔵したものだった。

『手遅れになる前に、シンクロを解除するのです。』

『……………お前は、馬鹿か?敵を目の前にして、シンクロを解除する機動兵士がどこにいる。』

ビュン!

ガキィーン!

バッ!

シュバババ!

ガキガキガキィーン!!

機動兵士の戦闘力は、装着した人間が持つ運動神経等の才能に大きく左右される。そして、もう一つ重要なのは『シンクロ率』だ。シンクロ率が高いほど、本来の才能が引き出される。

シュバ!

ガキィーン!

(こいつ…………、俺の動きに付いて来やがる。)

優秀な機動兵士は、総じてシンクロ率が高く、シンクロ率が100%に達する兵士も存在する。

問題は、その先………。

強制的にシンクロ率を100%以上に引き上げる事により、本来の実力以上の能力を引き出す装置。それが『強制シンクロ』装置である。普段、強制シンクロ装置を装着した機動兵士との戦闘に慣れていない兵士は、その動きに驚き圧倒される。現在、防衛軍の兵士達が苦戦を強いられているのは、そう言う理由だろう。

シュバ!

ガキィーン!

ズバッ!

『!』

ビビッ!

『損傷率22%』

『てめぇ………………。』

しかし、エマ・スタングレーは違う。

未来の世界で戦って来た敵は、強制シンクロ装置を身に着けた非連合国軍と『パラサイト』。この手の敵との戦闘は日常茶飯事である。

(人類を超越したスピードの、更に先を予想する!)




【ベルギー戦線②】

『マジシャンズ・ナイフ!』

シュバババババッ!

空中に浮かんだ無数の光学短剣(ナイフ)が、防衛軍の兵士達に襲い掛かる。カラクリは、肉眼では認識出来ないほどの細い糸のようなもの。

バシュッ!

ズバッ!

しかし、叩き斬ったはずの糸が、再び繋がり光学短剣(ナイフ)を浮遊させる。

(まったく理解が追い付かない…………。)

新庄 厚(しんじょう あつし)

防衛軍に入隊して2年目の若い兵士である。同僚のマサルが目の前で殺されても新庄には、どうする事も出来ない。

『損傷率65%』

このまま、訳も分からないうちに殺されるのかと思う。

(戦場を舐めていた…………。)

2人の統括隊長がいれば、負ける事は無いとタカを括っていた。しかし、第四統括隊長の七瀬 怜(ななせ れい)は、ロシア軍の女性兵士への対応で手一杯で、他の仲間を助ける余裕は無い。第五統括隊長の大和 幸一(やまと こういち)は、北条 帝(ほうじょう みかど)と共に2人掛かりで戦闘を継続しているが、やはり苦戦を強いられている。

『なんなんだよ、これ!こんなの勝てる訳が無い!』

『新庄君!?』

新庄の元に駆け付けたのは、同期の高岡 咲(たかおか さき)隊員だ。

『どうしたの!』 

『俺には、俺達には無理だ!逃げよう!』

『なにを…………。』

新庄の顔を覗き見ると、怯えた様子が見て取れた。

(新庄君……………。)

高岡 咲は、サウジアラビアの地でロシア軍との戦闘を経験している。ロシアの機動兵士の強さは最初から分っていた。しかし、多くの防衛軍の兵士達は実際の戦争を経験した事が無い。特に入隊間もない若い兵士は横浜紛争の経験も無い。

シュバババババ!

『!』

バシュッ!

ガキィーン!

ガキィーン!

バキューン!!バキューン!!

『ぐわっ!』

『新庄君!』

『損傷率92%』

これだ…………。この光学銃(ガン)の攻撃が極めて厄介である。『レッドマジシャン』を名乗る男の光学短剣(ナイフ)での攻撃は、不可解ではあるが、さばく事が出来る。仮に当たっても威力は低い。しかし、もう1人の敵の光学銃(ガン)での攻撃は威力が高い上に避けるのが難しい。

『新庄君、私が特攻を仕掛けます!その間に逃げて!』

『高岡…………。』

『その耐久値では戦えないわ!早く!』

『…………すまない!』

バッ!

幸いな事に、機動力のある2人の敵は、怜と明日香が対応している。巨漢の敵も、大和と北条が相手では新庄を追う事は出来ないだろう。残るは遠距離攻撃を仕掛けて来る2人のみ。

『レッドマジシャン』『レッドマスター』

ザッ!

北条や明日香の狙いは間違っていない。接近戦に持ち込めば十分に勝算がある。

グン!

咲のスピードが加速する。怜や明日香の陰に隠れがちではあるが、高岡 咲のスピードは防衛軍の中でも上位に位置する。

ビビッ!

『咲!』

聞こえて来たのは、怜の声だ。

『任せて!私が敵のリーダーを討つ!』

『1人では無茶よ!他の仲間達は!?』

ビビッ!

モニターに映るのは、戦場から離れる3人の兵士達。新庄が逃げるのを見て、他の2人も逃げ出したらしい。

『そんな…………。』

『大丈夫よ!怜!』

光学銃(ガン)のインターバルは、まだ1分はある。その間に『レッドマジシャン』を仕留めれば勝算はある。

ビビッ!

距離100m!

『ほぉ…………。』

(接近戦なら私に勝てるとでも思ったのか。)

『舐められたものです。』

ブワッ!

『マジシャンズ・ソード!!』

『!』

現れたのは、空中に浮かぶ3本の光学剣(ソード)。

七瀬 怜(ななせ れい)には、その瞬間がスローモーションのように見えた。

『咲!!』

ザクザクザクッ!!

『くはっ!』

光学短剣(ナイフ)と違い、光学剣(ソード)の威力は絶大であり、高岡 咲(たかおか さき)のマリオネットの装甲の耐久値を削り取るには十分な威力であった。

バチバチバチバチバチ!

『咲!!』


『ごめん………、怜。』


ドッガーン!!

ズバッ!


「武蔵学園1年A組 高岡 咲、よろしくね。」

「怜すごい!AI26機撃破って、歴代最高記録じゃない!」 

「私も頑張る!頑張って代表に選ばれるわ。」

「学年ランキングトップ10に入ったよ!」

「少しでも怜の足を引っ張らないようにね。」





(………………咲?)







ビビッ!

『咲が殺られた!』

『え…………。』

『このままでは全滅するぞ!!』

ドクン

ドクン

『七瀬隊長!聞こえていますか!応答して下さい!』 

ドクン

ドクン

逃げる防衛軍の兵士は3人。残された兵士は、七瀬、大和、北条、そして羽生 明日香の4人。

『オーシャン、スモーク、マスター、アロー、私は逃げた3人を仕留めます。あとは任せましたよ。』

ザッ!

『シンクロレベルβ(ベータ)』

『私から逃げられると思ったら大間違いです。』 



首都ブリュッセルから7000m地点

新庄 厚(しんじょう あつし)隊員を含む3人は、ベルリンへと向かっていた。

『はぁ、はぁ、ここまで来れば大丈夫だろう。』

『おい新庄、逃げて来たけど大丈夫なのか?』

統括隊長の命令も無しに、撤退すれば明らかな規律違反である。

『いや、耐久値が保たない。これは補給の為の撤退であり逃亡には該当しない。』

『………………。』

『それに、相手が強すぎるって。ベルリンで装甲を修理したら、俺は日本へ帰る。』

『なに?』

『待てよ。日本も中国が侵略して来たって話だ。向こうはどうなってるのか。』

『わからん、情報不足だ。しかし、中国が機動兵器『マリオネット』を開発していたとしても、大した事は無いだろう。伊集院統括隊長や夢統括隊長が負けるとは思えない。』

『あぁ…………。確かにそうだな。』

『それより、無事にベルリンへ帰れるかどうか。ベルリンはロシア軍に包囲されているからな。このまま日本へ戻った方が良いんじゃないか?』

ビビッ!

『!』『!』『!』

その時、新庄達の面前にあるモニターに機動兵士の反応が表示された。




【ベルギー戦線③】

(さき…………。咲…………………。咲が死んだ?)

ドクン

ドクン

ここは、本物の戦場──────

日本から派遣された10名の機動兵士のうち、既に3人が殺された。

(これは、………統括隊長である私の責任。)

高岡 咲(たかおか さき)を殺した『レッドマジシャン』は、逃げた防衛軍の兵士を追って居なくなった。

ガキィーン!

『七瀬統括隊長!何をしている!』

レッドオーシャンの攻撃を受けたのは、怜ではなく大和 幸一である。レッドスモークには北条 帝、レッドアローには羽生 明日香が対峙、そして、レッドマスターの光学銃(ガン)が、七瀬 怜を目掛けて放たれた。

バキューン!

ズキューン!

バシュッバシュッ!!

ビビッ!

『損傷率74%』

『統括隊長!』『七瀬!』『!』

それは直撃だった。避ける素振りも見せない怜の手を幸一は引き寄せる。

『七瀬!何をしている!戦闘は終わっていない!』

幸一の損傷率は既に限界に近く、これ以上は怜を庇いきれない。北条 帝もレッドスモークを相手に苦戦を強いられている。敵の機動兵士と互角に渡り合えていたのは、七瀬 怜と羽生 明日香の2人だけであったが、怜がこんな状態では勝ち目が無い。

『帝!明日香!撤退する!』

『!』『!』

『七瀬!来い!』

バッ!

ザッ!ザザッ!

幸一は怜を無理やり抱きかかえて走り出し、帝と明日香がそれに続く。

七瀬 怜 損傷率74%
大和 幸一 損傷率67%
北条 帝 損傷率49%

羽生 明日香は仲間達の装甲の耐久値を確認すると、エマに呼び掛けた。

(エマ…………。)

(わかっています。任せて!)

ロシア軍の兵士達が、このまま見逃すはずが無い。スピードに優れる兵士は、レッドオーシャンとレッドアローの2人のみ。

ビビッ!

モニターには既に先回りした2人の反応が表示。

(右にオーシャン、左にアロー…………。)

『大和統括隊長!右へ進んで!』

『分かった!』

レッドオーシャンは瞬発力に優れる兵士であるが、スピードはアローに劣る。オーシャンの方が突破しやすい。

ビビッ!

ロシア軍の残りの2人の兵士である、レッドスモークとレッドマスターは動く様子が見られない。

(行ける!)

バッ!

レッドオーシャンは、エマのスピードに慣れていない。

『音速剣(ソニック・スラスト)!!』

『!』

ガキィーン!!

レッドオーシャンは、一撃目の攻撃を見事に防いだが、エマの攻撃は続く。

グン!

ズバッ!

『ぐっ!』 

『損傷率36%』

『はぁあぁぁぁ!!音速剣(ソニック・スラスト)連撃!!!』

バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!

『な!?ちょっと何よ!!』

ガキガキ!ズバッ!

ビビッ!

『損傷率53%』 

『くっ!』

ザザッ!

思わず、エマとの距離を取るレッドオーシャン。

『オーシャン邪魔だ!ダビデ王は俺が殺る!』

『!』

(レッドアロー!)

ガキィーン!!

ビリビリ

『逃さねえぞ!ダビデ王!』

ザザッ!

さすがは、ロシア軍の兵士。簡単には倒せないし、すぐに、追いつかれる。しかし、ここまでは想定内。エマは面前のモニターで仲間の位置情報を確認する。大和達の反応は遠ざかり、このまま行けば逃げ切れる。

(良かった………。)

『追いてめぇ!何だその表情は。』

『……………?』

『俺とオーシャンから逃げられると思っているのか。』

(2対1…………。)

確かに不味い状況ではある。レッドアローだけでも、簡単には倒せない相手なのに、レッドオーシャンまで加わると厳しいのは確かだ。

しかし

『強制シンクロ………。あと何分保つのですか?』

『!?』『!?』

『確かにアナタ達は強い。しかし、それは『強制シンクロ』装置によって引き出された強さ。時間が過ぎれば戦闘力はダウンします。』

『…………何が言いたい。』

『私がその時間を凌ぐ事が出来れば、アナタ達2人の負けは確実です。それでも戦闘を継続しますか?』

(こいつ……………。この状況で脅して来やがる。)


サウジアラビアにある米軍基地『グリーン・モンスター』襲撃作戦で、ロシア軍の包囲網を唯ひとり潜り抜けた機動兵士。更に『クレムリン親衛隊』の『レッドパンサー』の追撃すらも逃れている。


──────ダビデ王の亡霊



ビビッ!

『アロー…………。『強制シンクロ』の事をバラしたのですか?』

『……………。』

『まぁ、良いでしょう。ダビデ王、アナタは私達の予想以上に強い。先程の攻撃には驚きました。』

『………それは、どうも。』

『そして、七瀬 怜、彼女の強さにも驚きました。シンクロレベルβの私と互角に渡り合える機動兵士など、ロシア軍の中にも殆ど存在しない。』

(シンクロレベルβ………。)

『良いでしょう。私達の目的はNATO本部の占拠です。他の目的地はロシア軍が占拠に成功した様子。私達が遅れを取るのは癪に障る。』

『残る西側の拠点はベルリンしか無い。そこで待っていろ。』

『私達『マジシャン部隊』と再戦する前に、他の部隊に殺されない事ね。』

『………………では、私は行きます。』

ザザ

(助かった………。七瀬統括隊長があの状態では、防衛軍は全滅する可能性もあった。) 

それほど、『マジシャン部隊』は強い。





『マジシャンズ・ソード!!』

グサッ!グサッ!グサッ!

バチバチバチバチバチ!

ドッガーン!ドッガーン!ドッガーン!

「くそっ!化物め!!」 

『化物?』

「光学剣を手も使わずに操るなど出来る訳が無い!」

『それが、マジックです。私はマジシャンですから。』

グサッ!

新庄隊員ほか2名 戦死

これにより、日本から派遣された防衛軍10名の隊員のうち6人が戦死した。



ザッ

ザッ

ビビッ!

『レッドマジシャン。』

マイクロエコーから聞こえて来たのは、ロシア軍『クレムリン親衛隊』の総帥、シーザー・クレシェフの声だ。

『主戦場であるベルリンから離れてベルギーまで来るとは……、それほど気になりますか。』


─────エマ・スタングレー



『まさか、本当に未来から来たなんて事は言わないでしょうね。総帥。』

『お前には関係の無い話だ。』

『…………ふむ。』

ビビッ!

『マジシャン隊長、、』

『どうしたのです?オーシャン。』

『『ダビデ王』を取り逃がしました。』

『……………ほぉ。君達4人がいて逃げられるとは、『ダビデ王』は本物のようですな。』

ビビッ!

『そう言う事です、総帥。良かったですね。』

『……………マジシャン。』

『…………何か?』

『アンドロメダは死んだ。もはやアンドロメダ派は少数派だ。』

『わかっておりますよ。総帥。』

『余計な事は考えるな。いくらお前達が強くても『クレムリン親衛隊』には勝てない。』

『なるほど、『デストロイ部隊』を壊滅させたように、我々を潰すのは簡単であると。』

『………………ふん。好きにしろ。それよりNATO本部へ向かう。』

『NATO本部?』

『当然だろう。ベルギーまで来たのはその為だ。』




西暦2060年5月7日に始まった、西側連合国軍とロシア連邦との戦闘は、ロシア軍が圧倒的に優位のまま初日が終わった。

ヨーロッパ大陸にある連合国の軍事基地、空港から工場までの殆どを制圧したロシア軍は、残された拠点であるベルリンへと集結した。一方の連合国軍の機動兵士達も最後の防衛拠点であるベルリンへと集結し、明日以降の戦闘に備えていた。

「ポルフス殿の容態は戻らないのか。」 

「はい、意識不明のまま昏睡状態です。」

「そうか……………。」  

各地から逃げ延びた機動兵士と合わせて、ベルリンには200名を越える機動兵士がいる。一方、ロシア軍の機動兵士の数は推定で500人程度。戦前では、それほど差が無かった機動兵士の人数が1日で大きく開いた。

それほどの惨敗だった。

ポーランド国境戦線での戦闘は善戦した方であるが、他の地域での戦闘は一方的に負けたと言っても過言ではない。50名近い人数で、NATO本部を護っていた機動兵士部隊は全滅。フランス大統領府を護っていたフランス軍精鋭部隊も全滅。今日1日で独仏軍の機動兵士の半分以上が命を落とした。

フランス共和国副司令官
エドワード・ルイ四世

ポルフスが意識不明の中で、連合国軍の指揮はエドワードが行っている。

「エドワード副司令官!NATO本部からLIVE放送です!」

「NATO本部?」

「はい、ロシア軍の総帥であるシーザー・クレシェフが全世界に向けて演説をするとの事です。」

「演説だと?何をする気だ…………。」

西側連合国軍とロシア軍との全面戦争が始まったこの日、シーザー・クレシェフにより歴史的な演説が行われる事となる。