MARIONETTE- Еmma
【皇帝①】
サン・ルヴィエ・ポルフスが頭角を現したのは、今から10年以上も昔の話だ。
未来からの贈り物である機動兵器『マリオネット』と、その設計図を手に入れたロシア軍の兵士、アンドロメダとベガは、すぐに機動兵器の開発と生産に取り掛かった。対するアメリカ合衆国のシリウス・ベルガーは、兵器の設計図を同盟国と共有する。
中東ゴラン高原にて、ロシア軍が初めて機動兵器を実戦投入したのが西暦2047年 、フランス陸軍が『マリオネット』の開発を始めたのは西暦2047年であり、ゴラン高原での戦闘から間もなくであった。
フランス陸軍研究施設
「うむ。機動兵器の開発には成功した。」
アメリカ合衆国から送られて来た機動兵器の試作機と設計図があれば、開発には時間が掛からない。問題は兵士の質である。
「原理は不明だが、この兵器は装着した人間の能力に依存する。我々も優れた機動兵士の育成に取り掛かる必要があるな。」
フランス政府が出した答えは、フランス国内にいる成人男性に試験を受けさせる事であった。ほぼ強制的に行われた適正試験には1000万人もの一般人が参加したと言われている。これは、当時の西側諸国では最大規模の適正試験であった。
スピード S
パワー SS
反射速度 S
撃沈率 SS
回避率 S
損傷率 SS
シンクロ率 SS
総合評価 SS
適正試験、唯一のSS判定を受けた兵士の名は、サン・ルヴィエ・ポルフス、後に『フランスの皇帝』と呼ばれる20歳の青年兵士である。
ビュン!
バシュ!
バチバチバチバチバチ!
ドッガーン!ドッガーン!ドッガーン!
「おぉ!」
「3対1の模擬戦でも相手にならんか。」
フランス国内では敵なし。当時のヨーロッパでは機動兵士同士の国をまたがる対戦は禁止されていた為に、他の国との優劣はつけ難い。そこで、ポルフスはアメリカ遠征を決断する。
アメリカ合衆国は、ロシアを除けば、最初にマリオネットの開発に成功し、量産を始めたマリオネット大国である。アメリカ合衆国ではマリオネット同士の世界大会が開催されており、西暦2048年から始まったこの大会に参加して優勝する事がポルフスの目標となった。
3年後─────
シュン!
ズバッ!
ビビッ!
『損傷率88%』
『うぉおぉぉぉ!!』
フランスの三色旗を基調としたポルフスのマリオネットが、カリフォルニアの大地で躍動する。
バチバチバチバチバチ!
ドッガーン!
「ウィナー!ポルフス!!」
わっ!
アメリカで開催された機動兵士の国際大会は、第4回目にして初めて合衆国以外の兵士が優勝を果たした、しかし、ポルフスの表情は冴えない。
(シリウス・ベルガーが出場しない大会には、何の意味も無い………。)
それから、ポルフスの目標は妥当シリウスとなった。
更に年月が流れる。
西暦2060年5月7日
クンッ!
エレナと名乗った銀髪の少女は瞬時にポルフスとの間合いを詰めて攻撃に転じた。
(速い!)
しかし、その少女は武器を持っていない。素手でポルフスに歯向かうなど自殺行為だ。
シャキィーン!!
すかさずポルフスは光学剣(ソード)を少女に向かって突き出した。世界一の機動兵士の突きは的確に少女の身体の中心部を狙い打つ。
『相手が女子供だろうと容赦はしない!!』
バチッ!!
『!?』
その突きをエレナは素手で掴むとそのままポルフスの懐に入り込んだ。
ビカッ!!
(な…………!?)
エレナの右手が光り輝くと、目にも止まらぬ速さで手刀を繰り出して来る。
ズババババッ!!
『ぐほっ!』
その場にいた全ての機動兵士が、目を疑い、そして動く事が出来ない。シリウス亡きあと、西側諸国最強の機動兵士である、サン・ルヴィエ・ポルフスが、銀髪の幼い少女に一方的に殺られる姿を、誰が想像出来たであろうか。
しかも少女は武器を持っていない。何が起きているのかすら理解出来ない。
バッ!
唯一、その場を動けた機動兵士は、羽生 明日香(はにゅう あすか)ただ一人。明日香は知っている。サウジアラビアの地で戦ったエレナの事を。
エレナは、素手で機動兵士を倒す『化物』だ!
『はぁあぁ!』
『!?』
ガキィーン!!
エレナはポルフスへの攻撃を止めて、明日香の光学剣(ソード)を素手で受け止める。
『…………貴女は。あの時の…………。』
サウジアラビアでクレムリン親衛隊が追っていた日本人の機動兵士。明日香の乱入が無ければ、ポルフスはエレナに殺されていたであろう。
しかし、明日香が救えたのはポルフス一人のみ。
『ムーン・リバー!!』
その光学剣(ソード)は、敵の防御をすり抜ける。
ズバッ!
『ぐぉ!』
バチバチバチバチバチバチ!
ドッガーン!
イギリス連邦軍特殊部隊大佐、ジャガー・ブラウンが破られるのに1分も掛からない。ブラウンを倒したのは、通称『レッドボーイ』と呼ばれる、まだ幼さが抜けない若いロシア軍兵士だ。
シュバババ!
『うわっ!』
同じく、連合軍を指揮するドイツ連邦共和国参謀長官
ランバート・シュレーゲルは、新たにロシア陸軍の総司令官となった、テレイサの攻撃をかわす事すら出来ずに瞬殺される。
バチバチバチバチバチ!
ドッガーン!
『!』『!』
『テレイサ………。ポルフスを仕留め損ねた。』
『構わない!戻るわよ!エレナ!』
ババッ!
通称『レッドミラージュ』ことテレイサ、及び『レッドボーイ』ことパトリックは、二人の西側の兵士に留めを刺すと超スピードで走り出す。方角はポーランド国境沿いでロシア軍の機動兵士達と合流するつもりだろう。
『エレナ!何をしている!早く!』
ビュン!
ガキィーン!
ビリビリ
『ごめん、決着は次の機会に…………。』
『なにを!』
ビュン!
明日香の光学剣(ソード)をすり抜けて、エレナは一直線に加速する。ロシア軍の3人の兵士は何れも驚くような速さだ。
「羽生隊員助かった。」
ポルフスは一言だけ礼を言うとすぐさま他の兵士達へ命令を出す。
「逃がすな!奴らの逃げ道を塞げ!」
ゲルテン・デアヴェルト自然公園を包囲しているのは、100名を越える5カ国連合軍の機動兵士達だ。テレイサ達3人が逃げる方向にも連合国の兵士はいる。前方に立ち塞がる10名ほどの機動兵士達が、それぞれの武器を構える。
シャキーン!
それでもテレイサ達3人は加速を止めず、むしろスピードを上げた。
グン!
『!』『!』『!』『!』『!』
シュバババ!
コードネーム『レッドミラージュ』の幻影が西側諸国の機動兵士達を切り裂いて行く。
ビカッ!
コードネーム『レッドボーイ』の右眼は相手の行動を予測し、返り討ちにする。
ビュン!
全局面戦闘白兵戦特化型『マリオネチカ』通称『システマ』であるエレナは素手で敵兵を薙ぎ倒す。
レベルが違い過ぎる………………。
「これが、ロシアの機動兵士の実力か。」
ポルフスは、3人のロシア軍兵士が戦場を立ち去るのを呆然と眺めていた。
西暦2060年5月7日 13時00分
ベルリン 5カ国連合軍司令本部
「戦死したランバート参謀長官に代わり、以降は俺が指揮を取る。」
マイケル・ゲイリーはアメリカ合衆国の将軍であり、連合軍の中ではポルフスに次ぐ実力者である。
「現在、ポーランド国境を越えたロシア軍の機動兵士は200名以上、その後ろには大量の戦車部隊が続いている。」
ざわざわ!
「更に問題なのは、ヨーロッパ大陸にある連合国の軍事施設が一時間前に襲撃され現在交戦中だ。モニターを見れくれ。」
ブン
会議室の前に置かれた巨大モニターに映し出されたのは、ヨーロッパ大陸の戦況を一望出来る地図である。少し見ただけでも大陸中が戦場になっているが見て取れた。
ざわざわ………。
「狙われているのは空港と陸軍基地、そして機動兵器の修理工場がある施設。ドイツ、フランス、イギリスの3カ国を中心に37ヶ所の施設が同時に攻撃されている。」
「37ヶ所…………。馬鹿な!」
「俺達がベルリンに集結し、手薄になった所を狙われた。殆どの施設には機動兵士は僅かしか残っていない。陥落するのも時間の問題だろう。」
「待ってくれ!」
声を上げたのはアーノルド・ハシュラム、イギリス連邦共和国の若きエースである。
「目の前に200人を越えるロシア軍の機動兵士がいる。更に37ヶ所の施設を同時攻撃だと?いったいロシア軍の機動兵士は何人いるんだ!?」
ビビッ!
モニターに機動兵士の識別反応が表示される。
ざわ!
「現在確認されているロシア軍の機動兵士は887名だ。ほぼ全ての兵力をヨーロッパ戦線に投入していると考えて良いだろう。」
「全て………だと?そんな馬鹿な!」
「もう一つ情報がある。さっき入った情報によると。中華人民共和国が日本に宣戦を布告をした。」
「!」「!」「!」「!」「!」
「中国が?まさか………。」
現代の戦争の主力は機動兵士による戦闘である。機動兵士が生産出来ない中国が、日本と戦えるはずが無い。
「まさかと思うのは無理が無い。機動兵器『マリオネット』の開発に成功した国は、ロシア以外には連合国に属する5カ国しかない。」
「ゲイリー将軍。」
そこで、声を発したのは日本国防衛軍の七瀬統括隊長である。
「中国は既に機動兵器の開発に成功しているとの噂を耳にしました。」
「なんだと?」
「おそらく、今回のロシアと中国は裏で繋がっています。同日にユーラシア大陸の東西で戦争が始まりました。」
今回の戦争で、今後の世界の覇権が決まると言っても過言ではない。
ゲイリー将軍は的確な判断で状況を整理する。ベルリンに集結した連合国の機動兵士の数は約500名。ポーランド国境を越えて進軍して来るロシア軍の機動兵士は約200名。しかし、この200名は囮である。ロシアの狙いはヨーロッパ各地に点在している軍事施設の制圧。ベルリンに残す機動兵士は、ロシア軍と同数の200名と決めた。
数の上では互角であるが、ロシア軍の中には新たに最高司令官となったテレイサ・トルスタヤを始め、セルゲイ・パトリック、エレナがいる。先程の戦闘を見る限り、あの3人の強さは別格であり、一般の機動兵士では勝てない。
「おそらく、あの3人はロシア軍の中でも最高戦力、俺はあの3人を倒しに行く。」
ざわ!
ざわざわ……………。
「3人の機動兵士の位置情報は押さえてある。追跡するのは簡単だ。」
「ゲイリー将軍!無茶です!」
いくら米国の将軍とはいえ、一人で勝てる相手ではない。この場にいる兵士達の誰もが、あの3人の実力を分かっている。
「アメリカから参戦している兵士は25名だ。俺達が中央突破を試みる。残りの175名の指揮はポルフス殿に任せよう。」
「…………任せろ。」
「この戦場での最大の目標は、ロシア陸軍最高司令官のテレイサを殺す事だ。トップを殺せば戦況は優位となる。その役目は俺達に任せてくれ。」
その後に話し合われたのは、残り300名の配置となる。イギリス軍の150名は本国に戻りイギリス国内に侵入したロシア軍の排除にあたる。フランス軍の140名も主戦場は自国の領土内となる。最後に残された10名が日本国防衛軍から派遣された10名の日本人兵士だ。
ベルギーの首都ブリュッセル。それが防衛軍に与えられた戦場となった。
「NATO本部か…………。戦況はどんな状況だ?」
北条 帝(ほうじょう みかど)の質問に答えるのは大和 幸一(やまと こういち)である。
「ブリュッセルは、他の施設と比べて機動兵士の守りは硬い。現在50名の機動兵士が防衛にあたっている。対するロシア軍の兵士は確認されているだけで30名。」
「50対30………?俺達が行く必要があるのか?」
「万が一でもNATO本部が陥落すれば大変な事になる。最重要拠点であるのは間違い無い。それに英仏独の兵士達はベルギーよりも自国優先なのは仕方がない。ヨーロッパ外部から参戦している俺達が適任なんだろう。」
「話している時間は無いわ。行きましょう!」
防衛軍の機動兵士10名は急いでベルギーへと向かった。
【皇帝②】
「『マリオネット』、オン!」
ギュイーン!
フランス三色旗を彩った『マリオネット』は破壊され、修復には時間が掛かる。しかし、そんな時間は毛頭なかった。ポルフスはドイツ製の汎用型『マリオネット』に身を包み再び戦場へ向かう。
完敗だった────
ロシア軍の銀髪の少女に、手も足も出ずに一方的に攻撃されたポルフスは、相手の装甲に一つもダメージを与える事が出来なかった。
『ポルフス司令官、全体の指揮はお任せ下さい。』
『エドワード………?』
ポルフスとの付き合いが長いエドワード・ルイ四世は、率先して大役を引き受ける。
『アメリカの部隊は、そろそろ出陣です。早く行って下さい。』
先陣を切るアメリカの部隊と共に、敵の主力を倒しに行けと、そう述べる。負けっぱなしでは、ポルフスのプライドが許さない。
『勝てると思うか?』
『無論です。』
世界三大英傑の一人であるポルフスが負けるなら、連合軍に勝ち目は無い。
『貴方は、何がなんでも勝たねばなりません。シリウスに続き貴方まで負けたとあれば、ロシアの機動兵士には誰も勝てない。』
『うむ……そうだな。あとは任せたぞ、エドワード。』
それだけ言い残し、ポルフスはアメリカの部隊と合流した。
『行くぞ!俺達は中央突破をはかり敵の本陣を叩く!』
『ラジャ!』『ラジャ!』『ラジャ!』
アメリカ軍を指揮するのは、アメリカ合衆国を代表する機動兵士、マイケル・ゲイリー将軍である。5部隊25名にポルフスを含めて26名が真っ先に戦場を駆け抜ける。
ビビッ!
『前方距離3000m!』
『正面、敵の数は5。更に1時方向に5!』
『良し、クライハートの部隊は正面を!右の敵はイーグル隊に任せる!』
『ラジャ!』『ラジャ!』
シュバババ!
サウジアラビアの地で米軍は、ロシアの機動兵士に完敗した。しかし、それはロシア軍の新兵器である『超電磁砲(レールガン)』による所が大きい。正面からの真っ向勝負であれば、米軍は決して引けを取らないと、アメリカ合衆国の機動兵士達は考えている。
『ここは、クライハートとイーグルに任せて大丈夫だ。それより俺達の目的は先にある。』
ゲイリーは、テレイサの位置情報を確認する。
『ふん。最後方に引っ込みやがったか。だが甘い。』
グン!
ゲイリーの部隊は更にスピードを上げて加速する。
ビビッ!
『ゲイリー将軍!前方に敵の部隊が20!どうしますか!?』
『うむ。』
アメリカ軍の先陣部隊は残り15人とポルフスの16人。数の上では劣勢である。
ビビッ!
『プロトワン!蹴散らせ!』
『ラジャ…………。』
(プロトワン?)
ゲイリーに指示を受けた茶髪で細身の女性が前方に躍り出る。一瞬、垣間見えたプロトワンの顔は氷のように冷たい印象を受けた。
ビビッ!
『ゲイリー将軍、たった一人でロシアの軍隊に突入させるのか?敵は20人だぞ?』
『ポルフス殿、彼女はアメリカ軍の秘密兵器です。心配は無用。』
(秘密兵器?)
『モード『オン』……………。戦闘態勢に入ります。』
シュウ…………。
プロトワンの髪の色が美しい金髪へと変化して行く。
(これは………、いや、まさか。)
この現象には見覚えがある。数年前に日本の高校生の大会に現れた機動兵士と同じ現象。世界中が注目したその兵士の名は『Alice(アリス)』。10億人に1人のマリオネット適正を持つと言われるアリスは、もはや伝説だ。
『これが合衆国の技術と実力。プロトワン!手加減は不要だ!全滅させろ!』
ビュビュン!
プロトワンから放たれたのは、光学剣(ソード)でも光学槍(ランス)でもなく、するりと長い光学鞭(ウィップ)と呼ばれる武器だ。光学鞭(ウィップ)のリーチは光学槍(ランス)よりも長く、ロシア軍の兵士よりも先に相手を射程に収める事が出来る。
ビュビュン!
バシッ!
『ぐっ!』
バシュッ!
『ぐわっ!』
見慣れない武器に戸惑うロシア兵達を尻目に、プロトワンは次々と攻撃を繰り出した。
シュバババババッ!!
『なんだこれは!』
『ぐわぁ!』
バチバチバチバチバチ!
ドッガーン!
(強い……………!)
『ポルフス殿!ここはプロトワン1人で十分!一気に駆け抜けますぞ!』
ババッ!!
敵の本体へ斬り込む任務は、もっとも危険な任務である。それをゲイリーが引き受けたのは、決して名声を上げたいからでも、個人的な事情でもなく、勝算があっての事だ。ロシア軍の兵士が200名いたとしても、彼等は同じ地点に固まっている訳ではない。テレイサに辿り着くまでに20〜30名の機動兵士さえ突破出来れば実現可能な作戦だ。そして、アメリカ軍には、その実力がある。
ビビッ!
『前方距離2000m!捉えたぞ!』
戦闘開始から僅か10分。障害となる敵兵はモニターには映っていない。西側連合軍の兵士達も既に戦闘に突入している時間であり、ロシア軍にも兵力に余力がある訳がではない。
『敵の数は5人!うち3人はテレイサ、パトリック、エレナで間違い有りません!』
アメリカ軍兵士の1人が、敵の識別反応と情報システムの照合を済ませ報告する。おそらく この3人は、ロシア軍の主力となる兵士達だ。この3人を倒せばロシア軍は大きく弱体化する。ポルフスを含むアメリカ軍の機動兵士は16名、勝算はある。
ザザッ!
ズサッ!
『…………。』
16名の機動兵士が目的地に辿り着いたのを見て、テレイサ・トルスタヤが口を開いた。
『ポルフス、そしてゲイリー将軍ね。随分と早かったわね。これは予想外です。』
『ロシア陸軍総司令官『テレイサ』、なぜこの戦争を始めた。』
今回の戦争はロシア軍、そしてヨーロッパにある連合国の双方の機動兵士がほぼ総動員しての全面戦争である。どちらが勝ったとしても損害は計り知れない。テレイサは少し驚いたような顔をしたが、少しの沈黙のあとに語りだした。
『前総司令官であるアンドロメダ、そして前総帥であるベガの目的は…………。ロシアによる世界征服です。』
『……………。』
『未来兵器である『マリオネチカ』、未来から贈られて来る『バイブル(聖書)』、それ以外の未来技術。ロシアには世界を征服するだけの条件が揃っています。』
『ふん。それは失敗だ。『マリオネット』が開発されてから既に十数年が経過している。世界は未だにロシアの支配下にはない。』
シリウス・ベルガーが西側の五大国に『マリオネット』の製造技術の情報を流した。これによりロシアの野望は阻止されたと言える。
『そうね………、それは前司令官の考えよ。私にはそんな野望は無い。』
『それなら、なぜ…………。』
『全ての機動兵器を破壊します。』
『!?』
『聖書(バイブル)に書かれた未来は人類の滅亡。それを防ぐ為に私達は戦っている。』
『滅亡?馬鹿な…………。』
『人類は『パラサイト』と呼ばれる非人類に滅ぼされます。『パラサイト』とは…………。』
────機動兵器(パワードスーツ)の事です。
『!』
『何を馬鹿な事を言っている?気でも狂ったのか?』
兵器である『パワードスーツ』が人類を滅ぼすなど考えられない。
『えぇ、信じれと言う方が無理な話です。だから戦争をしているのです。』
『……………何を。』
『まずは西側諸国の機動兵器を全て破壊します。その最中にロシアの兵士も大勢死ぬでしょう。それすらも私達の目的。機動兵器も機動兵士も、この世界には不要の存在なのです。』
テレイサの主張は何もかもとち狂っている。人類を救う為に、世界中の機動兵士を戦わせて共倒れにする作戦。前司令官であるアンドロメダよりもタチが悪い。
『とくに日本の機動兵器、機動兵士、技術者は全て滅ぼす必要があります。』
『日本?』
『未来の世界で『パラサイト』を開発したのは日本人です。』
これは、もはや宗教に近い。未来から贈られて来ると言う『聖書(バイブル)』を盲信している。
『つまりだ。』
ゲイリーは告げる。
『ロシア軍を操っているお前達を倒せば戦争をする理由が無くなる。そうだろう?』
『…………。』
『『クレムリン親衛隊』のトップファイブ。お前達5人が諸悪の根源、俺達が相手になろう。』
『ふ…………。』
そこでロシア軍の兵士が口を挟んだ。
『トップファイブ?ふははは!悪いが俺様はトップファイブでは無いんだよね。ゲイリー将軍。』
真っ赤な『パワードスーツ』に身を包む青年が前に躍り出る。
『コードネーム『レッドソルジャー』、今はテレイサの部隊に所属している。よろしく頼むぜ。』
(レッドソルジャー?)
その情報は米軍でも入手していない。
『どいつもこいつもトップファイブだ、親衛隊だって、くだらねぇ。肩書きなど関係ねぇだろ?強い者が強い。アメリカ合衆国の将軍の肩書き、俺様が打ち砕いてやんよ。』
ジャリ
『待って…………。』
レッドソルジャーが前に出ると、負けじとエレナも進み出た。
『私も戦う。さっき仕留め損ねたから。』
エレナの標的はポルフスだ。
(こいつら…………。)
西側諸国では、トップクラスの実力を誇るゲイリー将軍とポルフスを相手に全く動じる様子が見られない。人数的には連合軍が優位だが、個々の能力ならロシア軍が優位なのはポルフスにも分かる。この場にいる兵士達の中でロシアのトップと戦えるのは、ポルフス以外にはゲイリー将軍くらいしか居ないだろう。ならば1対1の戦闘は望むところだ。
ズサッ!
『よかろう。先程は不意をつかれた。』
同じ過ちは犯さない。世界三大英傑の一人に数えられる『フランスの皇帝』ポルフスの実力を、今こそ見せてやろう。
シャキーン!
『銀髪の少女よ、武器は持たないのか?』
『………………問題ない。』
どう言う仕組みなのかは不明だが、この場にいる兵士の中で最も異質な機動兵士がエレナだ。機動兵士の常識で戦っても勝てない。
(懐に入られたら負ける。ならば………。)
ポルフスは光学剣(ソード)を正面に構えた。
(斬るのではなく突く。光学槍(ランス)よりもリーチが短い光学剣(ソード)の方がむしろ戦いやすい。)
ジリ
ビビッ!
『シンクロ率100%』
(体調も絶好調だ。負ける気がしない。)
『勝負だ!少女よ!』
【皇帝③】
コードネーム『レッドソルジャー』
ロシア陸軍の一般兵士の中からテレイサの部隊に抜擢された青年兵士であるソルジャーは、決して大柄な兵士ではない。スピード、パワーともに上位クラスではあるが、ソルジャーよりも優れた兵士は他にいるだろう。
ビュン!
ガキィーン!
ビリビリ
アメリカ合衆国トップ兵士の1人であるゲイリー将軍と比べると、見劣りする感じは否めない。戦闘が開始されると、その差は歴然であり、ゲイリーの剣が徐々にソルジャーの耐久値を奪っていった。
ズバッ!
『損傷率48%』
(トップファイブ以外の兵士の実力はこんなものか)
そして、ゲイリー将軍の意識は既に他の兵士へと移っていた。注意すべきは最初に現れた3人の兵士であり、エレナはポルフスに任せるとして、残り2人。
(『レッドミラージュ』と『レッドボーイ』)
この2人をどうやって倒すかが問題であり、戦況を大きく左右する。
『こんにゃろ!』
ビュン!
ガキィーン!
シュン!
ズバッ!
ビビッ!
『損傷率76%』
『くそっ!』
2人の戦闘は一方的に進んで行く。その辺の兵士であれば強い部類に入るのだろうが相手が悪い。西側最大のマリオネット先進国、アメリカ合衆国の将軍の敵ではない。
(さっさと終わらせるか…………。)
そして、ゲイリーが光学剣(ソード)を振り上げた時に異変に気付いた。
『損傷率76%』
(な!………に!?)
面前のモニターに表示される『損傷率』が76%と表示されている。しかし、ゲイリーは一度でもやられた記憶が無い。
(どう言う事だ……………。)
レッドソルジャーは、ゆっくりと態勢を立て直し、光学剣(ソード)を地面に突き刺した。
ドス!
『!』
『どうしたゲイリーさんよ。』
相手を挑発するかのように両腕を広げるソルジャーは、ニヤリと笑って見せる。その戦闘を見ていた『レッドボーイ』が不機嫌に表情を暮らせた。
『テレイサさん。なんで、あんな男を部隊に入れたんです。性格最悪ですよ。』
レッドボーイが不満を述べるもテレイサは楽しそうに微笑むだけだ。『クレムリン親衛隊』のトップファイブであるテレイサは、サウジアラビア紛争の後に正式にロシア陸軍の総司令官となった。そして、自身の部隊の一員として選んだのが『レッドソルジャー』と『レッドヴァルキリー』の双子の兄妹である。
『あの能力は普通では無いわね。初見であの技を見破るのは難しい。それは、アメリカ軍の将軍でも同じことよ。』
ドクン
(なぜだ…………。)
全く理解が追い付かない。ゲイリーは一度もレッドソルジャーの攻撃を喰らっていないにも関わらず、耐久値が消耗している。
『…………反射。』
『!?』
『それが俺の能力だ。俺様への攻撃は全て攻撃した人間に跳ね返る。つまり俺様は………。』
────────無敵!
ザッ!
シャキーン!
『どうした?来ないなら、こちらから行くぞ!』
ドクン
ドクン
(これは、まずいな…………。)
あの能力の謎を解き明かさい限り、ゲイリー将軍に勝ち目は無い。
(ここは、一旦、引き上げるか…………。)
ゲイリー将軍とポルフスは、実質的に連合国軍のトップ兵士である。仮にこの戦闘で負けるような事にでもなれば、味方の兵士達の士気に大きく影響する。
(ポルフスは…………。どうなっている。)
ポルフス VS エレナ
全神経をエレナの一挙手一投足に集中し、ポルフスはエレナの動きを見定めていた。
バッ!
ビュン!
バシッ!
懐に入ろうとするエレナを高速の突きで押し戻すポルフス。対するエレナは、その突きを左右の腕で弾き返す。既に10分近く同じ戦闘が繰り返されている。
(あの腕………、想像以上に厄介だな。)
光学剣(ソード)や光学槍(ランス)などの武器で戦うのではなく、エレナは両腕そのものが光学兵器と化している。ポルフスの攻撃は、エレナの両腕によって完全に防がれている状態だ。
一方のエレナも、ポルフスに接近する事が出来ない。光学剣(ソード)を短く構え、最小限の動きで突きを繰り出すポルフスは、やはり一流の機動兵士。先程は一方的に攻撃出来たのだが、やはり不意打ちの成果だろう。
ジリ
ジリ
しかし、一見、互角に見える戦闘であるが、状況としてはエレナが圧倒的に優位に立っている。ポルフスの光学剣(ソード)を、掴んだ時点でエレナの勝利は確定するからだ。武器を一本しか持たないポルフスに対し、エレナの両腕は眩い光を発している。
(どんな仕組みだ……………。)
そもそも、人間の腕が光学兵器と化している事が常軌を逸している。機動兵器の常識から外れているのだ。
ピカッ!
『!』
その時、エレナの両足が光り輝いた。
(まさか!)
ビュン!
ガキィーン!
グワン!
バシュ!
『ぐっ!』
ビビッ!
『損傷率20%』
鋭く放たれたエレナの蹴りが、ポルフスの装甲に直撃する。エレナの武器は両腕だけではなく、四肢の全てが光学兵器となっている。
(馬鹿な…………。2本の腕だけでも厄介なのに、両足まで使われたら対応出来ない!)
『ふぅ………。ふぅ…………。』
ここまでの強敵と戦うのは、いつ以来だろうかとポルフスは思考を巡らせた。
渡米して2年目、機動兵士の世界大会の決勝で、シリウス・ベルガーと対戦した時以来か。サン・ルヴィエ・ポルフスが生涯に於いて唯一負けた機動兵士がシリウスである。いや、先程の戦闘で、ポルフスは一度エレナに負けている。この銀髪の少女の実力は、シリウス・ベルガーにも劣らない。
『とんでも無いな……………。少女よ…………。それほどの実力を何に使う。』
『?』
『機動兵士とは、世界の命運さえ左右するほどの力を持つ。しかし使い方を間違えれば世界を滅ぼす事にもなる。』
『………よく、分からない。』
『私は………、サン・ルヴィエ・ポルフスは、自らの正義の為に戦おう。少女よ、お前はお前が信じる正義の為に戦え。』
す───
『!』
(突きでの戦闘は止めだ。両手両足を操る少女の前では到底通じる戦法では無い。)
ならばと
ポルフスは光学剣(ソード)を大きく振り上げた。
『!』
ポルフスの狙いはエレナだけではない。
ロシア軍総司令官テレイサ、レッドボーイと名乗る少年、ここにいる5人の機動兵士、ロシア軍の最高戦力と思われる5人全てを同時に攻撃する。シリウス・ベルガーが編み出した、機動兵士では有り得ないはずの遠距離攻撃。
仕組みは理解している。
(『ビッグバン・アタック』のエネルギー源は精神力だ!)
ポルフスの光学剣(ソード)に、強大なエネルギーが蓄積して行き、そのオーラが戦場を支配する。
ゴゴゴゴォ!
(これは、まずいわ!)
ビビッ!
『エレナ!レッドボーイ!レッドソルジャー!レッドヴァルキリー!逃げなさい!!』
『!』『!』『!』『!』
『ビッグバン・アタック!!』
『フランスの皇帝』と称えられるポルフスが、最後に放った攻撃は、確かにシリウス・ベルガーの必殺技であり、その威力は………。
本家のシリウスをも
────────越えていた
ドドドドドドドド!!
ドガガガガーン!!!