【開戦➀】
西暦2060年5月4日
ベルギーの首都ブリュッセルの街中に、ひっそりと佇む酒場があった。
「マスター、テキーラを頼む。」
「マジシャン、その辺にしといたら良いですわよ。」
酒を酌み交わしているのは2人のスラブ人だ。男性の方は30才前後の紳士風の出で立ちで、ダンディな大人の男性である。無精髭を触るのがクセとなっている。
「オーシャン…………。今度の作戦、どう見る?」
男が話し掛けた相手は、ブロンドが美しい女性で年齢は27才、仄かな色香を漂わせる細身の女性だ。この酒場には、2人の客以外は誰もいない。
「親衛隊の動きが気になりますね。レッドパンサーの考えが読めません。」
カラン
新たに酒場に入って来たのは、背の高い屈強な男だ。男はカウンターではなく、近くのテーブルに腰を掛けた。
「トップファイブが動く。作戦は決行だ。」
「ほぉ…………。」
レッドパンサー、レッドミラージュ、レッドスコッチ、レッドボーイ、そしてエレナ。
現在、ロシア連邦共和国の陸軍を掌握している『クレムリン親衛隊』の中でも、最上位に位置する5人。ロシアの軍人は彼等の事をトップファイブと呼んでいる。
「西側の機動兵士の多くがベルリンに集結している。ポルフスもベルリンだ。」
「これは、これは…………。」
マジシャンはおどけた表情を見せて楽しそうに笑う。
「トップファイブとポルフスですか。面白くなりそうです。」
「敵の主力はトップファイブが叩く。俺達はザコの始末だけだ。」
背の高い男はつまらなそうに呟いた。
「スモークさん。別に構わんでしょう。私達は私達の仕事を遂行すれば良い。」
「隊長…………。」
大男がマジシャンを睨み付けた。
「あんた、親衛隊を………、パンサーの奴を許せるのか?」
3人は、もともとアンドロメダ総司令官の部下であり、ロシア軍の中ではエリート中のエリート兵士。上司であるアンドロメダを殺害したクレムリン親衛隊には少なからず恨みがある。
「う〜ん、そうですね。」
マジシャンは、笑顔を崩さないままに戯けた口調で答える。
「私はピエロ、その時の情勢に合わせるだけです。」
「ピエロね…………。」
コードネーム『レッドスモーク』を名乗る男は、拳を握りしめた。今のロシア軍の中でクレムリン親衛隊のトップファイブに勝てる機動兵士は存在しない。前総司令官であるアンドロメダ、前総帥であるベガを殺害したトップファイブは、おそらく世界最強の機動兵士部隊だろう。だからこそだ。
唯一、トップファイブに勝てる可能性のある男、コードネーム『レッドマジシャン』が動かなければ、ロシア軍はトップファイブの支配下に置かれる。
「既にアンドロメダ派閥は少数派です。同じロシア連邦共和国の内部で争っても仕方がない。そうでしょう?」
「ちっ!」
舌打ちをするスモークの肩にオーシャンが手を伸ばした。コードネーム『レッドオーシャン』。かつて、アンドロメダの『デストロイ部隊』への勧誘を断った女性兵士は言う。
「マジシャンは全てを欺くピエロです。彼の言う事を真に受けていたら、身体が持ちませんよ?」
「ふん………。」
「まぁまぁ、いよいよ開戦です。私達の実力を見せつけてやりましょう。西側諸国にも、クレムリン親衛隊にも…………ね。」
【開戦②】
その頃、ベルリンに集まった西側諸国の機動兵士達は、実戦形式の模擬戦を行っていた。本日のメインイベントは、昨日、連勝街道を突き進んでいたイギリス連邦軍の次代のエース、アーノルド・ハシュラムを倒した羽生 明日香(はにゅう あすか)と、日本国防衛軍の統括隊長 七瀬 怜(ななせ れい)の一騎打ち。観戦している機動兵士達は異様な盛り上がりを見せていた。
羽生 明日香 VS 七瀬 怜
バシュ!
ズバッ!
ガキガキガキィーン!!
『ダブルフルーレ!!』
『!』
シュバッ!ビュン!!
ガギガキィーン!
ビリビリ
(強い……………。)
羽生 明日香(はにゅう あすか)と七瀬 怜(ななせ れい)の戦闘は、一進一退の長期戦となる。
「あれが防衛軍の新統括隊長、七瀬か。速いな……。」
世界三大英傑の一人として称えられる、サン・ルヴィエ・ポルフスが、子供のように巨大モニターに釘付けとなっている。
ザワザワ
ポルフスだけではない。この食堂で観戦している全ての機動兵士達が、2人の戦闘に驚いている。七瀬 怜の実力は、既に世界トップレベルである。
シュバッ!
ガキィーン!
ビュン!
ガキィーン!
ビリビリ
しかし、大和 幸一(やまと こういち)が驚くのは、そこではない。機動兵器マリオネットの実戦経験が浅い羽生 明日香が、七瀬と互角に渡り合っている事実。防戦一方だとしても誰にでも出来る芸当ではない。
『明日香さん…………。いや、エマと呼んだ方が良いのかしら?』
『……………。』
『貴女の実力は、その程度なのですか?それでは私に勝てませんよ。』
徐々にではあるが、押されているのは明日香の方だ。未来の世界で最強と言われた機動兵士エマ・スタングレーが怜のスピードに押されている。
(ごめん、エマ…………。)
明日香はもう一人の自分に謝罪をする。
(私の身体能力では、貴女達の戦闘には付いて行けない。)
身体が反応しない。
(明日香…………。違います。)
その言葉をエマは否定する。
(七瀬 怜、信じられませんが、彼女の実力は未来に於いてもトップクラス。ここまで速い反応の機動兵士と出会った事はありません。)
──────機動兵器シンドウ
スピードだけなら、シンドウに近い速度だ。仮にエマが羽生 明日香ではなく、高い身体能力を持つ人間に入り込んでいたとしても、勝算は五分五分。
このレベルの機動兵士が5人揃っていたならば、あの時、シンドウに勝てていたかもしれない。
明日香は自らの損傷率を確認する。
『………67%』
(後が無いわね…………。)
エマの実力は間違いなく、世界最高レベルであり、七瀬統括隊長にも引けは取らない。
(問題は私…………。)
ここに居る多くの機動兵士達は、幼少の頃から機動兵士の訓練を受けている。特にヨーロッパでは、その傾向が強い。日本の場合はかなり遅く、専門の高校に入学してから訓練を受ける。しかし、明日香は機動兵士の養成学校にすら通った経験が無い。
ベルリンに集まっている何百人もの兵士達の中で、羽生 明日香の経験は圧倒的に少ない。
(くやしい……………。本当のエマはもっと強いはずなのに。)
ビュン!
『!』
ガキィーン!
なぜ、未来からの訪問者であるエマ・スタングレーの『魂』が日本へ来たのか?なぜ、羽生 明日香の身体に入り込んだのか?
偶然か………、それとも意図したものなのか。
(負けたくない……………。)
(明日香?)
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
明日香の意志が機動兵器『マリオネット』のポテンシャルを押し上げて行く。
『!?』
それは、対戦相手である七瀬にも伝わって来た。
(今までと様子が違う…………。エマの本気が見られる。)
ゴゴゴゴゴゴ
(エマ………。)(明日香…………。)
──────行くよ
ビュン!
『!』
『音速剣(ソニック・スラスト)!!』
シュバッ!
『損傷率77%』
ざわ!
巨大モニターに映し出された、明日香と七瀬の損傷率が逆転する。
『ブラボー!』
(マジかよ……………。)
観戦していたポルフスが歓喜の声を上げるのとは対照的に、幸一は複雑な心境だ。
大和に北条 帝(ほうじょう みかど)、旧大和学園の黄金世代である幸一達を圧倒的な強さで屠って来た七瀬 怜が負ける姿など見たくない。
ビュン!
シュバッ!
二人の機動兵士が、同時に光学剣(ソード)を突き出したが、僅かに速いのは明日香の方だ。機動兵器『マリオネット』が開発された未来の世界で、最速を誇ったエマのスピードは音速を越える。
ガキィーン!
『!』
しかし怜は、その高速の突きにもう一本の光学剣(ソード)を重ね合わせる。一方の明日香は怜の攻撃を防ぐ事が出来ない。
ズバッ!
『くっ!』
『損傷率94%』
これが、七瀬 怜の真骨頂、二刀流の実力だ。互角の能力の相手であっても二本の光学剣(ダブルフルーレ)を操る怜の方が断然に有利である。多くの優秀な機動兵士達が怜の二刀流の前に敗れて来た。
(左右の剣の動きに無駄が無い…………。)
シュバッ!
ズサッ!
明日香は一度距離を取って態勢を立て直す。
音速の剣にすら、完全に対応する怜の実力には畏れ入る。エマは素直に怜の実力に感心していた。
(ならば…………。)
す────────
例え二本の光学剣(ダブルフルーレ)でも防ぐことが出来ない大技。天に掲げた明日香の光学剣(ソード)が太陽光に反射して光り輝く。
『………これは!』
(嫌な予感がする!)
『アポロン!!』
怜が咄嗟に後方へと飛び跳ねるとほぼ同時に、ビリビリと空気が震え、次の瞬間、大地が爆発した。
ドッガガーン!!
『くぅっ!』
『損傷率!リミットオーバー!』
(そんな!遠距離攻撃なんて…………。)
バチバチバチバチバチバチ!
ドッガーン!
──────勝者!羽生 明日香!
おぉ!!
ブラボー!
盛り上がる観衆の中、大和 幸一は呆然と試合結果を眺めていた。
(今の攻撃は…………なんだ?)
機動兵器『マリオネット』は、基本的に遠距離攻撃は出来ない。光学銃(ガン)と言う特殊な兵器はあるが、明日香の武器は光学剣(ソード)であり光学銃(ガン)ではない。
「ビッグバン・アタック………。シリウスの技に似ている。」
「?」
幸一の向かいの席から、話し掛けるのは三大英傑の一人、ポルフスだ。
「ん…………、知らないのか?」
「あ、いえ…………。」
「しかし、驚いたな。あのスピードに加えて、高威力の遠距離技まで使うとは…………。あんな芸当が出来る兵士はシリウス・ベルガーくらいしか思い浮かばない。」
それは最高の褒め言葉である。世界最強にしてマリオネット・マスターと呼ばれるシリウスは、紛れもなく世界最強の機動兵士であった。
「それに、統括隊長の七瀬、彼女も素晴らしい。日本には多くの優秀な機動兵士がいる。」
(七瀬…………。)
明日香の損傷率は94%であり、ほぼ互角の戦闘ではあったが、七瀬 怜が負ける姿を初めて見た。ドイツ製の汎用型のマリオネットではあるが、条件は明日香も同じだ。
(羽生 明日香………。いや、エマ・スタングレー。お前は何者なんだ?)
【開戦③】
西暦2060年5月7日
明日香達がベルリンへ渡航してから早くも1ヶ月が経過した。ロシア支配下にあるポーランドに集結しているロシア軍に動きは無い。
連合国軍参謀会議室
フランス共和国総司令官
サン・ルヴィエ・ポルフス
フランス共和国副司令官
エドワード・ルイ四世
アメリカ合衆国将軍
マイケル・ゲイリー
イギリス連邦軍特殊部隊大佐
ジャガー・ブラウン
イギリス連邦軍特殊部隊大佐
アーノルド・ハシュラム
ドイツ連邦共和国参謀長官
ランバート・シュレーゲル
ドイツ連邦共和国陸軍大将
シュバルツ・カイザー
日本国防衛軍統括隊長
七瀬 怜(ななせ れい)
日本国防衛軍統括隊長
大和 幸一(やまと こういち)
「先日のサウジアラビア紛争にて、アンドロメダ総司令官が戦死。その後を引き継いだのは、テレイサ・トルスタヤと言う名の機動兵士だ。」
今回集まった機動兵士達の中で、名実ともに実力が上位なのはフランスの皇帝と呼ばれるポルフスである。しかし指揮系統としては、ドイツ連邦共和国のトップであるランバートが指揮を取る。
「そのトルスタヤ総司令官から連絡があった。」
「!」「!」「!」
「本日正午にトルスタヤ本人がベルリンに来る。話し合いを持ちたいそうだ。」
「話し合い?」
「会談場所は、ベルリン郊外での会談を希望している。我々はゲルテン・デアヴェルト自然公園を指定した。」
ゲルテン・デアヴェルト自然公園は、ベルリンより東側にあるポーランド寄りの公園である。
「ロシア側の特使はトルスタヤ本人以外に2人。こちら側も3人での出席を指定して来た。」
「…………3人対3人か。危険では無いのか?」
イギリス連邦軍大佐のジャガー・ブラウンが声をあげた。
「いや、危険なのはロシア側の方だ。我々は公園の周りに百人単位の機動兵士を配置する。ロシアは総司令官、直々に来るのだから、下手な真似は出来ない。話し合いと言うのは真実だろう。」
「………………。」
「こちら側は私が出席する。」
ランバート・シュレーゲルが会議に参加しているメンバーをグルリと見渡した。
「他の2人はポルフス殿、ブラウン大佐にお願いしたい。」
ランバートが指定したのは西側連合軍の中でも実力屈指の2人の機動兵士である。危険では無いと言いつつも最高戦力を同行させての会談となる。
「宜しいでしょう。」
そこで、ポルフスが声をあげる。
「私の存在が少しでも役に立つなら喜んで同行しよう。」
世界三大英傑の異名は伊達ではない。シリウスが戦死した今、ポルフスは西側諸国にとって最強の機動兵士と言っても過言では無い。
「了解した。俺も問題は無い。」
続いてブラウン大佐も同意する。ヨーロッパ最強を自負するイギリス連邦軍の中でも精鋭中の精鋭が揃う『ブラウン隊』、そのトップが同行するなら戦力として申し分無い。
「正午か………。時間が無いな。会談の周りに配置する兵士には、すぐに連絡をする。会議はこれにて終了する。後は指示を待っていてくれ。」
「了解。」「了解した。」
日本国防衛軍控室
「どう思う?」
「ロシア側からの提案か……………。」
「提案って?何だったの?」
日本の防衛軍からベルリンへ派兵された機動兵士は10人いる。その一同が控室に集まり会議の内容について説明を受ける。
「3人だけなら何も出来ない。交渉に来たと考えるのが妥当だろうな。」
発言をしたのは、北条 帝(ほうじょう みかど)と言う名の青年だ。今回の防衛軍は比較的に若い兵士が多い。統括隊長の2人が入隊2年目であるため、派兵された兵士も全て入隊2年以内の若い兵士である。日本の防衛軍は3年前の横浜紛争にて大きなダメージを受けた為に他の同盟諸国と比べて兵士の若返りが激しいとも言える。
「各国の参謀クラスは施設で待機みたいね。私達は公園の周りから会談を見張る事になったわ。」
「ゲイリー将軍も待機か。アメリカは今回の作戦に消極的なのか発言もあまり無いな。」
「サウジアラビア紛争のダメージが大きいのかしら?」
「公園見張り組は英仏独が30人、俺達が10人全員、アメリカはゼロだ。」
「それでも会談に望む3人は最強レベルの機動兵士だろ?特に問題は無いだろう。」
「100人の機動兵士に囲まれているのだから、ロシアの3人は何も出来ないでしょう。それより交渉の内容ね。」
「果たして、どんな提案をして来るのか。」
「そろそろ正午になる。俺達も行くぞ!」
「「「ラジャ!」」」
西暦2060年5月7日 11時58分
ビビッ!
『来たか…………。』
『ロシア兵の反応は3人………。他には居ないみたい。』
『シンクロしていない状態での潜入も有り得る。公園の周りに注意しよう!』
七瀬 怜と大和 幸一が待機する場所は、会談場所を一望出来る公園内の丘の上だ。近くには日本人の兵士が8人おり、更にその周辺には英仏独の機動兵士も待機している。モニターに映し出されたロシア兵の反応は3人で、それは目視出来る敵兵の数とも合致する。
現れたのは、緑色の髪が映える女性の機動兵士が中央、おそらく彼女が新たなロシア軍の総司令官になったテレイサ・トルスタヤだろう。スラリとした高身長の女性である。
両隣に控えるのは、右に長い銀髪の女性の兵士でまだ10代前半の少女に見える。左側には同じく10代半ばの少年兵が歩いている。
『あれが特使?随分と若いな…………。』
『戦う意思は無いと言う事かしら?』
ザッ!
ザッ!
ザッ!
ピタリ
そして、3人は連合軍の代表の前で足を止める。距離にして10メートルほど離れた所に臨時に作られた椅子が用意されていたが、中央の女性の兵士は椅子に腰掛ける事も無く第一声をあげた。
ビビッ!
『始めまして、私がロシア連邦陸軍総司令官………。テレイサです。』
その声は落ち着いているように聞こえる。
『両隣の兵士は私の付き人で、名前は………。』
『僕の名前はセルゲイ・パトリック。よろしく。』
『私は………、エレナ……………。』
3人が挨拶を済ますと、連合軍の代表も各々簡単な挨拶を済ませた。
『お会い出来て光栄だよ。ミス・テレイサ。早速だが、今回の会談の目的は何かお聞きしたい。』
ポルフスには全く気負った様子は見られない。おそらく、この場に居る機動兵士達の中では最強の機動兵士であるが、威嚇する様子もなく穏やかな笑顔を浮かべている。
『私達ロシアは貴方達の知らない情報を持っています。』
『…………………ほぉ。それは例の聖書(バイブル)の話かね。』
『ふふ。よくご存知ですわ。それなら話が早い…………。』
そして、テレイサは告げる。
『前総司令官であるアンドロメダは世界の統一を模索していました。ロシア連邦による世界統一、しかしアンドロメダは戦死しました。』
『……………。』
『私達の目的は…………。』
─────日本国の滅亡
『!』『!』
『近い未来に日本は世界を滅ぼすでしょう。その為に私達は手を組むべきです。』
『……………ふ。』
ポルフスは笑う。
『何を言い出すかと思えば、くだらない。もう少しまともな話かと思っていたがね。』
『……………そうでしょうね。』
『……………?』
『なぜ、私がこの会談を設定したのかお教えしましょう。』
『……………。』
『シリウス亡きあと、西側諸国の最高戦力であるポルフス。貴方が出て来ると思っていましたわ。』
『……………なに?』
そして、テレイサは隣に控える少女に命令する。
『エレナ………。殺りなさい。』
『!』
クンッ!
エレナと名乗った銀髪の少女は瞬時にポルフスとの間合いを詰めて攻撃に転じた。
(速い!)
しかし、その少女は武器を持っていない。素手でポルフスに歯向かうなど自殺行為だ。
シャキィーン!!
すかざすポルフスは光学剣(ソード)を少女に向かって突き出した。世界一の機動兵士の突きは的確に少女の身体の中心部を狙い打つ。
『相手が女子供だろうと容赦はしない!!』
バチッ!!
『!?』
その突きをエレナは素手で掴むとそのままポルフスの懐に入り込んだ。
ビカッ!!
(な…………!?)
エレナの右手が光り輝くと、目にも止まらぬ速さで手刀を繰り出した。
ズババババッ!!
その場に居る誰もが目を疑った。
ほぼ、同時にセルゲイ・パトリックは光学剣(ソード)を真横に伸ばし前方にいるブラウン大佐に攻撃を仕掛ける。
バッ!
『ムーン・リバー!!』
その技はアンドロメダ総司令官が得意としていた防御を通り抜ける必殺剣だ。
ポルフスとブラウンが同時に攻撃を受けるのを見て、ランバート参謀長官は慌てて光学剣(ソード)を構えるが、既に遅い。
バババッ!!
『な!四人!?』
前方にいたテレイサは既に攻撃態勢に入っている。あまりのスピードに残像が分身となって見えると言う彼女の通り名は『幻影のミラージュ』と言う。テレイサの瞬速の剣が四方向からランバート長官へと斬り掛かる。
公園の内外に、ぐるりと陣を構えていた連合軍の兵士達は完全に虚を付かれた格好となる。僅か3人の兵士で………、しかも2人は子供の兵士だ。ポルフスを始め連合軍の代表の3人はトップクラスの機動兵士であり、周囲には100人もの精鋭が取り囲んでいる。
全く信じられ無い事に………
この状況で………………
ロシア兵は攻撃を仕掛けたのだ。
バシュ!
ズバッ!
ズババババッ!!
こうして────
西側五ヶ国からなる連合軍とロシア連邦軍の戦争は始まった。