MARIONETTE- Елена
【エレナ①】
コードネーム『レッドパンサー』
本名 シーザー・クレシェフ
シーザー・クレシェフがロシア軍に入隊したのはシーザーが7つの時であった。別に軍に入りたかった訳ではない。貧しかった家庭に育ったシーザーは両親に売られたのだ。加えて言うなら、ロシア軍の目的はシーザー・クレシェフでは無く妹の方である。当時のロシア軍は国内中の産まれたばかりの赤ん坊を半ば強制的に買い漁っていた。
正規のルートで軍隊に入った兵士達とは違いシーザーには人権は無い。強くなる事を求められ、使えないと判断されれば容易に切り捨てられる。それは命を落とす事を意味する。
それでも、シーザーはマシな方であった。
「聞いたかシーザー。人体実験の話ぞ。」
シーザーの同期である、アンドロフ・ミゲイルはシーザーの数少ない信頼出来る友だ。
「国内中から集められた赤ん坊に人体実験を繰り返している。既に半数が死んだぞ。」
「実験実験………。エレナ……………。」
その計画の詳細は不明だが、未来兵器『マリオネチカ』と人体との融合実験、そんな話を聞いた事がある。たかが一兵卒のシーザーには何の力も無い。今のシーザーにはエレナを救う事は出来ない。
「人体実験を主導しているのは、ベガ総帥、それにアンドロメダ総司令官も絡んでいるでしょうな。我々は何も出来ないぞ。」
「ミゲイル……………。」
「?」
「強くなるぞ。俺達が軍のトップになれば状況を変えられる。」
良くも悪くも機動兵器『マリオネチカ』は、従来の軍の上下関係を変化させた。ロシア軍に於いて、最高権力を握っているのは、ベガとアンドロメダの2人の機動兵士であり、それは2人が強いからに他ならない。
「ふん。付き合ってやろうぞ。」
転機が訪れたのは、シーザーとミゲイルが15歳になった時だ。当時のロシア軍には正規の陸軍の他に『クレムリン親衛隊』と言う特殊部隊があった。大統領直属の部隊である『クレムリン親衛隊』には全ロシア兵士の中から優秀な兵士が集められている。
「シーザー・クレシェフ、アンドロフ・ミゲイルの両名は『クレムリン親衛隊』への配属を命令する。」
この日より2人の本名も、生い立ちも、記録から抹消され、2人はコードネームを名乗るようになった。
更に年月は流れる。
「ナターシャ・エイブラハムが日本で戦死したらしいですぞ………。『デストロイ部隊』はナターシャを見殺しにしたと言う話ですな。」
「くっ!最強の機動兵士とか言っておきながら使い捨てか!」
「レッドパンサー、それは違うぞ。上層部はナターシャの事を機動兵士とすら見ていない。機動兵士ではなく『機動兵器』。人間ですら無いですぞ…………。」
シーザーにとって、エレナを救う方法は一つしか無い。自らが軍のトップとなり人事権を手に入れる事だ。まずは『クレムリン親衛隊』のトップになる。それがシーザーの目的となった。
そして、今から2年前の西暦2058年、シーザーは『クレムリン親衛隊』の総帥であるベガを倒しその座を受け継ぐ事となる。
「おめでとう、レッドパンサー。」
声を掛けて来たのは一つ歳下のコードネーム『レッドミラージュ』を名乗る女性兵士だ。
「貴方、ベガに怨みがあるのでしょう?なぜ殺さなかったの?」
「俺は総帥の座が欲しかっただけさ。殺すつもりは無い。」
「貴方もお人好しね。」
「なに?」
「ベガとアンドロメダがいる限り人体実験は終わらないわ。これからも多くの子供達が死ぬ事になる。それでも良いのかしら?」
「………………。」
「チャンスは必ず訪れる。その時は私も協力しましょう。」
『幻影のミラージュ』、それが彼女の通り名だ。戦闘時のスピードはロシア軍の中でも随一とされ、あまりのスピードの速さに残像が幻影のように見えると言われる。
そして、もう一人、天才少年がシーザーの前に現れた。
「坊主………、『デストロイ部隊』のマーシャルと互角の戦闘を演じたらしいな。」
「負けちゃいましたけどね。でも………。マーシャルさんの技は盗みました。二度と負ける事は無いでしょう。」
『レッドボーイ』、それが少年のコードネームだ。驚く事にレッドボーイは、一度、戦った機動兵士の技を盗む事が出来る。経験を積めば世界最強の機動兵士になるポテンシャルを持っていると言える。
──────時は満ちた─────
ロシア軍の中でも精鋭が揃う『クレムリン親衛隊』の中でも、上位5人の兵士の事をトップファイブと言う。現在のトップファイブは、入隊順に『レッドパンサー』『レッドスコッチ』『レッドミラージュ』『レッドボーイ』。
そして、最後の一人の名は
────エレナ・クレシェフ
シーザー・クレシェフは、十数年の時を経てロシア軍よりエレナを取り戻した。シーザーは告げる。
「次のミッションは決まっている。長くロシア軍に君臨する2人の機動兵士、ベガとアンドロメダを殺す事だ。」
計画は周到に準備された。
横浜紛争でメンバーを失った『デストロイ部隊』には『レッドスコッチ』を配属させたが、それでも、アンドロメダにはマーシャルとバルゴと言う2人の機動兵士が付いている。簡単には倒せないだろう。
そこで浮上したのがアメリカ軍の兵士であるシリウス・ベルガー将軍である。西側諸国最強と言われるシリウスとアンドロメダの戦闘力は互角であり、戦えば互いに耐久値は消耗する。
「行くぞ、レッドスコッチ。」
「サウジアラビアですな。」
「このチャンスを逃す手は無い。」
「しかし我々は『クレムリン親衛隊』ですぞ。王宮を留守にする訳にもいかないですな。」
「そこは私が引き受けるわ。親衛隊の副隊長である私がクレムリンに残れば問題は無いでしょう。」
「……………問題無い。」
「僕は行きますよ?強い機動兵士と戦わないと新しい技を盗めないからね。」
そして、西暦2060年
──────作戦は決行された。
ザザッ!
ビカッ!!
彗星の剣が美しい光りを放つ。
『Moon River(ムーン・リバー)!!』
ロシア軍の最高司令官であり、ロシア軍最強の機動兵士と言われるアンドロメダの必殺剣が炸裂する。アンドロメダは最初から手加減無しの大技で決着を付けようとしたのだ。
─────オッド・アイ─────
ガキィーン!!
『!』
その必殺剣を若干15歳のレッド・ボーイが、完全に防御した。
『アンドロメダ総司令官、軌道が丸見えですよ。』
『なに!』
『ダークシャドウ!!』
ズバッ!!バシュッ!!
ビビッ!
『損傷率28%』
(くっ!レッドスコッチの見えない攻撃か!)
リーチの長いレッドスコッチを放っておくのは得策ではない。ステルス性能を持つレッドスコッチの光学鎌(ギロチン)は、最初に封じる必要がある。
ビュン!!
『!』
レッドスコッチのスピードは、アンドロメダと比べれば天と地の差がある。一気にレッドスコッチを潰す!!
バシュッ!!
『!』
ガキィーン!!
『レッドパンサー!』
『ほぉ、今の攻撃に反応しますか。』
レッドスコッチに攻撃を仕掛けるタイミングで、アンドロメダの死角から光学剣(ロングソード)を打ち込むレッドパンサーであったが、アンドロメダは超反応で防御する。
しかし!
『タイガー・クラッシュ!!』
ズバッ!!
『ぐっ!』
ビビッ!
『損傷率46%』
『ダークシャドウ!!』
ドドン!!
『くっ!』
ババッ!!
レッドスコッチの攻撃が当たる前にアンドロメダは距離を取る。
(3対1……………。)
『クレムリン親衛隊』は一人一人が最高レベルの機動兵士である。その3人が連携をすれば、さすがのアンドロメダも分が悪い。
(せめて、一人でも減らせれば…………。)
アンドロメダはシリウスの戦闘をチラリと見た。
ビュン!
ババッ!
ガキィーン!!
『くっ!』
驚くべきは、エレナ・クレシェフだ。レッドパンサー、レッドスコッチ、レッドボーイが3人でアンドロメダを相手にするのとは違い、エレナは一人でシリウスに対峙する。
『…………問題無い。』
そして、押されているのは、シリウス・ベルガー将軍である。
マリオネット・マスター
シリウス・ベルガー将軍が、エレナ・クレシェフに圧倒される。
(信じられない……………。)
アンドロメダは思う。
(シリウス兄さんが、13歳の少女に押されている…………。)
【エレナ②】
全局面戦闘白兵戦特化型『マリオネチカ』
────通称『システマ』────
エレナ・クレシェフは、人体一体型機動兵器として開発された。未来から送られて来たと言われる【聖書(バイブル)】に基づき、赤ん坊の頃から身体の内部に『パワードスーツ』の技術を埋め込まれる。
人体実験に利用された子供の数は数千人を越え、多くの子供達が犠牲となった。ロシア軍の報告によれば、融合に成功した子供は2人のみであり、2人の子供には性格上多くの障害をもたらした。ナターシャ・エイブラハムは明らかな精神異常者であり、エレナ・クレシェフは感情表現が乏しい。それでも、シーザーは実の妹であるエレナを溺愛していた。
『ビッグバン・アタック!!』
シリウスの光の斬撃に対し、エレナは両腕でガードを固めて対抗する。
ビカッ!
バシィーン!!
エレナ・クレシェフの両腕は光学兵器であり、シリウスの攻撃を完全に弾き返す。
バッ!
『!』
『うおぉぉぉ!!』
しかし、シリウスは攻撃の手を緩めない。『ビッグバン・アタック』が弾かれるのは想定内で、それは次の攻撃への布石に過ぎない。世界最強と言われるシリウスの剣の速度は、この時、最高速度に達し正確にエレナの装甲へと放たれた。狙うは両腕の先にある身体の中心部である。
ビカビカビカッ!!
『マスター・ソード』が光を放つ。
クンッ!
ガシッ!!
それをエレナは、両の手でガッチリと捕まえた。
(なっ!?)
グイッ!!
そのまま、『マスター・ソード』を後ろへ否し、シリウスの懐に入り込むと、右手の拳を握りしめる。人間の少女と姿も大きさも変わらない小さな拳は、明らかに異質な光を放ちシリウスの腹部へ叩き込まれる。
ズボッ!
『ぐっ!』
ビビッ!
『損傷率77%』
アンドロメダとの戦闘で、既に装甲の耐久値に後は無い。
ブンッ!
(2発目が来る!)
ブワッ!!
『!』
シリウスは大きく後方へ飛び跳ね、なんとかエレナの攻撃をかわす事に成功した。しかし、今の攻防は完全にシリウスの負けだ。
(反応速度が異常に速い……………。)
エレナは、両腕と両足が光学兵器であり、通常の機動兵士とは戦闘方法が違う。初めてエレナと戦闘をした兵士達は、その事実に戸惑い実力を発揮する前に殺されるだろう。
しかし、それだけではない。シュリング師匠に武術を教わったシリウスなら分かる。エレナの格闘技術は完璧である。
(………………システマ。ロシアの近代戦闘格闘武術か……………。)
白兵戦に特化した戦闘技術は、日本の空手や柔道にも類似する近距離戦闘のスペシャリストだ。あるいはシリウスも素手での戦闘であれば互角に戦えるかもしれない。
しかし、機動兵士同士の戦闘で武器を捨てる事など不可能だ。相手にダメージを与える唯一の手段を失う事になる。
ビュン!
『!』
ガキィーン!!
グルン!
(くっ!)
バッ!
(まさか、この俺が攻撃を防ぐたけで精一杯になるとは……………。)
こうなると光学剣(マスター・ソード)が邪魔になって来る。両腕を自由に使えるエレナの方が小回りが効くし変幻自在の技を繰り出せる。自らの腕を光学兵器にする事が、これほどまでに効力を発揮するとは流石のシリウスも予想外だ。
(だが………………。)
ゴゴゴォ!
(攻撃手段が無い訳では無い。)
エレナのスピードと瞬発力は確かに驚異的であるが、攻撃力(パワー)と耐久値(ディフェンス)は平均以下だろう。
(闘気による攻撃…………。)
バルゴ・ポドルスキを一撃で葬った攻撃ならば、エレナのガードした両腕を弾き飛ばし、本体の装甲にダメージを与えられる。おそらく一撃で倒す事も可能だ。
ザザッ!!
『くっ!』
ガキィーン!!
バシッ!
ブワッ!
ガキィーン!
(しかし…………。)
問題は、闘気を溜める時間が無い事だ。ここに来て4対2の人数的不利が大きく影響して来る。アンドロメダは『クレムリン親衛隊』の3人を相手にするのが精一杯で、シリウスを援護する余裕は無い。かと言ってアメリカ軍の兵士は全滅しており、モニターに映る兵士は一人も居ない。
(ロッド、アッシュ、神楽…………、せめて、この場に一人でも居てくれたら戦況を大きく変える事が出来たはずだ。)
シリウス・ベルガーが自ら探し出した『シリウス隊』のメンバーなら、『クレムリン親衛隊』とも互角以上に戦える…………。
(まぁ、無いものねだりか………。)
ビュン!
ガキィーン!
そうなると方法は一つ。エレナ・クレシェフの攻撃を防ぎつつ、闘気を溜めるしか方法は無い。しばらくは防戦一方となるが、やむを得ない措置だ。
(果たして、その技量が俺にあるかどうか…………。)
シリウスが見る限り、エレナの戦闘技術は超一流であり、シュリング師匠の一番弟子であるシリウスと比較しても遜色は無い。無駄の無い動きは芸術的とさえ言える。
(見事だな……………。)
こんな小さな少女が、ここまでの技術を習得するのに、どれ程の苦労があったのか。おそらく食事と睡眠以外の時間の殆どを訓練に費やしていたに違いない。
バシッ!
ガキィーン!!
シリウスに闘気を溜める暇を与えないエレナの攻撃は、徐々に威力を増して行く。
(これまでか……………。)
もはや策が尽きたシリウスは、自らの負けを覚悟した。最後に戦った兵士が、ここまでの兵士であれば悔いは無い。シリウスでさえ及ばない機動兵士、それは世界最強の機動兵士を意味する。
(この少女に1対1の戦闘で勝てる機動兵士など存在しない……。)
ビビッ!
『シリウス将軍!』
『!?』
『遅くなりました!』
その声はマイクロエコーを通して聞こえて来た。モニターに映るアメリカ軍の兵士は存在しない。しかし、ロシア軍の兵士が一人増えているのに気が付いた。距離にして200メートル、既に目と鼻の先である。
モニターに映る地点をシリウスとエレナが同時に振り向く。おそらくマイクロエコーの声はエレナにも聞こえたのだろう。
シュン!!
『!』
それは一瞬の出来事であった。
超スピードで接近した兵士は、光学鞭(ウィップ)と呼ばれる武器をエレナに向けて解き放つ!
バシッ!
それをエレナは右腕で防御する。しかし攻撃は止まらない。
ビュビュン!!
バシバシッ!!
『……………誰?』
これにはエレナも予想外であったのだろう。突然乱入した敵の攻撃はエレナの想像を遥かに上回るスピードで攻撃を続ける。
『神楽!?』
シリウスは思わず声を漏らし、そして、自らの考えを訂正する。
世界最強の機動兵士と呼ばれるシリウス・ベルガーを圧倒するエレナ・クレシェフ。この少女に1対1の戦闘で対抗出来る兵士がいるとしたら、それは一人しか存在しない。
──────オリジナル・アリス
美しい金髪の兵士が砂漠の戦場で躍動する。
【エレナ③】
ビュン!
バシッ!
ビュビュン!!
『!』
(この武器は………厄介…………。)
全局面戦闘白兵戦を得意とするエレナ・クレシェフは初めて目にする武器に困惑していた。
光学剣(ソード)や光学槍(ランス)への対処なら何度もシュミレートをして特訓を重ねて来た。直線的な攻撃であれば防御は容易い。しかし、アリスの操る光学鞭(ウィップ)の軌道は変幻自在で読むのは難しい。
ビュビュン!!
バシッ!!
『!』
ガキィーン!!
(防御に徹していてはダメ…………。)
リーチの長い光学鞭(ウィップ)に対抗するには懐に入り込むのが有効と判断する。
クンッ!
『!』
バシュッ!!
バシッ!
エレナの手刀をアリスは光学鞭(ウィップ)で弾き飛ばし、そのまま次の攻撃を繰り出した。
ビュン!
バッ!
それを、左腕でガードしたエレナが、今度は右の回し蹴りで対抗する。
ブンッ!
『!』
ガキィーン!
ここからは反応速度の対決だ。互いの攻撃をギリギリでかわし、攻守が入れ替わりながらも2人の攻撃は止まらない。
ババッ!
ビュン!
バシッ!!
2人の攻防はまさに互角。
10億人に一人の遺伝子を持つと言われるアリスと、人体一体型『マリオネチカ』であるエレナの実力は伯仲している。
バシッ!
『!』
ビビッ!
『損傷率18%』
ズバッ!
『損傷率22%』
疲れが見え始めた2人の耐久値が、ともに削られる。
(強い………………。)
攻撃のスピード、瞬発力、戦闘技術に勝負勘、そのいずれもが、アリスが戦った機動兵士の中では最高レベルである。
あるいは、篠原 凛(しのはら りん)。奇跡のような『マリオネット』の申し子である凛にさえ匹敵する強さがエレナにはある。
いつまでも
このまま戦闘を続けていたい。
そんな衝動に駆られるアリスの耳にシリウスの声が届いたのはその時だ。
ビビッ!
『アリス!避けろ!』
『!』
『巻き添えを喰らうぞ!』
ゴゴゴゴゴゴォ!!
『マスター・ソード』に闘気が充満し大気が震える音がした。
『メテオ・クラッシュ!!』
『!』
ババッ!!
シリウス・ベルガーが全身全霊を掛けて放つ必殺剣は、相手の光学剣(ソード)など簡単に吹き飛ばす。
(これは、問題あり…………!!)
ババッ!!
慌てて両腕をクロスにさせてガードをするエレナであるが、そんな事は想定内で、シリウスは勢いを止める事なく『マスター・ソード』を突き出した!!
『鉄壁のバルゴ』の装甲を一撃で粉砕した破壊力!!
『エレナ!!』
ズババババッ!!!
『!』『!』『!』
(レッドパンサー!)
シリウスの剣とエレナの間に割り込んだのは、『クレムリン親衛隊』の隊長であるレッドパンサーであった。
『ぐおぉ!!』
スバババババッ!!
『今だ!エレナ!!シリウスを討ち取れ!!』
クンッ!!
エレナの身体は無意識に反応し、光学剣(ソード)を突き出しているシリウスの腹部を強打する!
ズバッ!
『ぐぉ!』
『シリウス将軍!!』
ビュン!!
慌ててアリスは光学鞭(ウィップ)を繰り出すが、エレナは右腕でガードして、そのままシリウスの顔面へ蹴りを繰り出す。
ドガッ!!
『ぐほっ!』
ビビッ!
『損傷率、リミット・オーバー!!』
バチバチバチバチ!
ドッガーン!!
『そんな!』
そして、シンクロが解けたシリウスにトドメを刺すのは…………。
─────レッドパンサー────
ザクッ!
「ぐぉ!!」
レッドパンサーの光学剣(ロングソード)がシリウスの血で真っ赤に染まる。
「貴様…………。なぜ、動ける…………。」
確かにシリウスの必殺の剣がレッドパンサーを捉えたはずだ。レッドパンサーの装甲が破壊されていないとおかしい。
レッドパンサーは、ゆっくりと光学剣(ロングソード)を振り上げてシリウスに答える。
『俺の『マリオネチカ』は特別製だ。』
「………な………に?」
『耐久値がゼロになる事は無いのだよ。』
「!」
(そんな馬鹿な……。耐久値がゼロにならないなど、有り得ない事だ。それは実質的な無敵を意味する。仮にそれが本当ならば、レッドパンサーには誰も敵わない。)
「逃げろ…………アリス…………。」
『!』
(この男の『マリオネット』の秘密を解かなければ、絶対に勝てない…………。)
『それが最後の言葉かシリウス。』
『シリウス将軍!!』
ズバッ!!
西暦2060年4月5日
アメリカ合衆国陸軍『シリウス隊』
シリウス・ベルガー将軍
サウジアラビアの戦場にて戦死する。