MARIONETTE- Елена

【反逆①】

彗星の剣が光り輝く

『Off to see the world,There’s such a lot of world To see.』

『Moon River(ムーン・リバー)!!』

彗星の剣から放たれた、さざ波のような光の波がシリウスに襲い掛かる。

『くっ!』

ガキィーン!!

それをシリウスは『マスター・ソード』を縦に構えて受け止めた。

『無駄です。』

『!?』

バシュッ!!

『ぐはぁっ!』

ビビッ!

『損傷率58%』

『ムーンリバーは、光学剣(ソード)の防御をすり抜ける。』

(くっ!)

シリウスは後ろへ飛び跳ねてアンドロメダとの距離を取った。これまでの戦闘はほぼ互角であったが、ここに来て2度のダメージを喰らった。これ以上の損傷は敗北を意味する。

ビビッ!

日本のマリオネットの反応も消えた。

(桜坂 神楽も負けたか……………。)

ザッ!

『勝負はまだ終わっていない。』

『…………。』

『行くぞ!アンドロメダ!!』

ビュン!

『!』

ガキィーン!!

何がシリウスを、ここまで突き動かすのか。

バシュッ!

グワン!

ガキィーン!

アメリカ軍の敗北は確実である。それでも、シリウスは剣を振るう。そのスピードは衰える事を知らない。

『ビッグバン・アタック!!』

ブワッ!!

『くっ!』

シリウスのみが扱える剣撃による遠距離攻撃が、アンドロメダに放たれた。水平線に走る光の攻撃をかわすには上へ逃げるしか方法は無い。

シュバッ!!

同時にシリウスもジャンプをしてアンドロメダを追撃する。

──────空中戦だ。


バシッ!

ズバッ!

ガキィーン!

この攻防も互角であり、互いに攻撃を当てる事が出来ない。

シュタ!

ザッ!

地面に着地した二人の兵士は、互いの剣を構えて再び対峙する。



ビビッ!

『レッドボーイ…………。見たかね。』

『レッドスコッチさん。いやぁ、僕には目で追うのがやっとで………。』

『アンドロメダ様の必殺剣、ムーンリバー………。あの技を抑えるのは容易では有りませんぞ。』

『ん?』

『君の眼なら見えるであろう。あの男から盗んだオッドアイを使えば………。』

『あぁ、そう言う事ですか………。』

レッドボーイは、照れ隠しに頭を掻いた。

『分かりました。あの二人の戦闘を見定めます。世界最高峰の技を…………。』

(盗めるものは、全て盗めむ!)


ピキィーン!


──────オッドアイ─────



ビュン!

ガキィーン!!

シュバッ!

(通常の攻撃は全て通じないわね…………。)

ビュン!

ガキィーン!

アンドロメダの全ての攻撃は弾かれ、そしてかわされる。元を正せば2人の体術はシュリング・カナムから教わったものであり、十数年の年月を経ても大きく変わる事は無い。

(やはり、必殺の技を使うしかダメージを与えられない。)

ビカッ!

『彗星の剣よ!』

『!』

『光り輝くが良い!!』

(来るか…………!)

先程の攻撃を、シリウスは『マスター・ソード』を縦に構えて防ごうとした。しかし、それだと防御する事が出来ずアンドロメダの攻撃はシリウスに命中した。

『Moon River(ムーン・リバー)!!』

(何か秘密がある……………!)

水平線に広がるさざ波のような光の攻撃。

シャキィーン!!

(光に惑わされてはいけない!)

『!』

ズバッ!!

『ぐっ!』

ビビッ!

『損傷率68%』

(くっ!掠ったか!!)

ザザッ!!

後方に飛び退いたシリウスが着地と同時に剣を構える。

しかし────。

『その技はもう通じない。』

『!』



レッドボーイの右眼が紅く染まる。

『凄いです……………。』

(あの技を放つ方も凄いですが、それを見極めるシリウス将軍も凄い…………。)

『欲しいなぁ…………。あの技…………。』


ビュン!

ガキィーン!

バッ!

ガキィーン!

アンドロメダとシリウスの攻防は互角のまま、互いに損傷は与えられない。2人の剣技は全くの互角のように見える。

ガキィーン!

(それにしても……………。)

そこでアンドロメダに一つの疑念が生じた。

『マリオネット・マスター』と呼ばれ、数多くの必殺技を持つシリウスが放った技は『ビッグバン・アタック』の一度きりだ。その『ビッグバン・アタック』とて、多人数戦に有効な遠距離攻撃であり、アンドロメダに通用するような技ではない。

(この展開には、覚えがある……………。)

最後にシリウスと戦ったのは、いつだったか。

アンドロメダは遠い記憶を思い出す。




【反逆②】

まだ、シュリング師匠が生きていた頃、四人の『マスター』の中で誰が一番強いのかが話題となった。

「シリウスさんだろう?早くから師匠に仕えた一番弟子だ。他の3人とは頭一つ抜けている。」

「アンドロメダさんの成長は物凄いものが有ります。今ならシリウスさんに勝てるんじゃないかな?」

大方の意見はシリウスで一致していたが、アンドロメダを押す声も多い。そして、二人は試合をする事になった。

ジリ

「シリウス兄さん、参ります。」

「来い!アンドロメダ!」

ブン!

バシッ!

「はっ!」

アンドロメダの正拳を否したシリウスに対し、アンドロメダはすぐさま回し蹴りを繰り出した。

バシッ!

その蹴りを左腕で防いだシリウスは、逆にアンドロメダの腹部に強烈な蹴りを繰り出す。

(くっ!)

反応が遅れた!

ドガッ!!

すぐに体勢を立て直さなければ次の一撃が来る。

バッ!

(強い………………。)

アンドロメダには自信があった。普段は兄弟子であるシリウスの顔を立てているが、試合になれば勝てる。少なくとも互角の戦いに持ち込めるはずだ。

「はぁ!」

ビシュ!

バシッ!

ブルン!!

そこからは、互いに1歩も譲らず決定打を当てる事が出来ない。

「お前達!何をしている!!」

「師匠!?」

十数分の戦闘では決着が付かず、シュリング師匠の仲裁で試合は中止となった。

(……………互角と言ったところか。)

アンドロメダの去り際に、同じマスターである張 翔飛(チャン・ツァンフェイ)が声を掛けて来た。

「姉さん、命拾いしましたね。」

「?」

「最初の蹴り…………。あれでシリウス兄さんは本気で戦うのを止めた。大切な妹を傷付けたく無いと言う事だね。」

(………………。)



あの試合から18年以上の歳月が流れた。

(まさか…………。)

『シリウス!』

『?』

『私は一度も攻撃を受けていない。』

『……………勝負はこれからだ。』

『本当でしょうか。』

『なに?』

『シリウス、貴方は本気で戦っているのですか!』

シュリング師匠は後継者を決める前に他界した。そして、今の戦況…………。たった一人でロシア軍に勝つ事が出来ない事はシリウスでも分かっているはずだ。

『わざと負けて、私に後継者を譲る気ですか。』

『!』『!』『!』『!』

アンドロメダの発言に、その場にいたロシア兵は一様に驚きの表情を見せた。

(まさか、そんな事が考えられるのか?)

レッドパンサーは思考する。

シリウスは、既に米軍の勝利を諦めアンドロメダに花を持たせる為だけに戦っている。

今回の米軍の作戦は最初からおかしい。超電磁砲(レールガン)で輸送機が撃墜された時点で勝負は決まっていた。まともな指揮官なら、あの時点で撤退を指示しただろう。そうすれば数十人の米軍兵士は助かったはずだ。

『グリーン・モンスター』進入時の作戦にも違和感がある。僅かに残された米軍兵士を分散するメリットが分からない。そして、シリウス将軍が一人で行動するのも作戦ミスだ。機動兵士同士の戦闘は複数人戦闘が基本である。ましてやシリウス将軍は最高司令官だ。明らかな作戦ミスとしか思えない。

(最初から死ぬ気だったか…………。)



すっ─────

『!』

アンドロメダは彗星の剣の構えを解いた。

『この戦争の勝敗は決しています。』

『アンドロメダ………。』

『アメリカの負けです。去りなさいシリウス。本気で戦う気の無い貴方に勝利しても意味は無い。』

『………………。』

『約束通り、決着の場はエルサレムです。シュリング師匠が殺された始まりの地…………。西側諸国の最高戦力を率いて戻って来なさい。そこで真の決着を付けましょう。』

『アンドロメダ様、お待ち下さい。』

そこで、口を開いたのはシリウスではなく、レッドスコッチであった。

『……………レッドスコッチ。』

ロシア軍最強と恐れられる『デストロイ部隊』の精鋭達、マーシャル、バルゴ、ナターシャは戦死し、最後に残された機動兵士でもある。

『敵軍の最高戦力を逃がす事に賛同は出来ませんぞ。このようなチャンスは二度と訪れない。』

『………………命令だ。』

一瞬、戦場が静まり沈黙が訪れる。

ロシア陸軍最高司令官であるアンドロメダの命令は絶対だ。そして、その沈黙を破ったのは『クレムリン親衛隊』の総帥であるレッドパンサーであった。

『『クレムリン親衛隊』、今より特殊作戦を命じる。』

『レッドパンサー………?』

『アメリカ軍の総司令官、シリウス将軍の殺害を命じる。』

『!?そんな勝手は許しません!!』

アンドロメダが珍しく声を荒げた。

『アンドロメダ総司令官。我々『クレムリン親衛隊』は大統領直属の部隊です。指揮系統は陸軍とは違います。我々は貴方の部下では有りません。』

『!』

『長く機動兵士の頂点として君臨したアンドロメダとシリウス………。戦争に私情を挟むとは、残念です。』

『何を…………。』

そして、レッドパンサーは笑う。

『お前達の時代は終わった。命令を変更する。シリウスとアンドロメダ、二人の機動兵士を殺害せよ!!』

『!』『!』

『『『ダー!』』』

ババッ!!

レッドパンサー
レッドボーイ
レッドスコッチ
そして、エレナ・クレシェフ

四人の機動兵士がアンドロメダとシリウスの周りを包囲する。その中にはアンドロメダの部下である『デストロイ部隊』のレッドスコッチも含まれていた。

『レッドスコッチ!何をしている!これは祖国に対する反逆だぞ!『クレムリン親衛隊』を迎え撃て!!』

アンドロメダがレッドスコッチに命じるも、レッドスコッチは命令に応える素振りは見せない。

『アンドロメダ様、私は『デストロイ部隊』である前に『クレムリン親衛隊』のトップファイブですぞ。知らなかったですかな?』

『なに!?』

コードネーム『レッドスコッチ』

『私に命令出来るのは、レッドパンサーのみ!』

『な……………!?』

『シリウスとアンドロメダが戦えば、何れかが敗北し、勝者にも相当なダメージが残る。』

レッドパンサーは告げる。

『そこを襲うつもりでしたが、いやはや上手く行かないものだ。まさか、シリウスを逃がそうとするなど言語道断!これで気兼ねなくお前を殺す事が出来る!』

『反逆者は僕達ではなく、アンドロメダ総司令官と言う事です。』

と、レッドボーイ。

『…………………問題無い。』


─────クレムリン親衛隊────


(最初から、これが狙いか…………。)

既にアンドロメダを守る盾は存在しない。

マーシャル・S・タイガー
バルゴ・ポドルスキ
ナターシャ・エイブラハム・フォースツー

世界最強の『デストロイ部隊』は全滅した。

『クレムリン親衛隊』のレッドパンサーは、このサウジアラビアの地でアンドロメダと『デストロイ部隊』を壊滅させる事が目的であり、それが彼等の本来の任務……………。

(モスクワを拠点とする『クレムリン親衛隊』が、遠いサウジアラビアの地まで出て来たのは、そう言う訳か………。)

ジリ

─────完全に嵌められた────



『アンドロメダ、何を焦る……………。』

『シリウス…………。』

『俺達二人を敵に回した奴等こそ絶体絶命のピンチだと、そう思わないか?世界最強の機動兵士二人を相手に、勝算はあるのかな。』

『マスター・ソード!』

ゴゴゴォ!!

シリウスの闘気が最強の剣に込められて行く。アンドロメダ戦では見せなかった、シリウスの本気だ。

『そうね……………。』

シャキーン!!

────────彗星の剣


その剣は何よりも美しく戦場を照らす。アンドロメダは彗星の剣をレッドパンサーに向けて構えた。

『『クレムリン親衛隊』とて、私達を相手に勝てるとは思えない。レッドパンサー、今からでも遅くはない。降参しなさい。』


『ふふ……………。』

『!』

レッドパンサーは笑う。

『勝算……………。』

『………。』

『勝算ならあるさ。』

『なに?』

『確かにお前達二人が共に健在なのは誤算だ。この展開は俺にも読めなかった。しかし!』

レッドパンサーは一人の少女の顔を見る。

全局面戦闘白兵戦特化型『マリオネチカ』

────通称『システマ』────


『いつまでも自分達が最強だと思わない方が良い。』

『………………。』

『エレナを手に入れた時点で『クレムリン親衛隊』が最強なのだよ。』


────エレナ・クレシェフ─────


エレナに勝てる機動兵士など存在しない。

『それにお前達は歳を取り過ぎた。『マリオネチカ』の適正のピークは30歳前だろう?時代は常に進化している。』

『貴様…………。』

『アンドロメダ、ベガ、シリウス、お前達の時代は……………。』


───────今日で終わりだ。