MARIONETTE- Елена
【開戦①】
西暦2060年 4月4日
悲劇はサウジアラビア上空にて突然に起こった。米国本土を出発した機動兵士200名を乗せた第一陣の輸送部隊は、ロシア軍が新たに実戦配備した新兵器『超電磁砲(レールガン)』の餌食となり、次々と撃ち落とされる。
驚くべきは、その威力である。輸送機に施されたシールドの耐久値はもちろん、中に搭乗していた機動兵士達の耐久値までも一瞬にして削り取る破壊力は、現代の科学では実現不可能の領域である。
ビビッ!
『シリウス将軍!ジョンソン将軍の第一陣の輸送機が全滅しました!』
(信じられん……………。)
『おい!止めろ!このままでは俺達まで殺られるぞ!』
そう叫ぶのは黒人兵士のロッドマンだ。
『敵兵器の射程距離が分からないわ!もう遅いかも!』
普段は冷静な桜坂 神楽(さくらざか かぐら)も、いつになく動揺している。
『どうするんすか!シリウス将軍!!』
アッシュ・カルロスにもおどけた様子は見られない。さすがの『シリウス隊』のメンバーも超電磁砲(レールガン)の前では無力に等しい。地上へ降りる前に殺られてはどうする事も出来ない。
ビカッ!
『!』『!』『!』『!』『!』
その時、再び大きな閃光が瞬いた。
ギュルギュルギュルギュルギュルギュル!!
『超電磁砲(レールガン)だ!』
ドッガーン!!
『!』
爆発したのは、すぐ隣を飛行していた第二陣の輸送機である。つまり既に射程距離内に突入したと言う事だ。
『あー!もう終わりっす!』
『くそっ!』
アッシュとロッドマンが吐き捨てるように叫んだ。
ビビッ!
『こちらシリウス!第二陣の輸送機に搭乗している全機動兵士に命令する!全員、輸送機から飛び降りろ!!』
『!』『!』『!』
『な!?ここ上空3000メートルっすよ!?』
『繰り返す!至急飛び降りろ!!『マリオネット』を装着していれば怪我はしないはずだ!光学兵器以外で装甲が削り取られる心配は無い!急げ!!』
『そんな無茶な!』
理論上は機動兵器『マリオネット』を装着していれば傷付く事は無い。しかし、大きな衝撃を受ける事は免れず、その際に気絶する事は大いに考えられる。
カチッ!
ウィーン
『!』『神楽先輩!?』
『隊長命令です。早く飛び降りましょう!』
それだけ言うと桜坂 神楽は上空3000メートルの輸送機から飛び降りた。
バッ!!
『うわ……。本当に飛び降りたっすよ!?』
『アッシュ!俺達も続くぞ!他の隊員も急げ!!』
バッ!!
『くっ!』
バッ!バッ!
ロッドマンに続き搭乗していた隊員達も次々と飛び降りる。
『みんな勇気あるっすね…………。』
ビカッ!!
『!』
ギュルギュル!
ドッガーン!!
第二陣を形成している輸送機は10機であり、それぞれ20人の機動兵士が搭乗している。既に2機が撃ち落とされ、単純計算で40名の機動兵士が命を落とした。
『行くぞ!アッシュ!!』
『うわぁ!』
シリウスは無理やりアッシュの腕を掴むと、そのまま外へ飛び出した。
『うわぁ!心の準備が出来ていないっすよぉぉ!!』
ビカッ!
ギュルギュルギュルギュル!
ドッガーン!!
『!』『うぉ!?』
直後にアッシュが搭乗していた輸送機が爆発する。危うく命を落とす所だ。
ゴゴゴゴゴゴォ!!
物凄い空気抵抗が兵士達に襲い掛かるが、耐えられないほどでもない。問題は着地の衝撃だろう。下手をすれば本当に気絶しかねない。
ブンッ!
『!』
シリウスが取り出したのは巨大な光学剣(ソード)である。
『隊長!何をする気っすか!?』
『捕まってろ。衝撃を和らげる。』
『え?』
グォン!!
次の瞬間、シリウスは光学剣(ソード)を振り下ろした。
『ビッグバン・アタック!!』
ビュン!!
ズババババババッ!!
ドガッーン!!
『のわぁあぁぁ!!』
大地が削られる程の威力で叩きつけられた剣圧は、地上からの暴風を巻き起こした。
『着地するぞ!』
ゴゴゴゴゴゴォ!
アッシュの腕を放したシリウスは、そのまま地上へと落下し両足で見事に着地する。
ズドーンッ!
『痛っ!!』
一方のアッシュは背中から地面に叩き付けられ、思わず叫び声をあげた。
『くぅ〜。滅茶苦茶っすね。』
すぐにモニターを確認するも損傷率はゼロ。身体に怪我をしている様子もない。
(信じられないっすね…………。『マリオネット』ってどう言う造りなんすか………。)
ビビッ!
『こちらシリウス!聞こえるか!』
……………………。
『どうしたんすか?』
マイクロエコーの調子がおかしい。
シリウスは急いでモニターを確認する。
ビビッ!
最大限に拡張したモニターに映っている味方の兵士の数は20人程度。それ以外の兵士は画像の範囲外にいるのか、それとも輸送機の爆発で死んだのか不明である。
『アッシュ。他のメンバーと繋がるか?』
『ん?』
ビビッ!
『こちら『シリウス隊』のアッシュっす。神楽先輩!ロッドマン先輩!応答して下さいっす!』
…………………。
『ダメっすね。通じないっす。』
(まずいな…………。)
落下の衝撃なのかロシア軍の妨害なのかは不明だが、マイクエコーによる連絡が取れない。通じるのは目の前にいるアッシュだけで、せいぜい拡張器程度の役割しか果たさない。
『これでは、生き残った兵士が何人なのかも分からなければ、作戦の指示を出す事も出来ない。』
『……………隊長。』
バラバラで戦っても個別撃破されるだけだ。そもそも、何をすれば良いのかも分からず兵士達は途方に暮れているだろう。
『万事休すか……………。』
シリウスは唇を噛み締めた。
『なに言ってんすか?』
そこでアッシュが口を開く。
『やる事は決まってるっしょ!』
『アッシュ………。』
『『グリーン・モンスター』の奪還。それに、あの光学兵器も放っては置けないでしょ?配備されている場所は『グリーン・モンスター』でしょ?それなら俺達の進むべきは一つ。目的は何も変わらないっすよ。』
『ふむ…………。』
何も考えていない様に見えて、まともな事を言う。
ザッ
どの道、シリウス・ベルガーの目的は決まっている。かつて、同じ師を持ち共に修行に励んだ仲間である『アンドロメダ』を殺す事だ。
例え米軍兵の最後の一兵となっても、『アンドロメダ』だけは止めなければならない。それが、シュリング・カナム師匠の一番弟子であったシリウスの使命。
『行くぞアッシュ!目的地は『グリーン・モンスター』だ。』
『イエッサ!』
シリウスとアッシュの『シリウス隊』の2人が北部にある砂漠地帯へと進む。
【開戦②】
ドッガーン!
「ひゃあぁぁぁ!?」
「人が…………落ちて来ました!?」
ロシア軍の追っ手から逃走中の『アレックス隊』の目の前に現れたのは、何とアメリカ軍の兵士である。
『痛っ…………………。』
「大丈夫か!?何があった!?」
『流石に寿命が縮むぜ……………。』
むくりと立ち上がった兵士はアレックスよりも高身長の黒人男性だ。
『あぁ?誰だお前達は?』
「それはこっちのセリフだ……………。」
男の名前はロッドマン。今回の『グリーン・モンスター奪還作戦』に参加している米軍兵士だ。ロッドマンはシンクロを解くとアレックス達の車に乗り込み情報交換を始める。
「ロシア軍の新兵器だ。あれに撃ち落とされた。」
「ちょっと車内狭くありません!?」
と、シシリア。
「これ何人乗りですか?8人も乗車してますけど?」
不満を口にするのは高岡 咲だ。
「いや、アンタも客人だろう?」
とアレックス。
「俺の話を聞けやっ!?」
ロッドマンが怒鳴り散らすが、エリーはロッドマンの膝の上に乗ってお菓子を食べている。
「これ、美味しいデス!」
「…………………。」
「とにかくだ。俺達はこれから何処へ行けば良いんだ?」
と車を運転しているロデオがメンバーへ問い掛ける。
「……………。」「…………。」
選択肢は2つある。
一つはイギリス本国への脱出だ。空港を使えない以上は国境を通り抜けるしか無いが、ロシア軍の監視は厳しい。『マリオネット』を装着して切り抜ける事となる。
「まぁ、俺達ならそれも可能だろう。」
しかし、今回の米露決戦。
西側諸国最強のアメリカ軍が負ける事にでもなれば、世界の勢力図は大きく変わる。
「シリウス将軍が負けるような事にでもなれば、西側諸国に明日は無い…………。」
絶対に負けられない戦争だ。
そして
「行きましょう!私も戦うわ!」
(羽生 明日香…………。なんでコイツやる気満々なんだ?)
米軍と共に『グリーン・モンスター奪還作戦』に参加する選択肢もある。
そして、アレックスはメンバーに告げる。
「逃げるぞ。」
「!」「!」
「待ってくれ!この戦争の重要性を!」
「ロッドマン。俺達には俺達の任務がある。すまんな…………。」
「…………。」
「しかし『グリーン・モンスター』までは送り届けよう。どのみち国境を接する同盟国はエジプトしかない。その途中に『グリーン・モンスター』はある。」
「あぁ。」
ロッドマンはアレックス達に感謝の言葉を述べる。
「悪いな。巻き込んじまった。」
「どうせ通り道だ。」
ブルン
ブルン
8人を乗せた車が走り出して10分ほど経過した時…………。
ビュン!!
「!」「!」「!」「!」
「敵襲です!シンクロを!!」
シシリアが声をあげる。
同時にメンバーは一斉に『マリオネット』を装着する。