MARIONETTE- ASKA


【脱落①】

統括隊長選抜試験


23歩兵部隊

隊長 不知火 詩音(しらぬい しおん)

不知火流抜刀術の使い手で数多の技を使いこなす格闘センスは防衛軍の中でもトップクラス。不知火の黄金のマリオネットがその真価を発揮する。


ビカビカビカッ!


ゴールド・オブ・コンゴウ(黄金の金剛神)

モデル・阿形(アギョウ)


不知火流抜刀術を扱う不知火専用に造られたマリオネットが、黄金色に輝いた。


『不知火流抜刀術!烈風剣!!』


『!』


どのような人間でも、突然に強い光を浴びせられれば一時的に視力を失う。その最中に瞬速の剣を突き付けられたなら、反応も出来ずに破壊されるであろう。ましてや不知火の剣速は武術の達人の域に達している。それが『マリオネット』の能力により倍増される。


反応出来るはずが無い───


人間の網膜の構造上、視力が回復するまでに数秒の時間を要する。初見でこの技を破る事は不可能であり、だからこその必殺技だ。


ガキィーン!!


七瀬 怜が大きく後ろへ吹き飛ばされる。


『『おぉ!!』』


生き残った兵士達が歓声をあげた。数人掛かりでも傷一つ負わす事が出来なかった七瀬に初めて剣を叩き込んだのは四天王の一人、不知火 詩音(しらぬい しおん)。


しかし


白嶺  和馬(しらみね かずま)は、七瀬の反応を見逃さない。


『まだだ!不知火!来るぞ!』


『!』


後ろへ飛ばされた怜は、地面に足を付けると大きく前方へとジャンプする。


『な!?』


『ダブルフルーレ!!』


バシュッ!バシュッ!


ビビッ!


『損傷率28%』


思わぬ反撃に不知火の装甲が削り取られる。


『くっ!』


不知火は驚きを隠せないようだ。


(あの女………、あの状態で後ろへ飛びますか………。)


吹き飛ばされたように見えたのは、怜が自ら後ろへ飛んだからだ。不知火の剣は掠(かす)ったに過ぎず、おそらく損傷率も僅かだろう。


『不知火流抜刀術!死閃剣!!』


それでも不知火は諦めない。すぐさま体勢を立て直し最も得意とする技を怜へと繰り出す。


シュバッ!


ガキィーン!!


シュル!


『!?』


怜は1本の光学剣(フルーレ)で不知火の刃を受け止めると、もう1本の光学剣(フルーレ)を不知火へと突き出した。


バッ!


ビビッ!


『損傷率47%』


(ちっ!)


───二刀流(ダブルフルーレ)───


なんとも厄介な2本の光学剣だ。防衛軍の兵士の中でも2本の光学剣を使いこなす兵士は居ない。慣れない戦闘に不知火は防戦を余儀なくされる。


(まさか、ここまで強いとは!)


七瀬の事は知っていた。昨年の学園対抗戦で、歴代最強と言われた大和学園の生徒達を完膚なきまでに叩きのめした機動兵士。その美しい白い『マリオネット』を人は『純白の花嫁』と形容する。


ビシュッ!


ズバッ!


『損傷率67%』


しかし!


次期統括隊長候補と言われ四天王とまで言われる不知火 詩音(しらぬい しおん)が、ここまで圧倒されるとは…………。


(不知火 詩音、ここまでですね。)


白嶺  和馬は、そっと右腕を上げた。


残された手段は一斉攻撃。一人一人で立ち向かっても勝てる相手では無い。四天王の一人である不知火が勝てないのだから、そう判断せざるを得ない。第2、第4、第7、第18、第23歩兵部隊の生き残りは10人。同時攻撃ならば損傷を負わせる事が出来る。


(あとは、めい様が倒して下さる。)


白嶺は自らが統括隊長となる事を諦めた。現在の戦力で取り得る最善の策は怜の損傷率を高めること。


『一斉攻撃です!行きますよ!!』


『おー!』


『うぉりゃあぁぁ!!』


バッ!


バシュッ!


『ぐわぁ!』


ズバッ!!


バキィーン!!




ドキ


ドキ


(すごい…………。)


たった一人で防衛軍の兵士達を倒して行く。


『おい、お前!』


羽生 明日香(はにゅう あすか)に声を掛けるのは飛鳥(アスカ)だ。


『ひゃい!』


突然の呼び掛けに明日香の返事がひっくり返った。


『あの女………、何者だ?』


そう思うのも無理は無い。この実力差は普通ではない。しかし………。


『えっと…………。わかりません!』


『……………。』


(でも………。もしかしたら……………。)


思い出した。明日香は一度だけ彼女の戦闘を見た事がある。昨年の学園対抗戦の第三戦、フランス帰りの帰国子女の兵士が憧れの北条 帝(ほうじょう みかど)様を倒していた事を…………。


『バトルロワイヤルか………。』


飛鳥が呟く。


『面白い。俺とあの女が組めば他の兵士など赤子に等しい。これで生き残る算段が立った。防衛軍の奴等に目の物を見せてやる。』


個々の実力なら負ける気がしない。唯一の弱点は仲間が居なかった事。その弱点を補強出来たのだから申し分無い。


『私も……………。』


『あ?』


『私も一緒に戦うわ!』


『なに!?』


『多対一!さっきの防衛軍のやり方は卑怯だもの!あれは本当の兵士の戦い方じゃないわ!』


『いや、お前、戦力になるのか?』


『なに言ってるの!気持ちよ!気持ち!』


『はぁ?』


『一緒にバトルロワイヤル?勝ち残りましょー!』


『………………。』


羽生 明日香(はにゅう あすか)

飛鳥(アスカ)

七瀬 怜(ななせ れい)


試験開始40分が経過した頃、こうして新たなチームが結成された。



【脱落②】


一方、第17歩兵部隊と第28歩兵部隊との戦闘


ボンッ!


ボボンッ!


(煙幕!?睦月の野郎!)


第28歩兵部隊に所属する斎藤 睦月(さいとう むつき)は自ら開発した幾多の武器を『マリオネット』に内蔵している。その名も『新・破裂の人形』。睦月の撃ち出した煙幕が第17歩兵部隊の3人を覆い隠す。


煙幕により視界が無くなる中、北条 帝(ほうじょう みかど)、諸星   圭太(もろぼし   けいた)、志村  一樹(しむら  かずき)の3人は作戦の確認をしていた。


『おい!北条!どうすんだよ!?』


『慌てるな!睦月の考えならお見通しだ!』


そう答えるのは北条 帝。帝と睦月は大和学園出身の同じ元クラスメイト。睦月の考えなど手に取るように分かる。


『奴の狙いは俺達の足止めだ。鼻から戦う気は無い。』


『?』『どう言う事だ?』


帝は部隊の仲間に説明する。


『レーダーを見ろ。俺達の部隊の神坂隊長、奴等の金剛隊長が戦闘中だ。睦月の狙いは時間稼ぎ。隊長同士の一騎打ちで決着を付けようって算段だろう。』


神坂  義経(かみさか  よしつね)

金剛  仁(こんごうじん)


2人とも昨年防衛軍に入隊した若きエース。ともに四天王と称される実力者。


『総合力なら俺達が上だ。第28歩兵部隊の望みは金剛隊長が勝つ事だ。その上で俺達と戦うしか望みは無い。』


『何だよ。それなら俺達は隊長達の戦闘が終わるまで待機って事か?』


『つまらんな。所詮はこけおどしの煙幕だけか………。』


ボボンッ!


ドガッ!


『うおっ!?』


ビビッ!


『損傷率17%』


『あ?』


その時、志村のマリオネットの損傷率が計上される。


『おい!北条!どう言う事だ!?』


『実弾兵器!?』


『マリオネット』の戦闘では実弾兵器は存在しない。光学剣(ソード)や光学槍(ランス)などの光学兵器で戦うのが一般的で物理攻撃では相手にダメージを与えられないからだ。そして、大量のエネルギーを消費する光学銃(レーザー光線)を扱う機動兵士もいない。エネルギーを保管するバックパックが巨大になり、機動兵士の命とも言うべきスピードが抑制されるからだ。つまり、『マリオネット』の戦闘では遠距離攻撃は存在しない事になっている。


それを可能としたのが『新・破裂の人形』


斎藤  睦月(さいとう  むつき)は、煙幕に織り交ぜて光の弾丸を発射する。


『ガードフレイム砲!!』


ドドンッ!


『ぐわっ!』


ビビッ!


『損傷率35%』


『睦月の野郎!ガードフレイム砲まで撃ってきやがった!まともにやり合う気か!?』


予想が外れた北条が巨大な光学槍(ランス)を構えた。


『前言撤回だ!諸星!志村!行くぞ!ここに居ても耐久値を削り取られるだけだ!』


シュバッ!


3人の兵士の動きは素早い。北条だけではなく、諸星と志村の戦闘能力も新人兵士の中では平均以上、正面からやり合えば負ける事は無い。


グンッ!


『!』『!』『!』


バシュッ!


『ぐぉ!』


そこに現れたのは、次元  修斗(じげん  しゅうと)。修斗は志村に狙いを定めて光学剣(ソード)を連打する。


バシュバシュ!ドバッ!!


バチバチバチ!


ドッガーンッ!!


『志村!!』


不意打ちによる連打で、志村  一樹(しむら  かずき)のマリオネットの耐久値が限界を越えた。第17歩兵部隊にとっては初の脱落となる。


『貴様!』


ブンッ!!


『うぉっと!』


修斗は北条 帝が突き出した光学槍をかわすと、そのまま一直線に逃げ出した。


『悪いがお前とは戦う気は無い!新兵のクセに強すぎだっつーの!!』


『な!?』


ボボン!


ドッガーン!


モクモク


『また煙幕か!』


(まずいな、睦月の作戦に引きずり込まれる…………。)


北条は顔をしかめた。




【脱落③】


その2000メートル東側では、高岡  咲(たかおか  さき)と大和  幸一(やまと  こういち)が戦闘を繰り広げていた。


ビュン!


バシッ!


ガキィーン!!


(速い…………!)


驚いたのは幸一の方だ。3学年時の大和学園個人戦優勝経験もある幸一の『マリオネット』はスピード型だ。大和学園で大和のスピードに付いて来れる兵士はそうは居ない。


(高岡 咲………。確か武蔵学園での最終ランキングは5位前後だったか……。)


侮っては居なかったが、ここまで速いのは予想以上だ。互いに剣を繰り出すが、未だ相手に損傷を負わせていない。つまり互角。


ガキィーン!


グルン!


ガキィーン!!


(しかし妙だ…………。)


咲は幸一の剣を受けはするが、自らの攻撃は殆どしない。防御に徹しているようにも見える。


そして


バッ!


『ちっ!逃がすか!』


ガキィーン!!


神坂隊長や北条達が戦っている戦闘エリアから遠ざかる一方。


(時間稼ぎか…………。)


高岡 咲は大和 幸一に勝つつもりなど微塵も無い。戦闘は防御に徹して、ひたすら時間を稼ぐ。それが第28歩兵部隊の作戦。


『それほど金剛隊長を信じているのか。』


『!』


『だが甘い。神坂隊長はその上を行く。そして、更にその上を行くのが………。』


バッ!


『俺だ!』


『!!』


ズバッ!!


『きゃっ!』


ビビッ!


『損傷率24%』


初めて両者の一方に損傷率が計上される。


『昨年の学園対抗戦、俺達は負けた。』


大和 幸一は独り言とも取れるように語り始める。


『あの時、俺達は七瀬 怜(ななせ れい)と言う機動兵士に打ちのめされた。どれだけ悔しかったか………。』


『…………。』


『学年ランキングの上位を独占する俺達は自惚れていたのかもしれない。あの試合で目が冷めたよ。それから血の滲むような特訓を重ねた。』


今回の統括隊長選抜試験


『出ているのだろう?七瀬 怜も。』


幸一は語気を強める。


『悪いが負ける訳には行かない。お前にも、神坂隊長にも、統括隊長達にも…………。七瀬 怜にも!!』


負けられない理由がある。


『ありす』の代わりにアメリカ軍の人質となった桜坂先輩。命を賭して戦った『篠原 凛』の為にも。大和 幸一は負ける訳には行かない。誰よりも強くならなければ誰も護れない。


『逃げずに掛かって来い!!』


ビクッ!


咲は幸一の気迫に気圧される。


『そうね…………。』


そして、光学剣(ソード)を構え直した。


『高岡 咲!行きます!!』


大和 幸一の想いに咲は応えねばならない。時間稼ぎなどしている場合ではない。


クンッ!


咲の動きが加速する。

そのスピードは今までのどの剣さばきよりも鋭かった。


(やはり速い!)


幸一は咲の攻撃をかわす事を諦め、同士討ちを狙う。想いの乗った剣が負ける訳が無い。


バシュッ!


ズバッ!


2人の光学剣(ソード)が同時に相手の胸元に突き刺さる。


『きゃあぁぁ!!』


『!?』


ブワッ!


しかし、吹き飛んだのは高岡 咲のみ。数メートル吹き飛ばされた咲はそのまま地面に倒れ込んだ。


ビビッ!


『損傷率78%』


(何だ?)


ビビッ!


『損傷率5%』


(5%…………?)


幸一は自らの損傷率を確認する。


『そう言う事か………。』


つまり、高岡 咲の『マリオネット』はスピード全振りの特注型だ。攻撃力も耐久力も捨てたスピード特化。それで幸一のスピードと互角に渡り合えていたと言う事だ。


『私の負けよ。』


ブンッ


そう言って咲は自らのシンクロを解除する。


「そろそろ決着が付くもの。私の役目はお終い。」


『……………。』


決着とは隊長同士の戦闘だろう。


その戦いには幸一も興味がある。ともに四天王と呼ばれる新世代の機動兵士。果たしてどちらが強いのか?


神坂  義経(かみさか  よしつね)か?

金剛  仁(こんごうじん)か?



ズバッ!


『ぐぉ!』


バチバチバチ!


ドッガーン!!



『ふぅ…………。』


神坂 義経は自分の損傷率を確認する。


(損傷率0%…………。)


そして神坂は告げる。


『金剛…………。学生時代と同じだ。攻撃型のお前では俺に掠り傷一つ負わせる事は出来ない。』


神坂 義経は天才だ。


天才的な運動神経と反射神経を持ち合わせ、相手の攻撃を全て受け流す。相手の攻撃が全く当たらないのだ。攻撃力を武器とする金剛にとっては最悪の相性。


青白く輝くブルーのマリオネットが、一人大地に佇んでいた。





統括隊長選抜試験が開始してから50分経過


優勝候補の1角であった2人の四天王


不知火 詩音(しらぬい しおん)

金剛 仁(こんごう じん)


─────────脱落