MARIONETTE- ASKA
【白いマリオネット①】
『ぬぉおぉぉぉ!!』
物凄い雄叫びと共に振り下ろされるのは『クレイモア』と呼ばれる巨大な光学剣(ソード)。
ドガッ!
『ぐぉ!』
バチバチバチッ!
ドッガーン!!
『よっしゃぁぁ!次は誰だ!掛かって来い!!』
鬼よりも怖い形相で、辺りにいる兵士を睨み付けるのは、第28歩兵部隊の隊長、金剛 仁(こんごう じん)。
『統括隊長選抜試験』が始まって30分が経過したが、近くにいた3つの部隊は、既に金剛の『クレイモア』の餌食となり壊滅状態。
『ひぃ!降参だ!』
『助けてくれぇ!』
バシュ!
ズバッ!
ドガガガッ!
ドッガーン!
ドッガーン!
ドッガーン!
金剛の容赦の無い攻撃に、生き残った兵士達も戦線離脱を余儀なくされた。
『ゴリって、こんなに強かったんだ?』
ビビッ!
『当然でござるよ、明日香殿。金剛隊長は四天王の一角として恐れられているでござる。金剛隊長に勝てる兵士など、そうは居ないでござるよ。』
明日香の呟きに斎藤 睦月が返答をする。
『四天王ね………。』
そう。
羽生 明日香(はにゅう あすか)が、今回の選抜試験に乗り気でないのには理由がある。
今回の試験は問答無用のバトルロワイヤル。周りの全ての兵士が敵だ。
と、言う事は…………。
『来たか………。』
『!』
『この戦域一帯で生き残っているのは俺達以外には奴らしかいない。』
金剛がモニターに映るナンバリングを確認する。
『第17歩兵部隊。天才神坂が率いる最も勢いのある部隊って奴か……。』
次元 修斗(じげん しゅうと)も、いつになく真剣な表情を見せた。
『早くも四天王同士が直接対決とは、笑えないでござるな……。しかも……。』
斎藤 睦月(さいとう むつき)の言葉の続きを高岡 咲(たかおか さき)が補足する。
『第17歩兵部隊には、あの北条と大和もいる。笑えない所じゃ無い、分が悪過ぎるわ。』
そう。
羽生 明日香(はにゅう あすか)が乗り気でない理由は一つ。憧れの北条 帝(ほうじょう みかど)様と戦うなんて、とんでもない。出来ればゴリ隊長には、すんなり負けて貰いたいくらいである。
『と言う事で…………。』
『ん?明日香?』
『さいなら!』
ビュン!
『ちょっと明日香!どこ行くのよ!』
『ごっめーん!急用を思い出して!』
『急用ってアンタ!』
スピードだけは一人前の明日香は、またたく間に戦場から遠ざかって行った。
(逃げた………。)
(逃げやがった………。)
(逃げたでござる。)
ビビッ!
『皆の者、落ち着け。』
『ゴ…………金剛隊長。』
『羽生は『マリオネット』を装着してから間もない素人だ。この戦場には荷が重すぎる。解ってやれ。』
『しかし、相手はあの第17歩兵部隊。1人でも人数が欠けたら益々勝ち目が……。』
それほどの強敵。
四天王の1人、神坂 義経(かみさか よしつね)は『防衛軍』に入隊してから個人戦の成績は負け無しの全勝無敗。
加えて新入隊員の北条と大和の二人は、今年入隊した新兵の中では将来性を高く評価された有望株。下手な部隊長クラスよりも、よほど強いと評判だ。
その3人が、同じ部隊に所属しているのだから反則としか思えない。
『まぁ、知らない仲では無いでござる。やるだけやるでござるよ。』
『それなら、大和 幸一(やまと こういち)は私が引き受けるわ。』
『咲殿?』
『彼とは昨年の『学園対抗戦』で戦っているし、彼のスピードに付いて行けるのは私しかいない。そうでしょ?』
『そうでござった。咲殿は一度、幸一殿を倒していた、でござったな。』
(まぁ、あの時は怜がいたけどね。)
咲は、そう言い掛けて声に出すのを止めた。
ビビッ!
『来たぞ!話の続きは生き延びてからにしやがれ!!』
ドドン!
前方距離300メートル
既に目視(もくし)出来る地点に現れたのは神坂 義経(かみさか よしつね)。
『俺も色々と考えたさ………。』
神坂は、ポツリとそんな事を言い出した。
『北条の奴ぁ、ど派手なデカイ槍に金色の『マリオネット』。そりゃあ目立ちやがる。』
※しかし金色では無い。
『大和なんて自分の事を戦艦『大和』とほざきやがる。どんだけ逝かれてんだって話だ。』
※そんな事は言っていない。
『そこでだ。』
ビカッ!
(む………?)
神坂 義経(かみさか よしつね)の『マリオネット』が青白く光り輝いた。
『決めたぜ。今後は俺のイメージカラーは青だ。(※その為に髪の毛も蒼く染めた。)そして『マリオネット』の名前は………。』
『トール(雷の化身)!!』
『北条の野郎は勘違いしていやがる。真の雷の神の名は『トール』だ。『オーディン』じゃあ……無い!!』
※しかし青色とは無縁
(ふっ………。)
したり顔で、ポーズを決める神坂。
そこに
グワッ!
ブルン!
『のわっ!』
金剛の『クレイモア』が襲い掛かった。
『てんめぇ!まだ、余韻に浸っている最中だろうが!空気読めよ!』
『神坂、言いたい事はそれだけか!』
ズバッ!
ガキィーン!
ビリビリッ!
(ちっ!流石に重い!)
『悪いが神坂……。貴様に付き合っている暇は無い。』
『なに!?』
『俺が目指すのはお前じゃあ無い!』
グワッ!
ガキィーン!
ビリビリ!
金剛のクレイモアの攻撃を、今度は一歩も引かずに防いだ神坂。
『へぇ、そいつは奇遇だな。』
ザッ!
神坂 義経(かみさか よしつね)は光学剣(ソード)を構える。
『悪いが、俺が目指すのはNo1。そうだな……。しいて言えば………。』
紫電 隼人(しでん はやと)
『!』
『同じ四天王でも、奴だけは例外だ。俺様の無敗伝説に唯一、土を付けた紫電だけは別格だ。悪いがお前など眼中にねぇ。』
『ふん……。いつまでも武蔵学園時代の俺だと思うなよ。』
ザッ!
『ぬぉおぉぉぉ!!』
『そりゃぁぁぁ!!』
【白いマリオネット②】
『はぁ、はぁ、はぁ。』
ここまで来れば誰も追っては来れまい。
全力疾走した明日香は、改めてモニターを開き敵味方の位置情報を確認する。
『第28歩兵部隊の仲間達は……。うん、近くに居ない………って!?』
モニターに映し出されたのは、10数人からなる兵士達の番号だ。
『な!……第2、第4、第7、第18、第23……何なのここは!周り全部敵だらけじゃない!』
慌てて周りの様子を確認する明日香。富士の密林だけあって、視界はそれほど良くはない。
しかし
ガキィーン!
ガキィーン!
近くで剣の交わる音がする。
(結構近い………。これだけの部隊が集まっているんだから、どんだけ混戦なんだか……。)
そう思い、明日香はそっと音がする方を覗き見た。
ボボボボボボッ!
『!』
『秘剣!烈火斬(れっかざん)!!』
ズバッ!
『ぐわっ!』
『おい!大丈夫か!』
『不知火隊長!そんなのは後回しです!』
『!』
『他の部隊の兵士など構っていたら……、貴方も奴の餌食です。』
しん
音が止んだ………。
いや、飛鳥(アスカ)の耳にはもう雑音は入らない。
戦闘が始まって既に30分は経過しただろう。そして、倒した兵士の数は10人は越えている。
しかし
(この男……、白嶺 和馬(しらみね かずま)とか言ったか………。)
一分の隙も見せない。
(全力を出せば殺れない事も無いだろうが、後が続かねぇ。300%以上のシンクロ率を続けるのは危険過ぎる………。)
ザッ!
(仕方ねぇ………、ここは一旦引くか………。)
ジャリ………。
『………不知火隊長は奴の後ろへ。』
『なに?』
『第2歩兵部隊は奴の右側を、残りは左側を固めて下さい。』
『………。』
『はっ!白嶺副隊長!』
ザザッ!
白嶺 和馬は冷静に光学槍(ランス)を構える。
『不知火隊長……。先程の言葉は訂正します。』
その光学槍(ランス)は、どこまでも白く雪の様な光を放つ。
『この男を倒すには、貴方の力も必要の様です。』
(こいつ………。)
『さぁ、飛鳥……。貴方はまだ、私に一太刀も浴びせていない。逃げてばかり居ないで掛かって来なさい。』
ボボボボボボッ!
『面白ぇ……。』
白嶺の白い『マリオネット』とは対象的に、飛鳥の『マリオネット』が真っ赤に燃え上がる。
『俺の本当の実力を見せてやるよ。』
ボボボボボボッ!
(白嶺 和馬(しらみね かずま)……。)
不知火 詩音(しらぬい しおん)は二人の会話を聞いて白嶺の凄さを思い知る。
飛鳥(アスカ)の体力は間違い無く落ちている。その証拠に飛鳥はこの戦場から逃げるタイミングを測っていた。
それを白嶺は、逃げ道を塞ぐと同時に奴を挑発し、自らと戦う道を選ばせた。
(こんな凄い男が、隊のNo2か……。第2歩兵部隊……侮れない部隊だ。)
ドクン
ドクン
『どうしました?』
ドクン
ドクン
『貴方のその炎は、見掛け倒しでしょうか。』
ザッ!
(この期に及んで、まだ挑発するか。しかし…。)
『うるせぇ!!』
ボボボボボボッ!
(効果はテキメンだ。)
ズバッ!!
『ぐほっ!』
グルンッ!
ガキィーン!!
ゴロゴロ!
ドサッ!
『ほぉ、よくぞ二発目を受け止めましたね。』
『てんめぇ……。』
ビビッ!
『損傷率38%』
(不味いな……。これ以上の損傷は不味い。)
ザッ!
『どうしました?息が上がっていますよ。』
『当たりめぇだ。こっちは数十人を相手に1人で戦ってんだ!』
1対1なら誰にも負けるはずが無い。飛鳥は心底そう思う。せめて、1人でも仲間がいれば、こんな奴に負けるはずが………。
(いや、これも自業自得か………。)
そして、飛鳥は白嶺に言う。
『その目が気に入らねぇな。』
『なに?』
『後の事は知った事じゃねぇ。お前だけは潰させて貰う。』
『ほぉ。出来るのですか?今の貴方に。』
ボボボボボボッ!
『舐めんじゃねぇ!!』
『!』
ガキィーン!!
(何なのこれ………。)
羽生 明日香(はにゅう あすか)は、目の前で繰り広げられている光景に目を疑った。
(混戦なんかじゃない。ここに集まった兵士達は、1人の男を倒す為に集まったんだ。)
飛鳥(アスカ)を倒す為に何十人もの兵士が………。
これが
『防衛軍』のする事なの?
明日香が夢に見た『防衛軍』の兵士達は、そんな男達じゃない。日本国を護る為に命を賭けて戦う男達。
決してヒーローなんかでは無いけれど、現実はそんなに甘いものでは無いけれど……。
こんなのは違う!
こんなの見て居られない!!
明日香は立ち上がる。
明日香が加勢した所で、何がどうなる訳でもない。
そんな事は分かっている。
それでも、明日香の良心が
明日香の信念が、明日香に勇気を与える。
(よしっ!)
腹は括った。
(行こう!)
そして、明日香は足を一歩踏み出した。
その時
すっ
『!?』
白くしなやかな細い腕が、明日香の行く手を遮った。
『な………。』
『止めておいた方が良いわ。あれだけの数の兵士。1人や2人が助けに行ってもどうにもならない。分かるでしょ?』
『そんな………でも!』
『まぁ、見ていて下さい。貴女の代わりに私が行きます。』
『え………?』
ザッ!
その女性兵士は、1人で戦場へと歩き出す。
『ちょっ!待ってよ!1人や2人の助けではどうにもならないって!』
『ふふ……。』
事もあろうか、その女性兵士は微笑んで見せた。
『そんなの嘘よ。』
『な!?』
『本当の戦場では、たった1人の兵士の力が戦況を大きく変えるの。』
そう言い残し、黒く長い髪をなびかせながら、純白の『マリオネット』を装着した兵士が戦場へと向かう。
明日香は、その後ろ姿が忘れられない。
その真っ白い、純白のマリオネットの勇姿を。