MARIONETTE- ASKA

【炎の兵士①】

ちゅんちゅん♪

カチ

コチ

カチ

ガチャ!

ビリリリリリリッ!

(!)

西暦2059年4月7日  午前05時00分

防衛軍の朝は早い。

ベッドから飛び起きた羽生  明日香(はにゅう  あすか)は早急に支度を済まし、明日香の所属する第28歩兵部隊の部隊室へと急ぐ。

ギギィ

こっそりと室内を覗き込んだ内部には既に3名の隊員が待機していた。

「ギリギリセーフね、明日香。」

最初に声を掛けたのは高岡  咲(たかおか  さき)。入隊式の日に知り合った咲(さき)と同じ部隊に配属となったのは何とも有り難い。

もっとも、今年の防衛軍に入隊した女性隊員は全部で8名おり軍の配慮なのか同じ部隊には必ず二人の女性隊員が配属となっている。1/7の確率で咲と同じ部隊になった計算だ。

「おはようでござる。明日香殿。」

「あ、睦月さん……おはよう。」

そして、この変な口調で話すのは斎藤  睦月(さいとう  むつき)隊員だ。本人はともかく大和学園時代には、明日香の憧れの北条  帝(ほうじょう  みかど)隊員と同じチームを組んでいた事から入隊前から彼の事は知っていた。

現在の防衛軍の部隊は、隊長と四名の隊員。すなわち五名編成からなる。大和学園や武蔵学園では6名編成で部隊が組まれるが、世界では五名編成が一般的だ。

この第28部隊の隊員は明日香達三名の新兵と、二人の先輩隊員からなる。

「はぁ……。今日から『対人訓練』が始まるのに、うちの部隊にはロクな新兵が配属にならねぇ。ついてねぇな……。」

そうボヤくのは次元  修斗(じげん  しゅうと)隊員だ。武蔵学園時代の最終学年ランキングは43位で咲(さき)の一期上の先輩にあたる。防衛軍内部の実力も中の下と言った所で、要するにそれほど強くない。

新たに29に編成された歩兵部隊は、これからの一年間を同じ部隊のメンバーで過ごす事となる。

(ついてないのは、こっちも同じよ。帝(みかど)様とは同じ部隊になれないし、他のメンバーも冴えない男ばっか……。)

何より隊長の兵士がゴリラみたいにゴツい男なのがゲッソリする。昨日は三分遅刻しただけでガッツリ怒られたのだから尚更だ。

ガチャ

明日香がそう思っている矢先に隊長の金剛  仁(こんごう  じん)が現れた。

「おぅ、今日は間に合った様だな。」

明日香の顔を見るなり嫌味な事を口にする金剛隊長。老けて見えるが年齢は明日香の一つ上。この春に第28歩兵部隊の隊長に昇格したばかりだ。

羽生  明日香(はにゅう  あすか)
高岡  咲(たかおか  さき)
斎藤  睦月(さいとう  むつき)
次元  修斗(じげん  しゅうと)
金剛  仁(こんごう  じん)

この五人が、羽生  明日香の所属する第28歩兵部隊のメンバーだ。

「『対人訓練』って何をするんですか?」

質問したのは高岡  咲(たかおか  さき)。咲はこう見えても武蔵学園の三学年時に『クラス対抗戦』で優勝した事もある実力者。金剛隊長とも学園時代に対戦した事があるらしい。

「なに、大した事は無い。他の部隊と実践練習をするだけだ。もっとも……。」

金剛はそう言うと明日香の方に目をやった。

「うちの部隊にはまともに『マリオネット』を装着出来ない隊員がいる。実質5対4の戦闘になる。油断するなよ。」

(な!?)

何と言う嫌味な隊長だろう。

明日香が初めて『マリオネット』を装着したのは一週間前の入隊式の後だ。上手く操れなくて当然ではないか。

「で、金剛隊長、今日の訓練の相手はどの部隊だ?」

次元  修斗がもっともらしく質問する。

「あぁ、俺達の相手は第3歩兵部隊。精鋭部隊だ。」

「第3歩兵部隊?マジか……。本気か金剛隊長。」

防御軍の部隊は若い番号の部隊に古参兵が配属される傾向にある。特に第1から第3歩兵部隊は、その全てが2年前の『横浜紛争』の生き残り。強者の集まりと言われている。

「だからこそだ。」

金剛  仁(こんごう  じん)は語気を強める。

「奴ら古参兵を倒さねば俺達に未来は無い。」

「なに?」

「所詮は統括隊長にもなれない程度の実力だ。俺が目指すのはその先にある。」

ゴクリ

金剛  仁が目指すのは部隊長レベルではない。防衛軍の最高戦力と呼ばれる統括隊長達。

第一統括隊長
伊集院  翼(いじゅういん  つばさ)

第二統括隊長
夢  香織(ゆめ  かおり)

現在は二人しかいない強者の中の強者。

「古参兵を倒してこそ、統括隊長の二人と戦う資格が得られる。こんな所で立ち止まっている暇は無い。」

「いや、お前……、そんな事に俺達を巻き込むなよ。」

ゾクゾクッ!

「ナイス!ゴリ隊長!!」

「ゴリ!?」

口を挟んだのは羽生  明日香。

「それよそれ!あたしが防衛軍に求めていたもの!日本国の為に魂を削って戦う男達!う〜ん痺れる!!」

「何言ってんだお前?」

「あたしも精一杯戦うわ!頑張りましょう!ゴリ隊長!」

ボカっ!

「痛っ!」

「ゴリラじゃない。金剛(こんごう)だ!」

「す!すみません!」

「まぁ良い。」

「………?」

「お前の様な若い兵士が日本の未来を救うのだ。まずは『マリオネット』を操れる様になる事だな。わかったな!羽生(はにゅう)!」

「はい!ゴリ隊長!」

「な!?」


ちゅんちゅん

防衛軍の朝は早い。

早起きは三文の得とはよく言ったものだ。

打ち合わせが終わった明日香が基地内の通路を歩いていると前方から二人の兵士が歩いて来るのが見えた。

(!)

北条  帝(ほうじょう  みかど)
大和  幸一(やまと  こういち)

(帝(みかど)様!)

憧れの帝様が前方から歩いて来る。

(かっこいい………。)

「幸一殿!帝殿!どうしたでござるか?」

すると隣を歩いていた斎藤  睦月(さいとう  むつき)が、二人の兵士に声を掛ける。

グッジョブ!

明日香は心の中でガッツポーズをする。

見た目は変態ムッツリオタクだが、北条様と友達なのは調査済みだ。何せ三人は大和学園『クラス対抗戦』の優勝メンバー。
 
「おぅ!睦月。幸一と雑談をしていただけだ。」

「雑談でござるか?」

「俺達二人は同じ部隊に配属になったからな。で、今日の対人訓練の打ち合わせをちょっとな。」

(北条様と大和さんが同じ部隊!?)

あの大和学園のツートップが同じ部隊とは何とも羨ましい。

「あの………。あたし……。」

「ん?」

「あたし!斎藤さんと同じ部隊の羽生  明日香(はにゅう  あすか)と申します。よろしくお願いします!」

「へぇ、あの金剛先輩の部隊か。こちらこそ宜しく。」

キラン

北条の爽やかな笑顔が明日香の心を直撃した。

(ああ………。防衛軍に入って良かった。)

そして

「その後ろにいるのは……。」

北条が明日香の後ろで隠れている高岡  咲に目をやった。

ギクッ!

高岡  咲(たかおか  さき)はバツの悪そうな顔をしている。

「昨年の『学園対抗戦』以来だな。」

「えと……、覚えていたのでしょうか……。」

「当然だ。」

北条と大和にとっては、忘れる事の出来ない試合だ。昨年12月に行われた大和学園と武蔵学園の対抗戦で、北条達『大和学園』の代表は『武蔵学園』に敗れた。その時の三戦目の相手の1人が高岡  咲(たかおか  さき)なのだから。

「まぁ、これからは同じ仲間だ。宜しく頼む。」

北条が出した手を咲は申し訳なさそうに握り返した。

実のところ、『マリオネット』を操る養成学校は、大和学園と武蔵学園の二校しかない為に『防衛軍』に入隊した兵士達は顔馴染みが多い。

その例外中の例外が羽生  明日香。

「あの……あたしも握手………。」

明日香が北条の前に手を差し出した、その時。



バタバタッ!

「おい!大ニュース!大ニュースだ!」

「………?」

「何だ?」

通路の向こうから走って来た兵士が、大慌てで騒ぎ立てている。

「第23歩兵部隊に入隊したアイツが、部隊の隊長とタイマン勝負をするそうだ!」

「アイツ?」

「第23部隊つったら、まさか………。」

「あの飛鳥(アスカ)って言う新米兵士と、部隊長の不知火  詩音(しらぬい  しおん)だ!既に二人はバトルフィールドで準備をしている!」

「不知火(しらぬい)隊長!?」

「おい!帝!」

「あぁ、行こう!」

バタバタッ!

「え?え?ちょっと、どう言う事!?」

何が何だか分からない明日香に、斎藤  睦月(さいとう  むつき)が声を掛ける。

「不知火隊長は拙者達の一期上の先輩でござる。帝殿も幸一殿も不知火先輩とは少なからぬ縁がある仲。拙者も気になるでござる。」

「ちょー!もう少しで帝様と握手が出来たのに!」

癇癪を起こす明日香の手を引いたのは高岡  咲。

「私達も行きましょう!新兵と隊長がタイマン勝負なんて前代未聞よ!」




【炎の兵士②】

ざわざわ

屋内バトルフィールドを映す大型スクリーンがある会場には既に多くの隊員達が集まっていた。

「凄いわね。各部隊の隊長達まで集まっている。」

「あ!ゴリ隊長も来たわ。」

明日香達、第28歩兵部隊は会場の隅の方にあるテーブルを陣取った。

「それにしても、あの飛鳥って新兵。入隊式に続き問題続きね。」

「それだけじゃないぞ。」

そう告げるのは次元  修斗(じげん  しゅうと)。

「気になるのさ。入隊式で見せた飛鳥って奴の実力。隊長を含む二人の隊員を瞬殺した実力が本物かどうか………。」

ゴクリ

「しかし、相手が悪い。」

そこに金剛隊長が口を挟む。

「ゴリ………。」

「おい、羽生。せめて隊長を付けろ。」

「はい!すみません!ゴリ隊長!」

「ふむ。」

明日香と金剛隊長、二人の会話を聞いていた高岡  咲は(ゴリ隊長で良いのか?)と言うツッコミを胸の奥にしまい金剛の話の続きを待つ。

「第23歩兵部隊の隊長は不知火 詩音(しらぬい  しおん)。昨年『防衛軍』に入隊した俺の同期の中でもトップクラスの実力者。次期統括隊長との呼び声も高い。」

「それなら、あたしも知っているわ。卒業時の学年ランキングは1位。不知火流抜刀術の使い手で三学年時の『個人戦』では準優勝も果たしている。」

「ほお、羽生……、詳しいな。」

「だって、不知火さん格好いいから!」

「…………。」

ざわっ!

「おい!始まるぞ!」

会場にいる誰かがそう叫んだ。



しゅう

『防衛軍』に入隊してからの不知火の『マリオネット』は白を基調としたシンプルなものであった。

しかし、実力は折り紙付き。昨年一年間の成績を買われて今年の春に部隊長に昇格したのは金剛隊長と同じだ。昨年の同期で部隊長に昇格した兵士は四人しかいない。その中の1人。

「と言う事はゴリ隊長と同じくらいの実力って事?」

「お前、何も知らないのか?」

そう告げるのは次元  修斗(じげん  しゅうと)。

「うちの隊長も不知火隊長も次期統括隊長候補の1人。『防衛軍』の中でもベスト10に入る実力者だ。あの新兵、コテンパンにやられるぞ。」

「へぇ………。」

となると

羽生  明日香(はにゅう  あすか)は、じっと大型スクリーンを見つめる。

(万が一、あの飛鳥(アスカ)って言う新兵が不知火隊長を倒す様な事があれば……。)

『防衛軍』の中でもトップクラスの実力。



「『マリオネット』、オン!」

ギュィーン!

ビビッ!

『準備は出来たかい?不知火隊長。』

飛鳥(アスカ)の声はどこか人を馬鹿にしたような口調だ。

『いつでも来い。部隊長の実力を教えてやろう。』

いつになく怒りを顕(あらわ)にする不知火  詩音(しらぬい  しおん)

事の発端はこうだ。

第23歩兵部隊に配属となっな飛鳥(アスカ)が、自分より弱い兵士の下に付くのはゴメンだと言い出した。確かに飛鳥には非凡な才能がある。しかし、防衛軍にとって何より大切なのは規律とチームワーク。

本物の戦場では、勝手な行動をする兵士は早死にする。部隊長になった不知火にとって、チームワークを乱す飛鳥を許す訳にはいかない。

ビビッ!

『そんじゃあ、遠慮なく行くぜ!』

ザッ!

最初に動いたのは紫紺色の『マリオネット』。

『そりゃあぁぁぁ!!』

右手に握られるのは同じく紫紺色に塗装された光学剣(ソード)だ。機動兵器『マリオネット』には実弾などの物理攻撃は通用しない。そこで兵士達は光学剣(ソード)や光学槍(ランス)などの光学兵器で戦闘をする。

(………ふん。)

迎え撃つ不知火  詩音(しらぬい  しおん)は、ゆっくりと光学剣(ソード)を構えた。

『不知火流抜刀術!死閃剣(しせんけん)!』

ジャキィーン!

シュババッ!


「あれだ!」

「………?」

「静から動への動きだ。」

戦闘を見ていた金剛隊長が不知火の技を見て唸り声を上げる。

「あれが不知火を隊長たらしめた必殺剣。攻撃型『マリオネット』で有りながら、不知火の一瞬のスピードは『防衛軍』の中でもトップクラス。」

シュババッ!

(確かに………。)

機動兵士同士の戦闘なら飽きるほど観て来た明日香でも不知火隊長の凄さは一目瞭然。

ガキィーン!

ガキィーン!

ズバッ!

『ちっ!』

ビビッ!

『損傷率18%』

高速で放たれた三本の刃のうち、最後の一太刀が飛鳥の装甲を斬り付けた。

『ほぉ。二本は止めたか。』

不知火は少し驚きの表情を見せた。

『俺の『死閃剣(しせんけん)』を初見で見切れる奴はそうはいない。新兵にしては大したものだ。』

『…………。』

『しかし、上には上がいる。お前程度の兵士は『防衛軍』にはザラにいる。自惚れるなよ。』

『何だと!?』

『言って置こう。俺が目指しているのは統括隊長の座だ。隊長レベルを相手に苦戦している様ではお前もまだまだ。もっと強くなるまでは、大人しくしているんだな。』

『…………。』

しん

「あら?動かなくなっちゃったわね。」

そう呟くのは高岡  咲。

「実力の差を思い知ったのかしら?」

明日香も咲の言葉に続く。

「あの生意気な新兵も不知火(しらぬい)隊長の前では形無しだな。」

次元  修斗は何やら楽しそうだ。



『………。』

『…………ふふ。』

『?』

『統括隊長を目指すだと?ふふふ。』

飛鳥は笑い声をあげる。

『何がおかしい。』

機嫌に顔を曇らせるのは不知火。

『俺も教えてらやろう。』

『………。』

『俺が目指すのは統括隊長の座ではない。』

『なに?』

『スクリーンを見ている観客共にも教えてやろう!『防衛軍』に君臨する二人の統括隊長を倒し、俺が『防衛軍』のトップに立つ!革命はそれからだ!』

ざわっ!

「革命?」

「何言ってんだアイツ?」

ざわざわ

「………。」

「明日香……、どうやらあの新兵、頭がおかしいようね。」

咲は呆れた様子で呟く。

「咲…………。」

しかし羽生  明日香はただの新兵である飛鳥の宣言に嫌な予感が過ぎった。

くしくも明日香(あすか)と同じ名前を持つ飛鳥(アスカ)。あの兵士からは得体の知れない何かを感じる。

そして何より

ゾクゾクッ!

この高揚感。

(あの男は、あたしと同類だ。)

理由は分からない。しかし明日香は飛鳥から感じられる気配に妙な親近感を覚える。

「咲………。不知火隊長が危ないわ。」

「明日香?」

「このままでは不知火隊長は負ける。下手をしたら殺されるかも……。」

「何言ってんのよ明日香。見てたでしょ?実力は不知火隊長の方が上。新兵なんかに負けないわよ。」

「違うの咲。飛鳥(アスカ)の実力はあんなものではない。あたしには分かるのよ。見て……。」

「?」

「飛鳥の身体が『マリオネット』と同化して行く………。」

「同化?」

しゅう

バチバチバチッ!

ボワッ!

「炎!?」

「あれは入隊式の時に見せた炎。何なのアレ?」

飛鳥の身体が真っ赤な炎に包まれて行く。

(何だ?)

不知火は目を細めて飛鳥の様子を伺う。

『そうだな………。』

飛鳥は不知火に言う。

『お前程度の相手なら200%でも釣りが来る。』

『200%?』

『シンクロ率だよ。不知火隊長。』

ババッ!

ズバッ!

『ぐっ!』

ビビッ!

『損傷率23%』

(ちっ!)

『不知火流抜刀術!』

『遅いぜ!!』

『!?』

シュバッ!

『ぐはっ!』

ざわざわ

「おい!どう言う事だ?不知火隊長が押されている!」

会場で観戦していた野次馬兵士達がどよめいている。

「冗談じゃねぇ!次期統括隊長候補の不知火が負けるなら誰が奴を止められるんだ!?」

「まだだ!不知火隊長の本領発揮はこれからだ!」

「頑張れ!不知火!」

「負けるんじゃねぇぞー!」

ゾクゾクッ!

明日香は身体の震えが止まらない。

(あの飛鳥と言う男………普通じゃないわ。)

ガキィーン!

ガキィーン!

(こいつ……俺のスピードを上回る!?)

シュバッ!

『ぐはっ!』

ビビッ!

『損傷率79%』

(しまった!)

『マリオネット』の戦闘では装甲の耐久値が削り取られる事は負けを意味する。損傷率が100%に達した場合、『マリオネット』とのシンクロが解除され装着した人間は無防備の状態となる。

(これ以上の戦闘は危険か………。やむを得ない。)

ザッ!

そこで不知火は光学剣(ソード)を下ろし両手を挙げた。

『認めようお前の強さを。』

ざわ!

「おい!不知火が両手を挙げたぞ!」

「まさか不知火隊長が負けたのか?」

更に不知火は話を続ける。

『お前の損傷率も50%は越えているはずだ。これ以上の戦闘は危険だ。終わりにしよう。』

『…………。』

シャキィーン!

(………む?)

『不知火隊長………。』

飛鳥は不知火に告げる。

『戦場では白旗を上げたら敵の兵士は見逃してくれるのかい?』

『なに?』

『甘いんだよ!』

ザッ!

『!?』

バシュッ!

『ぐぉ!?』

飛鳥の紫紺色の光学剣(ソード)が不知火の最後の耐久値を削り取る。

バチバチバチバチッ!

ドッガーン!

ざわっ!

「な!あいつ、降参している不知火に攻撃を仕掛けたぞ!」

「いや、まだだ!まだ攻撃を続けるつもりだ!」

「な!馬鹿な!」

「シンクロが解除された人間への攻撃は軍の規定違反だ!!」

「そんな事をしたら不知火は死ぬぞ!」

シュバッ!

「うぉ!やめろ!!」

「きゃあぁぁ!!」

「!」

「!」

「!」

「!」

ガキィーン!

『!?』

しゅう

しゅう

『…………。』

「あれは………。」

「夢(ゆめ)…………第二統括隊長。」

薄桃色の『マリオネット』を装着した女性兵士。それは、『防衛軍』の最高戦力と崇め称される第二統括隊長、夢  香織(ゆめ  かおり)。

どこから現れたのか、夢隊長が飛鳥の光学剣(ソード)を不知火に当たる直前に受け止めた。

『勝負は付きました。ここまでてす。飛鳥(アスカ)隊員は後に上層部からの処分が言い渡されるでしょう。』

ゴゴゴゴォ

『ふん。夢統括隊長。お前達が威張っていられるのも今のうちだ。』

『…………。』

『お前も第一統括隊長も、俺が倒す!』

ざわっ!

『勝手にしなさい。私は逃げも隠れもしません。その時が来ればお相手しましょう。しかし………。』

『……しかし?』

『果たして貴方如きが私の所まで駆け上がって来れるでしょうか?』

『何だと!?』

『あまり舐めて掛からない事です。統括隊長以外にも『防衛軍』の中には実力者が沢山います。そして………。』

夢  香織は『雷の剣(サンダーソード)』と称される愛剣をスラリと構えて告げる。

『今年の新入隊員の中にも……。』

『新入隊員の中にだと?』

『今に分かります。もうじき始まる『統括隊長選抜試験』。貴方もせいぜい勝ち抜く事ですね。』

『ふ………。』

『?』

ボワッ!

バチバチバチバチッ!

『!?』

飛鳥(アスカ)の『マリオネット』の装甲が激しく火花を散らした。

『面白い。その選抜試験とやらを勝ち抜いて、俺はお前達『統括隊長』に勝負を挑もう。』

シャキィーン!

『俺の名は飛鳥(アスカ)。後に世界の頂点に立つ男だ。覚えておけ!』

炎の装甲を身に纏った新入隊員『飛鳥(アスカ)』。飛鳥の身体から発せられる炎が不気味なシルエットを醸し出していた。