MARIONETTE- 凛
【統括隊長①】
西暦2057年11月
アメリカ、イギリス、フランス同盟軍が、横浜にある『防衛軍』の基地に攻撃を仕掛けた。
同時に東京郊外にある都立大和学園がアメリカ軍による特殊部隊の攻撃を受ける。
特殊部隊の目的は二人の『アリス』
学園の正面に待機しているのは『アルファ隊』総員5名。武器庫に侵入したのが『アレックス隊』の10名。そして『模擬戦』と呼ばれる演習に参加している学園の生徒達を攻撃するのが『ダグラス隊』の10名。
アメリカ軍の総数は全部で25名。
「状況は最悪だな………。」
防衛軍特別歩兵部隊第二統括隊長の天童 慎(てんどう しん)が呟いた。
「どうする、天童?」
天童の判断を仰ぐのは第三統括隊長の後藤 志久真(ごとう しぐま)。
「米軍は準備周到だ。最初に学園の武器庫を襲う所など申し分ない。『マリオネット』を装着しなければ学園の生徒など只の一般人だからな。」
「………天童隊長。」
心配そうに見つめるのは夢 香織(ゆめ かおり)。防衛軍の第五統括隊長だ。
「しかし、奴らにも誤算がある。」
天童 慎は二人の統括隊長に告げる。
「それは、俺達がここに居る事だ。」
「!」
「今、大和学園には『防衛軍』の最高戦力である俺達がいる。奴らの好きにはさせない。」
「隊長……。」
「そうだな。敵の人数は多いが俺達ならやれる。そうだろ?夢隊長。」
「え……。あ、はい。お任せ下さい。」
そして天童は、もう一度、二人の顔を交互に見渡す。
「まずは武器庫の奪還だ。俺と後藤隊長は武器庫へ向かう。」
「わかった。」
「香織は施設の正面にいる5人を足止めしてくれ。俺達がいない間に『アリス』を狙われたら厄介だ。」
「はい、了解です!」
「フィールドにいる敵はどうする?演習中の生徒達の命が危ない。」
後藤隊長が天童に質問すると、天童はニヤリと笑った。
「奴らには、もう1つ誤算がある。」
「誤算?なんだそれは。」
「今に分かる。そして演習中の生徒は『マリオネット』を装着している。緊急度合いは後回しだ。」
「ふむ、了解した。それでは行くか。」
「香織!正面の敵を頼む。武器庫の敵を倒したら俺達も駆け付ける。」
「了解です。しかし武器庫の敵は10人。隊長こそ気を付けて下さい。敵は米軍です。」
(ふっ……。)
表情が緩んだ天童を見て香織は首を傾げる。
「どうされたのですか?隊長。」
香織は天童に質問をした。
「なに、お前に心配されるとは、お前も成長したな。」
「!」
香織は顔を真っ赤にして前言を取り消す。
「いえ、そんなつもりは!申し訳ございません!」
「構わんさ。今やお前も『防衛軍』の統括隊長だ。立場は同じ。それに、実力でもお前は統括隊長に相応しい。」
「そんなこと………。」
「この戦争が終われば、一度手合わせ願いたいものだ。」
日本国 『防衛軍』特別歩兵部隊を率いる五人の統括隊長。
第一統括隊長
伊集院 翼(いじゅういん つばさ)
第二統括隊長
天童 慎(てんどう しん)
第三統括隊長
後藤 志久真(ごとう しぐま)
第四統括隊長
隼田 一平(はやた いっぺい)
第五統括隊長
夢 香織(ゆめ かおり)
彼ら、五人しかいない統括隊長達は、紛れもなく『マリオネット』を扱う機動兵士の頂点に君臨する日本国の最高戦力。
「香織!検討を祈る!」
ザッ!
それだけ告げて、天童と後藤の二人は大和学園一階にある武器庫へ向かった。
残された夢 香織は『アリス』こと須澄 ありすと他の生徒達に優しく語り掛ける。
「須澄さん、皆さん。安心して下さい。侵入者であるアメリカ軍は、私達が必ず倒します。」
「………あの……、ありがとうございます。」
「先輩……。」
「?」
須澄の横では同級生の北条 帝(ほうじょう みかど)が、バツの悪い顔をしていた。
「先程はすみませんでした。先輩達はありすを守る為に来てくたんだな……。」
香織は、北条の顔を見ると出来るだけの笑顔を見せた。
「気にする必要はありません。貴方の事は知っています。これから日本は大変な事になります。私は貴方達に期待しています。」
「………期待?俺達に?」
「そうです。私達はこれから世界を相手に戦う事になります。その時に必要なのは優秀な兵士。高校生であろうと関係ありません。『マリオネット』の戦闘に於いては、本物の強者と呼ばれる兵士は、『マリオネット』に愛された兵士なのです。」
「愛……される?」
意味の理解出来ない北条は、不思議そうな顔で香織を見る。
「そうです。『マリオネット』に愛された兵士こそが最強。貴方達にはその素質がある。」
そう。
すなわち、それは
香織は一人の少女の顔を思い浮かべた。
(篠原 凛………。)
篠原 凛は、誰よりも『マリオネット』に愛された兵士。
【統括隊長②】
ビビッ!
『後藤、もうすぐ『武器庫』だ。気を抜くなよ。』
『分かってる。敵も俺達が接近しているのに気付いているからな。』
武器庫に向かうのは、天童と後藤の二人。
そして、後藤 志久真(ごとう しぐま)は不謹慎にも胸が踊るのを止められない。それは別に戦闘をしたいからでは無い。
後藤が胸踊る理由は、隣で並走している天童 慎(てんどう しん)の存在。
第二統括隊長の天童と一緒に戦える。
いや、天童の戦闘を間近で見る事が出来る。
(こんなチャンスは滅多に無い。)
そもそも、五人の統括隊長は別々の隊を率いている為に、共に戦う事は無い。それは演習の時も同じだ。
更に『防衛軍』では、年に数回、兵士同士の『対人戦』の大会が行われるのだが、統括隊長には大会に出る資格がない。
なぜ統括隊長が試合に出られ無いのか?
その原因を作った超本人こそが、天童 慎だ。
なぜなら天童はあまりにも強過ぎた。
それは、後藤が防衛軍に入隊して間もなくの頃の話なのだが、天童は決勝までの全ての試合を1つの損傷も受けずに勝ち進んだ。
そして決勝戦。
第一統括隊長である伊集院 翼(いじゅういん つばさ)との戦闘は未だに語り継がれている。
二人の戦闘力が強過ぎて、二人は『マリオネット』の耐久値を越える攻撃を繰り出した。
『天童ぉおぉぉぁ!!』
『どぅりゃあぁぁぁ!!』
バキバキバキッ!!
ブワッ!
ドバッ!!
全く同時に互いの『マリオネット』は全壊し、その生身の身体までもが破壊された。
相討ちによる同時優勝。
そして二人とも全治3ヵ月の大怪我を負う。
その日から、統括隊長は、あらゆる大会に出場する事を禁じられた。
(こんなチャンスはニ度と来ないかもしれない……。)
あの天童 慎の本気の戦闘が見られる。
都立大和学園一階にある武器庫。
室内に侵入したアレックス隊の人数は10人。
ビビッ!
『隊長!接近する『防衛軍』の兵士は二人です。』
『ドアから侵入した所を狙い撃つ。シーマ、フェルナンド、ミゲルの三人が迎え撃て!』
『ラジャ!』
『ラジャ!』
『ラジャ!』
三人同時攻撃。
アレックス隊はスピードが身上。攻撃力は弱くても敏捷性なら負ける事は無い。そして、攻撃力の低さは人数でカバー出来る。
ドクン
(それにしても………。どう言う事だ?)
三人のうちの一人、ミゲルが首を傾げた。
(俺達が待ち構えている事くらいレーダーを見れば分かるだろう。)
ドクン
(それなのに、武器庫の正面入口から突っ込んで来るだろうか………。)
ミゲルは思う。
(本当に突っ込ん来るとしたら、その兵士はただの大馬鹿者だ。)
そして
ドバッ!
『どぅりゃあぁぁぁ!!』
『!』
(本当に突っ込んで来た!?)
最初に現れたのは天童 慎。
天童は武器庫に入るなり目の前に現れたアメリカ軍の兵士に向かって叫ぶ。
『天剣(てんけん)、一の型!!』
ブワッ!
『牙突(がとつ)!!!』
グザッ!!
『ぐほっ!』
『シーマ!!』
それはミゲルにとって、衝撃の出来事であった。なぜなら待ち構えていたミゲル達三人よりも、天童は先に攻撃を放ったからだ。
(なっ!?速い!!)
ビビッ!
『損傷率58%』
『!』
自身の損傷率を確認したシーマは目を疑う。
(一撃で……58%???)
何と言う攻撃力。
(こいつの『マリオネット』は超攻撃型か!!)
1対1の戦闘では、天童に勝てない。しかし、アレックス隊の人数は10人だ。攻撃型の『マリオネット』の弱点はその耐久性の低さにある。
ブワッ!
即座に天童に斬り掛かったのはフェルナンド。
アレックス隊の熟練度は高い。初撃は敵に譲ったが切り替えの速さは訓練の賜物か。
ビュン!
スピード型『マリオネット』の敏捷性を活かし、無駄の無い動きで天童を襲うフェルナンド。
ブンッ!
『!』
ズバッ!
(な!)
しかし天童は、フェルナンドが光学剣(ソード)を振り下ろすよりも速く反撃を繰り出した。
ビビッ!
『損傷率47%』
(この攻撃力で、このスピード!?攻撃型の『マリオネット』のくせに、何と言う速さだ!)
ザザッ!
『!』
しかし、さすがの天童も二連撃の後には隙が出来る。フェルナンドに攻撃を仕掛けた反対側。
ミゲルの狙いはそこにある。
『そりゃあぁぁ!!』
又しても無駄の無い動き。
ミゲルの光学剣(ソード)は、既に天童を射程に納めた。対する天童の光学剣(ソード)は、フェルナンドを斬り付けた状態のまま。
この状態では、ミゲルの光学剣(ソード)を防ぐ手段は無い。
(貰った!)
ミゲルは確信する。
俺達の連続攻撃を防ぐ事は出来ない。
ブンッ!
そして
その時、ミゲルは天童の口から信じられない言葉が発せられたのを聞いた。
『ガードフレイム!』
『!?』
バキィーンッ!
(は?)
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
ミゲルの剣は『ガードフレイム』による光学盾(シールド)に防がれ、更には天童の反撃をまともに喰らう。
ドバッ!
ブーン!
ドガッ!
『ぐわっ!』
あまりの衝撃で数メートルも吹き飛ばされたミゲルは、武器庫の壁に激突する。
ビビッ!
『損傷率55%』
その光景を見ていた、他のアレックス隊の兵士達も、しばし茫然として動く事が出来ない。
(………ガードフレイム?)
天童 慎の『マリオネット』は攻撃型でもスピード型でも無い。
――――――――――耐久型だ。
『あ~あ………。』
後から武器庫に侵入した後藤が、庫内の状況を見て、残念がった。
『見逃した………。』
そして、アレックス隊の兵士達の顔を見て後藤は思う。
(驚くのも無理は無い……。)
天童 慎は、耐久型『マリオネット』を装着しながらも、その攻撃力とスピードは『防衛軍』の中でもトップクラス。
本来は両立出来ないはずの、パワーとスピードと防御力までもを身に付けたオールラウンドブレイヤー。
(天童は、軍の『模擬戦』で全ての項目で常にSランクを叩き出す唯一無二の存在。)
特別歩兵部隊第二統括隊長
天童 慎(てんどう しん)
天童の戦闘力は………、
―――――――――次元が違う。
【統括隊長③】
その頃
大和学園正面玄関前
ザザッ!
ガキィーンッ!
『くっ!』
ズサッ!
ブンッ!
バシッ!
ビビッ!
『損傷率18%』
(ちっ!掠った!)
ビビッ!
『アルファ(スリー)!下がれ!』
『!』
『そりゃっ!』
ガキィーン!
ビリビリッ!
(何と!今の不意討ちにも反応するか!?)
『アルファ5(ファイブ)!同時に行くぞ!』
『ラジャ!』
バシュッ!
ズサッ!
『!』
夢 香織が大きな瞳を細めて敵の動きを見定める。
(右から一人。左斜め前方から一人。)
『貰ったぁあぁぁぁ!!』
ブンッ!
『!』
ズバッ!
『ぐぉっ!』
グルンッ!
シュバッ!
『がっ!?』
ビビッ!
『損傷率22%』
『損傷率24%』
『くっ!こいつ動きが速い!』
『落ち着け!対応出来ない速さでは無い!』
防衛軍特別歩兵部隊第五統括隊長
夢 香織(ゆめ かおり)
彼女の『マリオネット』はスピードタイプ。
俊敏性に於いて夢 香織に敵う兵士はそうは居ない。
それに加え
『サンダーソード!!』
バチバチッ!
『!』『!』
香織の光学剣(サンダーソード)は特別仕様だ。高速で振り抜かれた剣の威力は、通常の光学剣(ソード)の破壊力を容易に上回る。
バシッ!
(ぐっ!しまった!)
ビビッ!
『損傷率63%』
『アルファ5(ファイブ)!一旦下がれ!』
『ちっ!』
ババッ!
アメリカ軍特殊部隊の精鋭が揃う『アルファ隊』。その兵士達の波状攻撃を、夢 香織は凌いで見せた。
(防衛軍統括隊長………。奴の言う事も大袈裟では無いと言う事か………。)
それまで戦闘を傍観していたアルファ隊のリーダー、アルファ1(ワン)ことジョージ・ハリスが、一歩前へ踏み出す。
『!』
香織も警戒を強め光学剣(ソード)を構え直す。
ジリリと二人の距離が縮まって行く。
ビビッ!
『アルファ2(ツー)以下、全員待機!』
『!』
『!?』
『アルファ1(ワン)………。』
『手を出すな。俺が殺る。』
ジャリ
ハリスは、夢 香織の顔を見ると光学剣(ソード)を頭上に構えた。
「どうやらお前の持ち味はそのスピード。なかなかの速さだ。」
「………。」
「しかし、このジョージ・ハリスもスピードには自信がある。手合わせ願おう。」
この至近距離では、いつ攻撃をされてもおかしくない。
(集中しろ、香織………。)
香織は自分で自分に言い聞かせる。
ビュン!
『!』
ガキィーン!
初撃は防いだ。
ブンッ!
シュバババッ!
『!』
ガキガキガキィーン!!
驚くほどの連続攻撃が繰り出されるが、香織はハリスの攻撃をことごとく防ぐ。
しかし
『!』
ジョージ・ハリスの動きが更に加速する。
アメリカ特殊部隊のリーダー、ジョージ・ハリスは他の兵士達とは明らかに違う。
ズバッ!
『きゃっ!』
ビビッ!
『損傷率17%』
この戦闘に於いて、夢 香織は初めて損傷率を計上する。
(さすがは隊長………。)
アルファ隊のメンバーは二人の戦闘に割って入る事はしない。
それほどの信頼。
米軍に於いて特殊部隊のリーダーを任される兵士はそうは居ない。
ジョージ・ハリスは香織に向かって告げる。
「確かにお前は強い。しかしお前はまだ20歳にも満たないであろう。」
「…………。」
「経験が違う!」
ハリスは言う。
「戦場では経験がものを言う。その若さでその実力。実に驚くべき事だが、お前が強くなる前に俺が息の根を止めてやる。」
そう。
ハリスは直感する。
間違いなくこの女は、将来危険な存在となる。
(今、ここで殺さなければならない。)
香織は面前に表示されるモニターを確認した。
「75%………。ようやく75%か……。」
「?」
(75%?この女………。何を言っている?)
ズサッ!
すると香織は、再び光学剣(ソード)を構え直した。
「参ります!」
ザッ!
『!』
今度は、香織の方から攻撃を仕掛ける。目にも止まらぬスピード。
(やはりこの女、只者ではない!)
しかし、ハリスは香織のスピードを上回る反応速度で光学剣(ソード)を香織の剣に合わせる。
ガキィーン!
グルンッ!
『!』
バッ!
ガキィーン!
どちらも速い!
アルファ2(ツー)以下の四人の兵士は二人の攻防を目で追う事も難しい。
(ハリス隊長………。)
まさに一進一退の攻防。
実力は互角。
実際、夢 香織の動きは驚異的ですらある。
ジョージ・ハリスはアメリカ軍の中でも選ばれた兵士であり特殊部隊の隊長だ。そのハリスと互角の戦闘を演じるだけでも、他の兵士よりは明らかに格上。
シュバッ!
『アルファ1(ワン)!』
スパッ!
『くっ!』
ビビッ!
『損傷率26%』
そして遂に、香織の剣がジョージ・ハリスの身体を斬り付けた。
(こいつ………。)
グワン!
『ちっ!』
更なる香織の攻撃を、ハリスは上体を反らして紙一重で避ける。
ズバッ!
『ぬ!?』
いや、避けきれない。
ビビッ!
『損傷率38%』
ざわっ
(どう言う事だ………。)
互角の戦闘を演じていた二人であったが、徐々に香織の攻撃がジョージの動きを捉えるようになって来た。
ビュン!
ズバッ!
『損傷率56%』
(こいつ、まさか………。)
ハリスの脳裏に嫌な予感がよぎった。
アメリカ軍特殊部隊『アルファ隊』の隊長ジョージ・ハリスの動きは決して悪くは無い。
ハリスの動きが鈍ったのでは無い。
夢 香織の動きが速くなったのだ。
ビビッ!
『シンクロ率80%』
(ようやく80%…………。)
「こればかりは、どうにもならないわね。」
「?」
そして香織はハリスに告げる。
「シンクロ率も80%………。そろそろ本気で行かせて貰うわ。」
「は?」
(シンクロ率………80%だと?)
ハリスは耳を疑った。
通常『マリオネット』を扱う兵士のシンクロ率は90%を越えている。それ以下の兵士では戦場では使い物にならない。
防衛軍に入隊出来る兵士達のほとんどは、高いシンクロ率を誇る。それが『防衛軍』に入隊出来るかどうかの分かれ目と言っても良い。
しかし、夢 香織は極端なスロースターターであり、シンクロ率が90%を越える事は無い。なぜなら、香織のシンクロ率が90%を越える頃には、既に戦闘は終わっている。
夢 香織は
全力を尽くす前に
全ての敵を葬り去る。
ビュン!
『!』
ズバッ!
ビビッ!
『損傷率72%』
(馬鹿な………!?)
香織のシンクロ率が80%を越えた頃には、既にハリスは香織の動きを見極める事は出来ない。
(これで80%だと!?)
有り得ない!
たかが80%のシンクロ率で、これほどまでに速いなんて!
ビビッ!
『シンクロ率83%』
そして、香織は今日も思うのだ。
自分のシンクロ率が90%を越える先にいる敵は、二度と現れないのでは無かろうかと。
天童 慎が、香織に一目置く理由はそこにある。
もしも、自分を越える兵士がいるとしたら、それは夢 香織に違いない。香織のシンクロ率が100%になった時、いったいどれだけの力を発揮するのか。
史上最速、最年少で『防衛軍』の統括隊長となった夢 香織のポテンシャルは、五人いる統括隊長の中でも、おそらく最高。
ビカビカビカッ!
『サンダーソード!!』
雷の剣が空気を切り裂いた時、アメリカ軍特殊部隊の隊長、ジョージ・ハリスの損傷率が100%を越えた。
『ぐわぁあぁぁ!!』
ドッガーン!!
ハリスの『マリオネット』が消滅したと同時に、装甲を失ったハリスの身体が真っ二つに斬り裂かれた。
『アルファ1(ワン)!!』
『隊長!!』
これは、高校の試合とは違う。『マリオネット』の戦闘で負けると言う事は、本物の死を意味する。
紛れもなく、香織が戦っている場所は、本物の戦場である。
キッ!
夢 香織は残った『アルファ隊』の兵士達を睨み付けて、もう一度、戦闘前に語ったセリフを言う。
「大人しく投降しなさい。そうすれば命だけは取りません。」
「うっ…………。」
隊員達は、もはや戦意を失っていた。
それほどの実力差がある。
これが
日本国に五人しかいない『防衛軍』の最高戦力。
『統括隊長』の実力なのか………。