MARIONETTE-アリス

【破壊神の槍①】

都立大和学園   クラス対抗戦

大会3日目(予選最終日)



2年B組     対     3年C組

ザー

ザー

ドーンッ!

ドッドッーンッ!

『ぐっ!近付けねぇ!』

『何だよありゃ!?』

『遠距離砲撃なんて反則じゃねぇのかよ!』

機動兵器『マリオネット』の武器カテゴリーに於いて、遠距離攻撃を可能にする武器は一種類しかない。それは、無人戦闘兵器『AI機』が主力として使っている光学銃(ガン)によるレーザー光線だ。

光線銃(ガン)であれば、遠距離からの攻撃は可能であるのだが、しかし、実際には光学銃(ガン)を武器として装備する兵士は誰もいない。

なぜなら『対人戦』に於いて光学銃(ガン)は使い物にならない。

一つに、レーザー光線を放つには大量の光エネルギーが必要となる為に、バックパックと呼ばれるエネルギー充電装置が必要になる。このバックパックを装着すると『マリオネット』の最大の特徴である機動力が著しく低下する。

二つ目の理由として、レーザー光線は連射が効かない。通常で一発。最新鋭の光学銃(ガン)を装備しても二発が限界。充電が切れた後に再充電するには数分の時間を要する。『対人戦』に於いては、その数分が命取りとなる。

動きが遅くなる上に、連射が効かない光学銃(ガン)を好んで使う兵士はいない。ゆえに『マリオネット』の戦闘では遠距離兵器は事実上、存在しない。

いや

今日のこの日までは、存在しなかった。

ドッドッーン!

ブシュッ!

『ぐっ!』

ビビッ!

『損勝率33%』

『まずい!このままでは削り取られるぞ!』

『何だよあの兵器は!何で連射が可能なんだ!?』

『知るか!』

斎藤  睦月が、魔改造した『マリオネット』『炸裂の人形』の光の砲弾が、3年C組の兵士達を追い詰める。

『おい!どうする!?』

『どうするったって………。』

『!』

『見ろ!』

『………何だよ。』

『奴の『ガードフレイム』が……。消えて行く。』

『ガードフレイム?』

よく見ると、斎藤が身体の前方に展開している光学盾(シールド)『ガードフレイム』の形が徐々に縮小し、残す所は僅かとなっていた。

ビビッ!

『まさか、光の弾丸の正体は『ガードフレイム』?』

『あいつが自分で改良したのか?』

『マジで?天才かよ!』

ドッドッーン!

ザー

ザー

(気付かれたでござるか………。)

斎藤  睦月の展開している『ガードフレイム』は既に消滅寸前。

ドーン!

しゅん


『!』

『ガードフレイム』が消えた………。

『今だ!』

『行くぞ!』

ザッ!

ザザッ!

『反撃開始だ!』

『うおー!』

3年C組の二人が、ここぞとばかりに一斉に飛び掛かる。

『ガードフレイム』を失い、スピードの劣る耐久型『マリオネット』を装着している斎藤には、3年C組の攻撃に対抗する手段はない。

ビビッ!

そして、斎藤は、面前に表示される味方の赤い点灯を確認する。

『意外と早かったでござるな……。幸一殿。』

ビュバッ!!

『!』

『やばい!右だ!』

『速い!!』

スピード型『マリオネット』を操る大和  幸一の速度は2年B組で……最速。

『睦月!すまん!遅れた!』

ババッ!

大和  幸一の『マリオネット』の装甲は戦艦大和と同じ鋼色だ。大粒の雨が鋼色の装甲に反射して、きらびやかな光を放つ。

『怯むな!相手は2年だ!』

グンッ!

『!』

『!』

大和は加速したまま、その態勢を沈ませて、ギラリと光る光学剣(ソード)を前方に突き出した。

『突っ込んで来る気か!舐めるなぁ!!』

ブワッ!

ガキィーン!!

バシュッ!

『!』

単に光学剣(ソード)で応戦した3年の兵士と、超スピードで突撃した大和とでは、剣に込められた破壊力が違う。

スピードタイプで有りながら、加速によって破壊力を上げる大和の必殺技。

『バスタード・キャノン!!』

ドガガガッ!

『ぐぉ!?』

ビビッ!

『損勝率47%』

『うおりゃあぁぁ!!』

ドガガガガガガッ!

突き刺した光学剣(ソード)ごと、体当たりの態勢で大和の身体ごと二人の兵士が数メートル吹っ飛んだ。

『な!なんだこの威力は!!』

ビビッ!

『損勝率85%』

バチバチバチバチッ!

ドッガッーン!!


『まず一人!』

ギロリ!


『うぉ!ちょっとたんま!』

大和の勢いに、思わず後退りをする3年の兵士。

「後ろがガラ空きでござるよ。」

そこに、後ろへ周り込んだ斎藤が光学剣(ソード)を振り上げる。

「へっ!?」

バシュッ!

グサッ!

ドバッ!

バチバチバチッ!

ドッガーン!!

『少し卑怯でござったか。』

『睦月………。』

『幸一殿、どうやら元気になったでござるな。』





【破壊神の槍②】

予選ブロック最終日

予選で最も注目されていたCブロック最終戦も大詰めを迎えていた。

2学年では前評判の高かった2年B組が、3年生を相手にどこまで戦えるのか。試合は前評判通り白熱した戦いとなった。

(先日、模擬戦でS評価を叩き出した3人以外の兵士もなかなか強い。しかし、勝負はこれからだ。)

不知火  詩音(しらぬい   しおん)は、大型スクリーンに映し出された試合の映像を眺めていた。

(それにしても……。)

しかし、不知火が気にするのは別の事である。

今朝、いきなり飛び込んで来た情報によると、桜坂  神楽が意識不明の重体で病院に運ばれたらしい。

学年ランキング1位   桜坂   神楽

不知火は神楽を倒す為に修行を重ねて来た。仮に決勝トーナメントを桜坂  神楽が棄権するような事があれば、不知火にとっては意味の無いものとなってしまう。

(神楽のいない3年E組を倒しても意味がない。)

「神楽にいったい、何が起きたのか………。」

不知火は、思わずそう呟いた。

「詩音………。何を深刻な顔をしているの?」

(………え?)

背後から詩音を呼ぶ声に、詩音は少し驚いた。なぜなら詩音は、その声を半年振りに聞いたからだ。

「………望愛(のあ)………。」

振り向いたそこに立つ女生徒は、詩音の幼馴染の榊原   望愛(さかきばら   のあ)。詩音とは同学年の同級生で不知火流抜刀術の同志でもある。

美しい風貌と小悪魔的な笑顔は半年前と何ら変わらない。変わっているとしたら髪の色。

「望愛………。何だその髪の色は?師範殿に見られたらどやされるぞ。」

肩まである美しい髪が、金色に輝いている。

「ふふ。向こうでは金髪なんて珍しく無いわ。」

そう言って頬笑む望愛。

「当たり前だろう。フランスは白人国家だ。」

榊原  望愛は、3年の進学と同時にフランスへ留学した。何でもフランスの『マリオネット』専門学校から招待されたとの理由だが、詩音はそんな事は信じていない。

なぜなら望愛は、政府の諜報部に所属している。実は、不知火流抜刀術の剣士達は代々政府との繋がりが深い。時には諜報部隊として、時には暗殺者として、歴代の剣士が政府の命令で動いて来た。

現代の不知火流抜刀術の実力者、榊原  望愛が政府の諜報部に所属しているのは自然な成り行きである。その望愛が日本に帰って来たとなると。

「望愛……。向こうでの仕事が終わったのか?」

フランスでの任務が終わったのかと詩音は推測する。しかし、望愛の返答は詩音の予想とは違っていた。

「ううん。フランスでの仕事の途中で呼び出されたのよ。日本政府に。」

「日本……政府に?」

「ほら、今朝の事件。桜坂  神楽さんの。」

「神楽の?……事件だと?」

「あら?知らないの?あれは人為的に襲われたのよ。」

「なに!?」

「しー!詩音、大きな声を出さないでよ。」

「う………。」

「これは最重要機密なんだから、誰にも言ったらダメよ。」

そして望愛は、詩音の耳元で囁いた。

「気を付けなさい詩音。敵が近くにいるわ。」

「……敵だと?どういう事だ。」

「ふふ。」

望愛は少し微笑んで言葉を続ける。

「おそらくロシアか、或いは西側の同盟国のどこか……。」

「な!ロシアだと?それに西側?」

「そう。 まだ国は特定出来ないんだけどね。」

「何で神楽が狙われる。」

驚く詩音を見て望愛は、一言だけ呟いた。

「………アリス。」

「………アリス?」

「そう。アリス。」

「何だそれは?」

「取り敢えず私は、軍の病院へ行って来るわね。奴等の狙いはアリスの殺害。でも今回は失敗したみたいね。そろそろ目を覚ます頃よ。」

「おい、望愛。何を言っているのか分からんぞ。」

「ふふ。これ以上は軍事機密よ。」

「お前………。」

「それと詩音。3日後の決勝トーナメント。私も参加するから宜しくね。」

「な!?」

「ほら、詩音は予選を見て敵の情報収集よ。桜坂  神楽以外にも強そうな生徒がいるじゃない。」

「なに………?」

「見て詩音。あの2年B組の生徒。」

望愛はそう言って大型スクリーンを指差した。

北条  帝(ほうじょう  みかど)

「あれは野獣の目よ。プロの私が言うのだから間違い無い。」

「野獣……だと。」

「うかうかしていたら、私達も彼に喰われ兼ねない。決勝トーナメント、楽しくなりそうだわ。」





【破壊神の槍③】

ザー

ザー

「よくやった。2年にしては上出来だ。」

「坂口………。」

バチバチバチッ!

ドッガーン!

『夏樹さん!』

中森  灯夜が矢吹の元へ駆け寄ったが、既にシンクロは解けた状態。これ以上の戦闘は不可能。

「まさかランキング8位の小田原がやられるとはな。正直、俺も危なかった。」

「くっ………。」

(僕の未来予知の能力を持ってしても、坂口先輩の攻撃を完全に防ぐ事は出来ない。)

中森  灯夜は自分の虚弱体質が憎らしい。
マイクロエコーを通しての伝達では、どうしても時間的なタイムラグが出来る。

人に戦わせるのではなく自分で戦う事が出来れば、未来予知の能力はもっと強力な武器になるはずだ。

ビビッ!

『何だ………。結局、俺以外は全滅かよ。』

モニターに味方の表示が無い事を確認すると、坂口はふぅとため息を吐いた。

(損勝率………50%ジャスト。まだ行けるか。)

坂口  狂四郎にもブライドがある。3学年ランキング3位の実力者。格下の2年生なんぞに負ける訳には行かない。

「次の相手はお前か。」

ザッ!

「うっ……。」

(次の坂口の攻撃は僕の身体の中心点への突きだ。)

『せいっ!』

バシュッ!

グンッ!

『!』

中森  灯夜は、坂口の渾身の一撃を全身全霊でかわして見せた。

『ふん!生意気な!』

シュバッ!

『ぐっ!』

ザクッ!

しかし、坂口の動きは、中森の運動能力を上回り、跳ね上がった光学槍(ランス)が中森の脇腹に突き刺さった。

ビビッ!

『損勝率31%』

(まずい!)

ババッ!

慌てて距離を取る中森  灯夜。

(次の狙いは………頭!)

ビュン!

グワンッ!

『!』

ドサッ!

ゴロゴロ!

かろうじて坂口の攻撃をかわした灯夜が、地面に転がりもんどり打った。

『ふん。ちょこまかと逃げやがる。』

ザー

ザー

『だが、次で決める。』

グンッ!

(速い!)

坂口  狂四郎の次の狙いは中森の胸部。

(この一撃を喰らったら負ける!)

しかし、頭では分かっていても身体が付いて行かない。

『ぐぉりゃあぁぁぁ!!』

(しまった!)

ガキィーン!!

『!』

ザー

ザー

(…………。)


「来たか…………。」

ザー

ザー

「北条   帝!」

ブンッ!

ガキィーン!

ブンッ!

バシュッバシュッ!

ブワッ!

バチバチバチッ!

光学槍(ランス)と光学槍(ランス)が、激しく衝突し、無数の火花が飛び散った。

3学年ランキング3位  坂口  狂四郎
2学年ランキング1位  北条   帝

7月の『個人戦』では、共にベスト4へと勝ち進んだ両チームのエースが、正面から向かい合う。

「坂口先輩………。」

「む?」

「あんた、それでどうやって桜坂  神楽を倒すんだ?」

「なに?」

「その光学槍(ランス)では、桜坂  神楽には届かない。」

「はん、それが何だ。そんなの決勝トーナメントに行ってから考えるんだな。」

「そう………か。」

「…………。」

「何の対策も無しで『クラス対抗戦』に望んだか。」

「何だと?」

「鼻から優勝を狙っていないお前には、決勝トーナメントに進出する資格はねぇって事だ。」

「ふん。二年の分際で生意気な奴だ。」

「見せてやるよ。俺のとって置きを……。」

「!」

ビビビビッ!

北条の武器は特別性だ。
元より身長の2倍近い長槍が、北条の強い意志に反応し、更にそのリーチを長くする。

『破壊神の槍(オーディンズ・ランス)!』

ギュルルルッ!

『くっ!』

北条  帝の情報はリサーチ済みだ。あの武器の破壊力が凄まじいのは百も承知。

(しかし!)

その弱点は長過ぎるリーチにある。

ビュッ!

坂口の取った行動は北条の懐に潜り込む事。懐に入れば、『オーディンズ・ランス』は無用の産物となる。

クンッ!

『貰ったあぁぁぁ!!』

坂口  狂四郎の動きが加速する。
坂口は、伊達に3学年ランキング3位ではない。

『オーディンズ・ランス』の長いリーチを掻い潜り、坂口は自らの光学槍(ランス)を北条に突き付ける。

カクンッ!

カクンッ!

グザッ!

ブシャッ!

『!』

『な…………!?』

(何で背後から、光学槍(ランス)が……?)

バチバチバチッ!

「坂口先輩。」

「…………?」

「リーチが長い弱点くらい分かってますよ。」

「う………。」

「だから睦月に頼んで改良して貰ったんだ。」

「改………良?」

「『オーディンズ・ランス』は、ただの槍じゃあない。三節槍だ。」

「………三節槍だと?」

「破壊力とリーチを維持したまま、桜坂  神楽に対抗する為の武器。」


『破壊神の槍』に


付け入る隙は、無い



バチバチバチバチッ!

ドッガーン!!

『ミッションクリア!コングラチュレーション!』

『勝者  2年B組!勝者  2年B組!』





「どうやら帝は勝った様だな。」

「幸一殿…………。」

「睦月………。」

「雨が、止んだでござる。」

「あぁ。」

大和と斎藤が見上げた空には、晴れやかな太陽が顔を覗かせていた。

「行くでござる。ありす殿の所へ。」

「言われなくても、行ってくらぁ。」

ザッ!







大会予選最終日

2年B組  決勝トーナメント進出決定