真・異世界戦記 (二人の訪問者の章)
【終戦編①】
シスチナの四将星――――――
『幻の国』『聖地シスチナ』を護る四人の偉大な戦士達。
メフィスト・フォースは、二人の『血盟の騎士』を前に紳士的な態度で一礼をする。
「私は『聖地シスチナ』の魔導師メフィストと申します。私の用事は済みましたので、あなた方とは敵対するつもりも有りません。」
「シスチナ?」
異大陸出身の二人にはピンと来ない地名である。もっとも大陸の人間でも『シスチナ』の名を知っている者は殆どいないのだが。
「わかった。」
答えるのはシュナウザー・バウマン。
「ただし、そのクリスタルは置いて行け。」
ぴく
「そのクリスタルには、不思議な力がある様だな。それは『帝国』で預かる事にしよう。」
左手を差し出すシュナウザー。
もう片方の腕には『魔神剣』が、戦闘態勢のまま握られている。
「『騎士』殿………。止めておきなさい。」
「………。」
「このクリスタルは、もとより我々の物。『シスチナの女神』様の宝でございます。余計な事に口を挟まない方が、御身の為かと。」
「ほぉ……。宝とな。」
シュナウザーは言う。
「エルの『フランシスカの牙』をも通さない宝とは、ますます興味がある。よこさぬなら、力付くで奪うのみ。」
メフィストは、静かにシュナウザーに答える。
「本当に良いのですかな?」
「………何がだ?」
「私達が戦えば、ただでは済みませんよ。」
「………。」
「私は先程の魔導師エメラルダスとは格が違う。二体一でも簡単には行きますまい。」
「ふん。エルの力は不要。俺一人で十分だ。」
「団長………。」
「心配するな。強い戦士との戦闘は『騎士』としての本望。異大陸には存在しない魔導師の力を知る良い機会ではないか。」
シュナウザーの中に潜む
魔神『オベリクス』が戦えと言っている。
クリスタルなど口実に過ぎない。奴の強さを確かめたい。
「手ぶらで異大陸に帰っては、『騎士団』のメンバーに笑われる。」
『魔神剣』!!
ゴゴゴゴォ!
「仕方ありません。」
メフィストは、白いシルクハットをクイッと被り直す。
「私の魔法は『光と水と風』。3つの属性からなる魔法を、とくとご覧に見せましょう。」
ビカッ!
メフィストの周りに『光の渦』が立ち込める。
「行くぞ魔導師!」
シュナウザーの闘気が『魔神剣』に凝縮されて行く。
「!!」
(これは……物凄いエネルギー。予想以上です。)
「素晴らしい。」
「『爆裂斬』!!」
ドドドドドドドドッ!!
大地が爆発する。
魔神『オベリスク』の破壊のエネルギーは、存在する全ての物を破壊する。
(これは、まずいな。)
ふわり
メフィストの周りを囲む『光の渦』では、魔神剣の一撃を抑える事は出来ない。
(この『騎士』は剛の剣を使う。正面から戦うのは分が悪い。ならば……。)
ドッガーンッ!!
大爆発を起こしたその上空。
メフィストの身体は、その遥か上空に浮かび上がり、魔神剣の攻撃を難なくかわす。
「次は私の番です!」
ビカッ!
メフィストの両手から溢れる魔力。
『光と水と風』の精霊達の力を借りたエネルギーを光の弾丸に凝縮する。
天空からシュナウザーに狙いを定めるメフィスト。
「『フランシスカの牙』!!」
「!!」
バシュッ!!
「な!?」
その直後、エルフローネの美剣『フランシスカ』がメフィストの両手を捉えた。
ビシュッ!
「なんと!」
メフィストの両手から血が飛び散り、大きく態勢を崩す。
「油断しましたね。何も空を飛べるのは、あなただけでは有りません。」
「ちっ!『光の弾丸』!」
ビュッ!!
バシュッ!!
苦し紛れに放たれた『光弾』をエルフローネは美剣『フランシスカ』で凪ぎ払う。
シュルルル
「む………?」
(消えた………。)
目の前を浮遊していたメフィスト・フォースの姿が忽然と姿を消した。
(空を飛んだと思ったら、今度は姿を眩ますか……。)
しかし、消えるはずがない。
これは『光と水と風』の魔法。
おそらく、光の屈折を利用した錯覚。
(メフィストは、そう遠くには行っていない。)
【終戦編②】
ポタ
ポタ
メフィストの両手から真っ赤な血が滴り落ちる。
(治癒魔法………。)
シュン
その傷を、自らの魔法で応急処置をするメフィスト。
『血盟の騎士』――――――
(まさか、私が敵の実力を見謝るとは……。)
シュナウザー1人で戦うと言っておきながら、何の躊躇いもなく、戦闘に参加するエルフローネ。
(彼等は本物の戦士だ………。)
多くの戦場での経験に裏打ちされた実力。
敵を倒す為の最善の選択に、息の合ったコンビネーション。
(1対2では、少々きつい………。)
ズサッ!
「!」
メフィストの 前に現れたのは二人の『血盟の騎士』。
「なんと、私の幻影魔法でも振りほどけないのか。」
メフィストは素直に感心していた。
驚くメフィストにエルフローネが告げる。
「翔龍(しょうりゅう)の瞳から逃げる事など不可能です。魔導師の機動力など、騎士と比べたら赤子にも等しい。」
「なるほど………。それは当然でしょうな。」
ジリ
少しづつ間合いを詰めるエルフローネとシュナウザー。
(この二人。果たして『聖地シスチナ』の脅威となるのか……。もしくは……。)
Fortune Children(フォーチュン チルドレン)
(『運命の子供達』として、世界の救世主となるのか……。)
「どうした?諦めてクリスタルを渡すか。それとも、俺達と戦うのか。逃げるのは無しにしようぜ。」
シュナウザーが『魔神剣』を突き出した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴォ!
(何と言う威圧………。)
「どうやら、私では貴方達二人を相手にするのは厳しい様ですな。」
「……なに?」
「それでは、そのクリスタルを私達に渡すと言うのですね。」
しかし、メフィストはエルフローネの質問に首を振る。
「言ったでしょう。これは『シスチナの女神』様の宝だと。誰にも渡すつもりは有りません。」
「ちっ!」
シュナウザーは舌打ちをする。
「ならば、死んで後悔するんだな!」
ブンッ!
『魔神剣』が振り上げられる。
この至近距離で、『爆裂斬』の攻撃をかわす事は出来ない。
それでも、メフィストに焦りの表情は見えない。
「私一人では厳しいですが、二対二なら話は別です。」
「!!」
「団長!!」
ボワッ!!
刹那、紅蓮の炎が、シュナウザーを包み込んだ。
「うぉ!?」
「師匠!!こちらへ!!」
そこに割り込んだ声は、シュナウザー達よりも少し幼い女性の声。
「クリス。少し遅かったですね。」
「何を言ってるんですか!早く乗って下さい!」
ドンッ!!
「な!」
「団長!あれは!?」
そこに現れたのは、空飛ぶ舟。
低空飛行で戦場に現れた『空飛ぶ舟』からトンガリ帽子を被った少女が叫んでいた。
ふわり
メフィストの身体が空中に浮かび上がる。
「まぁ、今回は止めておきましょう。私の目的は『黄金のクリスタル』。貴方達との戦闘では無い。」
「ちっ!『爆裂斬』!!」
ブワッ!
真下からシュナウザーが剛の剣を撃ち上げる。
「『ホワイトウォール』!!」
「『爆炎魔法フレア』!!」
対する二人の魔導師、メフィストとクリスが、防御と攻撃の魔法を同時に放った。
バチバチバチ!
ドッカーンッ!!
「くっ!俺の剣擊を相殺しやがった!」
シュナウザーはすぐさま、エルフローネの顔を見る。
「エル!追えるか!?」
空飛ぶ舟は、かなり上空まで急浮上している。
エルフローネは、厳しい表情で唇を噛み締めた。
「団長……、私一人で追っても迎撃されるだけでしょう。」
「………む。………そうだな。すまぬエル。」
もはや、遠くに小さく見える空飛ぶ舟を、二人の『血盟の騎士』は見上げるしか出来ない。
「それにしても、空飛ぶ舟など信じられんな……。」
シュナウザーがぽつりと呟く。
「『聖地シスチナ』の魔導師。あの者はいったい何者なのでしょうか。」
「さぁ……な。」
上空には青空が広がっていた。
「そういや、砂嵐も止んだ事だ。そろそろ戦闘も終わった頃合いか。」
「そうですね。」
エルフローネが答える。
「『皇帝騎士団』……『帝国』は勝ったのでしょうか?」
「それこそ、俺の知った事か。戻るぞエル。」
「はい!団長!」
ヴィナス歴800年1月29日
「聖ヴィナス帝国」と「バラアテネ軍」との戦争は、『聖ヴィナス帝国軍』の勝利で幕を閉じた。
帝国にとっての脅威であった『地下帝国』と『魔導師軍団』を同時に殲滅させたカイザード達であったが、その代償は大きく、そのまま『幻の国』へと攻め入る程の戦力は残っていなかった。
『幻の国』『聖地シスチナ』と『聖ヴィナス帝国』との決戦は、もう少し先へと持ち越される事となる。
