真・異世界戦記 (二人の訪問者の章)

【皇帝騎士団編①】

「エル!お前は『平和の塔』に侵入した賊を追え!」

「分かりました。お任せを!」

シュナウザーの指示に頷くエルフローネ。

『魔法陣』の妨害を乗り越え、『平和の塔』に駆け付ける。そんな芸当が出来るのはエルフローネしかいない。

シュナウザーはエルフローネに全幅の信頼を寄せている。だからこそ、シュナウザーは目の前の敵に全力を注ぐ。

半径200メートル四方に張り巡らされた『魔法陣』に『機関銃』の弾丸を弾き返す『魔法の壁』。

一見、完璧に見える二人の魔導師の防御魔法。

その魔法を破る方法。

「何てこたぁない。この位置から『魔法の壁』をぶち破る攻撃をすれば良いだけだ。」

小細工不要。

戦略も不要。

圧倒的な力を持ってすれば、大抵の事は何とかかなる。それが、シュナウザー・バウマンの出した結論。

そんなデタラメを可能にする力がシュナウザーにはある。

それが『血盟の騎士』。


「『魔神剣』!!」

その剣には魔神の力が宿ると言う。
常人では触れる事すら叶わぬ魔神の剣。

「血の盟約に従い、我に力を!!」

ゴゴゴゴゴゴォ!

「!!」

「カシリーゼ!あれは!?」

異変に気付いたのは二人の魔導師。

「分かっていますメレイラ。」

カシリーゼは真っ赤な十字架に魔力を注ぎ込む。

「『紅十字の結界』!」

弾丸をも弾き返すカシリーゼの魔法防御。


その防御壁を

「『爆裂斬(ばくれつざん)』!!」

ドバッ!!

シュナウザーは、大地ごと吹き飛ばす!!

「な!!!」

「きゃぁあぁ!」

メレイラとカシリーゼは、数メートル後方の地面に揃って叩き付けられた。
軽症で済んだのはカシリーゼの魔法の賜物か。

「ん………?」

そして、シュナウザーは『魔法陣』が消えた事を確認する。

「なんだ?あの魔法……。術者を攻撃したら消えるのか?それとも、その場に立ち止まっていないと効力を発揮出来ないのか?」

ズサリ

シュナウザーは更に魔神剣を構え直す。

「魔導師の魔法って奴も、大した事無いな。」


(くっ!)

慌てて態勢を立て直すメレイラとカシリーゼ。

「な、な、何なのですか、あの『騎士』は!」

「『平和の広場』ごと吹き飛ばすなんて、何を考えているの!」

『平和の塔』の眼下に広がる広大な広場が、シュナウザーの攻撃により、地面ごと削り取られ大きな陥没が出来上がる。

「ふん。今のは試し打ちだ。次が本番……。」

ゴゴゴゴゴゴォ!



次の攻撃で勝負は決まる。

ゴクリ


「おい!」

「…………ん?」

「そこのお前!何をしている!」

シュナウザーの攻撃を遮ったのは、二人の魔導師ではなく……。

「我々は首都ヴィナス・マリアの治安を預かる『特別帝国騎士団』だ。『大量殺人』の疑いでお前を連行する。」

『聖ヴィナス帝国』所属のエリート騎士団であった。




【皇帝騎士団編②】

ヴィナス歴799年12月31日に起きた事件。
首都ヴィナス・マリア襲撃事件による死者は367名。『平和の広場』が半壊した事もあり、翌日の建国800年記念式典の行事は中止された。

「カイザードよ。」

この日、グランヒル皇帝は一つの決断をする。

「先日の『幻の国』討伐軍の遠征の失敗に続き、昨日の首都襲撃事件。800年の歴史を誇る『聖ヴィナス帝国』にとって、このような屈辱は無い。」

「皇帝陛下………。」

「『帝国』の威信に掛けて、3つの脅威を早急に排除しなければならない。」

3つの脅威

それは、『エコニア砂漠』を支配する『地下帝国』、『魔導帝国』の建国を目論む謎の『魔導師集団』、そして実在が証明された『幻の国』。

「お前に指揮権を預ける。早急に軍隊を結成し、南下せよ。まずは『地下帝国』、次に『幻の国』。『魔導師集団』の本拠地は早急に突き止める。」

グランヒル皇帝の言葉は重みを増して行く。

「失敗は許されぬ。軍の編成も好きにして構わん。どんな手段を使っても、奴等を叩き潰せ!」





首都ヴィナス・マリア

監獄塔

「はぁ………。」

シュナウザー・バウマンは力なく ため息を吐いた。

「何で賊を追い返した俺達が捕まらなきゃならねえんだ?容疑は晴れただろうに……。」

「それは、団長がやり過ぎだからです。広場もろとも亡くなった市民の遺体を吹き飛ばすなんて暴挙。私も驚きを隠せません。」

「………。」

「まぁ、すぐに解放になるでしょう。式典も中止になった様ですし、私達、何しに来たのでしょうね。」

エルフローネの言う事ももっともだ。俺達には、ここは似合わない。血の盟約により縛られた俺達には焦臭い戦場がよく似合う。

コンコン

「……ん」

コンコン

「失礼します。」

ギギィ

二人が収容されている監獄室のドアを開ける一人の女性。

どうやら解放されるらしい。

「思ったより早かったですね。」

「あぁ、さっさと俺達の大陸に帰るぞ。」


(………ん?)

シュナウザーはそのドアを開けた女性の顔に見覚えがあった。

警備兵ではない。

アイナ・L・ガードナー。

グランヒル皇帝の娘、宮殿にいたお姫様だ。

「アイナ王女………。俺達に何か用事ですかね。」

すると、アイナは随分とかしこまった様子で二人に言う。

「話に聞きました。昨日の魔導師との一戦、魔導師を撃退して頂きありがとうございます。」

「ん?」

一瞬、シュナウザーは言葉に詰まる。

「そんな事を言いに来たのですか?『帝国騎士』なら当然の事でしょう。」

「あ、いえ………。実は……。」

アイナは再び襟を正し、シュナウザーとエルフローネの顔を真正面から見据えた。

「私の兄カイザード王子から命令があります。」

「命令?」

「カイザード……王子?」

二人は何事かと顔を合わせ、すぐにアイナの次の言葉を待つ。

「はい。あなた達二人を本日よりカイザード王子直属の『騎士団』、『皇帝騎士団』に任命します。」

「はぁ!?」

「『皇帝騎士団』??」





今回のグランヒル皇帝の意気込みは本気だ。

800年記念式典を潰されのだから、それも仕方ないだろう。

現皇帝グランヒルの息子。
最強の『騎士』と名高い金髪碧眼の『騎士』カイザード・L・ガードナーは、皇帝の命令を受け入れた。

元よりカイザードは『幻の国』を潰す気であった。『聖地シスチナ』で感じた気配は尋常ではない。

あれは、人類にとっての脅威。

問題は『聖ヴィナス帝国』の戦力で『幻の国』を攻略出来るかどうか。

手段は選んでいられない。

異大陸から来た二人の『騎士』は、相当に腕が立つと聞いた。

後は………。





【皇帝騎士団編③】

ヴィナス歴800年1月15日

ヴィナス宮殿前に集まったのは3千人からなる『帝国正規軍』。『機関銃』を手にした『帝国正規軍』の数は前回の遠征軍と変わらない。
いつ、首都が襲撃されるかも分からない現状では、これが軍隊としては上限であろう。

前回との違いは、カイザードはアンヒューマの部隊を編成していない。
無理やり連れて来たアンヒューマは、いつ寝返るか分からない。それは前回の失敗で経験済みである。

そこで、カイザードは大陸中に志願兵を募集した。

新たに新設されたカイザード直轄の『皇帝騎士団』。皇族でも貴族でも、一般国民でも、アンヒューマでも構わない。腕に自信のある戦士達が宮殿前に集結していた。

しかし

「………31人。お兄様……。予想より、かなり少ない様子です。」

カイザードとアイナを除けば、そこに集まった戦士は僅か31人であった。見たところ『皇族』と『貴族』の戦士は一人もいない。

アイナが知っている顔ぶれは、先日、自らが声を掛けたシュナウザーとエルフローネくらい。

「まあ、こんなものだろう。昨年末の『帝国軍』の敗戦は皆が知っている。わざわざ命を落とす戦争に志願する物好きは居ないさ。特に『皇族』や『貴族』であれば尚更だろうね。」

「そんな………。」

「それでも、俺はここに集まった戦士を歓迎する。危険な戦いに自ら志願したんだ。腕に自信が無いと志願なんてしないさ。」

「そう………ですね。」

アイナは集まった戦士を見回した。

おそらく、その殆んどがアンヒューマ。
アンヒューマとして暮らすくらいなら、『皇帝騎士団』に参加した方がマシだろう。
そもそもアンヒューマに『騎士』としての素質を持った人間がどれくらいいるのだろうか。
アイナには、どうしても彼等の真意を疑ってしまう。



一方のシュナウザーとエルフローネ。

「エル……、それにしても、何で俺達がこんな所で戦争に参加しなければならんのだ?」

シュナウザーは朝から機嫌が悪い。

「仕方ないでしょう。皇帝陛下のご子息の命令を断る訳にも行きません。」

シュナウザーを嗜めるのはエルフローネ。
エルフローネとて、本当は『皇帝騎士団』なんかに入りたくは無い。誇りある『血盟騎士団』の団長と副団長が、始めて来た大陸本国で強制的に戦争に参加させられる状況。

不満が無い訳ではない。

しかし、二人は根っからの『騎士』であった。
『騎士』の本懐は『戦闘』の中にある。
戦えと言われたら全力で戦うのが『騎士』。

エルフローネは既に気持ちを切り替えている。


「どうだエル。お前から見て戦力になりそうな奴はいるか?」

シュナウザーは、おもむろにエルフローネに質問をする。

多くの戦場で多数の強者と対峙して来た二人には、ある程度その人間の実力を見極める事が出来る。

「そうですね。私達のレベルに達する『騎士』はいないでしょうが、何人かは気になる戦士はいます。」

「ほぉ……。」

シュナウザーは少し驚いた。

エルフローネが気になると言うのは珍しい。
『血盟騎士団』の『騎士』の中でも、エルフローネはシュナウザーに並ぶ実力者。
そのエルフローネが認める戦士など、なかなか居るものではない。

「例えばあの男……。おそらくアンヒューマの『騎士』。あれは殺人者の目だわ。人を殺す事に生き甲斐を感じるタイプです。」

「…………。それは頼もしいな。」

シュナウザーは少しげっそりする。

「それと………。」


エルフローネの視線の先。

そこに佇む少女。

その少女は明らかに異質な存在。

なぜなら彼女は、おそらく『騎士』でも『魔導師』でもない。

肩にぶら下げるのは、剣ではなく『機関銃』。

「あの少女………。何者なのでしょう?明らかに毛色が違います。」

「………あぁ。」

シュナウザーは、迷彩服を纏う少女を見る。
確かに彼女は『騎士』でも『魔導師』でもない。

(色んな奴がいるものだな………。)



「諸君!」

カイザードの勇ましい声が集まった戦士達に向けられる。

「よくぞ集まってくれた。本日結成された『皇帝騎士団』の団長カイザードだ。これから厳しい戦いになると思うが、宜しく頼む!」

「同じく副団長を勤めるアイナ・L・ガードナーです。宜しくお願いします。」

ザワッ

二人は集まった戦士達に深々と頭を下げた。
その殆んどがアンヒューマだと言うのに、皇帝陛下の二人の子供が。

「カイザード王子!アイナ姫!俺達はアンヒューマだ。皇族である二人が頭を下げる必要なんて無い。」

戦士の一人が、思わず口にする。

「いや。」

しかし、カイザードは即座にその言葉を否定する。

「この戦争は『聖ヴィナス帝国』の未来を掛けた戦い。皇族もアンヒューマも関係ない。」

ザワザワ

「よって、俺達二人は王子でも王女でもない。君達と同じ『皇帝騎士団』の戦士なのだ。」

「………。」

「『皇帝騎士団』団長として頼みがある。お前達の命、俺達が預かる!どうか俺達二人に付いて来てくれ!」

ザワッ

(おい……どうする?)

(どうするも何も俺は志願した時から覚悟は出来ている。)

「カイザード団長!俺は東の街アルゼリアの『騎士』マッキンガーだ!こちらこそ宜しく頼む!」

「私は最北の地シュツルム湿原から来た『騎士』ノースファルド・シューネ。我が愛剣の名は『エルザ』。かのシャルロット王と同じレイピア使いだ。」

集まった戦士達が、次々と名乗りを上げる。



(ほぉ……、カイザード王子か。アンヒューマの戦士達を見事に陣下に加えるとは、ただの皇族の坊っちゃんでは無いと言う事か……。)

周りの戦士達の様子が、先程までとガラリと変わったのをシュナウザーは感心して見つめていた。

「私の名ははエルフローネ・ミリアス。異大陸より参りました。」

ザワッ

(異大陸…………?)

(おい、異大陸の人間など始めて見るぞ。)

「同じくシュナウザー・バウマン。異大陸の『騎士』だ。宜しく頼む。」

ザワザワ

自己紹介を終えたエルフローネとシュナウザーの言葉を聞いて、この日一番のざわめきが起きる。一癖もふた癖もある戦士達の中でも『血盟騎士団』の二人は異色の存在。
大陸本国の人間にとって『異大陸』の『騎士』など、まるで異国の地から来た人間同様だろう。

「シュナウザー、エルフローネ、無理を言ってすまなかった。どうしても君達の力が必要なのだ。」

カイザードは、丁重に二人に感謝の言葉を述べる。
これで、31人集まった戦士達の30人までの自己紹介が終わった。

新たに結成された『皇帝騎士団』

残る戦士は一人。

茶髪に迷彩服を着た少女が、慌ててその場に立ち上がった。

「えっと………。」

少女に注目が集まる。

何せその少女は明らかに『騎士』でも『魔導師』でも無い。肩に下げる『機関銃』を見るに『騎士』と言うより『帝国正規軍』に混ざった方がしっくりと来る。


「あの……、私の名前は白井  未来(しらい  みく)。米軍特殊部隊『フォーミュラ・ジャスティス』最期の世代。えと、宜しくお願いします。」

ザワザワ


(ベイグン…………トクシュブタイ??)

(何だそれは………??)



ヴィナス歴800年1月15日。

カイザードとアイナを加えた33名の『騎士団』。

『皇帝騎士団』が発足する。