Seventh World 7つの世界の章
【運命の子供達編①】
『ビッグ・バン』!!
小宇宙に凝縮された膨大なエネルギーは、大爆発を引き起こし、悠久の大地『ユグドラシルの世界』が崩壊する。
坑がえる人間などいない。
人も動植物も、大地さえも強大な『ビッグ・バン』の爆発には逆らえない。
爆発が起きる寸前
シャルロットは目の前に出現した水晶体(クリスタル)を掴み取った。
白色と虹色に輝く、2つの指で摘まめる程度の小さな水晶体(クリスタル)。
これはゴッド・マリアと星空 ひかり。
二人の偉大なる『神』が、封印された輝石。
二人の『神』は、広大なる世界から完全に隔離されたのだ。
ふと、シャルロットは周りの景色に目をやった。
小宇宙の大爆発により、激しい音を立てて崩壊する世界。大地は裂け、大気は歪み、あらゆる物が抵抗する間もなく消滅する。
そんな光景をシャルロットは、傍観する。
「これが、世界の崩壊………。」
全てが破壊される大爆発の中、シャルロットは、ただ茫然と見つめるしか出来ない。
既に、シャルロット・ガードナーの力は、この世界に影響を及ぼさない。
小宇宙の大爆発も、シャルロットに影響を与える事はない。
なぜなら、ゴッド・マリアの『聖なる加護』『時の旅人』の効力は既に途切れている。
水晶体(クリスタル)に封印されたマリアの力は、外の世界には及ばない。
シャルロットの身体は透過され、もう気配を感じる事も出来ない。
――――――――――時が戻る
【運命の子供達編②】
一年後
ここは、天使達の住む世界
『白の世界(ホワイトワールド)』
「なぁ、ボムボム。いくら待っても現れねぇよ。『加護の戦士達』は、一年前の戦闘で全滅したんだ。」
そう告げるのは日賀 タケル(ひが たける)。
『化け物』どもと戦う『神々の聖戦(ゴッドジハード)』の戦闘員だ。
「しかしだにゃあ……。タケル………。」
ボムボムと呼ばれる猫は、『神々の聖戦(ゴッドジハード)』の隊長である。見た目はまんま猫であるが、その実力は計り知れない。
「可憐やステラ。あの戦士達が全滅するなど、信じられんにゃあ。」
ボムボムと『加護の戦士達』が別れたのは、ほんの一週間前。
シャルロットの加護『時の旅人』の能力により、12人の戦士達は一年前の『ユグドラシルの世界』へと旅立った。
『化け物』どもの指導者『アルタミエル』を倒し『ユグドラシルの世界』を救う為に。
タケルは、呆れた様子でボムボムに言う。
「俺だって信じたくねぇよ。エミリーが簡単に死ぬとは思えない。しかし、これが現実だ。」
この一年で、Seventh World(7つの世界)のうち、既に5つの世界が崩壊した。
残された世界は、ここ『白の世界(ホワイトワールド)』と最初の世界『ワールド』のみ。
『加護の戦士達』が過去へ旅立ってからも、歴史は何も変わっていない。
「『加護の戦士達』は負けたんだ。知ってるだろう?『ユグドラシルの世界』の被害が一番大きい。何せ世界が丸ごと消滅したんだ。その中で助かると思う方がおかしいぜ……。」
タケルの言う事はもっともだ。
一年前の戦闘で『ユグドラシルの世界』は完全に消滅した。『白の世界(ホワイトワールド)』も、このままでは『化け物』どもに喰い尽くされる。
「これは、エミリーの弔い合戦なんだ。俺は戦うぜ。例え一人になってもな……。」
「タケルさん。そろそろ行きますよ。時間が有りません。」
タケルとボムボムの会話に口を挟むのは少年ゼロ。
「既に消滅した世界の話より、現実の方が大切です。この世界の大半も、既に『化け物』どもの支配下にあります。しかしチャンスは有ります。」
「あぁ………。」
「『化け物』どもを操る『7つの大罪』の指導者達。羅将、ギオス、ミリリアン。そして七人いると言われる指導者達の最高実力者『戦慄の女王メイテル』。奴らを倒せば局面は打開出来ます。」
「分かってる。行くぞゼロ!」
「はいはい。では捕まってて下さいよ。」
ビュンッ!!
希代の魔導師である少年ゼロに連れられて、日賀 タケルは戦場へと向かう。
上空へ消えていく二人を見てボムボムは呟いた。
「もう無駄だにゃあ。5つの世界同様、この世界も滅ぼされる。奴等の力は強大だにゃあ。我々に残された戦力は、殆ど残っていないにゃあ。」
まぁ、それも知っての事であろう。
少年ゼロの力を持ってしても、奴等には敵わない。
そんな事は、少年ゼロ自身が知っている。
それでも、彼等が戦うのは意地のようなものか。
何の抵抗もせずに滅びるくらいなら、一人でも多くの敵の戦力を減少させる。
それが人類に残された唯一の手段。
【運命の子供達編③】
更に十年の歳月が流れた。
ここは、Seventh World(7つ世界)で唯一残された最初の世界『ワールド』。
「どうだ?奴等の動きは?」
青い髪と青い瞳の男が、ひとまわり歳上の男性に声を掛けた。
「イースか………。奴等の動きは無いな。どうやら、この世界を襲うつもりは無いのかも知れない。」
声を掛けた男の名はサラ・イースター。
すらりとした体格に、優しい瞳が印象的な男性である。
もう1人の男の名はゼクシード・フォース。
世界最高の治癒魔導師を名乗る実力者。
二人が共に『パラアテネの四将星』と呼ばれる大魔導師なのは過去の話。
戦争が終わり、世界の国々は復興に全力をあげていた。
平和の象徴として、新たな国が建国された。
その国は、どの勢力にも属さず、世界の平和を守る為だけに存在する小国家。
国の名は『ヴィナス』と名付けられた。
世界を救った救世主『ヴィナス・マリア』の名前から取られたと言う。
小さな領土と小数の住民しか持たない『ヴィナス』には世界中から多くの戦士が集められた。
表向きは世界の治安維持の為。
しかし、真の目的は別にあった。
『ヴィナス軍』創設の目的は、異世界からの『化け物』と戦う事。
国家の中央にそびえる平和の塔。
その塔の頂上には、『ヴィナス』の象徴とされる巨大なクリスタルが掲げられている。
七色に輝くクリスタルは、この世界を救ったとされる『ヴィナス・マリア』が封印されている『本物のクリスタル』のレプリカである。
「もしかしたら、奴等が襲って来ないのは、その『水晶体(クリスタル)』が原因かもしれない。」
ゼクシードは、部屋の中央に保管される本物の『水晶体(クリスタル)』に目配せをした。
「宇宙神『ブラフマー』か。奴等も迂闊には手を出せない。それなら有難いのだが。」
イースは、平和の塔の室内から窓の外を見下ろした。
そこには、数万を越える『ヴィナス軍』の兵士達が、初代国王の登場を待ちわびていた。
かつての『マゼラン帝国』のカリスマにして、世界最強の騎士。
新国家『ヴィナス』の英雄
シャルロット・L・ガードナー
金髪碧眼の女王シャルロットは、大観衆の声援を受けながら、広場の正面に登場する。
「ママ、シャルロットおばちゃんが来たわ。」
青い長髪に青い瞳が可愛らしい少女が、少女の手を引く母親に言う。
「サリー、よく見ておくのよ。今日は歴史的な日なの。」
シャルロットが初代国王に就任したその日の事をサリーはきっと忘れない。
サリー・イースターは、シャルロットの美しい勇姿を、きっと忘れない。
【エピローグ】
Seventh World(7つの世界)を巡る『加護の戦士達』の戦いは終わった。
6つの世界は滅び、『加護の戦士達』もその殆どが命を落とした。
それは、『加護の戦士達』にとっての敗北であったのか。
あたしは―――――
――――――――そうは思わない。
チェリー・ブロッサムは、シャルロットの演説を感慨深げに聞いていた。
あの時、見た 幻(まぼろし)は『幻』では無かった。
アマテラス様は、死ぬ間際に魔法を掛けた。
『不老不死』の魔法―――――
それは、『天帝の加護』とは違う本物の魔法であった。
しかし、チェリーは『不老不死』の能力を忌まわしいとは、もう思わない。
チェリーにはやらねばならない事がある。
アマテラス様は最後にチェリーに託したのだ。
『加護の戦士達』の戦いを
『加護の戦士達』の記憶を、語り継がねばならない。
『化け物』どもを
『7つ大罪』の指導者達を倒すその日まで
「運命の子供達か………。」
Fortune Children(フォーチュン チルドレン)
アマテラスが言ったその言葉を、チェリーは何度も反唱する。
それが、何を意味するのか。
それが誰の事なのか。
チェリーは何も分からない。
しかし、いつか出会うであろう『運命の子供達』にチェリーは語る事が出来る。
その為の『永遠の命』なのだから。
去り際に、チェリーは一組の母子とすれ違う。
少女は言う。
「ママ、今のお姉さん泣いていたわ。」
少女サリーの母親マリー・イースターは、優しくサリーの頭を撫でた。
「きっと、シャルロットの演説に感動したのね。」
『加護の戦士達』の物語は『運命の子供達』に引き継がれて行く。
Seventh World(7つの世界の物語)
END