Seventh World 7つの世界の章

【最後の戦い前編①】

ブワッ!

ゴゴゴゴゴゴォ!

『五大精霊』と『精霊王』が、最初に襲ったのは李  羽花(リー・ユイファ)であった。

人間では到底 敵わぬ異質な力に、ユイファも異能の力で対抗する。


『万物を操る能力』


ユイファの操つれる生物は、植物や動物だけに収まらない。人間や『化け物』までをも操る特殊能力。

しかし

「!!」

ブワッ!

「きゃっ!」

ヘビモスが繰り出す破壊の猛威がユイファを吹き飛ばした。

「ユイファ殿!」

バキバキ!

全身の骨が砕ける音がした。

しかし、意識はある。

(『万物を操る能力』は精霊には通じない………。ならば!)

ギギィ

ギギィ

シャーッ!

シャーッ!

幾千にも及ぶ『化け物』どもが精霊達に襲い掛かる。皮肉な事に、人々を苦しめて来た数の暴力が、ユイファ達の盾となる。


ブシャッ!

シャーッ!

ギャオォーン!

グシャッ!


目の前で繰り広げられる地獄絵図を、アリス・クリオネは傍観するしかない。

(ユイファ………この状況で諦めないなんて。すごい戦士。しかし……。)

ブシャッ!

バシュッ!

『大精霊』と『化け物』どもでは個々の戦闘力が違い過ぎる。『化け物』どもでは勝てない。

これは単なる時間稼ぎにしかならない。




時間稼ぎ

ユイファの狙いはそこにあった。

宇宙神ブラフマーの相手をユイファが引き付ける事で他の『加護の戦士達』の勝機を広げる事が出来る。

希望があるとすれば、夢野  可憐とシャルロット・ガードナー。


事実、可憐の力は『破壊神シヴァ』の力を圧倒する。

「『大天使シルフレアの剣』!!」

バシュッ!!

「ぐわぁっ!!」

それは『破壊神』の悲鳴。

シヴァは3つの瞳を見開いて言う。

「こんな……はずでは………。」


随分と長い道のりであった。

宇宙広しと言えど、宇宙の中心が『天界』とSeventh World (7つの世界)なのは間違いない。全宇宙を創造した最初の『四人の神』が最後に辿り着いた世界こそ『天界』。

「ようやく『天界』を……、『オリュンポス十二神』から取り戻したと言うのに……。」

「シヴァさん……。」

可憐は告げる。

「私達は、あなた方(神)のモノでも道具でも有りません。」

「ぐっ……。」

「『天使の一族』も『人間達』も『ユグドラシルの世界』の住人達も、みんな同じ。私達は生きているのです。」

それに気付かなかったのが

あなたの敗因

『シルフレアの剣』が突き刺さったのはシヴァの胸部。そして可憐は、そのままシヴァの身体を真っ二つに斬り裂いた。

ズバァアァァ!!

「ぎゃあぁぁあぁぁ!!」

『宇宙神ブラフマー』と共に影から『7つの大罪』の指導者達を操っていた『天界の神』。

夢野  可憐(ゆめの  かれん)の力は『神』の力をも上回る。


「次は、 ひかりさん!ひかりさんを何とかしなければ!」

バサッ!

可憐は背中に生える純白の翼を羽ばたかせる。


その時

「天使よ………。」

(まだ……生きているの!?)

可憐に話し掛けるのは『破壊神シヴァ』。

「気が付かないのは。お前の方だ………。」

「……?」

シヴァは何を言っているのか……。

「お前の後ろに見える影は、1人ではない。お前に力を与えたもう1人の存在。」

(もう1人?)

シルフレアとは違う、もう一人の存在。

夢野  可憐は気付かない。

可憐が犯した過ちを、可憐はこの時まで気が付かない。

「それこそ、奴の思う壺。奴はこの瞬間を待っていたのだ。お前が俺を殺す瞬間。」


すなわち


『神々殺し』の瞬間を




「!?」

ブワッ!!

闇が現れた。

美しい『オーロラ』に包まれる『ユグドラシル』の大地に、可憐の周りだけを包む闇。

(これは!?)


「ブラフマーには悪い事をした………。」

そう言い残し『破壊神シヴァ』は絶命する。



「ちょっと!この闇は………。」

グンッ!

「!!」

闇から現れたのは巨大な腕であった。

その腕は可憐の華奢な身体を無造作に掴むと、強引に闇の中へ引き込んだ。


「きゃあっ!!」


ぶしゅう


ほんの、一瞬の出来事。

シヴァを倒したはずの夢野  可憐(ゆめの  かれん)は、『ユグドラシルの世界』の戦場から消滅した。








【最後の戦い前編②】

意識が薄れて行く。

全身骨折の李  羽花(リー・ユイファ)が、『万物を操る能力』で『化け物』どもを操るのにも限界が近付いていた。


それでもユイファは満足であった。

一度は『神』の力に呑まれ仲間達を殺そうとしたユイファ。

ユイファは『神々の呪縛』に勝ったのだ。


後は仲間を信じれば良い。


夢野  可憐の『聖なる力』。

シャルロット・ガードナーの超人的な戦闘能力。

あの二人なら、きっと………。


ジャリ


「残念だわ、お姉さま。」


ユイファの前に現れたのはヴァンパイア・ミリリアン。

「その身体では、ロクに戦う事も出来ないでしょうに。」


(…………ミリリアン。)


「あの方、宇宙神ブラフマー様は私達の想像を遥かに超えている。もう、何をしても無駄よ。」


(…………。)



「あの方が本気になれば、この世界など簡単に滅ぼす事が出来る。私達は生かされているに過ぎない。」


(……………。)


「ブラフマー様は本物の神。分かるでしょ?抵抗するだけ無駄なのよ。」


ミリリアンは、自分に言い聞かせる様に言葉を探す。


「私は生き残るわ。新たな世界の創造にとことんまで付き合うの。それが、私の中に流れる呪われた血の宿命。」



ジャリ



「さようなら………。お姉さま………。」



ユイファには抵抗する力は残されていない。


だから、ミリリアンの前に立つのはユイファではない。


ズサッ


「ふむ。随分と勝手な事を言いよる。」


「………。」


(リュウギ………。)


「お主の相手は俺様だ。ユイファ殿には触れさせぬぞ。」

ミリリアンを睨み付けるリュウギ・アルタロス。

「あら?あなた、まだ居たの?すっかり忘れていたわ。」

「ふん。」

リュウギは更に話を続ける。

「お主は ひかり殿、いや、ブラフマーとやらの力に屈したに過ぎぬ。ブラフマーには勝てないじゃと?ふん。お主は何も分かっておらぬのぉ。」


「何ですって!」


「世の中には、想像も出来ない強者がいる。シャルロット殿は負けぬよ。例え相手が『神』であってものぉ。」




アリス・クリオネは、無言でリュウギの話を聞いていた。


状況はリュウギが言うほど容易(たやす)くない。

夢野  可憐(ゆめの  かれん)の気配が消えた。
おそらく、戦っていた敵との相討ち。
双方の気配が戦場から消滅した。

敵の数は、四人。


宇宙神ブラフマー

羅将

ギオス

ミリリアン



おそらく、この戦いは負ける。


力を失ったアリスに出来る事は、仲間を逃がす事くらいであろう。


リュウギの妖力によって、僅かばかり回復した力を、アリスは最後の魔法に注ぎ込む。


『空間移動魔法』


成功するかどうかは分からない。

成功しても助けられるのは、おそらく一人。

一人でも生き残れば未来は繋がる。



ビュッ!

ズサッ!


リュウギとミリリアンが動いたのは同時。


片腕を失ったリュウギが放つのは、左腕による強烈な打撃。

一方のミリリアンも、ヴァンパイア族特有の強靭な身体能力でリュウギに必殺の一撃を繰り出す。


ブワッ!!


「!!」

「!?」


「アリス殿!何を!!」


シュン!


戦場から姿を消したリュウギ・アルタロスを見て、アリス・クリオネは微笑んだ。

(リュウギ殿の妖力は、お返ししました。)


ズボッ!!!


「くはっ!!」


「ほんとに困ったものだわ。みんな私の邪魔ばかりして。」

ミリリアンの手刀がアリスの心臓を突き抜ける。






【最後の戦い前編③】

ドクン

もはや、『加護の戦士達』に勝ち目は無いように思われた。

戦える戦士は残っていない。

唯一残された戦士はシャルロット・ガードナーのみ。

シャルロットは右足に治癒の魔法を施し、何とかアキレス腱を繋ぎ止めた。

(星空  ひかりが現れたのが幸いしました。あのまま戦っていたら、おそらく私は二人の『7つの大罪』の指導者に殺されていたでしょう。)


ギギィ

ギギィ

シャーッ!!

グチャッ!

ギャゴガッ!



無数にいた『化け物』どもも、既に殆どが消滅している。ユイファも長くは保たない。


「さて、我々もそろそろ決着を付けようぞ。」

カタカタカタカタ


(くっ………。)

アキレス腱を繋いだとは言え完治にはほど遠い。二人の指導者を相手に勝てるだろか。



(…………いや。)

シャルロットは、攻撃対象を変更する。


今、倒すべきは『星空  ひかり』。

彼女が敵の最高指導者なら、ひかりを倒す事を優先しなければならない。


あの日、感じた光の共鳴は運命だったのだろう。


宇宙神ブラフマー


ゴッド・マリアの加護を受けたシャルロット。




二人は最初から戦う運命だったのだ。




この一撃に掛ける。


しゅう

大気中に浮遊する『光の粒子』が、シャルロット・ガードナーの元へ吸い寄せられる。

ザッ!

「!!」

最初に動いたのは羅将であった。

「『ダブルバスタード』!!」

一寸の狂いもない剣裁き。羅将が相当の実力者である事はシャルロットにも分かっている。

しかし、羅将を相手にしている暇は無い。
攻撃の効かない羅将を無視して、星空  ひかりを倒すのが正解なのだ。


シュン!


シャルロットは加速する。


「ぬぉ!逃げるかぁ!!」

置き去りにされた羅将の叫び声が、遥か後方から聞こえた。

万全の状態では無いシャルロットであるが、常任の何倍ものスピードで星空  ひかりに接近する。




ブンッ!

「!!」


次にシャルロットの前に現れたのは機械仕掛けの戦士ギオス。空間移動による瞬間移動術でギオスは、ブラフマーを守るように出現する。


刹那

ババババババッ!!


見えない空間の刃がシャルロットを襲う。

どんなに素早く動けるシャルロットでも、見えない攻撃をかわす事は出来ない。

ゆえにシャルロットは

グンッ!


正面突破を試みる。

ズバババッ!!

刃がシャルロットの周りの空間を切断する。


しかし当たらない。

ギオスの『空間切断魔法』が斬り裂くのは、超高速で走り抜けるシャルロットの残像。


「ななナナナ!!」


ビュン!


ギオスの真横を風が走り抜けた。


ズキンッ!


右足に激痛が走る。


それでもシャルロットは止まらない。


この程度の痛みなど

死んでいった戦士達の痛みに比べれば大した問題ではない。



「星空  ひかり!!」


前方に見えるのは、星空  ひかり。


「覚悟しなさい!!」



もはや、二人の戦闘の邪魔をする者はいない。




長きに渡った『7つの大罪勢力』との死闘は、終焉を迎えようとしていた。