Seventh World 7つの世界の章

【最後の魔法編①】

天帝アマテラス 

 最後の魔法



「フレア!後は頼んだぞ!」

アマテラスは最後の魔法を放つ。
『空間移転魔法』と同時にアマテラスの全てを託した『聖なる光』をフレア・セフィリアに授ける魔法。

それは

『不老不死』の魔法


永遠の命を手に入れたアマテラスの魂が、フレア・セフィリアの体内に流れ込む。


更に月日は流れ

フレアの体内で生き続けたアマテラスは、ラ・ムーア帝国が創り出した人工生命体アリスの体内へと潜り込んだ。


カール皇帝が目指した究極の生命体アリスは、アマテラスの魂を補完する事により完成した。

これこそが、77の未来を渡り歩いたアリスの……。いや、カール皇帝と天帝アマテラスが導き出した最良の選択。



しゅう

しゅう


「ついに……、ついに姿を現したわね!」


アルタミエルは、面前に現れた一人の戦士を、睨み付けた。


「アマテラス……様……。」

もはや動く事の出来ないアリスは、すがるような目付きでアマテラスを見る。


「アリス………すまないね。」


アマテラスは、そう一言だけ告げるとアルタミエルに目をやり片手を天に突き上げた。

「『天帝の剣』!!」

ビカッ!!

そこに現れたのは黄金色に輝く『天帝の剣』


「よもや………。」

アマテラスはアルタミエルに告げる。

「よもや、『不老不死』の魔法による『魂』の一体化を無効にされるとは思いもしなかった。」


アルタミエルの魔法

『静寂(せいじゃく)の左手』


「全ての攻撃を無効化する魔法。
その魔法で『不老不死』の魔法の効力を剥ぎ取っていたとは、驚嘆に値する。

貴様、最初からそれが目的で、アリスと戦う振りをしながら、私を炙り出す事が目的だったな。」

アルタミエルをギロリと睨むアマテラスに、アルタミエルは「ふふ」と唇を歪ませた。

「そうねぇ。それによりアリスの動きが封じられたのはワタクシにとっても想定外、相当に負担が掛かっていたようね。
何せ、『神』を体内に宿していたのだから。いかに強靭な肉体を持つ人工生命体でも耐えられなかった。と言う事かしら。」

ここまでの思惑はアルタミエルの予定通り。

しかし

「しかし、お前(アルタミエル)の方も魔力を失った。夢野  可憐(ゆめの  かれん)の『聖なる力』を甘く見たようだな。」

静かに、そして、力強くアマテラスは言う。
魔力の失ったアルタミエルに勝機は無いのだと。

「それはどうかしら……ねぇ。」

「………。」

「アナタ(アマテラス)こそ、随分と無理をしているように見えるわ。そう、『天帝の加護』の付与能力すら維持出来ない程にね!」

「………!」

「バスタード!!」

「!!」

ガキィーンッ!!

「くっ!」

二人の会話を遮ったのは、『7つの大罪』の指導者『羅将(ラショウ)』。その巨体から繰り出す豪剣を、アマテラスは『天帝の剣』でかろうじて受け止めた。

「お主がアマテラスか。噂には聞いておったが、本当に生きていたとは驚きである。」


(くっ………。不味いな…………。)

アルタミエルの指摘は、全くその通り。
アルタミエルの魔法『静寂の左手』により、『不老不死』の魔法の効力を削られたアマテラスには、もはや実体を維持するだけの力は残っていない。


(魔法の効力を無効化する魔法か……。)

アマテラスに残された選択肢は少ない。

今のアマテラスには、おそらく羅将(ラショウ)と戦う力も時間も残されていない。

魔力の尽きたアルタミエルだけなら何とかなったものの、同じく羅将の邪魔が入る。

アリスの体内に戻るのは危険な賭けとなる。
『静寂の左手』により、アリスとの一体化は一度無効にされている。成功の確率は、低いか……。








【最後の魔法編②】

「アマテラス様…………。」

謝るのは私の方だ。

アリス・クリオネは最後の最後に詰めを過った。

夢野  可憐(ゆめの  かれん)の『聖なる力』により、魔力の供給を断たれたアルタミエルには勝機がない。

そこに油断が生じた。

驕りがあった。

まるで、栄華を誇った『ラ・ムーア帝国』が奴ら『7つの大罪』に滅ぼされた時と同じ。



長い時間を旅し、奴らを倒す事だけを考えて来た。

それが、カール皇帝が、アリスに組み込んだ唯一のプログラム。



(結局、私の力では………。)

カール皇帝の意思も……、アマテラス様の意思も紡ぐ事が出来なかった………と言う事でしょうか。




フレア・セフィリアは言った。


あなたなら、きっと『7つの大罪』を倒し、『ラ・ムーア帝国』の復活の鍵を握る『マリア』に出会う事が出来る。



(ごめんなさい、フレア。)

もう私は動く事も出来ない。

私は貴女の願いすら叶える事も出来ず

このまま


朽ち果てる






「ふんぎゅうぅうぅ!!!」

「!?」

「痛っ!!」

「チェ!チェリー!?」

「なに寝てるのよアリス!!早く行くわよ!」

「え?行くって何処へ??」

「そんなの知らないわ!」

「えぇ!?」

「とにかく、この場を離れるの!」

いきなり現れたチェリーは、動けないアリスを背中におぶり全速力で離脱する。

「くっ………。」

しかし、その足取りは重い。
それも、当然と言えば当然。チェリーの全身は真っ赤に染まり、激戦の傷痕は癒える事なくチェリーに激しい痛みを与え続ける。

「チェリー………、その傷は………。」

「知らないわよ!いきなり『不老不死』の能力が消えたんだもの!アリスのせいでしょ!」

「うっ………。」

「それに………。」

そしてチェリーは、アマテラスと羅将の戦闘を横目で見ると、アリスに言う。

「あれは何?今にも消え入りそうなアマテラス様……。あれはアマテラス様なの!?」

「…………話せば長く………。」

「ええい。もういいわ。今はいい。幸い『化け物』どもは動かないまま。残る敵はアルタミエルとアマテラス様と戦っている変な戦士だけでしょう?」

「えぇ……。しかし、アマテラス様は勝てないわ。」

「…………。」

「私のせいで………。アマテラス様には殆んど力が残っていない。奴らを倒す事は出来ないでしょう。」

「アリス………。」

「……………。」

「あなた、何を言ってるのよ。」

「え………。」

「あたし達は『あたし達』だけでは無いでしょう。何のために『聖なる加護』の戦士達と共闘してると思っているのよ!!」


チェリーは知っている。

チェリーは信じている。

例え、全身の傷が堪えられない程の痛みを与えても、チェリーは堪える。

なぜなら、きっと彼女は負けない。

『希望』がある限り諦めてなんてやるものか!



「チェリー!」

「アリス殿!」

そこに、二人の名前を呼ぶ声が聴こえて来た。

あまりのタイミングの良さにチェリーは思わず笑ってしまう。

そしてチェリーは、目の前に現れた金髪碧眼の美しい戦士へ言う。

「遅っそいわよシャルロット。ちゃっちゃと奴らを倒して来なさいよね。魔法が使えるここなら、あなたに敵はいないでしょうに。」

その誇り高き戦士は、傷だらけのチェリーと精気を失ったアリスを見て、状況を理解する。

「リュウギ殿、チェリーとアリスを宜しくお願いします。」

「シャルロット殿………。」

「この中で、戦える戦士は私しかいない。後はお任せ下さい。」


決着を付けに行って参ります。






【最後の魔法編③】

「それにしても、酷い傷だのぉ。」

口を開いたのはリュウギ・アルタロス。
チェリーの全身から流れる傷は未だ止まらない。

「あなたに言われたくないわ。右腕はどうしたのよ。」

答えるのはチェリー・ブロッサム。実際、リュウギの右肘(みぎひじ)から先はバッサリ切り落とされていた。

双方満身創痍。しかし、最も精彩を欠くのはアリス・クリオネ。今まで『神』である『アマテラスの魂』をその身に宿していたアリスの身体は悲鳴を上げていた。

(ふむ。麗殿が自らの霊獣の力に耐えられなくなったのと同じ理屈か………。)

リュウギの脳裏には、未だ神代  麗(かみしろ  れい)の最期の姿が焼き付いている。

アリスが今まで平気でいられたのは、アマテラスの力による所が大きい。アマテラスは魂となりながらもアリスの身体に負担を掛けまいと『聖なる力』を張り巡らせていた。

アリスの身体に依存するアマテラス。
アマテラスの力によって身体の崩壊を防いでいたアリス。その存在は、まさに一心同体であったと言える。

(アマテラスの魔法『不老不死』の魔法か。やはり、アマテラスはとんだ『化け物』よのぉ………。)



「?」

リュウギは残された左手を、そっとアリスの身体に被せる。

「リュウギ殿………何を?」

「ふむ。」

リュウギはあまり見せた事の無い笑顔でアリスに答える。

「気休め程度ではあるが、俺様の妖力を注ぎ込んでおる。少しでも回復出来れば良かろう。」

もっとも

「俺様の妖力の回復も思わしくない。完全回復など無理であろうが、少しでも動けるようになれば良い。」

もはや戦闘力を無くした三人にとって『化け物』どもが動かないのが、せめてもの救いであった。

神代  麗

ピクシー・ステラ

ジェイス・D・アレキサンドリアⅢ世


死闘の上に戦死した三人の『加護の戦士』達は戻らないが、今、生きている事に感謝しよう。

あとは、シャルロット・ガードナーを信じて待つだけで良い。



そう


思っていた。






ギギィ

「おい………。」

ギギィ

「な………。」

「何で『化け物』どもが………。」


動き出すのよ






大空に浮かぶ天使の歌声は『化け物』どもを寄せ付けない。

それどころか、『化け物』どもの動きすら止め、更には『化け物』どもを浄化して行く。

もし可憐の『天使の歌声』が無ければ、幾千にも及ぶ『化け物』どもと対峙する『加護の戦士達』は、今以上に苦戦を強いられていたに違いない。




ここまで、『加護の戦士達』が戦って来れたのも可憐の功績と言えよう。


しかし






ギギィ

可憐の『天使の歌声』が、その旋律を


中断する




「…………あなたは、何者ですか。」


可憐の強大な『聖なる力』を受けてもびくともしない戦士。

『化け物』どもや『7つの大罪』の指導者では可憐に近付く事すら難しい。それほど可憐の『聖なる力』は『負の感情』をエネルギーとする彼等を圧倒していた。

しかし、目の前に現れた戦士は『7つの大罪』の指導者ではない。


「お前が夢野  可憐(ゆめの  かれん)か。話には聞いている。」


その男が纏う強大なエネルギーは『負の感情』によるものでは無い。

その力は、可憐と同じ

『聖なる力』


この世に『聖なる力』を操れる種族は2種族しか存在しない。

1つは夢野  可憐と同じ『天使の一族』

そして、もう1つは


『神の一族』


「何者か………そうだな。名前くらいは教えてやろう。」



我が名はシヴァ


破壊を司る『 神 』



男の額には、3つ目の瞳が不気味に輝いていた。