Seventh World 7つの世界の章
【反撃編①】
ユグドラシルの世界
――――――北の果ての地
ブワッ!
ビキビキビキッ!!
ギャオォーンッ!!
「ぐわぁ!」
ビキビキビキッ!!
ボボボボボッ!!
「うぉあぁ!!」
悲鳴をあげるのは天使の戦士達。
神代  麗(かみしろ  れい)の身体を依り代(よりしろ)とする、青龍の、朱雀の、白虎の、玄武の、四体の霊獣の攻撃は止まらない。
ビキビギビキッ!
それでも、大天使エノクには
四神の攻撃はエノクには届かない。
ビキビギビキビギッ!
無情な時間だけが、麗の身体を蝕んで行く。
「そろそろ、限界かしらね。」
エノクは半壊した麗の身体を冷ややか目で見つめていた。
ふわり――――――
すると、 真っ白い一枚の札が、ふわりと空中に浮かぶのが見えた。
「………?」
陰陽師の一族が使う扱う式札。
その式札が緋色の剣(つるぎ)に変化したかと思うと、その鋭い剣先がピタリとエノクに照準を合わせて静止する。
緋炎剣(ひえんのつるぎ)―――――
大天使エノクこそ、『加護の戦士達』にとっての驚異。
シャルロットやチェリー。
可憐やステラ。
残された『加護の戦士達』の為にも、エノクだけは倒さなければならない。
今、ここで、大天使エノクを殺す事が
神代  麗(かみしろ  れい)に課せられた最期の使命。
ビュンッ!
次の瞬間、その剣(つるぎ)は、鋭い風切り音と共にエノクへ向けて放たれた。
ビキビギビキビギッ!
既に形を無くした麗の瞳には、おそらくその攻撃は見えてはいない。
それでも、緋炎剣(ひえんのつるぎ)は、倒すべき敵を違える事はしない。
「ふふ………。」
一直線に向かって来る剣(つるぎ)を見て、エノクは少し笑って見せた。
「なんて無駄な事を…………。」
ギュイィーン!
エノクの手に現れたのは、神々の武器の中でも最上級に位置する伝説の武器。
――――――『大天使の弓』
この世に存在する数多の武器の中でも、神々の造りし武器に敵うものはない。
大天使ノアの持つ『大天使の剣』が、リュウギ・アルタロスの『妖気の膜』を切り裂いたように、『大天使の弓』から放たれた『大天使の矢』が、麗の造りし『緋炎剣(ひえのつるぎ)』を真正面から迎え撃つ。
ブワッ!!
ゴゴゴゴゴゴォッ!!
バチバチバチッ!!
「!?」
ドバァッ!!
ギュルギュルギュル!!
「な!!」
刹那、大天使エノクは信じられない光景を見る。
最強の武器である『大天使の矢』を破壊した『緋炎剣(ひえんのつるぎ)』が、エノクの見開いた瞳。
その右の瞳を容赦なく貫いた!
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
もし、神代  麗(かみしろ  れい)が、まだ言葉を発する事が出来たなら、麗はこう言うに違いない。
私の精神より造り出された剣(つるぎ)を砕く事は出来ません。
私の精神が――――――
――――――――――――挫けぬ限り
【反撃編②】
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
大天使エノクの悲鳴がハデスの祭壇に鳴り響いた。
「……!」
同じ大天使であるノアも、これは想定外の出来事。
下級の天使達ならいざ知らず、大天使であるノアが人間に破れるなど許されない。
その一瞬の隙。
今度は大天使ノアが予想外の出来事を目の当たりにする。
ブシャアッ!!
「!!」
ブチブチブチッ!!
「ぐぉ!」
ノアの左腕が、噛み千切られる。
「な!?」
相対するリュウギ・アルタロスに動きはない。
ノアの左腕を噛み千切ったのは、真っ白い大蛇。
大天使ノアの右腕に握られていた『大天使の剣』が、巨大な大蛇に姿を変えたのだ。
妖術――――――
『白蛇の舞(しろへびのまい)』
左腕を失ったノアに、リュウギは敢えて自信満々に言い放つ。
「ノアと言ったか……。これで片腕を失ったハンデは帳消しじゃ。しかしのぉ。武器を失ったお主が、果たして俺様の『妖気の膜』を破る事が出来るかのぉ……。」
更にリュウギは大天使ノアを挑発する。
「大天使か何かは知らぬが、それが果たして『魔王』よりも上かどうかは、殺ってみなければ分からぬ。」
「ぐっ!」
「『魔獣キュウビ』」
ブワッ!
「!!」
そこに現れたのは、九つの尾を持つ狐の魔獣。
真っ黒い巨大な『化け物』が、大天使ノアに襲い掛かった。
ギャオォォォーンッ!!
おそらく
ここが勝負どころ
妖気を圧し殺したリュウギ・アルアロスは、冷静に戦況を見極める。
大天使ノア
奴は紛れもなく一流の戦士。
警戒を絶やさない奴には俺様の妖術は通じない。
しかし
一瞬の隙
神代  麗が作った一瞬の隙を逃してはならない。
『魔獣キュウビ』の巨体の陰から、リュウギは素早くノアの背後に回り込む。
大天使エノクの悲鳴
『大天使の剣』と共に左腕を失ったノア。
そこに現れた『魔獣キュウビ』。
冷静さを失った今なら
『魔獣キュウビ』の強大な妖気に気を取られている今なら
奴は俺様の動きを察知出来ない。
リュウギ・アルアロスは逸る気持ちを押さえ、全身の妖気を圧し殺して、それでも最速の動きで敵を捉える。
魔王リュウギの
戦闘の天才リュウギ・アルアロスの勝負の勘が
今しかないと警告する。
ここで奴を倒さねば、リュウギに勝ち目はない。
全ての妖気を、残されたその左腕に集中する。
「ぐおぉぉぉおぉぉぉ!!」
全身全霊を込めたリュウギ・アルアロス最後の一撃が…
大天使ノアに向けて放たれた。
【反撃編③】
「ふむ……。そろそろ限界かの。」
神代  麗(かみしろ  れい)の五体目の霊獣『白澤(ハクタク)』がポツリと呟いた。
限界とは何を意味するのか。
天使達の攻撃に耐えられなくなったのか
それとも、麗の精神力が『白澤(ハクタク)』を作り出す事が出来なくなったのか。
それは定かではない。
しかし、『白澤(ハクタク)』は、その精神体の身体が消滅する寸前に、確かに神代  麗(かみしろ  れい)の声を聞いていた。
ありがとう。
そして
さようなら。
(ふん………。青二才の分際で神獣の儂しを扱き使いおって………。)
「ならば………、最後の奉仕と行くかの。」
ビカッ!!
「!!」
「何だ!!」
天使達の『聖なる力』と白澤の『浄化の力』は、同一系統の力。
よほどの事がない限りは、白澤は天使達を殺す事は出来ない。
しかし
殺す事は出来ないが
『聖なる力』を封殺する事は出来る。
ビカビカビカッ!!
白澤の『浄化の力』が天使達の『聖なる力』に溶け込み、その力を抑え込む。
その時間は、わずか数秒であったかもしれない。
ギュルギュルギュルギュル!!
ブワッ!!
白澤が『浄化の力』を放ったのと同時。
周りの景色が一辺する。
薄暗い『北の果ての地』に一陣の風が流れ込み、外の世界から精霊達が現れたのだ。
「『光速剣』!!」
「『破壊の魔法』!!」
白澤(ハクタク)の消滅により、体外へ放り出されたシャルロットとチェリーは、同時に攻撃を放つ。
ズバッ!
バシュバシュバシュッ!!
ドドドッ!!
ドッカーンッ!!
『聖なる力』を封じられた天使達には、二人の攻撃を防ぐ手段はない。
「ぐわぁ!」
「だぁッ!!」
ドッカーンッ!!
脱出のチャンスを伺っていた二人の絶妙なコンビネーションが、天使達を次々と撃破して行く。
(白澤(ハクタク)が消滅すると同時に結界が破られた!?)
いや
シャルロットはすぐに、その考えを否定する。
白澤は分かっていたのだ。
『北の果ての地』を取り囲む『結界』が破られる瞬間を。
おそらく、ピクシー・ステラが結界を撃ち破った。その瞬間を見計らって『白澤』は、天使の『聖なる力』を封印した。
自身の命と引き替えに――――――
「チェリー!!」
「わかってる!!」
破られたと言っても、全ての『結界』が破壊された訳ではない。『北の果ての地』の一部が外の世界と繋がったに過ぎない。
外の世界から流れ込んだ、僅かな『精霊』の力を利用して二人は魔法を使う事が出来たのだ。
天使達を倒したチェリー・ブロッサムは、即座に結界の外へ、『北の果ての地』の外部へ脱出を試みる。
(『結界』は完全に破壊されていない。)
それは『結界』を張った『7つの大罪』の指導者が、まだ生きている事を表している。
ギオスとか言っただろうか。
ステラとギオスの決着は、まだ付いていない。
チェリーの目的はギオス。
もう一度『結界』を張られる前に
「ギオスを倒す!!」
桜色の戦士が、大きな声で気合いを入れた。
しゅう
しゅう
シャルロット・ガードナーは、光の精霊の力を魔力に変換する。
(よし!これなら、何とか魔法を使える。)
外部から流れ込んだ僅かな精霊の力を取り込んだシャルロットが目指すのは
――――――『ハデスの祭壇』
神代  麗とリュウギ・アルアロスが、天使達と戦っている決戦の地。
外の世界の様子も気になるが、それはチェリーに任せれば良い。
シャルロットの目的は、麗とリュウギを救う事。光の魔法が、どのくらい持つかは分からない。それでもシャルロットは『光の速さ』で『ハデスの祭壇』へと向かう。
麗!
リュウギ!
私が行くまで、死なないで!!
