Seventh World 7つの世界の章

【天使の歌声編①】

天帝アマテラスは、『7つの大罪』が造りし『化け物』の細胞を研究し『寄生虫』なる生物を造り出した。

それは人間の奥底に眠る『負の感情』を餌に増殖する。

暴食

色欲

強欲

憤怒

怠惰

傲慢

嫉妬


『寄生虫』は人間の『負の感情』を吐き出させる事を目的に造られた。

その後、『負の感情』を排除した人間の魂を『不老不死』の魔法の応用で『高天原(タガマガハラ)』の世界へ移転する。

それがアマテラスの目的。

『負の感情』の無い世界。


仮に『化け物』どもが、高天原(タガマガハラ)』の世界を襲っても『化け物』どもは増殖出来ない。

アマテラスの理想は現実のものとなる。


しかし

それとは全く別の方法で、全く違う視点から『負の感情』を排除する人間がいる。

いや、正確には『負の感情』を排除するのではない。

『負の感情』を受け入れて、尚且つ『負の感情』を許す事により『負の感情』を消滅させる。

それは既に『白の世界(ホワイトワールド)』で証明されている。


夢野  可憐(ゆめの  かれん)の歌声は、人間の『負の感情』を『正の感情』へと変換させる効力を持つ。


それが大天使

夢野  可憐(ゆめの  かれん)の『聖なる力』



ギギィ

ギギィ


『負の感情』をエネルギーとして行動する『化け物』ども。

ギギィ


ギギィ


その動きに変化が生じる。



それまで『憎悪』のままに『加護の戦士達』を襲っていた『化け物』どもの

ギギィ




動きがピタリと止まった。


(何だ…………?)

『化け物』どもと激しい戦闘を繰り広げていたジェイス・D・アレキサンドリアⅢ世が、いち早く異変を察知する。

それまで、執拗にジェイスを襲っていた『化け物』どもが、攻撃を止め一人の女性へと向き直る。

(あれは………夢野  可憐…………。)


ジェイスは上空に羽ばたく可憐を見上げる。

その容姿は、まさに天使と呼ぶに相応しい神々しさを放っていた。

可憐の背中からは純白の翼が天に伸び、眼下に群がる『化け物』どもは、為す術もなく可憐を見つめる。

何よりその透き通るような歌声は、広大な『ユグドラシル』の地に安らぎを与え、優しく包み込んで行く。


『負の感情』が

『化け物』どもを動かしていた『憎悪』が

可憐の歌声と共に消えて行く。





「う………!」

「!?」


異変は他にも起きた。

人間の『負の感情』をエネルギーとする『化け物』ども。更には、その『化け物』どもをエネルギーとする『アルタミエル』や『ギオス』に『羅将』。

総統により『7つの大罪』に任命された指導者達の身体が、ビクビクと疼き始める。

(この感覚は………。いったい………。)


『化け物』どもが『聖なる力』に拒絶反応を示す事は分かっていた。
故に『聖なる力』の『加護』を受けた『加護の戦士達』の身体が『化け物』どもに乗っ取られれる事はない。

しかし

可憐の『天使の歌声』は、だたの『聖なる力』とは明らかに違う。

凄まじいばかりの『聖なる力』が、その歌には秘められている。

『化け物』のみならず、指導者である『7つの大罪』にまで及ぼす力。

(これは、不味い………。)

早く、あの娘を………

夢野  可憐(ゆめの  かれん)を殺さなければ!


アルタミエルが、『破滅(はめつ)の右手』を構えると同時。

アルタミエルと可憐の間に、立ち塞がるのは漆黒の衣装に身を包んだ少女。

アリス・クリオネ


くるりと回した漆黒の傘の先端をアルタミエルに差し向けてアリスは言う。

「私の魔法と貴女の魔法。どちらが上か試しましょう。」







【天使の歌声編②】

「ぬぉ!?」

甲冑の戦士『羅将(ラショウ)』が、可憐の歌声に耳を奪われた刹那。
その一瞬の隙を付いて、アリス・クリオネに代わりジェイス・D・アレキサンドリアⅢ世が羅将の前に踊り出た。


「『グラディウス』!!」


ガキィーンッ!!


間一髪ジェイスの攻撃を長剣で受け止めた羅将の表情は苦痛に歪む。



「どうした?様子が穏やかでは無いな。」

「ぐっ!貴様!!」



邪魔な『化け物』どもは可憐の歌声により動きを止めている。

ジェイスは、ここぞとばかりに暗黒剣『グラディウス』を

『天帝の加護』の能力を

かつて殺された仲間達の魂を解放する。

ブワッ!!

その力は魔法ではない。

バキバキバキバキッ!!

「ぐぉっ!!」

グラディウスの魂の一撃が、羅将の魔法防御の鎧を粉々に打ち砕く!







【天使の歌声編③】

カタカタカタ

「ウーム。」

『7つの大罪』の指導者ギオスは、大地にこだまする『天使の歌声』に耳を傾ける。

この力は『聖なる力』ですネ。これほどの力を持つ戦士がいるとは驚きデス。

シカシ………。

後天的に『従属達』からエネルギーを吸収するワタシやラショウへの影響は限定的。驚きはしまシタが、慣れれば問題ナイですネ。


問題があるとスレバ


アルタミエル




アルタミエルは直接『従属達』からエネルギーを吸収している。『従属達』と一体化していると言っても過言ではない。

「ヤレヤレ………。」

ギオスは仕方がないと言う仕草で次の自らの行動を分析する。

まずは、目の前の小さな妖精を瞬殺し、アルタミエルを助けに行く。

作戦が大幅に狂うが仕方がない。
アルタミエルの能力は『7つの大罪』にとっても貴重な戦力。

そう決断したギオスがピクシー・ステラに意識を戻した時。

カタカタカタ

「…………。」

既にステラの姿はそこには無い。

この空域にはステラの気配が感じられない。


「『異空間』へ逃げましたカ………。」

ギオスはステラの能力を知っている。

ステラの『聖なる加護』は『異世界への扉』。
自在に『異空間』へ出入り出来る特殊能力。

普通に戦えば実に厄介な能力である。

それでもギオスは動じない。

そのステラの能力を封じる為にギオスがステラの相手に選ばれたのだから。

カタカタカタ

ギオスは機械仕掛けの両腕をパクパクと空中に彷徨わせ、同時に瞳の無い真っ黒な顔の中央に光を宿す。

ビビビビビビッ

「捜索開始………。」

この空域に存在する、あらゆる次元空間に干渉するギオス。

時間にして数分程度


「見つけマシタ…………。」

カタカタカタ

「ワタシから逃るなど不可能なのデス。」

カタカタカタ

ギュオォーン

すぐさま、ステラへの攻撃準備をするギオス。

そこでギオスは、ステラの行動を凝視する。


ゴゴゴゴォ

「アレハ……………。魔力?」

ピクシー・ステラの小さな身体に、とてつもなく巨大な魔力が凝縮して行く。

普通の人間では扱えないほどの魔力。

「ナンダ………。何をやっているのデスカ?」

次の瞬間『ヘラの首飾り』に集められた巨大な魔力が、一気に放出する。

ドババババァ!!

「!?」

(ソノ方角ハ……………。)

ステラが魔力を放った方向。

それはギオスに向けてでは無い。

ギオスが造った『巨大な結界』

『北の果ての地』に向けて放たれたステラの魔法が、『巨大な結界』の中央に『異空間』の風穴をぶち開けた。


ピクシー・ステラは叫ぶ。


勝負は


これからです!