Seventh World 7つの世界の章

【北の果ての地の戦い①】

天使の一族

ふむ

シャルロット殿………。


天使がどれほど強いのは知らぬが

しかしのぉ………。


そんな事で、この俺様が引き下がると思っておるのかのぉ………。


「リュウギ殿………。」

「この俺様を誰だと思っておるのじゃ?」



『魔王』リュウギ・アルタロスぞ!!


ビュッ!!

「!!」

その形相は鬼神の如し

3メートル以上もある巨体とは思えぬスピードで、リュウギ・アルタロスは『北の果ての地』最深部へと走り出す。

「なっ!バカな!リュウギ殿!」

シャルロットが、リュウギ・アルタロスを引き止めようとした時

すっ

「!?」

シャルロットの前に立ち塞がるのは神代  麗。

「麗……?何を…………。」

「よく聞いて下さい。『北の果ての地』内部には精霊は存在しない。シャルロットの『光の魔法』。チェリーの『破壊の魔法』はここでは使えません。」

「……………?それは百も承知。急がなければリュウギ殿が……!」

「あなた達二人を、ここで死なせる訳には行かないのです。外にいる『仲間達』が結界を破壊するまで、戦力を温存します。」

「……!!」

「ちょっ!何を言い出すのよ!」

横から口を挟むのはチェリー・ブロッサム。

「魔法が使えないのは最初から分かっていたわ!魔法無しでも、あたしは戦える!」

「冷静に考えるのです!」

「!?」

「状況が変わりました。『アルタミエル』との決戦にあなた達二人の力が必要なのです。あなた達の戦場はここでは無い。ここは私とリュウギに任せて下さい。」

「麗……、しかし!」

「私の『聖なる加護』は『神獣の導き』……。白澤(ハクタク)が居れば悪い様にはなりません。」

そして、麗は陰陽師の式札をシャルロットとチェリーに向けて解き放つ。

「頼みましたよ!『白澤(ハクタク)』!!」

白い式札は、クルクルと空を舞ったかと思うと、眩いばかりの光りを放ち、シャルロットとチェリーの二人を包み込んだ。

「な!これは!?」

「ちょっと!何すんのよ!」

二人が光の外へ飛び出そうとした時

ビカビカッ!!

白澤の放つ光りが一層と光り輝いた。

(なっ!身体が…………。)

いや

意識が………

遠退いて行く…………。


「ふむ……。」

すると、光の中から現れた、古代中国に伝わる神の化身『白澤』がそっと二人の身体に手を差し伸べる。

それは実に奇妙な光景であった。

二人の身体が、ふわりと空に浮かんだかと思うと……。

ブワッ!!

忽然と姿を眩ましたのだ。

「麗も 無茶な事を言いよる。いつ解かれるかも知れぬ『結界』が解かれるまで、儂しが二人の身代わりになれと言うか………。」

(しかし麗…………。今度の敵は今までとは違うようじゃ。果たして、奴らに我々『霊獣』の力が何処まで通用するか………。)

白澤(ハクタク)は、『北の果ての地』最深部へと向かう麗を、ただ無言で見つめていた。





【北の果ての地の戦い②】

おそらく

私達では『天使の軍団』に勝つ事は不可能。

四人で挑めば、四人が間違いなく殺される。

シャルロットの言う事は間違いではない。

奥地から感じる尋常ならざる気配は、麗にそう悟らすのに十分であった。

ならば

シュッ!

シュルシュル!


「朱雀!」

「青龍!」

「白虎!」

「玄武!」

麗の身体を取り囲むように、四体の『霊獣』が出現する。

「分かっているわね。最初から全力で行きますよ。」

答えるのは炎の化身『朱雀』。

「本気か麗………。その様な事をすれば、主の身体が持ちますまい。」

「すまない朱雀。73代続いた神代一族(かみしろのいちぞく)も今日で最期。ならば、最期に華を咲かせようでは有りませんか。」

「ふむ。そこまでの覚悟か………。それならば仕方がないな。」

「我ら四体の霊獣『四神』は、元より神代一族(かみしろのいちぞく)の守り神。」

「主と共に死ねるなら本望。全力で力を貸そうぞ。」

ギャオォーン!

グワッ!

ボボボボッ!

ブンッ!

「神代一族(かみしろのいちぞく)秘伝奥義!」


『四神融合(ししんゆうごう)』!!






『北の果ての地』最深部

『ハデスの祭壇』

50人にも及ぶ天使達が、そこに侵入して来た一人の男を嘲笑う。

「何ですか………、『アルタミエル』からの情報では『加護の戦士』は相当に手強いと聞いていましたが。」

「それより『結界』で捕らえた戦士はたったの四人。我々が大挙して出向く必要があったのかどうかも疑わしい。」

「お前達、黙りなさい。」

天使達の中央に立つのは、他の天使とは明らかに違う様相の天使。

『大天使ノア』は、一人で天使達に戦いを挑む男の方を見る。

「よく見るがよい。あの男、お前達の攻撃を受けても、未だ死なず。無駄口を叩いている暇があれば、さっさと始末するのです。」


しゅう

しゅう

天使達の波状攻撃を前に、一方的に打ちのめされたリュウギ・アルタロス。

「なるほどのぉ………。」

リュウギがゆっくりと、その場に立ち上がる。

「やはり『妖気の膜』に妖力を集中せねば防ぎ切れぬか……。」

リュウギの言葉に天使達が顔を見合わせる。

「………ん?この男は何を言っているのかね?」

「満身創痍のその身体では、もはや立っているがやっとでしょう。」

「さぁ、とどめを差しましょう。」

しゅう

しゅう

『聖なる光』による波状攻撃

ビカビカビカッ!!

天使達から発せられた光の光線が、リュウギ・アルタロスを襲う。


バチバチバチバチ!!

「数が多い故、一気にケリを付けようと思うたが………。」

「む?」

「慢心しておったわ。」

バチバチバチバチッ!!

「仕方がないの………。妖力は『妖気の膜』に集中し、奴ら(天使)は………。」

ビュンッ!!

「!!」

「素手で倒そうぞ!!」

天使の攻撃を受けながらも、リュウギが一直線に天使の軍団へと走り出す。

「な!何だコイツは!?」

「我々の攻撃が効いていないのか!!」

「ぬおぉおぉぉ!!!」

リュウギの雄叫びが、『北の果ての地』に響き渡る。

みるみるうちにリュウギ・アルタロスは天使達に接近し

バシュッ!!

天使の一人の頭をひねり潰す。

グシャッ!!

信じられない程の怪力。

と、ほぼ同時

ズバッ!!

天使をひねり潰したリュウギの右腕が、ポーンと空中に切り離された。

「ぬぉ!?」

「『大天使の剣』。」

剣を振り抜いたのは大天使『ノア』。

「ぐぉ!」

(こ奴………俺様の『妖気の膜』を!)

ノアはリュウギに向かって剣を構える。

「『聖なる光』の攻撃が効かないとは驚きました。やはり油断出来ない。」

「ぐ……おのれ………。」

「魔法が使えぬこの地で、どうやって天使達の攻撃を防いだのか。実に興味深い。」

ノアは、一部の隙も見せず、リュウギ・アルタロスを睨み付ける。

(こ奴………。他の天使どもとは明らかに違う。)

「何かカラクリが有りますね。魔法以外の特殊能力。我々の『聖なる光』と同種の力でしょうか?」

リュウギの力の秘密は『妖力』

『魔法』が自然界に存在する精霊の力を媒体とするのに対し、『妖力』は自らの体内で造り出される。そう言う意味では天使達の『聖なる光』とさほど変わりは無い。

「ならば、その力には限界がある。我々の『聖なる光』と同じく一人の人間が造り出せる力などたかが知れている。違いますか?」

「ぬ…………。」

『妖狐の一族』の中でも、リュウギ・アルタロスの妖力は膨大である。通常の戦闘ではまず枯れる事はない。

しかし、天使の数が多すぎる。そこでリュウギは短期決戦を望んでいた。『妖気の膜』の正体がバレる前に敵を全滅させる事が唯一の勝機。

しかし、この『ノア』と言う天使は、一瞬でリュウギの能力を看破したのみならず、『妖気の膜』すら破って見せた。

(この天使だけでも、道連れにするか………。)

リュウギの判断は早い。

右腕を失ったリュウギには、全ての天使を全滅させる事は不可能であろう。

おそらく、もっとも厄介な天使『ノア』。

せめて、この天使だけでも倒す事が出来れば、残された『加護の戦士』達の助けにもなろう。


二人の戦士が

リュウギ・アルタロスと大天使『ノア』が

真正面から対峙する。





「おい、今がチャンスではないか?」

天使の一人がぼそりと呟いた。

「わざわざ隊長に戦わせる必要もない。」

「奴の力に限界があるなら、攻撃を続ければ倒す事が出来ると言う事であろう。」

しゅう

しゅう

「もう油断はしない。皆の者!全力で攻撃するぞ!」

天使達が『聖なる光』を、その手に集中させる。

バチバチバチッ!

(ちっ………。これは不味いのぉ。)

確かに俺様の『妖力』には限界がある。

天使の攻撃を受け続ければ敗北は必死。

しかし

目の前の天使『ノア』が、俺様の隙を伺っておる。

動く事が出来ない。


(この男…………。敵ながら天晴れな戦士。この俺様に一部の隙も見せぬとは………。)





その時

今、まさに攻撃をしようとしていた天使達が、新たに現れた敵の存在を感知する。

「!?」

「な!!」

「隊長!あれは!!」


天使達が一斉にその敵の方へと振り向くと同時。

ボボボボボッ!!

天使達の周りに火の手があがる。

「ぬ!」

「なに?魔法だと!?」

「おい、それ所ではない!」


天使達が見た者。

それは『天界』にも存在しない、およそこの世の生物とは思えぬ生命体。

「何だあれは………。」

「まさか………悪魔?」


朱雀

青龍

白虎

玄武


四体の霊獣『四神』を、その身体に取り込んだ女性。

『四神』と一体化した神代  麗(かみしろ  れい)が、天使達に言う。

「神の使いである貴方達(天使)が、何ゆえ私達『加護の戦士達』に敵対するのかは分かりませんが、神の使いは貴方達だけでは有りません。」

私は、神の使いたる巫女。

神代一族(かみしろのいちぞく)第73代棟梁


神代  麗(かみしろ  れい)



東洋の『神々の力』

とくと、味わうが良い。









神代  麗(左)

リュウギ・アルタロス(右)