Seventh World 悠久の大地の章

【悪魔の魔女編①】

「強化魔法『ショット』!」

ビュン!!

(ちっ!)

「強化魔法『ガード』!」

ブン!

ブワッ!!

(くっ!)

ガクンッ!

(この女………ユイファ………。)

「はぁ、はぁ………。」

ポタ

ポタ

(あの傷で、なぜ…………。)

(もともとスピードもパワーも、私の方が上。
おまけに魔法による肉体強化で、圧倒的な戦闘力を誇る私の攻撃が……。)

なぜ当たらない?

膝を付いたのはヴァンパイア・ミリリアン。

(しかも、厄介なのはあの攻撃………。)

直接当たらなくても『波動の波』がミリリアンの身体にダメージを与えて行く。

(この女……。武器を持っていない方が………。)


強い



二人の戦闘が始まって既に20分以上が経過している。

(一見、押しているのはユイファ様だが……。)

ゼプラスが気になるのは、ユイファの腹部から流れる大量の出血。

(動く事もままならない程の重傷のはず。ユイファ様は気力のみで戦っている。)

すぅ……

「!?」

おもむろに両手を広げる李  羽花(リー・ユイファ)。

(何を……する気だ…………。)


「中国四千年の歴史の中で編み出された気功術………。」

「………。」

「八卦掌(はっけしょう)の極意は、その動きに凝縮される。」

(『八卦掌(はっけしょう)』?)


乾(ケン)

坤(コン)

震(シン)

巽(ソン)

坎(カン)

離(リ)

艮(ゴン)

兌(ダ)

「『太極!両儀!四象!八卦』!」

ユイファの研ぎ澄まされた掛け声が『悠久の大地』に鳴り響く。

(まずい!何か分からないけれど、この気迫は只事ではない!)

しかし、技を唱えている今がチャンス!

(今ならユイファは、私の攻撃をかわせない!)

「強化魔法『ショット』!!」

ガクンッ!

(!?)

攻撃を仕掛けようとしたミリリアンが足元から崩れ落ちる。

「無駄です。ミリリアン。」

「………!?」

(身体が…………。動かない?)

「戦闘の最中、私は八卦の波動を打ち込んでいました。」

既に技は完成しています。


(バカな………。)

「私の一声で、あなたの身体は弾け飛ぶ。私の勝ちです………ミリリ………ア………。」


ゆら


バタッ!

「ユイファ様!!」

しかし、地面に倒れたのはユイファの方。

倒れ込むユイファにゼプラスが駆け寄った。

(これは………。)

大量出血による気絶。

(このままでは、命が危ない。)

「誰か!誰かいないか!ミリリアン!ユイファ様が!」


「ふふ……。」

ミリリアンは笑みを浮かべる。

「何が……おかしい!」

叫ぶゼプラスにミリリアンは答える。

「いや、だって楽しいじゃない。」

「何だと?」

「うん。どうやらユイファの術も解けたみたいね。」

ミリリアンはゆっくりとユイファに歩み寄る。

「貴様……。ユイファ様には触れさせぬ!俺が相手だ!」

「黙りなさい!」

「!!」

「『ヴァンパイア族』の血は『人族』の血よりも生命力があるの。私の血を使うと良いわ。」

「な………に?」

するとミリリアンは、ユイファの腕を持ち上げると、そっと口を近付ける。

「何をする!」

「安心して………。何も『ヴァンパイア族』の仲間にしようなんて思っていないわ。」

「ユイファ様を……助ける気か?」

「ふふ……。」

ミリリアンはまたしても楽しそうな笑みを浮かべる。

「だって約束じゃない。私が負けた時は、私はあなた達の仲間になる。」

「な……?……それでは………。」

「負けたわ………。私より強い戦士がいるなんて、世界は広いのね。」

それと

ミリリアンは一言ゼプラスに付け加える。

「これからは私がお姉様(ユイファ)の右腕となるわ。ゼプラス……、あなたは引っ込んでなさい。」

「はぁ?何だと!?」

「ふふ………。楽しくなりそうね…………。」

ゆらり

バタッ!

「え?おい!ミリリアン!!」

今度はミリリアンの方が倒れ込んだ。

「ちょっと待て!二人して気絶してどうする!?」

二人の傷付いた戦士を抱き抱えるゼプラス。

しかし

「ふぅ………。」

ゼプラスは思う。

(どうやら、ミリリアンを仲間に率いれる事は成功したらしい………。)

後は国王が他の種族を説得出来れば、『ユグドラシル』の全種族からなる『連合軍』が完成する。






【悪魔の魔女編②】

ユイファとミリリアンが戦闘を繰り広げている先へと歩を進める戦士がいた。


その『甲冑の男』

名は『羅将(ラショウ)』と言う。


「ミリリアンか………。どれほどの腕前か……。」

ラショウは今、『ユグドラシル』の世界最強の戦士と言われるミリリアンに会いに『ヴァンパイア族』の領地に足を踏み入れた所であった。

いち早くラショウの侵入を察知したのは『ヴァンパイア族』の戦士達。

「おい!この先は『ヴァンパイア族』の領地だ。」

「む?でかいな………。『巨人族』か?」

「大方、先日の仲間の仇討ちって所か………。」

羅将(ラショウ)は、『ヴァンパイア族』の戦士達を見て、剣を抜く。

「何だ?やる気か?」

「一人で俺達に勝てるつもりか?」

戦士の数は10人程度。

ラショウは戦士達をギロリと見渡すと、残念そうに呟く。

「お前達ではもの足りぬ。ミリリアンはどこだ?」

「……!?」

「貴様………。ミリリアン王と戦う気か?」

「はん!我が王の噂を聞いて名を上げようって輩か。」

「構わん!殺ってしまえ!」

ババッ!

『ヴァンパイア族』の戦士達が一斉に飛び掛かる。

「どうやら、この星の人間は死に急ぐ傾向にあるな。」

ビュンッ!!

ブワッ!!

「ぎゃあぁ!」

「ぐわっ!」

ズバァッ!!

バシュッ!!

「うわぁっ!!」


正に電光石火

ラショウの剣のひと振りで『ヴァンパイア族』の戦士達の胴体が次々と切断されて行く。

「ひぃいぃぃっ!!」

「何だお前は!?」

あっという間に残り二人となった戦士。

ラショウは一人の戦士を持ち上げて、もう一度同じ質問をする。

「お前達の大将ミリリアンはどこだ?強いのだろう?」

「命だけは………!命だけは助けてくれっ!」

「ふん。命乞いとは情けない。それでも戦士か………。まぁ、ミリリアンの居場所さえ分かればお前には用は無い。ミリリアンはどこにいる?」

「王は………、ミリリアン王は…………。」






シュウ


と、その時

何も無いはずの空間が歪み始める。

(む………何だ?)

ラショウの表情が、明らかに変わって行く。

(これは『時空』の歪み…………。『空間移動魔法』か?)


『空間移動魔法』



宇宙広しと言えど『時空を超越』する高度な魔法を操れる者はそうはいない。

かつて大宇宙に君臨した『ラ・ムーア帝国』には、戦艦ごと時空を移動する魔法技術が存在していたが、『ラ・ムーア帝国』は既に存在しない。

となると、これは個人の魔法力による『空間移動』。

(我ら『7つの大罪』の指導者以外にも、この魔法を扱える者が存在していたとは………。
やはり、Seventh World(7つの世界)は面白い。総統が最後まで侵略を遅らせただけの事はある。)

シュウ

「ふん。」

ゴキゴキゴキッ!!

ラショウは『ヴァンパイア族』の戦士を握り潰すと、空間の歪みに注目する。

ラショウは他の『7つの大罪』の指導者とは違う思考を持ち合わせていた。

例えば『アルタミエル』に代表される指導者は、宇宙を支配する事を目的に行動する。
それが総統と呼ばれる人物の命令であるから当然と言えば当然であろう。

しかし、ラショウは違う。

強い戦士と戦う事がラショウの望み。

他の指導者達に先駆けて『ユグドラシルの世界』に到着したのも、強い戦士と戦うため。

『化け物』どもを解き放ち『人間達』を駆逐してしまっては、せっかくの戦闘の機会が失われる。

(さて………。)

ラショウは、久し振りに胸の高鳴りを覚える。

『空間移動魔法』を扱える戦士など、そう会えるものではない。いったい、どんな屈強な戦士が出て来るのか。


シュウ

(む……?)


シュウ


(何だ………?)

ラショウが見たもの。

ラショウの予想に反して空間の歪みから現れたのは、お世辞にも強そうには見えない少女であった。

「ふぅん……。」

少女は言う。

「ユイファの近くに、強大な気配を感じて来てみたけれど………。」

黒いとんがり帽子を被った少女がラショウに向けて質問をする。

「あなた、何者なの?」

「何?お前こそ何者だ?」

ラショウはギラリと少女を睨み付けた。

しかし、少女はラショウの威圧を気にする様子は無い。

「う~ん、そうね。何と言ったら良いのかな。」

そして少女は、思い付いたようにラショウの質問に答える。

「元の世界の人達は、エミリーの事をこう呼んでいたわ。」



悪魔の魔女



史上最強の魔法使いよ










エミリー・エヴァリーナ