Seventh World 悠久の大地の章
【強さこそ全て編①】
ここは
Seventh World(7つの世界)より数万光年離れた場所にある世界。
ギギィ
ギギィ―――――
この星には、優れた文明を持つ人類が存在していた。
ギギィ
ギギィ
しかし、それは最近までの話。
ギギィ
ギギィ―――――
つい最近、この星の最後の人類が二人の『異形の戦士』と『化け物』どもによって全滅した。
ギギィ
ギギィ―――――
カタカタカタ
カッチコッチ
カタカタカタ
そのうちの一人、機械仕掛けの歯車のような音を発する戦士が口を開く。
「聞いたかネ『アヌビス』。ズイブンと久し振りに総統の声を聞いた気がしますネ……カタカタカタ。」
カッチコッチ
カタカタカタ
もう一人の戦士、アヌビスと呼ばれた戦士が機械仕掛けの戦士に答える。
「そうだな『ギオス』。人間どもによる封印が解かれたようだ。総統が転生されてから17年。我々が顔を揃えるのも17年振り。」
機械仕掛けのような出で立ちの『ギオス』
古代神話に登場する猛獣の化け物のような『アヌビス』
対照的な二人の戦士が、何もない空間に消えて行く。
カッチコッチ
カタカタカタ
「次なる世界はいよいよ Seventh World(7つの世界)。楽しみな事でス……。」
「既に『羅将(ラショウ)』の奴がSeventh World(7つの世界)の世界に到着したらしい。我々も急ぐぞ。」
ギギィ
ギギィ―――――
彼等の次なる目的地はSeventh World(7つの世界)。
悠久の大地―――――
―――――『ユグドラシル』の世界
【強さこそ全て編②】
Seventh World(7つの世界)
『ユグドラシル』の世界
『ヴァンパイア族』領地
穏やかな日射しの中、大地の一角に鋭い刃が現れた。
シュルシュルシュルッ!!
『エルフ族』の戦士ゼプラスの魔法は『風の魔法』。
「ユイファ様、ここは私にお任せ下さい。」
「でも………。」
「大丈夫です。この距離は私の射程距離。対するミリリアンはヴァンパイア。おそらく奴は近距離戦闘のエキスパート。ミリリアンが近付く前に倒します。」
ゴゴゴゴゴゴォ
李 羽花(リー・ユイファ)の視界の先に見えるのは、噂のヴァンパイア族の王『ヴァンパイア・ミリリアン』。先の戦闘を嗅ぎ付けて現れたに違いない。
一つユイファの予想と違うのは、その容姿が余りにも幼い事。14才とは聞いていだが、実際に目の当たりにすると、とても強力な戦士とは思えない。
それでも、たったの一人で戦場に現れたのだから、よほど自身があるのだろう。
ユイファの知り合いでも、見た目とは裏腹に強力な魔法を扱う戦士はいる。
例えばエミリー・エヴァリーナ
ユイファは、エミリーよりも強い魔法使いを知らない。
(油断は禁物………。)
もしゼプラスの手に負えないならば、ユイファはすぐにでもミリリアンを攻撃する。ユイファは右手に持つ『アルテミスの槍』を握りしめた。
少しの沈黙の後に、ゼプラスが魔法の詠唱を始めた。
シュルシュルシュルシュル!!
無数の『風の刃』が大空を羽ばたいた。
先ほどの戦闘で見せた『風の魔法』。
しかし、今度の『刃』は桁が違う。
大気を埋め尽くすほどの『風の刃』が、ヴァンパイア・ミリリアンに襲い掛かった。
「すごい………。」
ユイファが、思わず声を漏らすほどの大魔法。ビュンビュンと風を斬る音が『悠久の大地』にこだまする。
バシュバシュバシュッ!!
ゼプラスは『エルフ族』一の戦士と言われるだけの事はある。予想以上の攻撃に、ミリリアンを殺してしまわないかと心配すら覚える。
しかし
「強化魔法『ガード』!!」
ビビビッ!
バシュッ!
バシュバシュバシュッ!!
「!!」
「な!?」
無数の『風の刃』をミリリアンは動じる事なく受け止める。
李 羽花(ユイファ)は何度か『ヴァンパイア族』の戦士と対戦をした事がある。
かつては、ユイファの学友も『ヴァンパイア』となりユイファに襲い掛かった。
確かに『ヴァンパイア族』は、類い稀なる身体能力を誇り簡単に倒す事は出来ない。
人間よりも遥かに強靭な肉体と再生能力を持つからだ。
しかし
ゼプラスの、あれほどの魔法攻撃を受けて傷一つ付かないとは信じられない。
「ちっ!この距離では効かないと言う事か……。」
隣に立つゼプラスが舌打ちをするのを見てユイファは不安を隠せない。
(距離?……違う。そんなレベルではない。ゼプラスの魔法はミリリアンには全く効いていない。『風の魔法』ではミリリアンは倒せない………。)
「ゼプラスさん、ここは私が………。」
「ユイファ様、まぁ見ていて下さい。これでも私は『エルフ族』最強の戦士。奴を殺す事なく仕留めて見せます。」
【強さこそ全て編③】
ゼプラスは腰に掛かった二本の剣を取り出すとミリリアンに向けて独特の構えを見せる。
『エルフ族』が得意とする長剣。
それを十字に併せたゼプラスは技の名前を唱える。
「十字剣『絶風(ぜっぷう)』!!」
ビュビュンッ!
風を斬る音がユイファの耳に響く。
先ほどは無数の『風の刃』であったが、今度の刃は一筋の突風。十字に結ばれた『真空の剣』
その威力は、『風の刃』とは桁が違う。
『十字』に凝縮された『真空剣』は、巨大な岩をも切断する。
ビュビュビュン!!
ミリリアンに向けて放たれた『十字の刃』が一直線に飛んで行く。
「う~ん。受け止めても良いんだけど。」
しかし、ミリリアンに動じる気配はない。
「この距離で、命中するとでも思っているのかしら?」
ミリリアンの両の瞳が怪しく光る。
「もし、そうならバカにし過ぎ………。」
バシュッ!!
「!!」
(消えた!?………いや。)
ヴァンパイア・ミリリアンの高速移動。
消えたように見えるのは、その動きが余りに速い為。
ゼプラスの技がどんなに強力でも、当たらなければ意味がない。
『強化魔法『ショット』!!』
ブワッ!!
「!!」
次の瞬間、目の前に現れたミリリアンの手刀が、ゼプラスの右肩を掠める。
ドバッ!!
「ぐわぁあっ!」
「ゼプラスさん!!」
「あら?よくかわしたわね。」
「ぐおぉおぉ!」
右肩を抉り取られ苦痛に顔を歪めるゼプラス。
かわしたと言うなら正解である。
ゼプラスは素早い反応で、ミリリアンの手刀をかわした。
いや、実際には、ほんの少し右肩に触れたのかもしれない。
その結果がこの有様。
あの細い腕からは想像も付かない程の破壊力。
ヴァンパイア・ミリリアンは言う。
「それにしても、『エルフ族』一の戦士がこの程度とは残念だわ。」
「ぐぅ………。貴様………。」
「とっとと死んでしまいなさい。」
ミリリアンの右手がゼプラスに向けられる。
と、その時
「待って下さい!」
「………ん?」
それまで傍観していたユイファがミリリアンに告げる。
「あなたは強い戦士との戦いが望みのようですね。」
「……………。」
「ヴァンパイア・ミリリアン。ゼプラスさんとの勝負はついたでしょう。次は私が相手をします。」
虚を付かれたように、ミリリアンは呆れた様子でユイファに言う。
「う~ん、あんたねぇ。あんたゼプラスの付き人か何かでしょ?私は強い戦士と戦いたいの。死にたくなかったら大人しく引っ込んでなさい。」
(やはり………。)
ユイファは直感する。
(ヴァンパイア・ミリリアンは戦闘を求めている。彼女は他国を支配する事にも、戦争にも興味はない。)
強さこそ全て―――――
「下がって下さい!ユイファ様!」
右肩から血を流しながらもゼプラスは立ち上がる。
「私はまだ戦えます。ここは私が……。」
びくっ
そのゼプラスの言葉に反応したのはミリリアン。
「………ユイファ?」
ドクン
ドクン
「まさか、あなたの名前………。李 羽花(リー・ユイファ)?」
3年前、『魔族』との戦争で『ユグドラシル』の世界を救った英雄達。
その中でも、魔族の王『シュバルツ』を討ち取ったと言われる『英雄の中の英雄』。
「そうです。」
ユイファは答える。
「私が相手をしましょうミリリアン。どちらが強いのか?あたなの興味はその一点。私が勝てば、あなたには私の言う事を聞いて貰います。私が負けるなら、私を殺しても構いません。」
強さこそ全て―――――
「それがあなたの望みでしょう?」
ドクン
ドクン
3年間、ミリリアンは待ち続けた。
ミリリアンと互角に戦える戦士の存在。
『魔族』との戦争に参加出来なかったミリリアンにとって、『ユグドラシルの英雄』こそが自分の強さを図るバロメーター。
「会いたかったわ………。」
ミリリアンは心底、嬉しさが込み上げる。
「う~ん!今日はなんてラッキーな日なのかしら!」
【強さこそ全て編④】
羅将(ラショウ)………。
アヌビス…………。
ギオス…………。
そして、アルタミエル……………。
「『7つの大罪』の『指導者達』が、一同に集まるなんて、ずいぶんと久し振り………。」
「総統………。もうすぐ運命の日が参ります。間に合って本当に良かった。」
「そう………。あなたにも迷惑を掛けたわね。」
「私が張った『天界の封印』はそのまま解かれる様子は有りません。『天帝アマテラス』も居ない今となっては、我々の邪魔をする者は僅か………。」
「…………。」
「『天界の神々』により力を与えられた『加護の戦士達』そして、『天界の封印』より逃れた唯一の神『ゴッド・マリア』。」
奴らを殺せば、総統に逆らえる者など存在しない。
全宇宙の支配は、もう間近に迫っています。
5日……
あと5日もすれば、アルタミエル達が到着する。
その時が
『加護の戦士達』の最期の日となるでしょう。