Seventh World 悠久の大地の章
【狂気のヴァンパイア編①】
『ユグドラシル』の世界
―――――――『ガーゴイル族』領地
九種族王族会議
エルフ族
妖精族
巨人族
サラマンダー族
ガーゴイル族
獣人族
オーク族
ドワーフ族
霊族
主要十二種族の中で、魔族と人族、そしてヴァンパイア族を除く九種族の王達が顔を揃えた。
「いったい何事かね?アーサー王。」
「突然の呼び出しとは、よほど重大な事でしょうな。私は忙しいのだ。」
口々に不満を言う各国の王達。
エルフ族の王 エルフ・アーサーは、集まった王達の顔をぐるりと見渡した。
「貴殿達も知っておろう。我が『エルフ族』に伝わる『森の水晶』の事を。」
「む?」
「未来を予知出来ると言うあれか?」
アーサー王は、ゆっくりと王達に向けて話し始めた。
「まず結論から言おう。およそ5日後に『ユグドラシル』の世界は『未知の敵』からの襲撃に合う。」
「!?」
「未知の敵だと?」
「何を言っておるのだアーサー王。」
「3年前の『魔族』との戦闘以来『ユグドラシル』の地に争いは無い。こうして我々が顔を揃える事が出来るのも、その時に結ばれた『平和協定』のお陰であろう。」
「未知の敵とは何者なのだ?まさかアチラの世界に住む『人族』ではあるまいな。」
遥か昔に『ユグドラシル』の世界から分離した世界がある。そこは『人族』が済む世界。『未知の敵』と言われて考えられるのは『魔族』以外には『人族』しか考えられない。
「『人族』か………。そうであれば、どんなに良い事か……。」
しかしアーサー王は王達の予想を否定する。
「確かに『ユグドラシル』の世界の外の世界から敵は来る。それはその通りであるが。」
「アーサー王よ。口では説明出来ぬじゃろう。見せた方が早い。」
すると今度はアーサー王の隣に座るエルフ族の老婆がゴソリと水晶を取り出した。
「それは………。」
王達の目は、その水晶に集まった。
―――――――『森の水晶』
『エルフ族』に伝わる秘宝中の秘宝。
その『水晶』は未来を予知すると言われている。
「さぁ、見るが良い。わずか5日後に迫る『未知の化け物』どもの おぞましい姿を。」
「!!」
『エルフ族』領地
―――――――エルフ神殿
「凄い回復力ですね。全身に空いた穴も、殆ど塞がったようです。」
『エルフ族』の王女マリアーナが男の身体に巻かれた包帯の下を見て驚きの声をあげた。
「『エルフ族』とは呆れたものだな。『エルフの森』を襲った俺(『魔族』の男)の傷を治療するとは。」
「いいえ……。違います。結局あなたは『エルフ族』の戦士を一人も殺していないわ。私達が勝手にあなたを襲ったに過ぎない。悪いのは私達の方です。」
あの時、アーサー王が止めに入らなければ、戦闘は続いていただろう。
そうなれば、必ず死者が出ていた。
『魔族』と『エルフ族』が共に戦う未来はそこで途絶えたに違いない。
「しかし『森の水晶』とは凄いものだな。まさか、この俺が『エルフ族』と共に『化け物』どもと戦う未来まで映し出しているとは……。」
その水晶に映し出された未来
『化け物』に戦いを挑む『ユグドラシル』全種族合同軍。その先頭に立つのは三人の戦士。
そして、そのうちの一人は、紛れもなく『魔族』の男。
「この『エルフの森』にあなたとユイファ様が同じ日に現れた。これは偶然では有りません。」
「三人の戦士か……。」
「水晶が予知した未来まで残り5日。他の種族にはお父様が協力を要請しています。そしてもう一人。3人の戦士の最後の一人を仲間にする為にユイファ様が『ヴァンパイア族』の地に向かいました。」
「ヴァンパイア族?」
「そうです。水晶に映された3人の戦士は……、ユイファ様、あなた、そして、もう一人はヴァンパイア族の戦士。」
「ほぉ、その戦士は有名人のようだな。水晶に映し出されただけで身元が分かるのか?」
「えぇ………。彼女の事を知らない者はいない。」
一年前の大事件
ヴァンパイア族の王族と親衛隊を皆殺しに、新たにヴァンパイア族の王となった女の戦士。
―――――ヴァンパイア・ミリリアン
『狂気のヴァンパイア』と呼ばれる彼女は若干14才。
「14才?子供じゃないか………。」
「だから恐ろしいのです。」
「恐ろしい?」
「14才にして、当時最強と言われていた『ヴァンパイア族』の王『ヴァンパイア・リンクス』を瞬殺し、30人からなる精鋭隊も全く歯が立たなかったと言います。」
おそらく彼女は
現代の『ユグドラシル』の世界最強の戦士。
「味方となれば、これほど頼もしい戦士もおりませんが、彼女は危険過ぎる。」
(ゼプラス……。ユイファ様を頼みましたよ。)
【狂気のヴァンパイア編②】
『ヴァンパイア族』領地
―――――――ヴァンパイア城
「うーん。なんか怪しいのよね。」
ヴァンパイア族を除く九種族の王達がガーゴイル領に集まっている。
(私を仲間外れにして何を企んでいるのかしら?)
14才となったミリリアンは不機嫌に顔をしかめた。
もっとも、ヴァンパイア族が呼ばれないのには理由がある。ミリリアンがヴァンパイア族の王となってから、他の種族とのいさかいが絶えないし、その殆どはミリリアンの無謀な行動にあった。
ほんの一週間前には、ミリリアンは巨人族の使者二人を滅殺した。理由は、噂に高い『巨人族』の強さを試したかった。と言うとんでもない理由である。
本来であれば、『ヴァンパイア族』と『巨人族』との間で戦争になってもおかしくない事件であるが、『巨人族』は動かなかった。
いや、動けなかった。
「なるほど、『巨人族』はミリリアンの強さを恐れて戦争を避けた訳ね………。」
その頃、ユイファとゼプラスは『ヴァンパイア族』の領地に足を踏み入れていた。
二人の目的は1つ。
『ヴァンパイア族』の王ミリリアンを説得し『化け物』どもを倒す仲間に率いれる事。
「はい、ユイファ様。お気をつけ下さい。ミリリアンは相当イカれた戦士。その強さも半端では有りませんが、何より戦闘狂なのです。」
「戦闘狂?」
「ミリリアンは自分の強さに酔いしれているきらいがある。大人の交渉など受け付けない。子供だからこそ、恐ろしい………。」
「そう………。」
ユイファはそっと頷く。
(私も………。似ている…………。)
ユイファは戦闘時に特殊能力を発動する事がある。
プリンセス・リーナとのシンクロ。
古代の英雄プリンセス・リーナが、ユイファの自我を奪い、更には『天界の神々』である『アルテミス神』が私の心を支配する。
そして、ユイファは戦闘を求める。
仲間であるはずの『天帝の加護』の戦士達や、友達である可憐や麗、ステラをも殺そうとした。
(私は強くならなければならない。
リーナやアルテミス神の支配を払い除けるほど強く。)
一人考え込むユイファにゼプラスが声を掛ける。
「ユイファ様。見えて来ました。『ヴァンパイア族』の城『ヴァンパイア城』。」
「『ヴァンパイア城』………。」
「『ヴァンパイア族』は『魔族』を除く十一種族の中でも身体能力が高い種族。なるべくなら戦闘を避けたい所ですが……。」
ズサッ
ズサッ
「やはり、そうも行かない様です。」
城の方から向かって来るのは『ヴァンパイア族』の戦士達。明らかに好戦的な表情を見せる戦士達の数はおよそ10人。
戦士達がユイファとゼプラスに話し掛ける。
「へぇ……どこの国の使者だ?。」
「一週間前の事件を知らないのか?何の用かは知らぬが無駄な事。」
「俺達は他の種族の使者を殺せと命令されている。死にたくなければ引き返すんだな。」
シャキィーン
戦士達が各々が持つ武器を構えユイファとゼプラスに刃を向ける。
「『ヴァンパイア族』の戦士達よ。私は『エルフ族』のゼプラス。ミリリアン王に話があって来た。」
どよっ!
「ゼプラス?」
「『エルフ族』最強と名高いあのゼプラスか?」
『おい、どうする?』
ザワザワ
ゼプラスの名を聞いてどよめく『ヴァンパイア族』の戦士達。
すると、戦士達のリーダーと思われる大柄の戦士が部下達に命令する。
「お前達!相手が誰だろうが殺ってしまえ!そうしないと俺達がミリリアン様に殺される!」
「!!」
「お!おぅ!」
「殺ってまえ!」
シュバッ!
ゼプラス
人は彼を『疾風の戦士』と言う。
ゼプラスの魔法は『風の魔法』
ゼプラスが両手を広げると、大気中に風の刃が現れる。
「ゼプラスさん、殺してはいけません。」
「ユイファ様、分かっております。我々の目的は『ヴァンパイア族』を味方にする事。」
殺しはしません。
安心して下さい。
私の魔法は―――――――
―――――――奴らの足の健を切る。
ヒュウ
悠久の大地に、鋭い疾風が駆け抜ける。
「10人程度の敵であれば、ものの数秒で決着が付きます。」
【狂気のヴァンパイア編③】
ヴァンパイア城
「ミリリアン様!大変です!」
戦士の一人がミリリアンのいる王室に駆け込んだ。
「ん?うるさいわね。何事よ。」
「そっ、それが!南の街に『エルフ族』の戦士が現れて!」
『『エルフ族』?』
「我が軍の戦士10名が倒された模様です!」
「はぁ?何やってるのよ、誇り高い『ヴァンパイア』族の戦士が情けない。で、敵は何人いるの?」
「それが……。」
「ん?早く言いなさいよ。」
「恐れながら……。敵の数は二人との報告が………。」
ぴくッ
『ユグドラシル』に数ある種族の中で
『ヴァンパイア』族こそ最強
例え相手が『魔族』であっても私は負けない。
それが、事もあろうに
「たった二人の『エルフ族』の戦士に負けたですって?」
「ひぃいぃ!すみません!殺さないで下さい!」
ブワッ!!
ヴァンパイア城内に、巨大なオーラが膨れあがる。
「ふふ………。」
そしてミリリアンは、何とも言えない笑みを浮かべた。
「退屈してたのよね。たった二人で『ヴァンパイア族』に挑戦なんて面白いわ。あんた達は待機していなさい。ちょっと行って来る。」
「は…………はっ!」
「やっぱり私は王なんて柄じゃないわね。戦闘こそが私の生き甲斐。」
ドクン
ドクン
ミリリアンの中に眠るもう1つの血が騒ぎ出す。
ミリリアンは、幼い頃、『ヴァンパイア族』の王族達に監禁されていた。
王族達は恐れていた。
ミリリアンの強さを恐れていた。
その凶悪な本性を見抜いていたのかもしれない。
しかし
本当の理由は別にあった。
ドクン
ドクン
『ヴァンパイア族』の歴代の王家の間で受け継がれて来た極秘事項。
なぜ『ヴァンパイア族』が他の十種族よりも高い身体能力を備えているのか?
『魔族』に次ぐ身体能力を持つ『ヴァンパイア族』の秘密。
バサッ!!
ミリリアンの両の瞳が、怪しげな光を放つ。
「ふふ………。『エルフ族』の戦士………。楽しみだわ。」
ユグドラシルの世界に
また
戦闘が―――――――
―――――――――――――始まる