Seventh World 悠久の大地の章

【動き出すユグドラシル編①】

緑豊かな広大な大地が広がる世界

ここは、十二の主要種族が暮らす悠久の大地。


ユグドラシル



しゅうん

しゅうん

ビカッ!

「む………?」

『エルフの一族』に伝わる『森の水晶』

その水晶には不思議な力がある。

「婆様……、何が見えたのですか?」

エルフの森の奥地にあるエルフの神殿。
その内部で二人の女性が顔を見合わせた。

「不吉な………。」

水晶に映し出された映像。
それは、不気味な姿をした生き物の大群。

「これは何なのですか?」

美しい顔立ちをした女性の名はエルフ・マリアーナ。エルフの一族の正統なる後継者である。

「姫様………。これは一大事ですぞ。」

老婆は怯えた表情でマリアーナに答える。

「数え切れない程の『化け物』がユグドラシルの地に現れるじゃろう。」

「『化け物』………、3年前に現れた『魔族』の仲間でしょうか?」

それは、今からちょうど3年前、十二種族の中でも特異な種族である『魔族』がユグドラシルの地に舞い降りた。
大地は戦乱に巻き込まれ『エルフの一族』にも甚大な被害が出た。

ようやく平和が訪れたユグドラシルの地に、またしても災いが降り掛かろうと言うのか。

しかし、老婆はマリアーナの言葉を否定する。

「『魔族』など生易しい者では有りますまい。」

「………婆様?」

「『魔族』とて所詮はユグドラシルの種族の一つ。奴等の目的は『ユグドラシル』の地の支配じゃった。しかし……。」

「しかし?」

「今度の敵は、おそらく『ユグドラシル』の外の世界から来る。」

「外の世界………。」

「『化け物』達がもたらすのは『破壊』『滅亡』『死滅』。」

『ユグドラシル』の世界は


消滅するであろう。





【動き出すユグドラシル編②】

(惜しい事をした………。)

闇夜に光る半月を背にミリリアンは毎日同じ事を思う。

私がもう少し早く産まれていれば『魔族』などに殺られる事はなかった。

誇り高き『ヴァンパイア』の一族は十二種族の中でも最強。

リンクスなんかが王子を名乗っているから『魔族』なんぞに舐められるのだ。

リンクスは、事もあろうか『ヴァンパイア族』の憎むべき敵である『人族』に助けられた。

何と言う失態。

『人族』に助けを乞うくらいなら死んだ方がマシと言うもの。



だから私は

リンクスを殺した。



リンクスは『ヴァンパイア族』最強と言われていた戦士である。

私が13才になったその日、私はヴァンパイア族の王子『ヴァンパイア・リンクス』に決闘を申し込んだ。

一対一の真剣勝負。

私のような子供がリンクスに勝てるなど誰も思わなかった。

しかし、勝負はとても呆気なく終わった。


(これが『ヴァンパイア族』最強の戦士?)

私はまだ本気にもなっていなかった。

それなのに、リンクスはアッサリと、実に簡単に死んでしまった。

血が騒ぐ…………。

戦乱の無い世の中など退屈で仕方がない。

そう言えば『魔族の王』を倒した戦士の名は何と言っただらうか。

『異世界』から来た三人の戦士が『魔族』どもを倒し『ユグドラシル』を救ったと言う。

(何て余計な事をしてくれたのか。)

私の中に眠る『ヴァンパイア族』の血が戦闘を求める。

ヴァンパイア・ミリリアンの両の瞳が暗闇の中で不気味に光っていた。






【動き出すユグドラシル編③】

魔族の王『シュバルツ』が死んでから3年。

シュバルツには一人の子供がいた。

その子の名はエミリー。

シュバルツにも匹敵する程の強大な魔力を身に付けたエミリーは、3年前の戦乱から姿を眩ました。

シュバルツの配下にあった『魔族』達は、他の十一種族により討伐され殺された。

それでは『魔族』は滅亡したのだろうか?

いや、そうでは無い。

『魔族』の戦士達は『ユグドラシル』の地を離れ『冥界』と呼ばれる世界に隠れ住んでいた。


『魔族』の戦士達は待っていた。

十一種族に復讐する時を

『魔族の王』が誕生するその時を。



ググ

ググググググッ!

「ぐはっ!」

冥界の王『ハデス』は、自らの片腕をもぎ取ると、巨大な鍋の中にその腕を放り投げた。

鍋の中には、グツグツと沸騰する黄緑色をした液体が溢れるほど注がれている。

3年の歳月を掛けて集めた魔力の素材。
『冥界』にしか存在しない『闇の宝玉』。
『天界』から調達した『聖なる光』の源。
他にも貴重な素材をふんだんに注ぎ込んだ。

遂には自らの片腕までをも犠牲にして、ハデスは王の誕生に全てをかける。

王の誕生

いや、復活と言うべきか。

「そろそろか………。」

ハデスがそう呟くと、ハデスの片割れにいる男が何やら大きな塊を鍋に加えた。

それは、紛れもなく『人の遺体』であった。

3年前の戦闘で回収した魔族の王『シュバルツ』の遺体。

「ところで迅雷(じんらい)。『ユグドラシル』の様子はどうだ?まだ間に合うか?」

男の名は近藤 迅雷(こんどう じんらい)。
見た目は『人族』のそれと変わらないが、迅雷は人間ではない。ましてや魔族でも他の十種族の亜人でもない。

迅雷は泥で出来た『人形』である。

ハデスによって造られた泥人形の迅雷は、3年前の戦闘の直後に魔族の王『シュバルツ』の遺体を回収した。

李  羽花(リー・ユイファ)との死闘で死に絶えたはずのシュバルツ。

(このまま殺すには、あまりにも惜しい。これ程の素材は二度と産まれて来ないであろう。)

そして、ハデスは『シュバルツ』を復活させる事を決意したのだ。

「ハデス様……間に合うかと言われれば問題ないでしょうな。ルシファー殿より連絡のあった敵の襲来までには、もう少し時間が掛かるようです。」

「ふむ……それなら良い。」

それにしてもゼウス。
そして、『オリュンポス十二神』を初めとする『天界の神々』の何と愚かな事よ。

むざむざ敵の術中に嵌まり『結界』に封印されるなど笑止千万。

そして、邪魔な『天界の神々』がいない今がチャンス。

異世界から押し寄せる異界の『化け物』どもを蹴散らし、『ユグドラシル』を支配下に置く絶好の機会。

「ハデス様、シュバルツ王が復活すれば悪魔の王『ルシファー』殿にも我々の要求が通り易いでしょう。
Seventh World(7つの世界)は、我々『冥界の一族』と『悪魔の一族』で分割支配する事になる。実に楽しみですな。」


ビカッ!!

ボボボボボワッ!!


「おぉ!!」

「遂に来たか………。」


3年間、この時を待っていた。

いや、3年どころではない。

何千年もの間、ハデスは『グドラシル』の支配を待ち望んでいた。

「シュバルツが復活するぞ。」


しゅう

しゅう

しゅう

(む………?)

ずいぶんと容姿が違う。

(こいつ、本当にシュバルツなのか?)

「ハデスか………。」

「!?」

「シュバルツ!ハデス様に無礼であるぞ!」

迅雷がその男に叫ぶと男は片手をすっと構えた。

「『魔弾』!!」

ビュン!

ボガッーン!!

「な!!迅雷!!」

強烈な魔力の弾丸により、迅雷の身体が一瞬で吹き飛ばされた。

「元上司に向かって無礼なのはお前の方だぜ迅雷。もっとも、泥で出来ているお前はすぐに復活するだろうけどな。」

「シュバルツ……貴様いったい何を………。」

「ふん。」

するとシュバルツは、ハデスの方をギラリと睨み付けた。

(うっ………。)

何と言う迫力。
元は『天界の神々』の一人である俺様(ハデス)が気圧されるとは……。

「ハデスよ、一つ忠告しておこう。」

「なに?」

「この俺を復活させた事には感謝している。しかしだ、だからと言って俺はお前の命令に従う義理は無い。」

「何だと?」

「いつまでも『神々』が頂点に立っていると思うなよ。魔族や人族の中には『神々の力』を越えた者が存在している。」

「貴様……この俺に勝てるとでも。」

「ふぅ……。」

シュバルツの眼光が鋭くハデスの魔力を看破する。

「なかなかの魔力………。だが、俺には勝てない。」

「ぐっ………。」

(こ奴………、どこまでが本気なのだ。)

すると

「!?」

すると今度は、屈託のない笑顔で頬笑むシュバルツ。

(………?)

「なぁハデス。仲良くやろうじゃないか。別にお前と戦うつもりは無い。」

「…………。」

「それに安心しろ。異界の『化け物』を倒せば良いのだろう?俺を復活させた恩もある。それくらいはやってやるよ。」

ユグドラシルだけじゃない。

「Seventh World (7つの世界)も、『天界』も『魔界』も、全てを統一する。俺は『魔族の王』なんかでは物足りない。」

俺は全ての世界の王になる。


笑顔で笑うシュバルツを前にハデスは動く事も出来ない。

ハデスは思う。

もしかしたら、俺(ハデス)はとんでもない男を復活させたのでは無いか。

シュバルツはかつてのシュバルツでは無い。

シュバルツは、神であるハデスを完全に圧倒していた。



本来の歴史では誕生しなかった『新生シュバルツ』。

『天帝アマテラス』が死んだ事により、歴史は大きく変わっていた。







マリアーナ(左)

シュバルツ(中央)

ミリリアン(右)