Seventh World 絶望の世界の章

【決戦編①】

「『破滅(はめつ)の右手』!!」

「!!」

(まずい!)

あれは先の戦いで巨大な『紅き龍』を砂のように消滅させた魔法。チェリーはまだ、その魔法の正体も対策も分からない。


あれを喰らったら


終しまいだ

(逃げなければ、殺される!)


チェリー・ブロッサムは全速力でその場から脱出する。

おそらく、もう数秒速ければ、チェリーはアルタミエルの攻撃をかわす事が出来たかもしれない。


ほんの数秒の遅れが


勝負の行方を左右する


「!!」



『破滅(はめつ)の右手』が

チェリーの右足に襲い掛かったのだ。



シュッ

サラサラサラ

「あっ!!」

アルタミエルの右手から放たれた黄緑色の光線がチェリー・ブロッサムの右足に触れると、チェリーの右足が崩れ始めた。

それはまるで、浜辺に造れた砂の城が潮の満ち引きと同時に崩れ落ちるような感覚。

サラサラサラ

「これは……!!」

(この魔法は劣化の魔法!?)

いや、『風化の魔法』と言うべきか。

光線が触れた部分から細胞の劣化が始まり砂のように崩れ落ちる。

目に見えないほど細かく風化される魔法は、フレア・セフィリアの分解の魔法にも似ている。

いかに『不老不死』の能力を身に付けたチェリーであっても、ここまで細かく分解された細胞が再生出来るかは未知数。

(このままでは、右足だけでなく全身が風化される!)

「『破壊の魔法』!!」

ボカッーン!!

「痛ッ!!」

チェリーは咄嗟(とっさ)の判断で自分の右足を爆発させる。片足は失うが、全身の風化は免れる苦肉の策。

「ほぉ……。」

声を上げたのはアルタミエルの下半身に付属する従属の一体。

「自らの足を爆発させる事で我が魔法を破るとはなかなかの勇気であるな。」

「ギギャガガ。魔法を破られて感心するとは情けないダギャ。」

「黙れ!貴様には品位と言うものが無い。」

二体の従属達の会話を横目で見るアルタミエルは、やれやれと言う表情を見せる。

「よしなさいお前達。」

「む……。」

「ギャ?」

「なかなかの戦士でしたが、片足を失っては戦う事も逃げる事も出来ない。後は『従属達』が始末してくれるでしょう。」

ギギィ

ギギィ


チェリー・ブロッサムは短距離戦闘のエキスパート。その強さは身軽な動きにある。
片足を失う事により動きが封じられたチェリーの周りに『化け物』どもが集結する。

(予定外の戦闘でしたが何の問題もありません。)

それよりもアルタミエルには気になる事がある。それは先ほどから聞こえて来る帝都中心部の巨大な爆音。

アルタミエルは下半身に付属する従属達に話し掛ける。

「『帝都アレキサンドリア』の中心部へ行くわ。ワタクシに歯向かう敵を駆逐するのです。」

もっとも数万体に及ぶ『従属達』が帝都の中心部に向かった以上は誰も生き残る事は出来ないだろう。

「わざわざ我々が行く必要があるのか?」

「アルタミエルは心配性ダギャ。」

「黙りなさい。どのみちカール皇帝の生死を確認しなければなりません。」

そして、アルタミエルと従属達が足を踏み出した時。

「アルタミエル!危ない!」

「ダギャ!?」

「!!」

ドドドドドドドッカッーンッ!!!

アルタミエルと『化け物』どもが陣取っていた小高い丘の全域が

大爆発を起こした。






【決戦編②】

ドドドドドドドッカッーンッ!!!

「!!」

グホッ!

ギャーッ!

グギャッ!

あまりにも巨大な爆発に数千体の『化け物』どもが一斉に吹き飛んだ。

「何事ですか!?」

「分からぬ。どこから攻撃されたのか、そのような気配は見られなかった。」

アルタミエルは警戒して辺りを見回すが敵の気配は見られない。

「ここは危険ね。お前達、すぐに移動します。」

「いや………。」

「………?どうした?」

「まさか………。」

(今の攻撃は、あの女戦士の『自爆攻撃』か?もしそうなら何とも見上げた戦士である。名前くらいは聞いておけばよかったか………。)

「いや何でもない。それよりアルタミエル、魔力を補充せねばならぬようだ。」

「?」

「ガ……ギ………。」

「何と……『静寂(せいじゃく)の左手』が破壊されたと言うのですか………。」

「ガガ………バギャ………。」

見るとアルタミエルの下半身に付属している『従属』の一体の口から緑色の血が流れている。

「ふむ。こ奴の魔力だけでは今の攻撃を防ぐ事が出来なかったらしいな。」

「仕方ないわね。道中で魔力を補充しながら行きましょう。従属なら幾らでも居る。」

予想外のチェリー・ブロッサムとの対決を制したアルタミエル。彼女が目指すのは『帝都アレキサンドリア』の中心部。

「カール皇帝の生死。そして新たに現れた未知の敵の生死を確かめに行きます。」

「うむ。」

「そして、その後は……。」

「いよいよですな。」


『惑星ムーア』全土の制圧。

そして、その後は全宇宙への侵攻を開始する。




…………


アルタミエルが立ち去った後。


その小高い丘の上には、大爆発によって飛び散った『化け物』どもの残骸が散らばっていた。

再生能力を有する『化け物』どもであるが、身体の大半が弾け飛んでは 再生は出来ないのだろう。


………

しかし


ぴくっ



もぞもぞ

その中で、微かに動く物体があった。


(はぁ………。)

あたしの最大の魔法。

(『ピンク・エクスプローション(仮)』を喰らわせたのに死なないなんて、アルタミエルとやらはとんでもない『化け物』ね………。)

大爆発の正体は、チェリー・ブロッサムの魔法。一帯に充満している空気を『破壊の魔法』で爆発させる自らの身体をも破壊する究極奥義。

その大魔法の攻撃すらアルタミエルは凌いだのだから驚いた。


それでも収穫はあった。


『アルタミエル』の魔法は二つ。


『破滅(はめつ)の右手』


『静寂(せいじゃく)の左手』


右手は攻撃魔法。
触れる物体を砂のように消滅させる。

左手は防御魔法。
あたしの最大魔法も防御するほどの強魔力。

そして、その魔法の正体は、『アルタミエル』の下半身に付いている気味の悪い『化け物』と関係している。


(これだけでも、かなりの収穫よね。)



問題は………。

吹き飛んだ『あたしの身体』

いくら『不老不死』とは言え再生には時間が掛かるし『破滅(はめつ)の右手』によって消滅した右足が再生するのかも不明である。

そして

なんで………

(何でシャルロットがここに居るのよ!?)




シュウ

『光の粒子』

シャルロット・ガードナーは辺り一帯に『光の粒子』を散りばめる。

(この気配……。微量ではあるがチェリー・ブロッサムの気配を感じる。)

そして、少しづつ集まり始めた肉片は、おそらくチェリーの散らばった身体であろう。

「呆れたものだわ。」

シャルロットは誰も居ない空間に向けて話し掛ける。

「チェリー、居るのでしょう?まさかバラバラになっても死なないなんて、あなたも相当な『化け物』ね。」


(………あ、バレてる。)


「でも、あなたの再生を待っている時間は有りません。私の治癒魔法で早いとこ復活しなさい。」

(まだ、あたしに戦えって言うの??…………しかも何で上から目線?)

「『アルタミエル』は帝都中心部へ向かっていますが帝都内の生存者はもう殆どおりません。さすれば『アルタミエル』は帝都の外へと侵攻を開始するでしょう。」


その前に

『アルタミエル』を討ち果たします。

「『アルタミエル』と戦闘を交えたチェリー、あなたの意見を参考にしたいのです。」






シャルロットと入れ違いに帝都中心部へ向かう『アルタミエル』。

「………!」

「アルタミエル……、先ほどの戦士と言い今日はなかなか面白い日だな。」

「黙りなさい。あれは相当な手練(てだれ)。まだ『静寂(せいじゃく)の左手』が完治していないと言うのに……。」

「相手も既に気づいておる。もう遅いようだな………。」

「仕方ありません。全ての『従属達』を呼び寄せます。あなたも全力で殺りなさい。」

「ふむ……。わかっておる。」



『アルタミエル』の前方に見える二人の戦士。


フレア・セフィリア

そして

天帝アマテラス


ブワッ!

アマテラスは『聖なる光』を身に纏い戦闘モードと化していた。

(これはあの時と同じ……。アマテラスさんも本気のようね。ならば………。)

フレア・セフィリアはアルタミエルに向けて叫ぶ。

「私の名はフレア!あなたが『化け物』どもの指導者『アルタミエル』ですね!カール皇帝の仇は私が獲ります!」

「?………。ほぉ、カール皇帝は死んだのですね。それなら話は早い。あなた達二人を殺して、『ラ・ムーア帝国』を滅亡させましょう。」







【決戦編③】

「『マシュラ』!!」

ギガッ!

ブシュッ

「『マシュラ』!!」

ギュルギュル!

ギャッ!

(行ける!)

特殊魔法『マシュラ』の最大の特徴は自然界に存在する火・水・風・土・光・闇の全ての精霊の力を魔力に変換する。

相反する種類の魔法を同時に取り込むなど、よぼど高位の魔導師でない限り不可能。しかし、フレア・セフィリアは産まれながらにその魔法を操る。

ギギィ

ギギィ

(だんだんコツは掴めて来た。)

『マシュラ』の発動には膨大な魔力は不要。
ほんの少しの魔力であっても、『化け物』どもを分解する事が出来る。

『マシュラ』とは物体を構成する原子の核に刺激を与える魔法。ほんの少し原子を変形させるだけで良い。そうすれば、物体は分解される。

まさに『化け物』どもを倒す為に存在する『特殊魔法』。



(良し……。フレアは問題なさそうだな。)

戦闘モードのアマテラスは、フレアの戦闘を見て安堵の表情を浮かべる。

(むしろ問題は、この俺の方か………。)

「『天帝の剣』!」

ズバッ!

バシュッ!!

ギャーッ!

グギャッ!!

アマテラスは『聖なる力』で創られた剣で『化け物』どもを凪ぎ払って行く。

ギギィ

ギギィ

(やはり、消耗が早い………。)

通常の魔法は自然界に存在する精霊の力を取り込むのに対し、『天界の神々』の『聖なる力』は、自らの体内で造り出される。

神々の中でも最強に位置するアマテラスであっても『聖なる力』の保有量には限界がある。

更に都合が悪い事に『化け物』どもは通常の攻撃では死なないのだ。
身体の大半を一瞬で吹き飛ばす程の威力が必要となる。

いかにアマテラスと言えど、数万体に及ぶ『化け物』どもを全滅させる事など不可能。

アマテラスが目指すは短期決戦。

前方を塞ぐ『化け物』どもを蹴散らし『アルタミエル』本体を倒す。勝機はそこしか無い。

「フレア!頼みがある!」

「はい!アマテラスさん!」

「俺が『アルタミエル』を倒す。その途中で邪魔をする『化け物』どもをフレアの魔法で倒してくれ。これ以上『聖なる力』を消耗したくない。」

「!!」

あのアマテラスさんが初めてフレアを頼る。
それほど今回の敵は尋常ではない。

ほんの1ヶ月ほど前までは『帝国治安部隊』の一隊員であったフレア・セフィリア。フレアの存在価値は魔導兵器『アリス』に魔力を与える媒体に過ぎなかった。

しかし、今は違う。

アマテラスによって授けられた『天帝の加護』がフレアに力を与えた。

フレア・セフィリアは、この世界に産まれた最初の『加護の戦士』。

人類が神々に近付く第一歩を踏み出した最初の人間。

『アリス』の代わりなんかじゃない。

私は……

「『加護の戦士』!」

ギュルギュルギュルギュル!!

「!!」

フレアの魔法が渦を巻いて暗闇と化した『帝都アレキサンドリア』の中心部を放射線のように広がって行く。

ギュルギュルギュルギュル!!

シュバッ!!

ギギ


シュッ

「フレア…………。お前…………。」

これにはアマテラスも驚いた。

アマテラスとフレアを囲っていた『化け物』どもが瞬く間に消滅して行くではないか。


「『破滅(はめつ)の右手』!!」

シュバッ!!

バチバチバチッ!!

ドッガーンッ!!


唯一アルタミエルだけが、フレアの魔法『マシュラ』を、その右手から放つ魔法で相殺する。

「くっ!何ですか!今の魔法は!?」

アルタミエルの驚きはアマテラス以上であろう。アルタミエルの従属達が一瞬で消滅させられたのだから無理も無い。

そして何より、それは、アルタミエルを守るように集結していた『化け物』どもの盾を一瞬で失った事を意味する。

「まずい!早く周りの従属達を!!」


アマテラスとアルタミエルの距離は1キロメートルも無い。その間の空間にぽっかりと道が開ける。


シュッ!!

アマテラスはこの隙を見逃さない。

「『天帝の剣』!!」

「!!」



アマテラスが、物凄いスピードで『天帝の剣』を振り抜くと

ズバァッ!!

アルタミエルの下半身に付属している『従属達』がその本体より切り離された。

「くっ!おのれ!!」

「どどめだ!アルタミエル!!」


ビカッ!!


そして黄金色に輝く『天帝の剣』が

アルタミエルに振り下ろされる。