Seventh World 絶望の世界の章
【最期の魔法編①】
人間には、無限の可能性がある。
その人間の努力により未来が開ける場合もあるが、運が未来を変える事もある。
人間は、過ぎ去った過去を後悔し、現実の世界を受け入れ未来へと進んで行く。
そうやって人類は進化して来た。
しかしだ。
私は疑問に思う。
その未来は本当に一つだけなのだろうか?
もしも、未来が複数あったとしたらどうだろう。ある未来では輝かしい成功を収めるが、他の未来では地獄のような生活を送っているかもしれない。
だとすると、そのもっとも成功した未来を掴み取る事が出来れば、その者は間違いなく成功者となるのではないか?
そして、その男か求める未来を探し当てるのに
――――およそ1ヶ月の月日を費やした
その男は暗闇の中でぼそりと呟く。
「もはや時間が無い。」
我が後継者として産み出されたお前は、無限の可能性を秘めている。
そのポテンシャルは図り知れず、宇宙最強と呼ばれた私をも凌ぐだろう。
しかし
残念ながら時間が無いのだ。
このままでは、お前が成長する前に、お前は『化け物』どもの餌食となってしまう。
まさか、『惑星ムーア』への侵攻がここまで早いとは私も予想外であった。
お前だけは死なせる訳には行かない。
ならば
イチかバチか試してみるしか無かろう。
まだ完全とは言えないが、この魔法が成功すればお前は最強の戦士となる。
「そうだろう?アリス。」
アリスは無言でカール皇帝の話を聞いていた。
かなり強引なやり方なのは知っている。
この世に存在する『時間』と言う『概念』を全く無視するその魔法は、『不老不死』の魔法にも匹敵するほどの大魔法。
「なに、案ずる事はない。」
カール皇帝はアリスに言う。
「おそらく、膨大な情報がお前の脳内に入り込む。産まれたばかりのお前にとっては負担が大きいのは確かだ。」
しかし……
そこは私がフォローする。
「魔法が完了したら、お前は私の脳を食するが良い。そうすれば、私の記憶と知識がお前の脳に入り込む。」
「どのみち、この魔法を使えば私は助からないのだ。それほどの魔法だ。」
私の全ての魔力と生命力を捧げよう。
大魔導師カール・D・アレキサンドリアの『最期の魔法』
そうすれば
アリス
お前は宇宙最強の魔導師となる。
そしてカール皇帝は魔法を詠唱する。
もっとも成功した未来を先取りする『究極の魔法』。
【最期の魔法編②】
いくつか疑問がある。
あのアリスは何かが違う。
『天帝の加護』の戦士だから?
いや、そうではない。
この時代のアリスはまだ『天帝の加護』を受けてはいない。
そもそも、なぜチェリー・ブロッサムが、私(シャルロット)の仲間だと分かったのか。
私はまだ、この時代のアリスに合った事がないにも関わらずだ。
そして、チェリーとアルタミエルの戦場はかなり遠いはずだ。普通の人間であれば、今から戦地へ向かっても間に合うはずがない。
しかしアリスは、私が間に合うかのように助言をする。まるで、私の能力を知っているかのように……。
いや
今は、考えるべきはチェリー。
シャルロットは、アリスが言う方角へと『光の粒子』を集中させた。
シュウ―――――
金髪碧眼の戦士シャルロット・ガードナーは、共に過去の世界に渡って来た戦士チェリー・ブロッサムの気配を察知する。
(いた!アリスの言葉は間違っていなかった。)
崩壊した帝都の中心部より東に位置する小高い丘の上でチェリー・ブロッサムは戦闘をしている。
(これは………!!)
チェリー・ブロッサムの周りを囲む無数の敵。
『化け物』どもの数は尋常ではない。
そして何より、チェリーとほぼ同じ位置にいる大きな気配は………
(『アルタミエル』か!)
急がなければならない。
ギギィ
ギギィ―――――
ギギギギギギギギギギィ!!
「くっ!邪魔をするな!」
シャルロットがチェリーが戦う戦場に近付くにつれて『化け物』の数が増加する。
今のシャルロットには『化け物』を相手にする余裕はない。
人間とは思えない速さで『化け物』どもをかわし戦場へと直進するシャルロット。
シャーッ!!
「!!」
「光の剣!!」
スバッ!!
ギギャアァァ!!
襲い掛かる一体の『化け物』を瞬時に斬り裂くシャルロット。
しかし
シャーッ!
シャーッ!
(くっ!)
次々と『化け物』がシャルロットに攻撃を仕掛ける。
本来であれば光速に近い速さで移動するシャルロットを捉える事など不可能。
しかし、シャルロットの移動スピードが落ちているのは明白であった。
光速移動をするには膨大な魔力を必要とする。
戦闘時の一瞬の動きであれば、光の速さを維持する事は可能であるが、長距離移動ともなると勝手が違う。
更には自然界に存在する『光の精霊』の数にも限界がある。
シャルロットはやむ無く襲い掛かる『化け物』どもを突破しながら目的地へと進む。
シャーッ!
シャーッ!
ズパッ!
バシュッ!!
ギギィ
ギギィ―――――
シャーッ!!
「光速剣!!」
ギャオギャオォーン!
もう何百体の『化け物』を斬り倒したのか分からない。しかし、シャルロットが焦れば焦るほど、正確無比なシャルロットの剣裁きは乱れ、『化け物』どもは再生を繰り返す。
ギギィ
ギギィ―――――
(これでは……キリがないわね………。)
これが数の力と言うものか。
未だかつて誰にも破れた事の無いシャルロットであるが、今回ばかりは分が悪い。
次々と襲い掛かる『化け物』に対して『光の精霊』の数があまりにも少な過ぎる。
もはや『光の魔法』を封印し、本来の騎士としての力量のみで『化け物』どもの相手をしなければならない。
(これが、数多くの世界を侵略して来た『化け物』どもの真の力………。)
増殖する『化け物』の怖さをシャルロットは初めて実感する。
『聖なる加護』の戦士達だけで、本当に『化け物』どもに勝てるのだろうか?
『天帝アマテラス』や『天帝の加護』の戦士達と敵対している場合ではない。
私達『加護の戦士』の共通の敵を倒す事が先決なのではなかろうか。
そして
「!!」
シャルロットは察知する。
「チェリー!?」
その(本来は)敵対している『天帝の加護』の戦士のひとり。
チェリー・ブロッサムの気配が
――――――――――消失した事を
チェリー・ブロッサム(左)
シャルロット・ガードナー(右)