Seventh World 絶望の世界の章
【チェリーの戦い編①】
ギギィ
ギギィ―――――
ギギギギギギギギギギィ!
ビカッ!
ビュンッ!!
ドッカーンッ!!
夜空が光り輝き大爆発が巻き起こる。
この夜、二度目の爆発により消滅した『化け物』の数はおよそ5千体。
『聖なる光』の壁で防御しているアマテラスですら、その威力を完全に抑える事は出来ない。
その『光の壁』に隠れるフレアがアマテラスに質問する。
「アマテラスさん、これはどういう状況なのでしょう?」
「どうやら、新帝国軍の戦士が『化け物』どもと戦っているようです。しかし、ここは危険です。すぐに離れましょう。」
カール皇帝の死亡は確認したものの、アリスの姿は見つからなかった。
アリスは既に死んでいる可能性が高い。
ならばアマテラスの取る行動は一つ。
『7つの大罪』の指導者『アルタミエル』の討伐しかない。
問題はフレア・セフィリア。
アマテラスの『天帝の加護』の能力により、魔力を開花させたフレアであったが、この『化け物』がひしめく帝都内に一人残す訳には行かない。
「私も行きます!私の魔法なら『アルタミエル』を倒せるかもしれません!」
「フレア……。」
確かに
フレアの特殊魔法『マシュラ』は、触れる物を分解する他に類を見ない魔法である。
どのみちアルタミエルを殺さなければ『惑星ムーア』に安全な場所など無いのだから。
(私と一緒に居る方が安全かもしれませんね……。)
「わかりましたフレア。一緒にアルタミエルを倒しましょう。」
「はい!アマテラスさん!」
ギギィ
ギギィ―――――
ギギギギギギギギギギィ
「もう………。」
魔導兵器カグヤはふぅと息を吐く。
「本当に気味の悪い生き物よ。殺しても殺しても次々と湧き出る………。」
(月の光が足りないかの………。)
カグヤは更に両手を宇宙(そら)に広げて魔力を吸収し始める。
シュウ
シュウ―――――
ギギィ
ギギィ―――――
「うるさい生き物じゃ。わらわの前から消え失せるがよい。」
ビカッ!
ビュンッ!!
ドドドドドッカーンッ!!
この日、三度目の『ムーンライト』の魔法が炸裂し幾千もの『化け物』が吹き飛んだ。
こなれほど強大な魔法を三度も続けて放つカグヤの魔力は尋常ではない。
「ふむ。これでどうじゃ。」
しかし
静寂の中から、またしても『化け物』どもの声が聞こえて来た。
ギギィ
ギギィ
ギギィ―――――
「!?」
(なんと面倒な生き物じゃ…………。)
【チェリーの戦い編②】
魔法とは、自然界に存在する精霊の力を借りて造り出す超常現象。
中には精霊ではなく、人間や亜人のエネルギーを元に魔法を造り出す魔導師もいる。
しかし、生物ではない物体から魔法を造り出す事は出来ない。
「変ね………。」
次元の狭間からカグヤと『化け物』どもの戦闘を観察していたシャルロットは呟く。
(月の光から魔法を造り出す?そんな事が可能なのかしら?それが本当なら彼女は無限に近いエネルギーを産み出す事が出来る。)
「何か……裏が有りそうね。」
そして、シャルロットは『月灯り』のエネルギーの一部を『光の粒子』に変換する。
すると
「!?」
『光の粒子』に変換された『月灯り』のエネルギーから様々な情報がシャルロットの脳内に流れ込んで来た。
『ぐぉぉ』
『カール皇帝め!』
『助けてくれぇ』
『これなら死んだ方がマシだ……。』
『誰か、俺を殺してくれ!』
『惑星ムーア』から少し離れた宇宙空間に浮かぶ月。その月に建てられた『ラ・ムーア帝国軍事施設』から溢れる苦痛の声。
(これは……まさか………。生きた人間から魔法の力を吸い取っている?)
宇宙最強の『ラ・ムーア帝国』は、最先端の魔法科学により他の惑星を次々と侵略していた。
その力は絶大。
植民地とした『惑星』から多くの奴隷を月に送り込んだ『帝国』は、その奴隷から魔法の源となる生命エネルギーを吸い取る事に成功した。
『ラ・ムーア帝国』の魔法科学とは、すなわち多くの奴隷の犠牲の上に成り立つ悪魔の力。
(酷い………。)
シャルロットは、『光の粒子』に変換した魔法エネルギーをすぐに解き放つ。
その憎悪に満ちたエネルギーにシャルロット自身が耐えられそうにない。
人間の『負の感情』をエネルギーとする『化け物』ども。しかし、『ラ・ムーア帝国』が行っている事も『化け物』どもと何ら変わりない。
どちらも人間のエネルギーを
尊い人間の命の犠牲の上に成り立っている。
『アルタミエル』も許せないが、『ラ・ムーア帝国』も放置する訳には行かない。
「『光の剣』!」
ブンッ!
先のアマテラスとの戦闘で得た新たな能力。シャルロットは『光の粒子』を集めて超硬度を誇る『光の剣』を造り出した。
(『アルタミエル』を殺る前に、あの戦士を倒す!)
そうして、シャルロットが『空間の狭間』から飛び出そうとした時。
「止めておいた方が良いですわ。」
「!!」
シャルロットを止める声がすぐ後ろから聞こえて来た。
「誰だ!!」
思わず後ろを振り向くシャルロット。
前方の敵に気を取られていたとはいえ、ここまで接近を許すとは信じがたい。
何より誰もいないはずの『空間の狭間』に侵入する者など只者ではない。
そして、その声の主を見てシャルロットは、再び驚いた。
「あなた………。アリス……クリオネ。」
すると今度はアリスの方が驚いた。
「あら?私を知っているの?でも………。」
アリスは瞳をきょとんとさせて言う。
「私の名はアリス。クリオネと言う名前は知らないわ。」
「………?」
そうか
この時代のアリス・クリオネには、まだクリオネと言う名前は付けられていないのか。
「それより……。」
アリスは話を続ける。
「彼女の名は『カグヤ』。カール皇帝が私を産み出す前に造った魔導兵器。そしてもう一人の私。」
「もう一人?」
「えぇ……。」
「私と『カグヤ』は元々同じ細胞から造られているのです。双子みたいなものでしょうか。」
「双子………。」
アリス・クリオネに双子の姉妹がいたとは初めて聞く。もっとも、シャルロットが産まれた時代には『カグヤ』などと言う戦士は存在しない。おそらく『カグヤ』はこの後の戦闘の中で死ぬ運命なのだろう。
「『カグヤ』は私が何とかします。それより貴女は仲間を助けに行った方が良いでしょう。」
「仲間?チェリー・ブロッサムを知っているのですか?」
「ここより東に向かいなさい。そこで貴女の仲間が『アルタミエル』と戦っています。」
「な!それは本当か!?」
全くチェリーは無茶な事をする。
一人で敵の総大将『アルタミエル』を討ち取る気か………。
それよりアリス。
「なぜ、チェリーとアルタミエルが戦っている事が分かるのですか?」
『光の粒子』を張り巡らせたシャルロットでさえ、チェリーの気配は感じられなかった。おそらく、チェリーとアルタミエルの戦闘場所は、ここよりかなり離れた所だ。
「あぁ、そんな事ですか。」
するとアリスは当然とばかりにシャルロットに言う。
「私の能力『千里眼(せんりがん)』があれば簡単な事です。貴女がここに居るのも『千里眼』の能力で分かったのです。」
(『千里眼』?)
確かにアリス・クリオネの『天帝の加護』の能力は『千里眼』と言う能力だ。それくらいの情報はシャルロットでも知っている。
しかし
この時代のアリスは、まだ『アマテラス』の『天帝の加護』を受けていない。
(いったい、どう言う事なのかしら?)
「どうしたのですか?それより急がないと貴女の仲間は死んでしまいますよ。」
【チェリーの戦い編③】
桜色の戦士チェリー・ブロッサムは、この日が来るのをどれほど待ち望んでいたであろうか。
チェリーが産まれた『惑星デルタ』は、『化け物』どもの襲撃に合い崩壊した。
そう……。
あの日、チェリーは一度死んだのだ。
『化け物』どもに手足を悔い千切られ、遂にはチェリーの可愛らしい顔までもが『化け物』どもの餌食となった。
『デルタ人』は滅亡した。
滅亡したはずであった。
それは何の気まぐれであったのだろうか。
かつて宇宙に君臨した大魔導師カール・D・アレキサンドリアが発明した禁断の魔法『不老不死』の魔法。
『天帝アマテラス』は、その魔法をチェリー・ブロッサムに使用した。
アマテラスが『不老不死』の魔法を会得したのには理由がある。
それはカール皇帝が夢見た魂の世界『高天原(タガマガハラ)の世界』を創り出す事にあった。
しかし
アマテラスの生涯に於いて、本来の『不老不死』の目的でこの魔法を使用したのは一度きりであった。
なぜ、アマテラスがチェリーに『不老不死』の魔法を使用したのか。
なぜ、アマテラスは他の戦士に『不老不死』の魔法を使わなかったのか。
この魔法を発明した、皇帝カール・D・アレキサンドリアも、『不老不死』の魔法を使ったのは生涯で一度きりである。
カール皇帝は自らの命に魔法を掛けた。
もしかしたら、この『不老不死』の魔法を扱えるのは、生涯に一度きりなのかもしれない。
それなら、やはり疑問が残る。
なぜアマテラスは、チェリー・ブロッサムにのみ『不老不死』の魔法を使ったのか。
なぜチェリー・ブロッサムは、アマテラスに選ばれたのか。
とにかく
チェリー・ブロッサムは
『不老不死』の能力を手に入れて、『惑星デルタ』の住人の最後の生き残りとなった。
「『破壊の魔法』!」
触れるもの全てを破壊するチェリー・ブロッサムの攻撃魔法。
振り降ろされた右足が『7つの大罪』の指導者『アルタミエル』に直撃する。
しかし
「『静寂(せいじゃく)の左手』………。」
ギュン!
(な!!)
アルタミエルが左手を翳した瞬間、『破壊の魔法』の爆発が一瞬にして消え失せる。
(えーー!?どうなってんのよ!)
慌ててアルタミエルとの距離を取るチェリー・ブロッサム。
「何者かは知りませんが……。」
アルタミエルは言う。
「宇宙の支配者であるワタクシに、たったの一人で勝てるとでも思っているのかしら?」
チェリーは、う~んと唸った後にアルタミエルに言葉を返す。
「まぁ、それは、やってみなければ分からないわね。」
「何ですって?」
チェリーは瞬時に状況を整理する。
とにかく
あの左手が問題。
あたしの『破壊の魔法』の爆発を消し去った左手。あの左手さえ掻い潜れば『アルタミエル』を倒す事が出来る。
そしてそれは―――――
(なぁんだ。簡単な事じゃない♪)
チェリー・ブロッサムは、そのスピードを信条としている戦士。攻撃スピードなら誰にも負けない。
ただし、金髪碧眼の戦士は除く。
(もう!やっぱりあたしにとっての天敵はシャルロットね。いつかシャルロットも倒さなければ気が済まないわ。)
「それじゃあ………。」
そしてチェリーは戦闘態勢に入る。
「よぉ~い………。」
――――――――――どんっ!!
『桜色の疾風』と恐れられたチェリー・ブロッサムのスピードは正に突風の如きスピードでアルタミエルに接近する。
シュタッ!
「『破壊の魔法』!」
バシュッ!
「アルタミエル!後ろダギャ!」
「!!」
ビュン!
「『静寂(せいじゃく)の左手』!」
ギュン!
「遅いっつーの!!」
バシュッ!!
ドッガーンッ!!
やはり、スピード勝負ならチェリー・ブロッサムに分があるのは明白。アルタミエルはチェリーの攻撃を防ぐ事は出来ない。
そして『破壊の魔法』の直撃を受けたアルタミエルとチェリー・ブロッサムの目が合った。
(な!!)
――――――――――無傷!?
「ふふ。残念だったわね。」
「何で!左手は間に合わなかったのに!?」
「今度はワタクシの番です。」
「!!」
今度は物凄いプレッシャーがチェリーに襲い掛かる。
プレッシャーの源はアルタミエルの右手。
右手から放たれる巨大なプレッシャーがアルタミエルの声と共に解き放たれた。
「『破滅(はめつ)の右手』!!」
「!!」
(不味い!)
あれは先の戦いで巨大な『紅き龍』を砂のように消滅させた魔法。チェリーはまだ、その魔法の正体も対策も分からない。
あれを喰らったら
終しまいだ―――――
(逃げなければ、殺される!)
チェリー・ブロッサムは全速力でその場から脱出する。
おそらく、もう数秒速ければ、チェリーはアルタミエルの攻撃をかわす事が出来たかもしれない。
ほんの数秒の遅れが―――――
―――――――――勝負の行方を左右する
「!!」
『破滅(はめつ)の右手』が
チェリーの右足に襲い掛かったのだ。
アルタミエル
チェリー・ブロッサム