Seventh World 絶望の世界の章

【『化け物』集結編①】

ギギィ

ギギィ

無数の『化け物』が気味の悪い鳴き声を発している。

ギギィ

ギギィ

『化け物』どもの狙いは、目の前の戦士。

栗色の髪をした戦士の名はフレア・セフィリア。『ラ・ムーア帝国治安部隊』の生き残りであるフレアは、臆する事なく『化け物』どもを睨み付けた。

「よし!」

フレアは、自らを鼓舞するように掛け声を発すると、その両腕を『化け物』の方へと差し向けた。

シャーッ!

シャーッ!

「分解の魔法『マシュラ』!!」


ギュルルルル!

フレアの両手から発射された渦巻き状の二本の光線が『化け物』に命中する。

すると

ブシュッ!!

シュンッ!!

驚く事に、フレアに襲い掛かった二体の『化け物』が一瞬で消滅する。

(よし!行ける!)

残る『化け物』は6体。

フレアは攻撃の手を緩める事なく次々と魔法を発動する。

分解魔法『マシュラ』


触れたものを原子単位で分解する特殊魔法。魔法科学が発達した『ラ・ムーア帝国』の数多くいる魔導師の中でも、この魔法を操れるのはフレア・セフィリアしか居ない。


ビシュッ!

バシュッ!!

4体!

5体目!

「残り一体!」

フレアが最後の一体の『化け物』に照準を合わせると同時。

シャーッ!

『化け物』がフレアに襲い掛かる。

「『マシュラ』!!」

プシュ!

「!?」

ガシッ!

「きゃあぁぁ!」

「『天帝の光』!」

ビカッ!!

フレアの戦闘を見守っていたアマテラスが、最後の『化け物』に『聖なる光』を解き放つ。

ギャッ!?

眩いばかりの『天帝の光』が『化け物』の身体を覆ったかと思うと、そのまま『化け物』が浄化して行く。


シュウ

シュウ


「大丈夫ですか?フレア。」

今のアマテラスは戦闘モードのアマテラスではなく、美しい女性の表情をしている。

「す、すみませんアマテラスさん。」

危うく『化け物』に喰われそうになったフレアが申し訳なさそうにアマテラスに頭を下げる。

フレア・セフィリアとアマテラスが修行を初めて1ヶ月が過ぎようとしていた。

アマテラスの『天帝の加護』により能力を解放されたフレアは、特殊魔法『マシュラ』を操る『ラ・ムーア帝国』でもトップレベルの魔導師となった。しかし、未だ自分の魔力をコントロール出来ず、『マシュラ』を連続して発動するには負担が大きい。

「もう少し力を抜きなさいフレア。それでは『化け物』の大群が現れたら対応出来ませんよ。」

「はい…………。」

しょんぼりと黙り込むフレア。


本来、フレア・セフィリアはカール皇帝に造られた魔導兵器アリスに魔力を与える役割である。

しかし、先日の『ラ・ムーア帝国宇宙艦隊』の墜落がカール皇帝の計画を狂わせた。


「カール………。」

(今頃、あなたは…………。)

アマテラスは少し寂しそうに空を見上げた。





1ヶ月前

ラ・ムーア帝国魔法科学研究所

「なに!マドロック、それはどう言う事だ!」

研究所の室内にカール皇帝の怒声が響いた。

「はっ、皇帝陛下、恐れながらフレア・セフィリアの『魔力移転』に失敗しました。」

「バカな!何故だ!原因は何だ!」

「分かりませぬ。ただ、アリスがフレアの魔力に拒絶反応を示しております。」

「拒絶反応だと?」

(くっ!この一大事に何て事だ。)


二人の会話を聞いていたアマテラスが、横から口を挟む。

「カール……。どうするのですか?」

「アマテラス………。」

アリスは『化け物』どもと戦う為に必ず完成させなければならない。そして無限に増殖する『化け物』を倒す為にはフレアの『分解の魔法』が必要なのだ。


ボコポコ

プクプク

シュポン


中央の巨大なカプセルに浮かぶ全裸の少女『アリス』が、にこりと頬笑む。

(アリス…………何を考えている。)


先日の大爆発により壊滅した『帝都アレキサンドリア』。そして何より『化け物』どもに侵入を許してしまった。

この研究所だけは、カール皇帝の防御魔法により崩壊を免れたが、いつまでも安全とは限らない。

カール皇帝の魔法が途切れたならば『化け物』どもや『7つの大罪』の指導者が襲って来るかもしれない。

もって1ヶ月。

(ギリギリだな………。)

カールは何かを決意したように、アマテラスに話し掛ける。

「すまんなアマテラス。また、ひとつ頼みがある。」

「頼み?」

真剣な表情のカールにアマテラスは嫌な予感がした。

「フレア・セフィリアを暫くの間預かってくれ。俺は用事が出来た。」

「用事………と言いますと?」

「うむ。」

そして、カールはゆっくりと話し始める。

「最後の魔法を完成させる。上手く行けば1ヶ月程度で魔法は完成する。しかし……。」

「しかし……?」

「失敗した時は、『ラ・ムーア帝国』はお前に任せる。」

ゴクリ

「カール………あなた。死ぬ気ですか?」


ふっ

そしてカールは少し微笑んで、アマテラスの前から姿を消した。


培養液の中の少女


アリスと共に






【『化け物』集結編②】

『天界の神々』の一人であるその男は、不気味な三つめの瞳を輝かせた。

全ての事象を見透かすような赤白色に輝く瞳。

男が探しているのは『ラ・ムーア帝国』の皇帝カール・D・アレキサンドリア。

1ヶ月前の混乱の直後にカール皇帝の気配が消えてから、男は度々この能力を使っていた。

(む………?)

そして男は遂にカール皇帝の気配を察知する。

『帝都アレキサンドリア』の中心部。
アレキサンドリア宮殿の跡地に現れた2つの気配。

明らかに他の人間とは違う。

(一人は間違いなくカール皇帝。しかし、もう一人の気配は誰だ?)

「まさか………。」

男はその人間の気配を知っている。

正確には人間ではなく人工生命体。

(アリス……やはり生きていたのか………。)

カール皇帝が自らの魔力を捧げた究極の魔導兵器。

そして『天界の神々』の一人であるその男は眉をひそめた。

2つの気配に変化が現れたのだ。

確かに現れたカール皇帝の気配が、みるみるうちに消滅して行く。

(何をしている………。)

「いや、このままでは不味いな。」

男はそう呟くと、『7つの大罪』の指導者である『アルタミエル』の居場所へと足を向けた。




ギギィ

ギギィ

ギギィ


『天都アレキサンドリア』に潜む『化け物』どもは、その数を急速に増やしていた。

人間の『負の感情』を餌にする『化け物』にとって、帝都は格好の餌場である。何せ一億人に近い人間が生活していたのだ。

ガギャ

ブシュウ

ギガ………

『ラ・ムーア帝国宇宙艦隊』が墜落して1ヶ月以上が経過するが、『化け物』どもは『帝都』の外へ殆ど拡散していない。

『新帝国軍』が帝都の周りを封鎖している。それも一つの要因である。

しかし、『7つの大罪』の指導者『アルタミエル』には考えがあった。今は『化け物』の数を増やす事が優先であり、『帝都』の外への侵略など何時でも出来る。

それより、行方不明となっているカール皇帝。

カール皇帝を殺す事が『アルタミエル』の最優先事項。


「ほぉ、カール皇帝の居場所が分かったとは流石は『天界の神々』と言った所でしょうか。『アレキサンドリア宮殿跡地』と、その一帯に『化け物』どもを集結させましよう。」


カール皇帝に


総攻撃を仕掛けます




「ふむ。それが宜しい。これで『ラ・ムーア帝国』もおしまいですな。」


その男は『アルタミエル』に報告すると、すぐにその場を立ち去る。

「さて………。」

(カール皇帝が造り上げた究極の魔導兵器『アリス』は完成したのか。これで判明する。)

不敵に笑う、その『天界の神々』の男の額には、既に三つめの瞳は消え失せていた。







【『化け物』集結編③】

『アレキサンドリア宮殿跡地』から東に3キロメートルほど離れた場所にある施設。

『ラ・ムーア帝国魔法科学研究所』

研究所の内部に避難していた『ラ・ムーア帝国治安部隊397隊』の隊長ナックルは、外部から聞こえる異異様な音を察知する。

ギギィ

ギギィ

(何だ?)

ギギィ

ギギィ

ギギギギギギギィ!
ギギギギギギギギギギギギィ!!



「隊長!大変です!」

「カタリーナか!どうした!」

「外が!施設の外に『化け物』どもの大群が!」

『!!』

慌てて窓の外を見るナックル。

「な………何て数だ………!」

そこから見えるのは大量の『化け物』ども。

廃墟と化した『帝都アレキサンドリア』の街中を所狭しと歩き回っている。

ガシュガシュガシュッ!!

「何だ!!」

バシュッ!ガシャーン!

「うわぁあぁぁ!!」

「きゃあぁぁぁ!!」


施設の奥から聞こえる悲鳴。

「ちっ!行くぞ!カタリーナ!」

「はい!隊長!」

急いで現場に駆け付ける二人。


ギギィ

ギギィ

ガシガシ

ムシャムシャ

ギギィ

「ナックルか!大変だ!」

「見れば分かる!」

そこには、研究施設に侵入した一体の『化け物』が避難していた二人の住民を喰っていた。

「一体だけか?何処から侵入したんだ。」

「給湯施設の壁が破られた。他のメンバーが急いで壁を塞いでいるが、防ぎきれるかどうか………。」

「そうか。カタリーナ殺るぞ!」

「分かりました。同時に最大限の魔法ですね。」

チェリーに教わった『化け物』を殺す方法は、一度に『化け物』の身体の大半を破壊する事。

カタリーナは水の魔力を最大限に高めて行く。

問題はナックル。
ナックルの得意の風の魔法は、敵を切り裂く魔法。しかし切り裂いても『化け物』は再生する。

(切るのでは無く破壊する!)

そして二人は同時に魔法を詠唱する。

「ジェットウォーター!!」

「ナックルプレス!!」

ブワッ!!

ゴゴゴゴォ!!

ギギャ!?

トッガーン!!

二人の魔法は見事に『化け物』に直撃し『化け物』の身体が弾け飛んだ。

「やったか!?」


ギギ


ギ………


びく

しかし、吹き飛んだ身体の一部がピクリと動き出す。

「ちっ!ナックルプレス!!」

ビュン!

グシャ!

それはナックルの風の魔法。切るよりも押し潰す事を目的とした『風圧の魔法』。


ごくり

しんと施設内が静まり返る。

「隊長………。どうやら殺ったみたいですね。」

「あぁ、二人併せてようやく一体か。これ以上『化け物』の侵入を許したら対処不能だな。」


しかし

ナックルの不安はすぐに的中する。

「うわぁあぁぁ!」

「もう、無理だ!逃げろ!」

「ぎゃあぁぁ!!」

給湯施設から聞こえて来るのは住民達の悲鳴。

ギギィ

ギギィ

ギギィ

急いで駆け付けたナックルとカタリーナを待ち受けていたのは

数十体の『化け物』ども。


「隊長…………。」

「あぁ、この施設も、もう終しまいだ。」










アリス(左)

フレア・セフィリア(右)