Seventh World 始まりの地の章
【崩壊編①】
黄金の羽を広げて大空を滑空するアマテラス。
その横を巨大な『蒼き龍』が並走する。
近くで見るとその巨大さに圧倒される。
(これが伝説の『龍の一族』か………。)
数ある世界の中でも、謎に包まれた『龍の世界』。『天界の神々』も『魔界の悪魔』も『龍の世界』には手を出さない暗黙の了解がある。
それは、『龍の一族』を怖れているからに他ならない。
果たして『龍の一族』がどのくらい存在するのか。『龍の一族』の上級種族がどのくらい強いのか。全くの謎である。
時折、人間界や他の世界に現れる『龍の一族』は、おそらく『龍の一族』の中でも低級の地位にあるものと推測されている。
(この龍が低級とは信じられぬな。これ一体でも、『天界の神々』と互角に戦えそうだ。)
しかし、これは心強い限りだ。
アマテラスは素直にそう思う。
今回の敵は時間との戦い。
『ラ・ムーア帝国宇宙艦隊』の舟は20隻近くある。それらを少しでも早く破壊しなければ、地上の被害は拡大する一方。
分解魔法『マシュラ』が使えない以上、空中で破壊をして被害を最小限に抑える必要がある。
「行くぞ『紅き龍』よ!ついて来い!」
ビュン
スピードを上げるアマテラス。
「あとは任せるしか無いようね。」
シャルロットが近寄って来たチェリーに言う。
「う~ん。勝負はお預けか……。でも他に方法は無いのかしら?」
「他に?」
「アマテラス様を殺さなくても、別の方法があるはずよ。例えば……。」
『7つの大罪』の指導者を
この世界で殺しちゃえば良いんじゃない?
「……!」
それはシャルロットも何度も考えた方法。
しかし『7つの大罪』の指導者を見つけるのは至難の業。そもそも、この世界『惑星ムーア』に居るのかどうかも疑わしい。
「そうね。それより今は私達が助かる事が先決です。あの空から落ちてくる物体を破壊出来なければ、この一帯は壊滅するでしょう。」
そう言ってシャルロットは、ふと思い出す。
「あぁ、チェリー。あなたは死なないんだったわね。」
するとチェリーは予想外の反応を見せる。
「うん。まぁそうなんだけど。でもね……。」
「でも………?」
チェリーはいつになく真剣な表情を見せた。
「もし……、この世界の『アマテラス様』が死亡したら……。」
あたしは、どうなってしまうのかしら?
チェリー・ブロッサムを始め『天帝の加護』の戦士達は深くアマテラスと関わりを持っている。チェリーの能力である『不老不死』もアマテラスから受けた『加護』。
ならば
『過去のアマテラス』が死亡した場合
未来の世界に於いて、アマテラスに与えられるはずの『天帝の加護』は存在しうるのか。
チェリー・ブロッサムの『不老不死』の能力は消え去るのだろうか。
「そうね……。それは予測不可能です。」
「…………。」
「出来れば私もアマテラスを殺すより、『7つの大罪』の指導者を殺した方が良いとは思っています。
しかし
忘れてはいけません。
アマテラスが創った『高天原(タガマガハラ)』の世界は
――――――『嘘偽りの世界』
あなた達『天帝の加護』の戦士達が犯した罪が消える訳ではないのです。
人体から人間の『魂』を抜き出すなど、決して許されるものではない。」
しかし!
チェリーはシャルロットに反論をしようとするが思いとどまる。
人間の本質は肉体ではなく『魂』にある。
それを一番理解しているのは、チェリー・ブロッサム。
なぜなら
チェリーの『天帝の加護』こそ、かつてカール・D・アレキサンドリアが発明した大魔法。
『不老不死』の魔法に他ならない。
チェリーの肉体が何度滅びても、チェリーの『魂』が死なない限りチェリーは何度でも甦る。
果たして
チェリー・ブロッサムの『魂』が失われる日は、いつ訪れるのだろうか。
【崩壊編②】
ゴゴゴゴゴゴォ!
空から落下して来る『ラ・ムーア帝国』の『宇宙船』の全長はおよそ7キロメートルに及ぶ。
かつて日本に存在した世界最大の戦艦『大和』の全長が263メートルと言う点から比較しても、その巨大さが伺える。
「『天空剣(てんくううけん)』!!」
アマテラスは、黄金に光り輝くその『天帝の剣(つるぎ)』を大きく振り抜いた。
ズバッアァァッ!!!
ビキビキビキッ!!
たったの一撃
その一撃で宇宙船に大きな亀裂が走った。
バチバチバチバチッ!!
しかし、宇宙戦艦は爆発する事なくそのままの勢いで落下して行く。
(ちっ!機体を斬るだけではダメか。動力源を破壊しなければ。)
ギャオオォーンッ!!
その直後、シェンに召喚された『紅き龍』の大きな口が開かれた。
――――――ドラゴン・ファイア
ブワッ!
真っ赤に燃え盛る『紅き炎』
宇宙戦艦全体を包み込んだ炎は、アマテラスに斬られた機体の隙間に浸透し
バチバチバチバチッ!
ドドドドドッガーンッ!!!!
遂に宇宙戦艦は大爆発を起こす。
ギャオオォーンッ!!
(良し!これなら行ける!)
アマテラスと『紅き龍』の思わぬ連携で見事に宇宙戦艦を破壊する事に成功する。
爆発した戦艦の残骸は地上に落下するであろうが、直接地上に激突するよりは遥かにマシである。
「残り18隻!!」
アマテラスが次の戦艦に狙いを定めようとした時。
「む?」
(何だ………?)
ギギィ
ギギィ
爆発した戦艦の爆炎の中から、得体の知れない物体が飛び出した。
昆虫の様な羽を持つ者。
アメーバの様に姿を変形する者。
その様態は多種多様。
次々と現れる異形の「化け物」ども。
(こいつらが原因か!)
宇宙最強を誇る『ラ・ムーア帝国宇宙艦隊』。
その大艦隊が墜落するなど、おかしいとは思っていた。この宇宙空域で『帝国宇宙艦隊』に勝てる者など存在しないはず。
(内部から喰われたと言う事か……。)
ギギィ
ギギィ――――――
そして、次の瞬間
ギャオオォーンッ!!
未知の『化け物』どもが、シェンが召喚した『紅き龍』にまとわり付く。
ギギィ
ギギィ
その数は数え切れない。
ギャオオォーンッ!!
苦痛で叫び声をあげる『紅き龍』を、次々と蝕んで行く『化け物』ども。
(ちっ!時間が無いと言うのに!)
ブンッ!
アマテラスが『天帝の剣(つるぎ)』をひと振りすると、異形の『化け物』どもの数体が飛び散った。
しかし
ギギィ
ギギィ――――――
「!?」
斬られたはずの胴体が
飛び散ったはずの手足が
みるみるうちに再生して行く。
(これが、噂の『再生能力』か……。聞いていたより素早く再生する。)
だが
その程度の能力で
この『太陽神』を倒せると思うなよ!
アマテラスが『化け物』どもを駆逐しようと動き出したその時。
ビリビリビリッ!
「!!」
アマテラスの全身に衝撃が走る。
(何だ?この感覚は…………。)
未だかつて感じた事の無い感覚。
アマテラスが、その気配が感じる方向。上空を見上げると
そこに、他の『化け物』とは明らかに違う『化け物』が浮かんでいた。
その『化け物』の下半身は植物のような生き物で構成されており、更にその上半身は、女性の裸体が白く輝いていた。
(まさか…………。)
アマテラスは直感する。
未知の『化け物』どもは無限に増殖する。
『化け物』どもをいくら殺してもキリが無い。
未知の『化け物』どもとの戦争に勝つ方法は、一つ。
『7つの大罪』の指導者を殺す事。
上空に浮かぶその女性がアマテラスに言う。
「あなた達、少し邪魔ね。ようやく『惑星ムーア』に侵入出来たのだから、邪魔をしないで下さる?」
地上から上空を眺めていた反乱軍のボス、シェン・リーフェイは、その女性を見て呟く。
「あれは………、あの野郎………俺達を騙しやがって………。」
その者の名は『アルタミエル』
全宇宙を――――――
――――――――――支配する者
【崩壊編③】
アルタミエルの殺気を敏感に感じ取ったのは『紅き龍』。
全身に張り付いた『化け物』どもが、龍の分厚い装甲を侵食して行く中でも『紅き龍』は、それどころでは無い。
野生の本能が
『龍の一族』として産まれた本能が
『アルタミエル』の危険度を察知する。
ギャオオォーンッ!!
その咆哮が『帝都アレキサンドリア』の上空にこだました。
全宇宙の中でも最強の部類に位置する『龍の一族』。
その口が大きく開かれ、巨大な爆炎が『アルタミエル』に向かって放たれた。
ボワッ!
ボボボボボボボボッ!!
物凄い熱量を伴う『紅き龍』の攻撃。
間近にいたアマテラスは、思わず身体をのけ反らし、急いでその場から離れる。
(この攻撃は防ぐ事が出来ない!)
『聖なる光』の鎧を身に纏うアマテラスですら、そう感じさせる程の攻撃。
しかし
アルタミエルは逃げようともせず、軽く左手を前に出す。
(何をする気だ…………?)
アマテラスが見ている前で、アルタミエルは、一言呟いた。
「『静寂(せいじゃく)の左手』………。」
ギュン!
「!!」
すると
天空を覆うほどの『紅き龍』の爆炎が
一瞬で消え失せた。
(な!バカな!何をした!!)
アルタミエルは、今度はもう片方の手を『紅き龍』に向けて差し出すと、もう一度呟く。
「『破滅(はめつ)の右手』…………。」
ギャオオォーンッ!!
それはアマテラスの理解を越える現象であった。
屈強な鱗で覆われた『紅き龍』の強靭な身体がパラパラと剥がれて行ったかと思うと、ものの数分もしないうちに、完全に粉々となり
砂のようにサラサラと崩れ去る。
(何だこの魔法は……?フレアの分解の魔法に近い種類の魔法か!?)
驚くアマテラスの表情を眺め、「ふふ」と笑うアルタミエル。
「あなたの相手もしたかったけれど。」
残念
――――――時間切れのようです
「!!」
しまった!
アルタミエルに気を取られている間にも、『ラ・ムーア帝国宇宙艦隊』の落下は止まるはずもなく
18隻もの巨大な宇宙船が
『帝都アレキサンドリア』に墜落する。
ドッカーンッ!!
トゴゴゴゴゴゴゴゴゴーンッ!!
その爆炎は『惑星ムーア』全体を包み込み
直撃を喰らった『帝都アレキサンドリア』は
文字通り
――――――――――――崩壊する
ギギィ
ギギィ――――――
そこには『化け物』どもの不気味な鳴き声だけが、鳴り響いていたと言う。
始まりの地の章 完
Seventh World
――――――――――――To be continued
アルタミエル