Seventh World 始まりの地の章
帝国最強の魔導師
ニャローム・ニャハルーザの戦死
これは、 もはや誰にも『蒼き龍』の進撃を止められない事を意味するかに思われた。
しかしまだ、『帝国軍』は諦めていない。
『ラ・ムーア帝国』が何故
――――――――宇宙最強なのか
それは『惑星ムーア』を統括する『帝国特別魔導師団』によるものではない。
『帝国特別魔導師団』は所詮は国内の治安部隊の一つに過ぎない。
『ラ・ムーア帝国』の真の軍隊は宇宙(そら)にある。
『ラ・ムーア帝国宇宙艦隊』
各々が管轄する惑星から帰還した『宇宙艦隊』が『惑星ムーア』の上空に集結する。
【フレアとアマテラス編①】
『宇宙艦隊』が帰還する前に
『カール皇帝』を殺す。
それが反乱軍の勝利の絶対条件。
「シェンはここで待っていろ。その足では動く事も出来まい。」
「ロン………。」
「なに、心配ない。俺の『蒼き龍』は無敵だ。もはや『帝国軍』は壊滅寸前。カール皇帝はすぐ目の前にいる。」
『惑星ムーア』を包む『マジック・フィールド』は、外部からの侵入を阻止する絶対防御魔法。
今回は、それが完全に裏目に出る。
『宇宙艦隊』が『マジック・フィールド』の魔法防壁を潜り抜けるのは簡単ではない。『マジック・フィールド』と相反する『相殺魔法』を宇宙船の装甲に施す時間はおよそ3時間。
――――――――3時間もあれば十分
宮殿を護っていた『帝国特別魔導師団』も『帝国治安部隊』も『蒼き龍』を怖れて逃げ出した。
カール皇帝のいる『アレキサンドリア宮殿』までの視界は良好。
「俺達『反乱軍』を遮る者は誰もいない!」
勢いに乗る『反乱軍』の戦士達は、ロン・リーフェイの後に続き『アレキサンドリア宮殿』を目指す。
と、その時
ロンの足が端と止まった。
(………む。…………誰だ?)
敵の戦士は、誰もいないはずの『アレキサンドリア広場』。
この期に及んで『蒼き龍』に逆らえる者など存在しない。
しかし
前方に見える二人は明らかに『帝国側』の人間。
一人は、『帝国治安部隊』の隊員
フレア・セフィリア
そして、もう一人
男性とも女性とも受け取れる中性的な容姿をしたその男は、静かに『反乱軍』の戦士達を見つめていた。
「『反乱軍』の皆さん、初めまして。」
そして、その男は『反乱軍』に優しく語り掛ける。
「私の名は『アマテラス』。無益な戦闘はお止めなさい。」
(あいつ……何を言っている。)
「私達の敵は『ラ・ムーア帝国』でも『反乱軍』でも有りません。」
――――――――全宇宙の敵は他にいます
「ふざけるな!」
ロン・リーフェイがアマテラスに向かって叫ぶ。
「俺の産まれた惑星『神龍(シェンロン)』は『ラ・ムーア帝国』に侵略された!俺達『神龍(シェンロン)人は、『ムーア人』の奴隷として扱われている!その気持ちが分からんのか!』」
するとアマテラスはロンの方を見て口を開く。
「でも……、あなたは生きているでしょう。」
「何だと?」
「生きていれば『希望』があります。しかし、奴らに侵略されたら全てが無くなる。惑星『ムーア』も惑星『ジュノー』も、他の全ての『惑星』が死滅するのです。」
「そんな詭弁が受け入れられるか!俺達は『カール皇帝』を殺し『ラ・ムーア帝国』から独立する!」
そして、ロン・リーフェイは上空に待機する『蒼き龍』に命令する。
「やれ!『蒼き龍』よ!アイツを焼き払え!!」
ギャオオォォーンッ!!
「仕方ありませんね。」
アマテラスは隣に控える少女に言う。
フレア――――――――
――――――――あなたの出番です
【フレアとアマテラス編②】
アマテラスは告げる。
あたな(フレア)の潜在能力を解放します。
それが私の能力。
『天帝の加護』を受けた あなた(フレア)の力は、帝国最強の魔導師『ニャローム』をも凌駕するでしょう。
そんなの
(信じられる訳が無いじゃない!)
『ラ・ムーア帝国』が誇る最強の魔導師達。
『帝国特別魔導師団』の攻撃魔法を受けてもビクともしない『蒼き龍』。
それを
あの巨大な龍(ドラゴン)に
私の魔法が通じる訳ないじゃない!
「いいですかフレア。何も心配する必要は有りません。恐れる必要もない。周りの反乱軍の戦士達は私が引き受けます。」
「しかし!」
「あなたは、ただ集中すれば良い。フレア・セフィリアの魔法は『蒼き龍』を打ちのめすでしょう。」
アマテラスの瞳には不思議な力があった。
アマテラスの言葉には不思議な説得力があった。
この人(アマテラス)は、いったい何者なのだろう?
カール皇帝とは、どのような関係なのか?
そんな疑問がフレアの脳裏を掠めたが、次の瞬間には決意が決まっていた。
もう――――――――
――――――――やるしかない
フレアは両手を『蒼き龍』に向けて構える。
フレア・セフィリアの特殊魔法。
他の誰にも扱う事が出来ない、触れたものを分解する魔法。
そしてフレアは、魔法を唱える。
「『マシュラ』!!」
ビュン!
「!!」
それは、ほんの小さな軌道を描き『蒼き龍』へ向かって一直線に飛んで行く。
「ふん……。」
ロン・リーフェイは鼻で笑う。
(何をするかと思ったが、あんな魔法が俺の『蒼き龍』に通じるとでも思ったか。)
『帝国特別魔導師団』の一斉攻撃すら無傷で耐えきった『蒼き龍』。
「無駄な抵抗だ。あの二人さえ殺せば、カール皇帝を守る者は居なくなる。行くぞ!」
ビカッ!!
(むっ…!!)
バチバチバチッ!!
上空を見上げるロン・リーフェイ。
そこでロンは信じられない光景を目撃する。
バチバチバチバチバチバチッ!!
全長500メートルはあろう巨大な龍の身体が
フレアの魔法が当たった辺りから、徐々に消滅して行くのだ。
【フレアとアマテラス編③】
「おい!見ろ!」
「バカな!」
「ロンさんの『蒼き龍』が!」
「惑星『神龍(シェンロン)』の守り神が!」
消滅して行く――――――――
緊張の糸が切れたのか、ふらりと倒れるフレア。
それを受け止めたアマテラスがフレアに言う。
「よくやりましたフレア。後は私に任せない。」
「アマ……テラスさん………。」
「後ろに下がっていなさい。『反乱軍』の攻撃が始まりますよ。」
残っている『反乱軍』の戦士達は、それでもまだ3000人は下らない。
対して『帝国軍』の戦士は誰もいない。
アマテラスは一人で3000人の『反乱軍』と向かい合う。
「ちっ!殺れ!」
「敵は二人だ!怯む事は無い!」
「一斉に突撃だー!」
怒涛の進撃で押し寄せる『反乱軍』。
先頭にはロン・リーフェイをリーダーとする『神龍(シェンロン)人』の精鋭部隊。
魔法も銃火器も不要。
その身体能力と、研ぎ澄まされた刀剣で狙った獲物は確実に仕留める。
接近戦闘で『神龍(シェンロン)人』に敵う者などいない!
アマテラスは、突き出した右手に『聖なる力』を込める。
ブン
「『天帝の剣(つるぎ)』」
右手に現れたのは、燦然と輝く黄金の剣。
数ある『天界の武器』の中でも最高峰に位置する『神器』の一つ。
「あの男、舐めてるのか!」
ロン・リーフェイは思う。
(接近戦闘を得意とする俺達を相手に、剣で勝負するなど自殺行為!)
「行くぞっ!!」
『反乱軍』の先発隊がアマテラスに襲い掛かった時。
ブンッ!!
アマテラスは『天帝の剣(つるぎ)』を大きく振り抜いた。
ブォッ!!
「!!」
すると、先発隊はおろか
後ろにいた『反乱軍』の戦士達の大半が吹き飛んだ。
「ぐわぁ!」
「どわっ!!」
「ぎゃあぁぁ!!」
「な!?」
あまりのスピードと威力。
(何だ今の一撃は!)
ゾクゾクゾクゾクッ!
背筋が凍るようなアマテラスの一撃を見たロンの身体がガクガクと震え出す。
バカな………。
身体が………
……………動かない!?
ロン・リーフェイは理解する。
これは魔法なんかではない。
シェンのような能力でもない。
まるで蛇を前にした蛙のように
足がすくんで動けないのだ。
「キサマ………何者だ…………。」
ロン・リーフェイも歴戦の勇者。
兄のシェン・リーフェイを初め多くの屈強な戦士達を身近で見て来た。
しかし、この男は根本的に何かが違う。
絶対に勝てない。
人間では
この男の前で立っている事すら難しい。
ガクガクガク
足の震えが止まらない。
ロンはもちろん、『反乱軍』の全ての戦士達が同じ気持ちであろう。
『反乱軍』はアマテラスのたったのひと振りに完敗したのだ。
ジャリ
(……………?)
ジャリ
ロンの後ろから足音が聞こえて来た。
(誰だ…………。あの男を前にして動ける人間がいるのか………。)
ジャリ
そして、ロンの後ろから、その女性の声が聞こえて来た。
「ようやく、見つけました。」
ジャリ
ジャリ
(この声は…………、あの時の……………。)
ジャリ
ジャリ
その女性がロン・リーフェイの真横に差し掛かった時
その金髪碧眼の美しい女性
シャルロット・ガードナーがアマテラスに告げる。
「今のあなた(アマテラス)に説明をしても無意味ですから余計な事は言いませんが。」
すっと『帝国製のサーベル』をアマテラスに差し向けて告げる。
「『天帝アマテラス』…………。」
申し訳ありませんが
あなたには――――――――
―――――――――――死んで貰います
フレア・セフィリア