Seventh World 始まりの地の章

【運命の日3編①】

『帝都アレキサンドリア』中心部

『アレキサンドリア宮殿』前の大広場。

一万人を越す『帝国軍』の戦士達が反乱軍を攻撃している最中。


空が

急に暗くなった。


(なんだ………?)

『ラ・ムーア帝国治安部隊』397隊の隊長ナックルが空を見上げると、太陽を覆う巨大な影か視界に入る。

「おい………何だありゃ…………。」


ギャオオォォーンッ!!

ブワッ!!


「!!」

それは、あまりにも突然の出来事。

青い光沢を放つ美しい『蒼き龍』が、怒声を発したかと思うと、次の瞬間。

ズババババババババババッ!!

ブオッーン!!

ドッガーンッ!!!


大地が

弾け飛んだ。


「ぐわぁ!!」

「何をしている!上だ!ドラゴンを攻撃しろ!!」


ビュン!

ボボボボッ!!

ブワッ!!

『ラ・ムーア帝国特別魔導師団』の魔導師達も負けてはいない。

各々が得意とする攻撃魔法を次々と放射する。


無数の光の塊が螺旋階段のように入り交じり『蒼き龍』へ向かって飛んで行く。


ドバババババッ!!

ギャオオォォーンッ!!

攻撃魔法は次々と『蒼き龍』に命中し大地を揺るがす程の大きな悲鳴が鳴り響く。

「ふん!ざまぁ見ろ!」

「帝国魔導師を舐めるなよ!」

モクモク

モクモク


「………!?」


ギャオオォォーンッ!!

ブワッ!!


「危ない!」

「逃げろッ!!」

ズババババババババババッ!!

ドッガーンッ!!!



攻撃を仕掛けた魔導師達が吹き飛んだ。


つい先程まで、殆ど何の損害もなく一方的に反乱軍を攻撃していた『帝国軍』が……。


『蒼き龍』の、たった二発の攻撃で半壊する。


「おいおい冗談じゃねえ。あの龍(ドラゴン)。全くの無傷じゃねぇか………。」

ナックルはごくりと唾を呑み込む。

あんなバケモノにどうやって対抗すれば良いのか。

「カタリーナ!397隊は全員退避!!逃げるぞ!!」

397隊だけではない。

周りを見ると、他の『治安部隊』の隊員達も一斉に逃げ出している。

隊長ナックルの指示を受けカタリーナも走り出す。何処へ逃げたら良いのかも分からないが、とにかく『蒼き龍』から離れなければならない。

少しでも遠くへ


(…………!?)


そう言えば

あのコ(少女)

チェリーは何処へ行ったの?





【運命の日3編②】

それにしても、この状況。

シャルロットはシェン・リーフェイに話し掛ける。

「確かにあの龍が相手では『帝国軍』も歯が立たない。それは認めます。

しかし……。

このままでは、私達も『龍の爆炎』で殺されるわ。何か策があるのかしら?」


帝国軍の魔導師『ニャローム・ニャハルーザ』の奇怪な魔法『猫の尻尾(しっぽ)』。
この尻尾(しっぽ)に捕獲された人間は、動く事も魔法を唱える事も出来ない。

『死刑執行』を待たずとも、シャルロットとシェンの二人は『蒼き龍』の餌食となってしまうだろう。


するとシェンは慌てる様子もなくシャルロットに答える。

「俺達の目的は『ラ・ムーア帝国』の崩壊だ。『アレキサンドリア宮殿』の中にはカール皇帝がいる。」

カール皇帝さえ死ねば

俺の命など、どうでも良い。

「ロンの奴もそれくらい分かっているだろう。」

(この男……。死を覚悟したか…………。)


ならばどうする?

シャルロットは自問自答をする。

(動く事が出来ない以上、ここから逃れる方法は一つだけ。

『聖なる加護』の能力『時の旅人』を解除するしか方法がない。)

おそらく『時の旅人』を解除すれば、私は元の世界。未来のSeventh World(7つの世界)に帰る事が出来る。

しかし、そうなると

アマテラスを殺す目的を達成出来ない。



それに………

シャルロットは視界に飛び込んで来た一人の少女に向かって言う。

「私だけ元の世界に帰る訳にも行かないわね。」

「ふに?」

「遅かったわねチェリー。早くこの『猫の尻尾(しっぽ)』を何とかして下さい。」

「あんたねぇ!勝手に捕まっておいて遅かったとは何様なの!!」

チェリーは、手に持っていた帝国製のサーベルで『猫の尻尾(しっぽ)』を叩き切る。

意外とアッサリ切れるところを見ると、どうやら、拘束されている本人以外には大した効力の無い魔法らしい。

ようやく身体の自由が戻ったシャルロットにチェリーが言う。

「ほんとに世話が焼けるわ。」

「ありがとうチェリー。助かったわ。」

「あら?意外と素直なのね。ついでに……。」

チェリーは右手に持つ『帝国製のサーベル』をポンとシャルロットに投げつけた。

「これは?」

「どうせ、あんたの武器(レイピア)は没収されて無いんでしょう?そのサーベルはあげるわ。あたしには必要無いもの。」

シャルロットは少し微笑んで、サーベルの感触を確かめる。

(なかなか良い素材……。『ラ・ムーア帝国』の技術力は相当なものね。)

そして、シャルロットは準備運動がてら、サーベルを振り抜いた。

シャキィーンッ!!

「?」

ボトッ

「ん?何やってるのシャルロット?」

不思議がるチェリーの横で、もう一人の受刑者であるシェン・リーフェイを拘束していた『猫の尻尾(しっぽ)』が切り落とされた。

「お前………。」

「ついでよ。あななも早く逃げないと『龍の爆炎』に巻き込まれるわよ。」



そしてシャルロットは、チェリーに言う。

「さぁ行くわよチェリー。」

「行く?逃げるんじゃないの?」

「チェリー。私達の目的を忘れたのですか?」

「あ……!」

(そうだった……。)

チェリーには一つ決断しなければならない事がある。


シャルロットの目的は

過去の『天帝アマテラス』を殺す事。

この世界に来た目的はその一点に尽きる。


問題は、あたし……。


もしアマテラス様とシャルロットが戦う事にでもなれば

あたしは、どうすれば良いのか。


「どうしたの?行くわよチェリー!」

「あ、ちょっと待ってってば!」


その場を掛けて行く二人の戦士。

二人を見つめるシェン・リーフェイは思う。

(敵対した俺まで助けるとは、変な奴らだな……。)







【運命の日3編③】

ゴゴゴゴゴゴォ!

ギャオオォォーンッ!!

ブワッ!!

ドッガーンッ!!

猛り狂う『蒼き龍』の攻撃は止まらない。


戦意を失って逃げていく『帝国』の戦士達に追い討ちを掛けるように攻撃を仕掛ける龍。

その(龍の)上に立つ戦士『ロン・リーフェイ』は、前方に見える死刑台に目をやった。

「あれは…………シェン。」

(どうやら上手く脱出 出来たようだな。)

「これで、何の躊躇(ためら)いもなく、この辺り一帯を廃墟と化す事が出来る。」


行くぞ!神龍(シェンロン)!!




ロンが再び始動しようとした時

(!!)

遥か上空を飛行しているロンの目の前に一人の男が浮かんでいるのが目に入った。

(誰だ………?空に浮いている?)



「ほんとに困ったものだにゃあ。ふぁあぁあ」

そのネコ耳を生やした男は、呑気に『あくび』をしている。


その男の名は

ニャローム・ニャハルーザ。


「いや、困ったのはこっちの話だにゃあ。たかが龍(ドラゴン)一匹が現れたくらいで、抵抗も出来ずに逃げ惑う『帝国軍』。」

「なに………?」

「『治安部隊』の魔導師だけならともかく、栄光の『帝国特別魔導師団』の魔導師達まで逃げるとは、本当に情けないにゃあ。」

「ふぁあ」と大きな「あくび」をするその男は不意に両手を前に突き出す。


(ちっ!)

シュバババッ!!

ロン・リーフェイは素早く手に持っていたナイフをその男に投げ付ける。

しかし

「『猫の毛皮』にゃあ!!」

ニャロームの前に現れた『猫の皮』のような防護壁に突き刺さり、ニャロームまでは届かない。

更にニャロームは次なる魔法を詠唱する。

「『猫の髯(ひげ)』にゃあ!!」

「!?」

シュンッ!!

それは、細さ1ミリメートルにも満たない極細の髯(ひげ)。その髯がロン・リーフェイの頭を目掛けて飛んで行く。


「くっ!」

咄嗟に『猫の髯(ひげ)』をかわすロン・リーフェイ。

「にゃは!『猫の髯(ひげ)』は、まだまだあるにゃあ!」

「!!」

よく見ると、『蒼き龍』の上に立つロンの周りに、無数の『猫の髯(ひげ)』が浮かんでいる。

(何だこいつ!!)

「この上空では逃げる場所も無いにゃあ。」


「ゲームオーバーにゃ!」


ビュビュビュビュビュッ!!


無数の『猫の髯(ひげ)』がロン・リーフェイに向かって飛んで行く。

(よく分からんが、アレに当たると不味い気がする。)

そして

バッ!!

「にゃ!?」

ロン・リーフェイが『蒼き龍』から飛び降りる。

「にゃんと!この上空から飛び降りるにゃあ!?」

ギャオオォォーンッ!!

ブワッ!!

そこに、間髪入れず『蒼き龍』の口から青い炎が放たれた。

「危ないにゃあ!」

ひらりと『龍』の攻撃をかわすニャローム。


そしてニャロームは、巨大な龍に向かって言う。

「たかが動物の分際で人間様に歯向かうと痛い目に合うにゃあ。」

そう言うニャロームのネコ耳がピクリと動いた。





【運命の日3編④】

『蒼き龍』から墜落するロン・リーフェイ。

いかに身体能力の高い『神龍(シェンロン)人』であっても、高さ数百メートルの高度から落ちれば一溜りも無いであろう。

「ロン!!」

そこに駆け寄るのはシェン・リーフェイ。

地上から上空の戦闘を見ていたシェンは、瞬時にロンの落下地点に駆け寄り


バシュッ!

「ぐわっ!」

ロン・リーフェイを受け止める。


「シェン!!」

シェンの身体に物凄い衝撃が走る。

「大丈夫か!シェン!!」

「く………。」


それでもシェンは弟のロンを気遣う。

「大丈夫だ。お前の方こそ大丈夫か?」

「俺は心配ない!それよりシェン!足が………。」


シェンの両足がぐにゃりと折り曲がっているのが見えた。

「このくらい、大した問題ではない。」

そして、シェンは上空を見上げる。

「あのネコ耳、あいつには借りがある。」

「シェン………。」

「俺の能力は知っているだろう?俺達を敵に回した事を後悔させてやる。」

そしてシェンは能力を発動する。



『紅龍(こうりゅう)の舞い』





『ラ・ムーア帝国』最強の魔導師

ニャローム・ニャハルーザ。

巨大な『蒼き龍』を前にしても、全く怯む事のないニャロームは、確かに一流の魔導師であった。

この距離でニャロームの魔法を喰らえば、いかに屈強な龍(ドラゴン)であっても無傷では済まない。


「見せてあげるにゃー!」

『ラ・ムーア帝国』最強の魔導師の魔法

「『猫大行進』にゃー!!」


ボワンッ!!

ボボボボワンッ!!


そこに現れたのは何とも奇怪な『猫の大群』

その猫達が

『にゃー!』

『フギャー!!』

『ゴロニャーンッ!!!』

一斉に『蒼き龍』に襲い掛かる。



ボリボリ

ムシャムシャ

バリバリッ!!


すると、帝国の魔導師達の攻撃魔法を浴びても、全くの無傷であった『蒼き龍』の鱗(うろの)の装甲が

ギャオオォォーンッ!!

みるみるうちに崩壊して行く。


「にゃは!我が『魔法猫』に噛み切れぬものは無いにゃー!」

ボリボリ

ムシャムシャ

『フギャー!!』

『ブキャギャー!!』


「にゃ?」

(にゃんだ?)


ムシャムシャ

悲鳴をあげているのは猫達の方

(にゃんだ?これは………。)


いつの間にか現れた『紅き龍』が、猫達を喰らっている。


そして今度は『蒼き龍』。

ギャオオォォーンッ!!

ボワッ!!

『蒼き龍』の口から青い爆炎が放たれる。


「にゃ!?『猫の毛皮』にゃー!」


咄嗟に防御魔法を唱えるニャローム。


しかし

ムシャムシャ

喰われていたのは猫だけでは無い。

ニャロームの背後に付き添うように『紅き龍』が、ニャロームの魔力を喰らっていた。

「にゃにゃー!にゃんと!?」

ゴゴゴゴゴゴォ!!

「しまったにゃーー!!」



爆炎に包まれたニャロームは、跡形もなく消し飛んだ。

地上から上空を眺めていたロン・リーフェイがシェンに言う。

「相変わらず えげつない能力だな。お前に勝てる奴などこの世に存在しないだろう。」

するとシェン・リーフェイは、困った様子でロンに答える。


つい2日ほど前に


負けたばかりだ