Seventh World 始まりの地の章

【運命の日2編①】

希代の魔導師

カール・D・アレキサンドリアが

『ラ・ムーア帝国』を建国して1000年。

長年の間、平和を享受して来た大帝国に『運命の日』が訪れる。



反乱軍の指導者

シェン・リーフェイ

シェンは『惑星ジュノー』産まれのジュノー人。ジュノー人特有の超人的な身体能力と統率力で反国家勢力のカリスマと呼ばれている。
シェンの死は、帝国に敵対する勢力の士気を喪失させ、反乱軍を弱体化させる事が出来るであろう。



もう一人

謎の戦士シャルロット

フレアの説明により彼女の名前がシャルロットと言う事だけは判明したが、それ以外は謎である。産まれた『惑星』も分からない。
しかしながら、あのシェン・リーフェイと戦闘を繰り広げ勝利したと言う事実。

危険分子には変わらない。

フレア・セフィリアは彼女の無実を主張したが受け入れる事は出来ない。そもそもフレアをかくまった事自体が帝国への反逆なのである。




『アレキサンドリア宮殿』の前に広がる広大な広場には、世界中から集まった『ラ・ムーア帝国特別魔導師団』『ラ・ムーア帝国治安部隊』、そして少数ながら他の惑星から駆け付けた『帝国宇宙軍』の兵隊までいる。



『第397帝国治安部隊』のカタリーナが周りを見渡して感嘆の声をあげる。

「凄い人数ね。この広場に収まりきらない程いるわ。こんなに人数を集めたら、逆に反乱軍は来れないんじゃないかしら?」

隊長のナックルがカタリーナに答える。

「それなら死刑執行をするだけだろう。カリスマリーダーの死刑を手を咥えて見てるだけなら、反乱軍の威信は低下する。どちらにしても反乱軍は弱体化するだろう。」

「ふ~ん。そう言うものかしらね。」

ナックルとの会話を終えたカタリーナは、隣に立つ少女に話し掛ける。

「それにしてもチェリー。よく似合うじゃない。あなたも大きくなったら治安部隊に入隊すると良いわ。」

『帝国治安部隊』の衣装を身に纏い『アレキサンドリア広場』について来たのはチェリー・ブロッサム。

一人で『治安部隊』の本拠地に残して置くより、一緒に広場に連れて来た方が安全だと言うカタリーナの粋な計らいである。

「緊張しなくても大丈夫よ。これだけ大勢の『帝国魔導師』や『帝国軍人』がいるんだもの。反乱軍なんて怖くないわ。」

チェリーはカタリーナに渡された『帝国製のサーベル』を片手に広場の一点を見つめる。


処刑台の上で拘束されている女性

シャルロット・ガードナー


(あら……。本当に捕まっているわ。光の速さで動けるシャルロットを捕まえるなんて、いったいどうやったのかしら?あたしにも教えて貰いたいわね………。)



「来たぞー!」

「反乱軍だ!!」

「!!」

帝国軍の戦士達の叫ぶ声が、あちらこちらから聞こえて来た。

「ほぉ、本当に来るとは意外だな。」

そう呟くのは隊長のナックル。

「人数は………、結構多いわね。それだけシェンが重要人物だと言う事かしら。」

カタリーナも冷静に言葉を発する。



南方より現れた反乱軍の数はざっと見渡した限りでも数千人はいるであろう。

いったい、どこに潜んでいたのか、数だけなら『帝国軍』の半分近い勢力になる。


それでも、『ラ・ムーア帝国軍』の圧倒的優位は変わらない。

反乱軍の武器は刀剣が殆どであり、魔法を使える魔導師もごく僅か。


(これは一方的な虐殺になるな。)

ナックルはそんな事を考えていた。






【運命の日2編②】

「カール、一つお聞きします。」

アマテラスがおもむろに口を開く。

「なんだ?アマテラス。」

アマテラスはカールの瞳を真っ直ぐに見据えて言う。

「その少女の魔力をアリス・クリオネに移転した場合。少女フレアの助かる確率はいかほどなのでしょうか?」

アリス・クリオネ

カール皇帝が造り上げた究極の魔導兵器。

未知の『化け物』と戦う為に造られたアリスに必要不可欠の魔法。

触れたものを分解する特殊魔法


『マシュラ』


通常、強力な魔法を操るには強大な魔力を必要とする。

もちろんアリス・クリオネは常人よりも数十倍の魔力を保持出来るように設計されている。

しかし、それだけでは『化け物』どもに勝つ事は出来ない。

無尽蔵に増殖する『化け物』どもと戦うには、最小限の魔力で最大限の効果を発揮する魔法が必要なのだ。


「助かる確率か………。」

カールは目を細めて少女フレアを見る。

「我が『ラ・ムーア帝国』の魔法科学を持ってしても、魔力移転によりフレアの助かる確率は少ない。おそらく1%にも満たないだろう。」

「そうですか。」

そしてアマテラスは更に質問を続ける。

「それでは、その魔力移転に要する時間はいかほどでしょうか?」

「む………。」

カールは眉をひそめてアマテラスを見る。

「何が言いたいアマテラス。魔力移転は慎重に行う必要がある。早くても3日、それ以上掛かかる事も有り得る。」

するとアマテラスは、カールに予想外の事を言い出した。

「3日となると、反乱軍との戦闘には間に合いません。既に反乱軍との戦闘が始まろうとしています。」

「反乱軍?なぜ反乱軍の話が出て来るのだ?反乱軍など『ニャローム』率いる『帝国軍』に任せておけば問題はない。アリスを投入する必要など皆無だ。」

「そうでしょうか。」

「な………に?」

「私の見立てでは、反乱軍は予想以上に善戦するでしょう。下手をしたら『帝国軍』は負ける事になります。」

「そんなバカな………。」

「一つ、提案が有ります。」

「提案………だと?」

「その少女フレア・セフィリアは反乱軍との戦闘での切り札になります。

反乱軍との戦闘が終わるまで、私に預けて頂けないでしょうか?」


「アマテラス………。いったい何を………。」


「カール。悪いようにはしません。これも『ラ・ムーア帝国』の為。フレアが逃げないように私が側に付いておりますのでご心配なく。」

「…………。」

チラリとフレア・セフィリアを見るカール皇帝。

「わ……私なら逃げも隠れもしません!カール皇帝陛下!事情を聞いた以上は私も『ラ・ムーア帝国治安部隊』の一員です。喜んで私の魔力をアリスさんに差し上げます!」


ポコポコ

シュウ


三人の目の前にある巨大な容器に浮かぶ少女。

アリス・クリオネがフレアを見て微笑んだ。


カールは観念したようにアマテラスに言う。

「分かった。他ならぬお前の頼みだ。反乱軍との戦闘が終わるまで」



フレアをお前に預けよう。






【運命の日2編③】

「なぜ………、あのような嘘を付いたのですか?」

訪ねるのはフレア・セフィリア。

アマテラスに引き連られてフレアは今『アレキサンドリア広場』に向かっている。

「嘘では有りません。あなたはこの戦いの鍵を握っています。あなたの魔法はそれほど重要なのです。」

「私の魔法………しかし!」

フレアはアマテラスに言う。

「私の魔法は炎の魔法。『帝国特別魔導師団』には私以上の魔導師など沢山います!」

「いいえフレア。もう一つ、あなたにしか出来ない魔法があるでしょう?」

触れたものを分解する特殊魔法

『マシュラ』


それでもフレアは首を横に振る。

「ううん、違うんです。あの魔法は何の役にも立ちません。私が分解出来るのは、ほんの小さな物体のみ。片手の平に乗るくらいの石ころ程度。とても反乱軍に太刀打ち出来る魔法では無いわ……。」

すると、アマテラスは何やら魔法を詠唱する。

実際にはアマテラスが操るのは魔法では無い『聖なる力』なのだが、フレア・セフィリアには、それが魔法の詠唱のように聞こえた。


「アマテラスさん……。何を………?」

アマテラスはとても優しい瞳でフレアを見つめる。

「いいですかフレア。私ども一部の『天界の神々』には特別な力が有ります。特に私は、その力が大きい。」

「特別な………力?」

「私の力は、その人間の潜在能力を引き出す力。そうね。『加護』の力とでも言いましょうか。」

「『加護』………ですか?」

「フレア……。あなたの奥底に眠っている潜在能力を引き出しましょう。


さすれば、あなたは

反乱軍はもちろん

帝国最強の魔導師『ニャローム』にも勝てる力を身に付ける事が出来るでしょう。」

「『ニャローム様』にも?まさか………。」


「あとはあなたの好きなようにしなさい。『天帝の加護』の保持者となれば、自力で『帝国軍』から逃げる事も出来るかもしれません。」

それくらいの潜在能力を

フレア

あなたには

秘められているのです。







ドドドドドドドドッ!

「うおりゃあ!」

「行くぞー!」

「シェンさんを助けるんだ!」


遂に、反乱軍の総攻撃が始まった。



迎え撃つのは『帝国軍』の戦士達。

ビュン!

ボワッ!

ズバババババッ!!


次々と撃ち込まれる攻撃魔法。

遠距離攻撃の手段が殆ど無い『反乱軍』はみるみる その勢力を減らして行く。



「くそっ!怯むな!!」

「とにかく接近すれば何とかなる!!」

「これ以上『ラ・ムーア帝国』の横暴を許す訳には行かんのだ!」



その様子を見ていたシャルロットがシェンに話し掛ける。

「無駄死にです。あれでは貴方の仲間達はみんな死んでしまいます。」

今、二人は『アレキサンドリア広場』に置かれている高台に吊るされていた。

身体に巻き付いた『ニャローム』の魔法『猫の尻尾(しっぽ)』は、二人の身体の自由を奪い手足を動かす事も魔法を使用する事も出来ない。

(この魔法『猫の尻尾(しっぽ)』は拘束されれた人間では破る事が出来ない。一見ふざけたようで、とんでもない魔法ね。)



ドッカーン!

「ぐわぁ!!」

ボッカーン!

「ぎゃあぁ!」



そうこうしている間にも反乱軍の戦士達は次々と殺されて行く。

それでもシェン・リーフェイは表情一つ変えず戦況を見守っていた。


(この男………。)

シャルロットは直感する。

(まだ諦めていない。まだ何か……。これ程の『帝国軍』を前にして、反乱軍が勝つ策があるとでも言うのか……。)


すると、シェンはシャルロットに話し掛ける。

「お前……シャルロットと言ったか。」

「………。」

「この勝負は俺達『反乱軍』の勝ちだ。」

「………なぜ、そう言えるのですか?」

「ふん。決まっているだろう。」


シェン・リーフェイは言う。



人間では


『神龍(シェンロン)』には敵わない。




「!!」


「残念ながら拘束されている今の俺には『神龍』を呼び出す事は出来ないが……。」


『神龍(シェンロン)』は


二体いるのだ。




「見ろ、上空彼方から向かって来る美しき龍の姿を………。」



(あれは………。)

先日シャルロットが剣を交えた戦士『ロン・リーフェイ』が最後に見せた龍。



美しくも獰猛な


その『蒼き龍』が


帝都『アレキサンドリア』を強襲する。