Seventh World 始まりの地の章
【チェリーの魔法編①】
「龍が二匹って!いったいどう言う事なのですか!?」
フレアは、反乱軍のボスであろうロン・リーフェイが『蒼き龍』に乗って逃げ去ったのを目撃した。
しかし、シャルロットの話では、反乱軍の取った行動は陽動に過ぎない。
奴らの本当の目的は別にある。
「おそらくロン・リーフェイは『反乱軍』のボスでは有りません!」
「え!」
「早くしないと手遅れになるわ!力を貸してフレア!」
「力を?私に何か出来る事があるのですか!?」
「飛ぶのよ!さっき空から飛んで来たあの魔法をもう一度!!」
「えっと!それは構わないけど、どこに飛んだら良いの!?」
「そうね……。」
シャルロット・ガードナーは『光の粒子』の反応を確かめる。
先程の敵『ロン・リーフェイ』と似た気配を感じる。おそらく、その男が『反乱軍』の本当のボス。
「分かりました。奴の居どころは……。」
「えっ!」
そっちの方角は『帝都アレキサンドリア』の中心部。
「カール皇帝がいるわ!私達、カール皇帝から逃げてるんじゃなかったの!?」
「………。そうね。」
そしてシャルロットは平然と答える。
「その時はその時です。大丈夫、いざとなれば私がついていますから。」
「そんな……。」
「それに、私の目的はアマテラスです。」
「アマ……テラス?」
「おそらくカール皇帝の近くにアマテラスが居ます。」
「もう!何が何だか分からないけれど、その男を止めなきゃならないのね!?」
「手を貸してくれるかしら?」
「任せて下さい!!」
そして、フレア・セフィリアは魔法を詠唱する。
「フレイム・バースト!!」
ドッカーンッ!!
フレアとシャルロットの二人が天空高く舞い上がった。
「それにしても、面白い魔法ね。こんな風に魔法を使う魔導師は見た事が有りません。」
「え?なに?聞こえないわ!」
「いえ、もう到着するみたいね。」
「着地が危険だから気を付けて!」
二人が飛んで行く先。
そこは『帝都アレキサンドリア』の中心部。
巨大な軍事施設がある場所。
(む?何だ…………?)
シェン・リーフェイは、迫り来る2つの気配を感じ取る。
(空から人?何者だ………。)
「シャルロットさん!!」
「どうしたのフレア?」
「着地地点に建物が有ります!」
「見たら分かるわ。」
「えー!どうしましょう!!」
「あの建物の内部に敵が居るようです。ちょうど良いわ。」
「ちょうど良いって!ぶつかりますよ!!」
「問題有りません。」
そして、シャルロットは愛剣の『レイピア』を前に構えた。
「建物の屋根を斬り落とします。フレア、捕まっていなさい!」
「えーー!?」
そしてフレアは観念する。
この女性(シャルロット)には、常識は通用しないんだった。
【チェリーの魔法編②】
ぽつん
「はぁ………。」
取り残されたチェリー・ブロッサムは一人ため息をはく。
(やっぱり、あの女(シャルロット)は許して置けないわ。なに勝手な行動を取ってるのよ!)
周りには『ラ・ムーア帝国特別魔導師団』の精鋭達が、チェリー・ブロッサムを取り囲んでいる。
「おい!」
「ふぇ?」
「たった一人で我々に勝てると思っているのか?どこの誰だか知らぬが……。」
邪魔者は―――――――――
―――――――――死あるのみ!!
ベイベルグは、高齢とは思えぬ気迫でチェリー・ブロッサムに言い放つ。
「う~ん………。」
チェリーは困った様子で答える。
「ぶっちゃけ、あたしの得意な戦闘スタイルは接近戦なんだけど、まぁ問題ないかしらね。」
「なに?」
「だって、あなた達、あたしのスピードに付いて来れないじゃない?それに……。」
この距離は既に
あたしの射程範囲。
『デルタワールド』の世界の『特別接近戦闘部隊』の真髄(しんずい)。
―――――――――とくとご覧あれ
ビュンッ!
「!!」
バュッ!!
「くっ!」
チェリー・ブロッサムの真骨頂は、そのスピードにある。
魔導師達が魔法を唱えるより速く
ブワッ!
チェリーの華奢な左足が
敵の上顎(うわあご)を蹴り飛ばし
「ぐわっ!!」
「『爆破の魔法』!」
ボッカーンッ!!
そのまま、敵の首から上を爆発させる。
「なッ!何だ今のは!?」
「おい!注意しろ!爆弾を持っているぞ!!」
そしてチェリーは独りごちる。
「あー、確かにフレアを連れて行ってくれたのは正確かも。」
(シャルロットの言う通り……。)
あたしは
手加減なんて出来そうも無いもの。
「撃て!!何をしている!魔法で攻撃だ!!」
戦闘に於いて、機先を制する事は勝敗を大きく左右する。
最初の一人目の『帝国魔導師』が、得体の知れない攻撃で首を吹き飛ばされたのだから、他の魔導師達が動揺するのも無理はない。
それに加えてチェリーのスピードは、魔導師達を撹乱する。
ボッカーンッ!!
「ぐわぁ!」
ドッカーンッ!!
「ぎゃあぁぁあぁぁ!!」
次々と起こる爆発に、冷静さを失う魔導師達。
(なぁんだ……。)
チェリーは思う。
(やっぱり、あたし強いじゃん!そのあたしが手も足も出ないシャルロットって………。)
本当に『化け物』ね。
ビュン!
ドッカーンッ!!
「ぐわっ!!」
戦闘が始まってから数分もしないうちに、『帝国魔導師団』の精鋭の五人が吹き飛んだ。。
まるで、桜が舞うように
ピンク色の衣装を着た少女が躍動する。
もし、この場にシリュウ・トキサダがいたならば、シリュウはこう言うであろう。
「奢(おご)るなよチェリー。」
油断をすると
足元を掬(すく)われるぞ。
【チェリーの魔法編③】
「『ラ・ムーア帝国特別魔導師団』の団員ともあろう者が、あんな小娘一人に翻弄されるとは、情けないのぉ……。」
その老婆は、ポツリとそんな事を言う。
「バネッサさん。そうは言っても、あの女、相当に強い。爆弾もどこに隠し持っているのか……。」
答えるのはベイベルグ。
「ベイベルグ、あんたもアホよのぉ。まんまと小娘の挑発に乗りおって。」
「何か策があるのですか?」
「ふん。だからアホだと言うとるのじゃ。冷静に対処すれば『特別魔導師団』が負けるはずが無かろう。」
「それでは……どうすれば?」
「小娘の土俵で戦ってどうするのじゃ。小娘の戦闘はスピードが命。足を止めれば良かろう。」
「ほぉ……。」
「『シャドー』の魔法の使い手がおったな。確かレイン……ライン?」
「おい!ライアン!!」
ベイベルグの呼び掛けに応じるのは、『特別帝国魔導師団』の魔導師ライアン。
「分かっているな。あの小娘の動きを止めろ。」
すると、ライアンと呼ばれた男は、つまらなそうにベイベルグに答える。
「足を止めたら良いのか?まぁ、『シャドー』の魔法なら、そんなのは朝飯前だが、報酬は弾んで貰うぜ?」
「ふん。好きにしろ。」
ゆらり
他の魔導師とは違う、闇色のマントを羽織ったライアン・オルガスが重い腰をあげる。
そしてライアンは、両手をチェリーの居る方向に広げた。
『シャドー』の魔法とは、『ラ・ムーア帝国』の魔法科学が産み出した特殊魔法の一つ。
「『シャドー・アムーラ』!!」
「!?」
その魔法は人間の影に干渉する。
ガクンと膝を折ってその場に倒れ込むチェリー・ブロッサム。
「ちょっと!何をしたのよ!!」
今さら慌てても、もう遅い。
「嬢ちゃん。悪いがこっちも仕事なんでね。カール皇帝を待たせる訳にも行かないだろう?」
(くっ!足の自由が効かない………。)
動けなくなったチェリーにベイベルグがもう一度言う。
「どうやら、ここまでの様だな………。遠距離攻撃の手段が無いお前には、この状況をどうする事も出来まい。」
邪魔者は―――――――――
―――――――――死あるのみ
【チェリーの魔法編④】
「はぁ………。」
チェリーはため息をはいた。
本当に嫌になるわ。
こんな所(過去の世界)にまで来て、アマテラス様に会う事も出来ず。おまけに周りは敵だらけ。
(まぁ、それは自業自得なんだけど……。)
その様子を見たベイベルグが、再びチェリーに言う。
「どうした?怖くて怖じけついたか。なに痛みを感じる暇は与えない。」
ベイベルグがサッと手を挙げると『ラ・ムーア帝国特別魔導師団』の魔導師達が一斉に攻撃態勢に入る。
「死ぬ前に一つ質問をしよう。お前は何者だ?なぜフレアを助ける?」
「はぁ……。」
またしても、ため息をはくチェリー。
「なぁんか勘違いをしているようね?」
「なに?」
「まさか、この程度で、あたしに勝てると思っているのかしら?」
「………ふん。負け惜しみか。」
「う~ん。仕方ないわね。どうして、あたしが最強なのか教えてあげるわ。」
「…………。」
「『爆破の魔法』………。あたしは触れるもの全てを爆発させる事が出来るの。」
「ふむ。それが先ほどの爆発の正体か……。だが、それがどうした?今の状況ではその魔法も使えまい。」
「加えてあたしは『不老不死』。死ねないのよ。」
「ふ………。」
ガッハッハ!
チェリーの言葉を聞いたベイベルグが大声で笑い始める。
「これは面白い!何を言うかと思ったら『不老不死』とは!」
「う~ん。まぁ信じるも信じないのも勝手だけど……。」
ここからが問題。
どうして、あたしが最強なのか?
それは
あたしの攻撃は必ず当たるのよ。
「………?」
「触れるもの全てを爆発させる『爆破の魔法』。」
あたしの魔法は絶対に避けられない。
そう
あたし自身も回避不能の
―――――――――『究極の魔法』
あたしが『不老不死』だからこそ出来る。
あたししか出来ない魔法。
「何を………言っている?」
チェリー・ブロッサムはベイベルグに言う。
「この魔法はあまり使いたくないのよね。何せ、あたしの身体もバラバラになっちゃうんだもの。痛いなんてもんじゃないわ。」
射程距離、半径3キロメートル
出力1000%
爆破対象―――――――――
この空間に充満している
――――――――――――『大気』
「!!」
「ピンク・エクスプローション(仮)!!!」
大気中のあらゆる気体が
チェリーの魔法に反応する。
「撃て!!奴を殺せ!!」
ベイベルグの怒声が戦場にこだまする。
と同時に
ドドドドドドッドッカーンッ!!!!
あまりにも強力な大爆発!
まるで、核ミサイルでも落とされたかのような衝撃音が、『帝都アレキサンドリア』の一角に鳴り響いた。
チェリー・ブロッサム