Seventh World 始まりの地の章
【フレアの魔力編】
トプン
ボコボコボコ
シュウ
「どうかねマドロック。研究の方は進んでいるかね?」
『ラ・ムーア帝国』の魔法科学研究所。
この施設の最深部に研究の様子を見に来たカール皇帝が研究者の一人に話し掛ける。
「順調ですよ皇帝陛下。彼女の潜在魔力はどんな魔導師をも上回る。カール皇帝、あなたの魔力すら上回るかもしれません。」
「ほぉ、それは頼もしいな。」
カール皇帝は、その巨大な容器の中央に浮かぶ一人の少女を見つめる。
「この少女は我々の切り札。未知の『化け物』どもを倒す最終兵器なのだからな。」
未知の『化け物』
今、宇宙最強を自負する『ラ・ムーア帝国』に於いて、建国史上最大の危機が訪れていた。
最初に異変が生じたのは一年前。
未知の『化け物』どもの強襲に合った『惑星オリオン』が、ほんの数日で陥落した。
その後、既に帝国配下の五つの『惑星』が『化け物』どもに侵略され崩壊した。
幸い『マジック・フィールド』と言う絶対防御魔法で守られている『惑星ムーア』には危害は及んでいない。
だからこそ危険なのだ。
平和ボケした『ムーア人』には、この恐ろしさが実感出来ていない。『新種のウイルス』などと言う嘘を信じて疑わない国民達。
民間人ならそれでも良いと思う。
しかし、帝国軍の軍人達や魔導師団の魔導師達ですら、あまりにも危機感が無さ過ぎる。
このままでは、帝国は崩壊する。
そこでカール皇帝は、一つの対策を立てた。
対『化け物』用『魔導兵器』の開発。
トプン
ボコボコボコ
シュウ
この容器の中央にいる少女。
『ラ・ムーア帝国』の魔法科学の粋を集めて造られた人工生命体。
――――――アリス・クリオネ
彼女こそが『化け物』を倒す為の最終兵器。
カール皇帝は目を細めてその少女を見る。
「完成はいつ頃になる。」
マドロックに質問をするカール皇帝。
「それが……。」
しかし、マドロックの返答は些か頼りない。
「どうした?順調ではなかったのか?」
マドロックは、少し肩を落としてカール皇帝に進言する。
「一つ……部品が足りませんな。」
「………部品?」
「無尽蔵に増殖する『化け物』と戦うには今の魔力では効率が悪過ぎるのです。どんなに強い魔導師であっても、魔力が底を尽いては勝てますまい。」
「うむ。当然の考察だな。」
「そこで、一つお願いがあります。」
マドロックの様子を見てカール皇帝はすぐに理解する。
『化け物』を倒す方法は至ってシンプルであった。
『化け物』を構成する身体の大部分を一度に吹き飛ばせば良い。そうすれば、『化け物』は二度と再生しない。
優秀な魔導師が揃う『ラ・ムーア帝国』の魔導師達なら造作も無い事。
しかし、『化け物』を吹き飛ばすには相応の魔力を必要とした。
それでは勝てないのだ。
無尽蔵に増殖する『化け物』を倒すには、最小限の魔力で最大限の効果を上げる魔法が必要となる。
例えば
触れただけで細胞を分解する魔法。
「やはり………。人工的にその魔法を付与する事は不可能であったか。」
「はっ!恐れながら、あの魔法を操れる魔導師は一人のみ。彼女の魔力をアリス・クリオネの体内に埋め込む事が出来れば、アリスは完成します。」
彼女の魔法をアリス・クリオネに注入する。
それは、彼女の魔導師としての能力を消滅させる事を意味する。
下手をしたら彼女の命も危ないだろう。
「すまぬな……ゲイドル。」
カール皇帝は一人呟く。
「どうやら私は、お前の孫娘の力を必要としている。これも『ラ・ムーア帝国』の為。」
そして、待機している『特別魔導師団』の魔導師達に命令する。
フレア・セフィリアを――――――
――――――――――――拘束せよ
「フレア・セフィリアの魔力をアリス・クリオネに注入する!」
急げ!時間が無い!!
【フレアの魔力編②】
『帝都アレキサンドリア』中心部にある軍事施設。
帝国最強の魔導師団『ラ・ムーア帝国特別魔導師団』本部が置かれたその施設に、一人の男が侵入した。
双龍が一角
紅き龍 シェン・リーフェイ
「動くな!」
迎え撃つのは特別魔導師団の若き魔導師ベルと、その配下の兵士達3名。
「動くと撃つぞ!」
「む…………。」
兵士達がシェンに向けて構えるのは最新式のマシンガン。おそらく兵士達は、魔法が使えないのだろう。
それにしても
『惑星ムーア』内への銃火器の持ち込み、製造、使用は禁止されているのでは無かったか。
「それほど、ここの施設が重要だと言う事か………。」
シェンは何事も無かったかのように、施設の奥へと歩を進める。
「な!?聞こえないのか!」
「止まれ!!」
兵士達の言葉を無視して進むシェン。
唯一の魔導師ベルが兵士達に命令する。
「撃て!侵入者を殺せ!!」
ダダダダッ!
ダダダダダダダダッ!!
ダダダダダダダダダダダダダッ!!!
三人の兵士達が、一斉にマシンガンをぶっ放した。
容赦の無い攻撃。
蜂の巣状のシェンの死体が、その場に転がるのは自明の理。
そんなベルの予想を裏切り
バシュ!バシュ!バシュッ!!
「!!」
マシンガンの弾丸を斬り落としたシェンは
スバッ!スパッ!バシュッ!!
「ぎゃあぁ!」
「うわっ!!」
「ぐぉっ!!!」
三人の兵士達を一瞬で斬り殺す。
「な!!」
驚くベルに細長いサーベルを突き付けるシェン。
「バカな………。マシンガンの弾丸を………斬り落としたのか………。」
するとシェンは
当然とばかりにベルに言い放つ。
「俺の故郷『惑星神龍(シェンロン)』。その中心部に流れる河の上流に巨大な滝があってな。」
「……………滝?」
「その巨大な『滝壺』が俺の修行の場だ。」
俺は滝に流れる全ての水滴を見極める事が出来る。そして、俺は全く濡れる事なく滝を横断する事に成功した。
弾丸の軌道を見切り、斬り落とすなど容易な事だ。
「………な。そんな事が………。」
ズパッッ!!!
三人の兵士達に続き、魔導師ベルは魔法を使う事なく絶命する。
「ふん。つまらんな………。」
(『特別魔導師団』の主力が出払い中とは言え、国家の最重要施設を守る兵士がこの程度とは……。)
ここは、『ラ・ムーア帝国』の最重要施設。
『マジック・フィールド発生装置』
が置かれている軍事施設。
なんなく施設の最深部へ歩を進めたシェンは、『マジック・フィールド発生装置』の前で剣を構えた。
(アルタミエルの奴……。『マジック・フィールド』を破壊すれば、自ずと『ラ・ムーア帝国』は崩壊すると言っていたが………。)
いったい何をする気だ?
(まぁ、そんな事はどうでも良い。)
『ラ・ムーア帝国』の軍人達に殺された『神龍(シェンロン)人』の戦士達。
今でも故郷の惑星では、奴隷のように働かされている『神龍(シェンロン)人』。
植民地として
『ムーア人』の下で生きるよりも
『惑星ムーア』ごと、全てを破壊する。
もう、それしか――――――
――――――――――――方法が無い
【フレアの魔力編③】
「さてと………。」
特別魔導師団の重鎮ベイベルグ・スナイザーはフレアの手首をそっと掴んだ。
「…………?ベイベルグさん?」
「反乱軍の拘束は、彼等『治安部隊』に任せて置けば大丈夫でしょう。」
そう言ってフレアの腕を引っ張るベイベルグ。
「ちょっと痛いわ!どうしたの?」
するとベイベルグは、フレアの顔を見て
「あぁ、すまなかったね。フレアちゃんには大切な任務があってね。」
「え?私に………任務?」
「さぁ、カール皇帝がお待ちだ。私達『特別魔導師団』がここに来たのは、フレアちゃんをお連れする為だ。」
カール皇帝が直々にお待ちとは
ちょっと信じられない。
いかに、カール皇帝がフレアの祖父ゲイドル・セフィリアの古き友人だとしても
魔導学校を卒業したばかりのフレアに、直接任務を言い渡すなど有り得ない話だ。
「ちょっと!説明して下さい!私に何の用事なのですか!」
するとベイベルグは少し困った表情を見せる。
「仕方ないですな………。」
「!!」
ズラリ
フレアの前に、総勢30名からなる『特別魔導師団』の精鋭達が立ち並んだ。
「これよりフレア・セフィリアを拘束する!拒否権は無い!命さえ有れば問題ない!その魔力さえ絞り出す事が出来れば、傷を付けても構わん!」
「え…………?」
「捕らえろ!!」
混乱するフレア・セフィリア。
反乱軍を鎮圧する為に来た『特別魔導師団』の精鋭達が
どうして私を捕らえるの?
『ラ・ムーア帝国』最強の魔導師達を抱える『特別魔導師団』
そんな人達に逆らう事など出来ない。
彼等『特別魔導師団』こそ
『ラ・ムーア帝国』の法であり、正義なのだから。
すると
「あ~あ。」
フレアの隣にいた少女。
『ラ・ムーア帝国』の法も正義も全く関係のないピンク色の衣装を着た可愛らしい少女が口を開く。
「大の大人が、寄ってたかって、こんな小さな少女を連れて行こうなんて……。」
ちょっと格好悪いわね――――――
「何だお前は!!邪魔をするなら命の保証は無いぞ。」
「命の保証は………無いですって?」
そして、チェリー・ブロッサムはベイベルグに言う。
「出来るものなら、殺して欲しいくらいだわ。あ、でも、あんたみたいなオジサンに殺されるのも嫌ね。」
「何だと!!」
「悪いけど、ここは大人しく引き下がって貰えるかしら?フレアと出会ったのも何かの縁。どうせなら最後まで助けたいじゃない?」
チェリー・ブロッサムは、とても15歳の少女とは思えない気迫を全面に押し出した。
「やれやれ……チェリーったら。」
そこに現れたのはシャルロット・ガードナー。
「どうやら私に痛め付けられたのが、相当悔しかったようね。ずいぶんとストレスが溜まっているみたい……。」
「何を言ってるのよシャルロット。結局あなたは あたしを殺せなかったのよ。勝負はまだ付いていないわ。」
「まぁいいわ。全てが片付いたら、あなたの願いを叶える約束よ。あなたの願い………。」
いや
それより
「今は目の前の敵(帝国魔導師団)を倒す事が先決のようね。」
すらりと二人の戦士
チェリー・ブロッサムとシャルロット・ガードナーが『特別魔導師団』の魔導師達の前に立ち並ぶ。
フレア・セフィリアは
またしても茫然と二人の会話を聞いていた。
(いったい何なの、この二人………。)
泣く子も黙る『ラ・ムーア帝国』最強の『特別魔導師団』を前に
二人とも
全く動じる気配が見られない。
「それにしても、あなた達(特別帝国魔導師団)ってば、本当に運が悪いわね。」
チェリーは言う。
『天帝の加護』最強の戦士の あ・た・し
そして
『聖なる加護』最強の戦士のシャルロット。
(ちょっとおばさん。)
「あたし達二人を敵に回して勝てるとでも思っているのかしら?」
ビシッと決めゼリフをはくチェリー。
しかし……。
「チェリー……悪いんだけど……。」
「ん?」
「ここは、あなたに任せたわ。」
「え??」
シャルロット・ガードナーはフレアの手を取り走り始める。
「えーー!?ちょっと!どこに行くのよ!」
「私は他にやる事が有ります!」
龍は………。
『神龍(シェンロン)』は
――――――――――――もう一体いる!