Seventh World 始まりの地の章

【動き出す未来編①】

8人いた37隊のメンバーは残すところ、隊長のドリアンとフレア・セフィリアのみ。

「隊長………。」

フレアが隣にいるドリアンの顔を見る。

するとドリアンはフレアの耳元で囁いた。

「もう一度、炎を出せるか?」

コクリ

フレアが無言で頷くと、すかさず魔法を詠唱する。


「フレイム・バースト!!」

ボワッ!!

ゴゴゴゴゴゴォ!!

(ふん……。)

大地を覆う巨大な炎。

確かに、この巨大な炎は脅威。しかし、目と鼻の先にいるドリアンとフレアを殺す事など容易なこと。近距離戦闘では、せっかくの炎も役に立たない。

シュッ!

ロンは素早い動きで フレア・セフィリアの額を目掛けて、鋼鉄のナイフを投げ付けた。

「きゃっ!」

思わず目を瞑るフレア。

「!?」

しかし、ロンのナイフはフレアの額には当たらない。

グサッ!

代わりに隊長ドリアンの肩から鮮血がほとばしった。

「隊長!!」

次の瞬間、ドリアンとロンの目が合った。

(……………何だ?)

ロンは、得体の知れない違和感を感じる。

「隊長!肩が!!血が吹き出ています!」

慌てるフレアとは対照的に、ドリアンは冷静に唇を動かす。

「こうも正確に人間の額を狙うとは大した腕だ。」

「………。」

「しかし、その軌道が丸分かりだな。」

「!!」

「攻撃を仕掛けたフレアの額を目掛けてナイフを投げつける。実に分かりやすい。」

そして

「既にお前は、俺の術中に嵌まっている。」




ラ・ムーア帝国

『第37帝国治安部隊』隊長ドリアン

彼の魔法は少し趣向が違っていた。

ドリアンの魔法は、敵の脳を刺激する。



「!!」


反乱軍の正体は『惑星ジュノー』からの移民。

帝国憲法第2038条によれば、植民地となった原住民は30年は本国である『惑星ムーア』への移民が制限される。

逆に言えば、30年逆らう事が無ければ『惑星ムーア』への居住権が与えられると言う事だ。

「なるほど……そう言う事か。」

ドリアンは動かなくなったロンに手の平を向ける。

「貴様ら『ジュノー人』は、帝国に忠誠を尽くした振りをして、この機会を狙っていた。」

(くっ!………急に身体が動かなくなりやがった……。)

ロンはドリアンを睨み付ける。

(奴の魔法は身体の自由を奪う魔法か。最初に奴を殺すべきだったか……。)

「しかし、おかしいな。お前達だけで反乱を企てるには人数が少な過ぎる。黒幕がいるな。」

ドリアンの腕が赤い炎に包まれて行く。

「答えろ!お前達の目的は何だ!そして、お前達を動かしているのは誰だ!」

(ぐっ……何だ………。)

ロンの意識とは関係なく

ロンの唇が動き出す。

「それは………。」



ボボボボボボボボッ!!

「ロンさん!!」

「ロン!!」

「!!」


3人

3人の反乱軍の戦士達がフレアの造り出した炎の壁をすり抜けてロンの元に駆け付けた。

瞬時に状況を判断した戦士達は

シュバッ!

シャキィーン!

グサッ!

「ぐわっ!!」


一斉にドリアンの身体に鋭い刀を突き付ける。

「隊長!!」


身体の自由が戻ったロンは、すっと立ち上がりドリアンに言う。

「ふん。バカな奴だ。さっさと殺せば良いものを。お前の能力は多人数戦には向いていない。」

そして、龍の紋章が刻まれたナイフを取り出すと

シュバッ!

ドリアンの額に、正確にナイフを投げ付けた。







【動き出す未来編②】

(これは、不味い事になったわ。)

フレアの炎の魔法が消え去り、火煙の中から続々と敵の戦士達が現れる。

ざっと見積もっても200人を超える反乱軍。

それに比べて『第37帝国治安部隊』で生き残っているのはフレア・セフィリアただ一人。

(どうするフレア?)

フレアは自問自答をする。

相手は祖父の仇である『ジュノー人』。ここで逃げる訳には行かない!



なんて

(古(いにしえ)の戦士じゃあるまいし、まずは自分の命が大事。私はまだ若い!仇討ちのチャンスならいくらでもあるわ!)

フレアはそう自分に言い聞かせ、魔法の詠唱を始める。


「ふん。この人数を相手にまだ戦うか。お前には聞きたい事がある。」

ロンは一歩前に足を踏み出した。

「フレイム・バースト!!」


(ちっ!)

「バカの一つ覚えのようにまたその技か!そんな魔法は効かない…………と!?」


ドッガーンッ!!


超巨大な炎を造り出すフレアの魔法。

今度はその炎を自分の足元に集中する。

「な!?」

まるで、ロケット噴射さながらに巨大な炎を爆発させるフレア。

そして、その爆風が

ビューンッ!!

フレアの身体を吹き飛ばす!!

「はぁ!?何だそりゃ!!」

物凄い勢いで吹き飛ばされたフレアの身体は、遥か上空を経由して反乱軍から遠ざかって行く。

「ちっ!俺達から逃げ切れると思ったか!」

「追え!逃がすな!」

「神龍(シェンロン)人の機動力を舐めるなよ!」



ビューンと上空を飛ぶフレア・セフィリア。


取り敢えず、あの場から脱出したのは良いけれど。

(どうしよう………。)

①他の治安部隊に助けを求める。

いやいや、既に四つの『治安部隊』が全滅させられている。奴ら反乱軍には『治安部隊』では心許ない。


②帝国最強の部隊である『特別魔導師団』に助けを求める。

まぁ、おじいちゃんの知り合いが多い『特別魔導師団』の魔導師達なら奴らを倒す事が出来ると思うけど。そこまで無事に逃げ切れるかどうか……。

それに『帝国魔導師団』はカール皇帝のお膝元に待機している。奴らの狙いはカール皇帝。
奴らをカール皇帝のそばに近付けるのも危険だわ。



結局、結論が出ないまま

ドッガーンッ!

フレアは数キロメートル離れた草原に着陸する。

随分と見晴らしの良い場所に降り立ったものだ。

反乱軍のスピードから計算すると、奴らが追い付くまでの時間は10分程度。


(仕方ないわね……。)

フレア・セフィリアは腹を括る。

(やるだけやって死んでも、おじいちゃんは許してくれるでしょう。)

そして、精神を集中させる。

私の全ての魔力を一気に放出して

反乱軍を一網打尽にする!!



決意を胸に秘めてフレアは反乱軍が到着するのを待ち受ける。

ドクン

ドクン


もうすぐ10分


ドクン

ドクン


準備はオッケー。


ドクン

ドクン


早く来い!反乱軍!!


ドクン

ドクン



ガサッ

「!?」


すると、反乱軍が来るであろう方角とは別の方向。

全く別の方角から

二人の女性が現れた。


「あら?何の音かと思ったら……」

「気を付けてチェリー。敵かもしれないわ。」

「大丈夫よシャルロット。あなたより危険な敵は存在しないもの。」


ふわ

背の高い方の女性の髪が

黄金の長髪が風にたなびく。


「それよりアマテラス様はどこにいるのよ?シャルロットの能力も大したこと無いわね。」

背の低い方の女性はまだ若い。

年齢にして15歳くらいか?

それに、随分とカラフルなピンク色の衣装を着ている。



二人とも見たことの無い衣装に、何か場違いな雰囲気を醸し出している。

きょとんと二人を見ているフレアに、金髪の方の女性が話し掛ける。

「カール皇帝はどこにいるのかしら?おそらくアマテラスは、そこに居ます。」





【動き出す未来編③】

カール皇帝はどこにいるのかしら?

おそらくアマテラスは、そこに居ます。


(……………は?)

何この……変な人達………。

今はそれどころじゃないんだってば!

今にも反乱軍の奴らが追って来ると言う忙しい時に!

だいたい

アマテラスって誰なのよ!


フレア・セフィリアは混乱した頭を落ち着かせる。

「あの……。ちょっと、ここにいたら危険だわ。早く逃げて!」

「危険?」

もう!説明している暇は無いんだってば!

「とにかく、ここは危ないの!死んじゃうかもしれないわ!」

すると、金髪の女性の方が妙な事を言い出した。

「誰かに追われているのかしら?何ならお助けしましょうか?」

えー!?何言ってるの?この人!!

「えっと……。民間人が相手になるような敵じゃないの……。」

すると今度はピンク色の衣装を着た少女が割り込んで来る。

「あたしも手伝うわ!なんか、面白そう!」

えー!?何言ってるの!私より小さい少女が!?バカなの?


「大丈夫よ安心して。」

金髪の女性が言う。

「私が追っ手を追い払うわ。その代わり……。カール皇帝の所へ案内して欲しいの。私達、ここに来るのは初めてだから。」

「………………。」



妙に

説得力がある。


「シャルロットを敵に回すなんて、その追っ手も何て不運なのかしら……。」

ピンク色の少女は何故か青覚めた顔をしている。



よく見たら、二人ともとても美人さんである。

金髪の女性からは大人の魅力が感じられるし、ピンク色の少女は大きなお目々に可愛らしい口元。

いったい、どこの惑星から来たのだろうか?




「おい!いたぞ!」

「!!」

(しまった!!)

二人に気を取られている内に、どうやら反乱軍に追い付かれたらしい。

(あぁもう!現れたと同時に全力魔法をぶっ放すつもりだったのに!)



ジャリ


(……………え?)

すると、金髪の女性の方が反乱軍の戦士達の前へ踊り出る。

「ちょっと!まさか本気で戦う気なの?敵は何百人もいるのよ!?」

「236人………。」

「え?」

「敵の数は236人のようです。」

「な………何でそんなこと分かるのよ?適当に言ってるの?」

「『光の粒子』………。既にこの一帯には『光の粒子』を張り巡らせています。」

「あ~あ。あたしの出番は無しか。」

ピンク色の少女が言う。

「シャルロットなら200人程度の相手。一瞬で片付けちゃうもんね。つまんない。」

「チェリーは手を出したらダメよ。あなたが手を出したら……。みんな爆発して死んでしまいます。」

「えっと………。」


もう

フレア・セフィリアには

二人の不自然な会話を聞いているより他は無かった。








そして


金髪の女性は、すらりと細長い長剣を構えて言う。


「さぁ、始めましょうか。」







新たな時(未来)が



動き出す











シャルロット・ガードナー(左)

チェリー・ブロッサム(右)