Seventh World 高天原(タガマガハラ)の章
【万物を操る能力編①】
天才と言う者は存在する。
産まれながらに天賦の才をその身に宿す少女。
神代 麗(かみしろ れい)
それは、少女の中に流れる血が為せる業なのか。
わずか十代で、陰陽師に伝わる秘伝の技をマスターした少女は、幾多の修羅場を潜り抜け、やがて大人となった。
天女を彷彿させる美貌からは想像も出来ない程の戦闘の腕前。
リュウギ・アルタロスは、対峙して初めて、麗の真の実力を感じ取る。
(この女子(おなご)………。)
戦闘能力ならリュウギ・アルタロスも負けてはいない。
猛者がひしめく『修羅の世界』に於いて、リュウギとまともに戦える戦士など存在しない。
スピードもパワーも、リュウギほど戦闘に恵まれた者はいない。
ブォッ!!
「くっ!」
しかし
「なぜ……当たらぬ!?」
神代 麗はスピードもパワーもリュウギ・アルタロスには敵わない。
それでも麗は、リュウギの攻撃を紙一重でかわして行く。
「なぜだ!」
リュウギ・アルタロスの攻撃が全く当たらない。
――――――当たる気配すら感じられない。
これが
神代一族(かみしろのいちぞく)棟梁。
神代 麗(かみしろ れい)の真の実力。
しかし、麗は防戦一方で攻撃を仕掛けない。
問題は
リュウギ・アルタロスが身に纏う『妖気の膜』
例え『緋炎剣(ひえんのつるぎ)』で切り付けたとしても、リュウギ・アルタロスには傷1つ付けられないであろう。
このままでは、いつかはリュウギに捕まってしまう。
戦闘の最中、麗は冷静に状況を分析していた。
(朱雀……。聞こえますか。)
麗が話し掛けるのは陰陽師の守護神『朱雀』。
(リュウギのあの防壁。『妖気の膜』を打ち破る事は可能ですか?)
日本では、『不死鳥』と呼ばれる『霊獣』。
全てを焼き尽くす『朱雀』の炎で『妖気の膜』を消滅させる。
それが麗の出した答え。
(ふむ。やって見なければ分からぬが、まぁ問題無いであろう。)
『妖気の膜』を造り出しているのは、リュウギ・アルタロスの持つ膨大な妖力。
『妖狐の一族』特有の妖力が無敵の防壁を造り出している。
しかし
所詮はリュウギも人(亜人)である。
神の化身である『朱雀』の前には、妖力の力など些細なもの。
ボワッ!!
全てを焼き付くす『不死鳥』の炎が
リュウギ・アルタロスに襲い掛かる。
【万物を操る能力編②】
「どうすれば良いの………。」
李 羽花(リー・ユイファ)の能力により操られている麗とリュウギ。
二人は自分達が操られている事すら感じず戦闘を繰り広げる。
「可憐!こっちは無事よ!何とか一命は取り止めたわ!」
そう叫ぶのはピクシー・ステラ。
リュウギの一撃で致命傷を負ったジェイス・D・アレキサンドリアⅢ世の命を救ったのは本来敵であるステラの治癒魔法であった。
「すまない……。俺とした事が………。」
「しゃべらないで!」
ステラはその小さな身体から声を振り絞ってジェイスに言う。
「事情はだいたい分かりました。今は私達は敵では有りません。まずは身体の傷を完治させるのが先決です!」
今、私達が戦うべき相手(敵)は――――――
――――――李 羽花(リー・ユイファ)
ステラはキッとユイファを睨み付ける。
そう
頭では理解している。
ユイファを倒さなければ全滅する事を
しかし
ステラにはユイファを攻撃する事が出来ない。
ユイファに敵対する行為
ユイファから逃げる行為は
既に禁じられている。
それこそが
――――――万物を操る能力
そしてステラは、たった今助けたはずのジェイスに向けて、攻撃魔法を詠唱する。
至って普通に
何の抵抗もなく
ステラはジェイスを攻撃する事を選択する。
「ステラ!!」
「きゃっ!」
間一髪、可憐がステラの身体を捕まえるとバサリと『天使の羽』を広げて飛び立った。
「可憐!?」
「ステラ!これはいったいどう言う事なの!?」
「え……と。」
夢野 可憐(ゆめの かれん)は、ピクシー・ステラに事情を聞いて理解する。
要するに、李 羽花(リー・ユイファ)には、古代の『ユグドラシルの英雄』プリンセス・リーナが乗り移っている。
そして、リーナの能力は
全ての生き物の行動を操作する『万物を操る能力』
それは、人間とて例外ではない。
リーナが一度認識した人間は自分の意識とは違う意識が働き、まるで自分の意志で動いている様にリーナの思うがままに行動する。
「そんな………。」
そんな能力………
――――――どうやっても勝てないじゃない。
「いいえ可憐。方法ならあるわ。」
可憐の手に包まれている小さな妖精ステラは言う。
「ユイファが認識する前。ユイファの意識の外から攻撃をすれば或いは……。」
しかし、ステラも分かっている。
この状況。
既に、この場にいる七人の戦士達は、ユイファに認識されている。
ステラ達以外に、あの強大な力を持つユイファに、意識の範囲外から攻撃出来る戦士などいない。
「そうね……。」
夢野 可憐(ゆめの かれん)も理解した。
可憐達……この場にいる戦士達、を除いて、現在生き残っている『加護の戦士』と言えば
シャルロット・ガードナー
チェリー・ブロッサム
シャルロットは『天帝アマテラス』の元へ向かい、チェリーもその後を追った。
彼女達二人が、都合よく戻って来るとは思えない。
このままでは、全員がユイファに操られ全滅する。
『続・十二種族物語』の中の
――――『八種族連合軍』が全滅したように。
【万物を操る能力編③】
リュウギ・アルタロスの身体を包み込むのは、どんな攻撃をも跳ね返す絶対防御『妖気の膜』
リュウギの持つ、膨大な妖力によって産み出される『妖気の膜』には、どんな攻撃も効かない。
しかし
神代 麗(かみしろ れい)は知っている。
シリュウ・トキサダが放った最期の攻撃。それにより、リュウギ・アルタロスの、右腕が粉砕した事を。
そして、何より
麗がリュウギと最初に出会った『修羅の国』の密林の奥地。その時、リュウギ・アルタロスは死にかけていた。
『妖気の膜』で無敵のはずのリュウギ・アルタロスが何故?
そう
『妖気の膜』は
―――――――――――絶対ではない。
リュウギ・アルタロスの妖力を上回る力。
それさえあれば『妖気の膜』を打ち破る事が出来る。
ボワッ!!
「!!」
不死鳥『朱雀』の炎が
リュウギ・アルタロスの身体を包み込む。
人間ではリュウギに勝つ事は難しい。
リュウギの膨大な妖力を上回る力を保持する人間など、そうは居ない。
しかし
神代 麗(かみしろ れい)が操る霊獣ならば話が違う。
朱雀の炎は
――――――――――全てを焼き尽くす。
ボワッ!
「ぐぬぉおぉぉ!!」
バチバチバチッ!!
「無駄ですリュウギ。如何に無敵の貴方とて霊獣の力には及ばない。」
バチバチバチッ!!
「朱雀の炎を打ち消す事など、出来ないのです。」
少しづつ
しかし確実に
リュウギの身体を覆う『妖気の膜』が焼失して行く。
リュウギが『妖気の膜』を造り出す速度よりも早く。無限とも思えるエネルギーで、全てを焼き尽くす『朱雀』。
(このままでは、不味いのぉ……。)
リュウギに残された手段は一つ。
『妖気の膜』が消滅する前に、神代 麗(かみしろ れい)を殺す。
ここからが
――――――本当の戦い。
「行くぞ!麗!!」
「緋炎剣(ひえんのつるぎ)!!」
二人の『聖なる加護』の戦士の戦闘が、遂に終わろうとしていた。
もう誰にも止める事は出来ない。
誰にも、ユイファの能力
『万物を操る能力』には逆らえないのだから。
そして
バチバチバチバチッ!!
「!!」
「!!」
激しい轟音が鳴り響き
麗が操る不死鳥『朱雀』の身体が
――――――――――――消滅する。
ボッカーンッ!!
「な!?」
「ぬぉ!?」
いったい何が起きたのか。
麗は即座に周囲を警戒し辺りを見回した。
(信じられません……。)
霊獣『朱雀』の身体を消滅させるなど有り得ない。
まるで細胞ごと分解されたかの様に『朱雀』の身体が弾け飛んだのだ。
シュウ
(………!?)
すると、麗の目の前の空間が揺らぎ始める。
空間の歪みから現れたのは
真っ黒い衣装に身を包んだ少女。
少女は言う。
「何を驚いているのですか?」
「貴女は………。」
「どうせ分解しても、すぐに復活するのでしょう?貴女の『炎の鳥』は。」
少女は話を続ける。
「これより、『天帝の加護』並びに『聖なる加護』の戦士達は、共に『化け物』どもを向かい討ちます!」
「!!」
「詳細は後で説明します。それより先に私達が殺るべき相手は……。」
黒服の少女は、ユイファの方へと振り向くと更に語気を強めて言う。
「ユイファ!!貴女は操られています!目を覚ましなさいユイファ!!」
さもなければ
私は貴女を殺さなければならない。
『7つの大罪』に味方する
天界の裏切り者
リーナ・アルヘルム・アルテミス
真っ黒い服に身を包んだ少女。
宇宙最強と言われた『ラ・ムーア帝国』が産み出した魔導兵器。
アリス・クリオネが
ユイファへと足を踏み出した。
アリス・クリオネ