Seventh World 高天原(タガマガハラ)の章
【結界編①】
ゴゴゴゴゴゴゴゴォ
ズバッ!
ビキィーン!
ズバババババババッ!!
ドッゴーンッ!!
リザ・チェスターが放つ無数の魔弾。
『悪魔の一族』が得意とする魔弾は、圧縮した魔力の塊を超威力で放出する必殺の技。
雨あられの如く降り注ぐ魔弾による攻撃。
その中央に立つ女性の名は
神代 麗(かみしろ れい)――――
『四神結界(ししんけっかい)』
麗は、無数の魔力の弾丸を陰陽術の結界により完全に防ぎきる。
「さすがね、神代 麗………。あれほどの魔弾を喰らって無傷なんて、やはり貴女は強い。」
「………。」
「しかし、その技なら『裏の世界(バックワールド)』で一度見た事があるわ。」
「『緋炎剣(ひえんのつるぎ)』」
シュッ!
ブワッ!
ドバババババッ!!
「!!」
『四神結界』の弱点は、結界を作り出している四体の霊獣の一体『青龍』。
最強の攻撃力を誇る『青龍』は一方で防御力に難点がある。
日本で行われたアメリカ軍の特殊部隊『Formula Justice(フォーミュラ・ジャスティス)』の戦士との激闘の中で、その弱点は露呈されている。
リザ・チェスターの狙いは『青龍』。
しかし、麗は守る事よりも攻撃をする事に集中する。
『四神結界』は優れた防御力を誇るが絶対では無い。
――――そんな事は百も承知
かつて『ユグドラシル』の世界で、魔族の王女エミリー・エヴァリーナと戦った時も『四神結界』は破られた。
それでも麗は負けなかった――――
敵が『四神結界』を壊す事に夢中になれば、そこに隙が出来る。
それこそが麗の狙い。
陰陽師の秘術である『四神結界』ですら、麗にとってはオトリに過ぎない。
更に五体目の霊獣
――――――――『白澤(ハクタク)』
その『浄化の力』が
麗の持つ愛刀『緋炎剣(ひえんのつるぎ)』に力を与える。
ジュジュジュジュジュジュッ!!
「!!」
そして
「神代一族(かみしろのいちぞく)秘奥義!」
『五神開衢(ごしんかいえい)!!』
ビカビカビカッ!!
『高天原(タガマガハラ)』の世界に麗の声が響き渡る。
【結界編②】
この一撃
バシュッ!!
サタナキアの魔力の籠った一撃が
リュウギ・アルタロスの胸部に直撃する。
「ごふっ!」
サタナキアは思う。
接近戦だとしても
悪魔の王族である私に
人間(亜人)が敵うはずも無い。
動体視力
反射神経
身体能力
そもそも
身体にみなぎるエネルギー(魔力)の絶対量が違う。
人間(亜人)など、この一撃で粉々に砕け散る。
ほぉ………
(む……?)
なかなか重たい一撃
(なに?)
流石は悪魔と言った所かのぉ
(こ奴…………。)
無傷…………
――――――――だと?
「殴り合いなら俺様の得意とする所。」
リュウギ・アルタロスは、力任せに目の前の敵サタナキアに殴り掛かる。
ブワッ!
「くっ!!」
リュウギの動きは、その巨体にしては驚くほど速い。
戦闘に於いて天性の素質を兼ね揃えたリュウギの一撃。
サタナキアの脇腹を掠めたその一撃は、黒い装甲で覆れた悪魔(サタナキア)の皮膚すらも傷付ける。
「よく、かわしたのぉ!」
更に
続け様に左腕を降り降ろすリュウギ・アルタロス。
しかし、2発目の攻撃は流石に勢いは無く、サタナキアは数メートル後方へ飛んでかわす。
そこに待ち構えていたのはジェイス・D・アレキサンドリアⅢ世。
真っ黒な黒剣が、サタナキアの着地点を目掛けて突き放たれる。
「『グラディウス』!!」
「!!」
この剣はヤバい!
サタナキアは咄嗟に感じた『グラディウス』の気配に驚愕する。
これほどの気配を放つ武器は、悪魔の王族であるサタナキアも見た事がない。
噂に聞く『天界の武器』とも違う。
どの様な経緯で、この武器が造られたのか、そんな事まで考えずにはいられない。
シュバッ!
「くっ!」
ジェイスの黒剣の攻撃も、サタナキアは辛うじてかわすと、更に後方に飛び退く。
「なんじゃい……。」
リュウギ・アルタロスは言う。
「誉めたと思ったら今度は逃げ回るか……。悪魔とは、どれ程の強さかと思うたが……。」
――――――――大した事、無いのぉ
二人の加護の戦士を前に予想外の防戦を強いられるサタナキア。
サタナキアは天を見上げ、上空に漂う気配を感じ取る。
(なるほど…………。アマテラスめ………。)
確かに油断はあった。
リュウギ・アルタロスもジェイス・D・アレキサンドリアⅢ世も、たかが人間(亜人)。
低級の悪魔ならいざ知らず、悪魔の王族である私(サタナキア)が負けるはずが無い。
「アマテラスめ………、まさか、こんな仕掛けを………。」
(これならリザ・チェスターも悪魔の力を発揮出来ずに破れる訳だ。)
「む?」
そしてサタナキアは言う。
「ふん……。認めよう。お前達の力を。」
「…………。」
「神に選ばれた『加護の保持者』は、その辺の人間(亜人)とは違うようだ。」
「…………なんじゃ?命乞いかの………」
「もっとも……、この圧倒的に有利な状況で、この程度の実力ならば……。」
この私(サタナキア)には――――
――――――――到底勝てないだろうがね
「!?」
そして、サタナキアは天に向かって両手を広げる。
「何をする気じゃ?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴォ!
ビュッ!
バチバチバチッ!!
すると、サタナキアの両手から放たれたイナズマが『高天原(タガマガハラ)』の世界の上空を覆い
結界を――――
バッコーンッ!!
――――――――破壊する
物凄い地鳴りと共に天が裂けるようにひび割れて行く。
「ぬぅ?何をしたのじゃ?」
訳の分からないリュウギとは対照的に、ジェイスは焦りの表情を見せる。
「ちっ!奴め!アマテラス様の結界に気が付いたか!」
「結界……………じゃと?」
「この世界………。
『高天原(タガマガハラ)』の世界の目的は、『化け物』の手から人々を守る事。
故にアマテラス様は広大な『高天原(タガマガハラ)』の世界に特殊な結界を施した。
そう
――――――――『結界』
結界は『化け物』どもから、この世界を守ると同時に、悪魔の様な邪悪な力を封印する効果がある。
この世界の人間は邪悪な心は持ち合わせていない。
侵入者が邪悪な心を持っていた場合、この世界の人間は何の抵抗も出来ず皆殺しにされるであろう。
故にアマテラス様は結界を施し、邪悪な力を封印した。」
本来であれば、悪魔はこの地に足を踏み入れる事も出来ない。そして、悪魔はこの世界では力を発揮出来ない。
そのアマテラスが造った『結界』が
サタナキアによって崩壊する。
『聖なる加護』の戦士達を、この地に招き入れた時より
既に『結界』の力は、弱まっていたと言う事か……。
【結界編③】
白の世界(ホワイトワールド)
バシュッ!
ビュンッ!
グボボボボッ!
「もう!次々と面倒だわ!」
黒いトンガリ帽子と黒いローブを羽織った少女エミリー・エヴァリーナは、心底面倒くさそうに魔法の詠唱を始める。
「これは、いったいどうなってるにゃ??」
そう呟くのは猫の姿をしたボムボム。
『天界の神々』によって創られた、反アマテラス組織『神々の聖戦(ゴッド・ジハード)』のリーダーである。
ボムボムが目の当たりにした光景は、『白の世界(ホワイトワールド)』に襲い掛かるおびただしい数の『化け物』ども。
そして、それを迎え撃つ一人の少女。
ボムボムが不思議がるのも無理は無い。
『白の世界(ホワイトワールド)』を守る為に戦う少女は、紛れもなく敵。
『天帝の加護』の戦士エミリー・エヴァリーナなのだから。
「『メテオーラ』!!」
ドバババババババッ!!
天空が裂け、巨大な流星群が『白の世界(ホワイトワールド)』を襲う。
ブギャッ!
ブゴッ!
ギャオオーン!
次々と隕石により押し潰される『化け物』ども。
「うぉ!エミリー!ちょっと待ったぁ!」
慌てるのは日賀 タケル(ひが たける)。
『神々の聖戦(ゴッド・ジハード)』の戦闘員にして、エミリー・エヴリーナの兄にあたる存在。
タケルが慌てるのも無理は無い。
エミリーの魔法『メテオーラ』は、あまりに威力が強力である為に、『化け物』どころか、『白の世界(ホワイトワールド)』の住人や『神々の聖戦(ゴッド・ジハード)』の戦士達にも被害が及ぶ勢いなのだ。
「相変わらず無茶苦茶だな!仕方ない助けるぞ!」
「神々の聖戦(ゴッド・ジハード)』のメンバーは住人の避難にあたる!」
「了解にゃ!一人でも多くの住人を救うにゃ!総員ただちに取り掛かるにゃあ!」
『化け物』どもとエミリーとの戦闘は、もはや普通の人間では割って入る事も許されないほどの凄絶さを極めていた。
タケル達に出来る事は人々の救出のみ。
「それにしても………。」
ボムボムはエミリーを見て疑問に思う。
「自分達で襲った『白の世界(ホワイトワールド)』を、今度は『化け物』から守ろうなど、アマテラスは何を考えてるにゃあ。」
そこに後ろから声を掛けるのは、『神々の聖戦(ゴッド・ジハード)』の戦闘員、少年ゼロ。
「エミリー・エヴァリーナ。流石ですね。」
「!………ゼロか……。どうしたにゃ?」
まだ十代前半にも見える少年ゼロは、ゆっくりとボムボムに報告する。
「気が付きませんか?『高天原(タガマガハラ)』の世界の異変に……。」
「ん?どういう事にゃ?」
「えぇ……。僕の能力が察知したのですが、『結界』が解かれた様です。」
「『結界』……?」
「そうです。『高天原(タガマガハラ)』の世界を覆っていたアマテラスの『結界』。それが先ほど消滅しました。」
いまや、『高天原(タガマガハラ)』の世界は全くの無防備。
『加護の保持者』でなくとも、あの世界に侵入する事が出来ます。
僕達『神々の聖戦(ゴッド・ジハード)』の戦士達は勿論。
『7つの大罪』の『化け物』どもも
高天原(タガマガハラ)の世界に侵入する事が出来ると言う事です。
「!?」
「遂に動き出すかもしれませんよ。」
『7つの大罪』の『化け物』どもの……
―――――――――――指導者が
少年ゼロ(左)
エミリー・エヴリーナ(右)
