Seventh World 高天原(タガマガハラ)の章
【ステラ対アリス後編①】
誰にも悟られず
異空間から強大な魔法を放つ
それが小さな妖精ピクシー・ステラの作戦。
どんなに屈強な戦士でも
どんなに素早い戦士でも
この死角からの一撃はかわせない。
『空間断絶魔法』により、この世界から遮断する凶悪な魔法。
まさか――――
この作戦を見破る戦士がいるとは、ステラは想像すらしていなかった。
真っ黒い衣装に足元まで伸びる長髪。
――――――――アリス・クリオネ
その片手には同じく黒系統の傘を持っていた。
「これは、危なかったわね。」
アリスはそっと呟く。
ピクシー・ステラが生成している魔法はただの魔法ではない。
それが何か分からないが、アリスの第六感がヒシヒシとその脅威を知らせている。
(確か、この『聖なる加護』の戦士の名前はステラ。戦闘よりもサポート魔法を得意とする『ユグドラシル』の魔法使い………。)
ステラの上部には生成途中の『空間断絶魔法』の魔力が膨れ上がっている。
(生成途中の魔法をステラごと粉砕する。)
アリス・クリオネは右手に持つ傘をパタリと折り畳むと、その先をステラの方へ向けた。
「残念だけど、ここまでの様ね。相手が悪かったわ。私(アリス)以外の戦士なら貴女の魔法の餌食になった事でしょう。」
「!!」
ビカッ!!
傘の先端から放たれる魔法。
それはSeventh World(7つの世界)には無い『ラ・ムーア帝国』独特の魔法『マシュラ』
触れるもの全てを分解する対『7つの大罪』の『化け物』用に編み出された魔法。
『化け物』どもは中途半端な攻撃ではすぐに再生してしまう。『化け物』を殺すにはその身体の大部分を一撃で破壊するしかない。
しかし
どんなに優秀な戦士でも、強力な攻撃を出し続ける事は不可能。そこで編み出されたのがアリスの魔法『マシュラ』。
触るもの全ての原子を分解し再生不能にする。
「『化け物』以外の人間に使うのは、これが初めてだわ。」
傘の先端から放たれた特殊魔法『マシュラ』が、ピクシー・ステラに放たれた。
【ステラ対アリス後編②】
ビカッ!
「マシュラ!!」
「ホーリークロス!!」
バチバチバチ!
ドッカーン!!
(くっ………!)
37回
アリスが放った魔法『マシュラ』の回数は、実に37回を数える。
その全てを、光の魔法で相殺するピクシー・ステラ。
(あり得ない………。)
確かに、アリスの魔法は『化け物』を分解する事が目的で造られた魔法。
数百数千の『化け物』と対峙する事を前提に造られた特殊魔法である。
その為に、『マシュラ』を発動する為の魔力は極少量。少ない魔力で最大限の効果を発揮する事をコンセプトに造られた魔法。
故に一つひとつの威力が弱いのは認めよう。
対『化け物』ではなく、高位の魔法使い相手となれば、一度や二度、敵の魔法で相殺されるのは最初から折り込み済みである。
しかし
37回である。
(あり得ない…………。)
私(アリス)の魔法を相殺し続ける事など不可能。
なぜなら、人間(妖精族などの亜人も含む)はすぐに魔力が尽きてしまうから。どんなに優れた魔法使いでも、魔力が尽きれば何も出来ない。
『マシュラ』がごく僅かの魔力しか必要としない魔法であるのに対し、ピクシー・ステラの放つ光の魔法は、明らかに大量の魔力を消費しているように見える。
(それを、37回も連続で放つなど、どれ程の魔力が必要だと言うのか………。信じられないわね。)
いや、それどころでは無い。
ピクシー・ステラは、今もなお、強大な魔法(空間断絶魔法)を生成し続けている。
そもそも、この精霊の少ない『異空間の狭間(はざま)』に於いてそんな事は出来るはずが無いのだ。
(何か……、私の見落としている事があるに違いない。)
アリス・クリオネは思う。
(あの小さな妖精ステラが、これほどの大量の魔力を消費し続ける事を可能にする何か……。)
そしてアリスは、ステラの胸元に光るネックレスの宝石を見る。
(…………?)
「ステラ………と言ったわね。」
「……………。」
「あなた、どうして魔法を撃ち続ける事が出来るのかしら?」
「……………。」
「その胸に光る宝石。その『首飾り』は何かしら?」
「………………。」
「それが、あなたの秘密………」
――――――――魔力の源ね!!
バシュッ!!
アリス・クリオネは、今までにも増して強大な魔法を放つ。
おそらく、あの宝石がピクシー・ステラに力を与えている。あの『首飾り』さえ壊せば、小さな妖精族の戦士など怖くない。
そしてピクシー・ステラは言う。
「正解よアリス。でも気が付くのが遅かった様ね。」
「!?」
「既に私の魔法。『空間断絶魔法』の生成は終わっているわ。」
「くっ!」
38回――――
ステラが、アリスの攻撃魔法を撃ち消した回数は38回目となった。
「持久戦を挑んだのは貴女の間違い。」
「!!」
「神々の武具である『ヘラの首飾り』の能力は……。」
―――――――魔力の無限増幅
「な!無限ですって!!」
「私の魔力は尽きる事がない。」
さようならアリス
私の『空間断絶魔法』で『異空間』へ送ってあげるわ。
ビカヒガビカッ!!
アリスの身体が、ステラの放った魔法『空間断絶魔法』の光に包まれて行く。
【ステラ対アリス後編③】
世の中は広いものだ
アリス・クリオネは思う。
魔力を最小限に抑えて多くの敵(化け物)を倒す為に造られたアリスの魔法『マシュラ』。
宇宙広しと言えど、アリスほど持久戦に適した魔法使いは居ない。
強い戦士なら他にもいる。
『天帝の加護』の戦士であるジェイス・D・アレキサンドリアⅢ世。リザ・チェスター。エミリー・エヴァリーナと言う少女も相当に強そうだ。
しかし、無尽蔵に増殖する『化け物』と戦うには強いだけでは勝てないのだ。
無数の『化け物』どもを、最小限の魔力で殺し続ける。それがアリス・クリオネの産みの親『カール・D・アレキサンドリア』が考えた答え。
まさか
魔法を無限に扱える戦士がいるとは想像も付かなかった。
彼女(ピクシー・ステラ)なら
いや
あの『ヘラの首飾り』があれば
『化け物』どもを倒せるかもしれない。
『空間断絶魔法』を喰らいながら、アリスはそんな事を考えていた。
(…………?)
なぜ平然として居られるのか。
ステラはアリスに問う。
「アリス……あなた……。異空間へ閉じ込められるのが怖くないの?」
「ふふ。」
そしてアリス・クリオネは答える。
「ステラ……。あなたこそ何を勝ち誇っているのかしら?」
「………。どう言う事?」
「私はあなたと同じ『空間移動魔法』を使えるのよ?『異空間』へ閉じ込められても、魔法で脱出する事くらい簡単よ。」
神話の時代、魔族達を異空間へとじ込めた魔法。
―――――――『空間断絶魔法』
長きに渡り魔族を苦しめた魔法も、魔族の王シュバルツには通じなかった。
シュバルツは異空間を移動する程の強大な魔法を身に付けたから。
『空間断絶魔法』は『空間移動』の魔法を使える戦士には通じない。
アリス・クリオネもその一人。
そんな事は
ピクシー・ステラは知っている。
『天帝の加護』の戦士達が『聖なる加護』の戦士達を研究しているのと同じく、ステラ達『聖なる加護』の戦士達は『天帝の加護』の戦士達を調べあげた。
『空間移動』の魔法を使える戦士は3人。
リザ・チェスター
エミリー・エヴァリーナ
そして、アリス・クリオネ
高度な魔法である『空間移動』の魔法を扱える戦士が3人もいるとは流石としか言いようがない。
だから
ピクシー・ステラは
自分の魔法が『空間断絶魔法』だと言う事を敢えてアリスに教えたのだ。
アリスなら『異空間』に閉じ込められても戻って来れる。
そこに油断が生じる。
もはや『ステラの魔法』から逃れる事の出来ないアリスにピクシー・ステラは言う。
「そうね。ただの『空間断絶魔法』なら、貴女は脱出出来るでしょう。」
「………?」
「私の放った魔法は『空間断絶魔法』だけでは無いわ。」
「!?」
――――――『空間移転魔法』
魔法の源である精霊も
水も空気すら無い空間
――――――――宇宙空間―――――
『宇宙空間』に飛ばされても
貴女は戻って来れるのかしらね?
「しまった!!」
あわてて魔法を消滅させようとするアリス。
しかし、ステラの魔法は既にアリス・クリオネを飲み込んでいた。
そしてステラはもう一度、同じセリフを言う。
さようならアリス
私の『空間断絶魔法』で『異空間』へ送ってあげるわ。
とっておきの空間
宇宙空間にね――――――――
アリス・クリオネ
