Seventh World 高天原(タガマガハラ)の章

【エレナ対ユイファ後編①】

『高天原(タガマガハラ)』の世界

この地で

二人の少女が激突する


星空  ひかり(エレナ)

VS

李  羽花(ユイファ)



ユイファの持つ黒い槍は、魔法を弾き飛ばす『アルテミスの槍』。

それならば

直接ユイファの身体に魔法を流し込む

ゼロ距離からの攻撃


シュバッ!

「ひかり!!」

銀河  昴(ぎんが  すばる)の叫び声は、星空  ひかり(ほしそら  ひかり)には届かない。

若干16才の少女
 星空  ひかり

本名 エレナ・エリュテイアの目に映るのは、李  羽花(リー・ユイファ)のみ。

ユイファが『アルテミスの槍』を振り下ろすより早く魔法を叩き込む!!


「ふふ………」

ブォッ!

真っ黒く光る『アルテミスの槍』が轟音と共に振り下ろされた。

元より接近戦を得意とするユイファ。
そして、ユイファの身体に乗り移ったプリンセス・リーナも接近戦のスペシャリスト。

エレナ・エリュテイアに勝てる見込みなど最初から無い。

しかし

「『エレメンタル・セイレーン』!!」

「!?」

エレナの操る精霊達の中でも、防御を得意とする水の精霊『セイレーン』の水の壁がエレナの前に現れた。


3秒

エレナは思う。

元より『セイレーン』の水の壁で『アルテミスの槍』の攻撃を防げるなどとは思っていない。

ただ、3秒持ちこたえてくれたら良い。

3秒あれば

ユイファの身体に全力魔法を叩き込める。



そしてユイファは、少し残念そうな表情でエレナを見つめる。

「それがあなたの奥の手なのかしら?もし、そうならば…………。」


…………とても期待はずれ



「くっ!」

「水の壁ごと、吹き飛びなさい。現代の魔法戦士よ!!」

ビカッ!!

ユイファの構える『アルテミスの槍』が

光り輝く






【エレナ対ユイファ後編②】

それは、 一瞬の出来事

神々が創ったとされる伝説の武器『アルテミスの槍』は、軽々と『セイレーン』の水の壁を突き抜けて

その後ろに居る人影を貫いた。

ブシャッ!!


「ひかり!!」

「!!」


『アルテミスの槍』によって貫かれた人影は、無様な音を立てて弾け飛ぶ。


手応えはあった。



しかし

この手応えは

人間の手応えとは少し違う。

(しまった!水の壁は、これを隠す為の目眩まし!?)

弾けたのは『セイレーン』の創った『水の人形』。

そして直後に
李  羽花(リー・ユイファ)の後ろから、エレナ・エリュテイアの声が聞こえる。

「3秒経ちました。」

ビカッ!!

魔力全開

オーロラ色の光りが

エレナとユイファ

二人の身体を覆い尽くす。

すなわち

ゼロ距離魔法



「ちっ!させない!!」

すかさずユイファは『アルテミスの槍』でエレナを突き刺そうとするも、ゼロ距離から放たれた魔法を防ぐ手段は無い。

「これが私の全力魔法!!」

『ヘスペリアス』の世界最強の魔法使い。
オーロラの姫君の放つ魔法が、李  羽花(リー・ユイファ)の身体を完全に捉えたのだ。

ビカッ!!

バチバチバチ!!

「くぉおぉぉおぉぉっ!!」

ドッガーンッ!!

とても鮮やかな光が、『高天原(タガマガハラ)』の世界に広がった。

「ユイファ!!」

「ユイファ!!」

アリス・クリオネとピクシー・ステラが同時に李  羽花(リー・ユイファ)の名前を叫ぶ。

仲間であるアリスよりも、むしろステラの方が悲痛な声を上げていた。

李  羽花(リー・ユイファ)はステラの故郷である『ユグドラシル』の世界を魔族の手から救った英雄。

ユイファに乗り移っていたプリンセス・リーナも『ユグドラシルの英雄』である。

例え敵となっても、ユイファはステラにとっての『英雄』である事に変わりは無い。

「ユイ………ファ…………。」

もはや人間の面影すら失った、李  羽花(リー・ユイファ)の亡骸を茫然と見つめるステラ。

ステラの小さな頬に、はらりと涙の雫が溢れる。


「ステラ………。」

エレナの身体からは、既に七色の光は影を潜め、元の星空 ひかり(ほしそら  ひかり)の姿に戻っている。

「ううん、ひかり……大丈夫よ。これは戦争。こうなる事は予想していました。」

そしてステラは、残る『天帝の加護』の戦士アリス・クリオネの方へと振り向く。

「さぁ、3対1となりましたが、貴女はどうするのですか?」

「……………。」

無言で3人を見つめるアリス。

シュウ

シュウ

「……………。」

いや

アリスが見つめるのは3人の戦士では無い。

シュウ

シュウ


「………まさか」


シュウ

シュウ

『エルフの森』の生命エネルギーが

シュウ

シュウ

ユイファの身体に吸い込まれる様に引き寄せられる。

「そんな………。」

エレナ・エリュテイアの全力魔法

ゼロ距離からの魔法を撃ち込まれても

李  羽花(リー・ユイファ)は

死なないとでも言うのか

シュウ

シュウ




【エレナ対ユイファ後編③】

それは

信じられない光景であった。

確かにユイファの身体は、人間の身体と認識する事も出来ない程に崩壊していた。

しかし

銀河  昴(ぎんが  すばる)の目の前に立つ女性は李  羽花(リー・ユイファ)。

いや

リーナ・アルヘルム・アルテミス。


「そんな………。私の全力魔法が………。」

驚く星空  ひかり(ほしそら  ひかり)に向かってリーナは口を開く。

「私もダメかと思いました。しかし………」

しかし?

「少し変ね………。」

変?

「あなた………。あれが本当に全力魔法なのかしら?」

「…………。」

「あなたから感じられる魔力は、あんなものでは無かった。あの程度の魔法なら古代の『ユグドラシル』の世界には扱える者は五万と居たわ。」

「…………。」

「あなた………。なぜ全力で魔法を撃ち込ま無かったのかしら?」

「そんな………。私は…………。」

五芒星の紋章が、うっすらと光りを放つ。

それを見たリーナは「なるほど」と言う表情を見せて言う。

「あぁ……、あなた………。」


魔力を

封印されているのね


「!?」

「そんな状態で私に戦闘を挑むなんて。自殺行為にも程があるわね。」



(まずい!!)

銀河  昴(ぎんが  すばる)は直感する。

今度こそ

李  羽花(リー・ユイファ)は本気で僕達を殺しに来る。

星空  ひかり(ほしそら  ひかり)は殺される。

僕の『聖なる加護』である『全能なる瞳』がそう告げている。

(ここは僕がなんとかしなければ!)

昴が『全能なる瞳』を発動させたその時

ズバッ!!

「はぅ!!」

リーナの持つ『アルテミスの槍』が

星空  ひかり(ほしそら  ひかり)の胸部を突き刺した。

「ひかり!!」

ドバッ!!

大量の血が、ひかりの胸部から噴水のように飛び出した。

「…………あ……。」

リーナは言う。

「残念だけど魔力を封印されている貴女には興味は無いわ。」


さようなら


現代の魔法使いさん




胸部から大量の血を吹き出したまま

ズサッ!

星空  ひかり(ほしそら  ひかり)は、その場に倒れ込む。

「ひかり!!」

急いで駆け寄った銀河  昴(ぎんが  すばる)が倒れたひかりを抱き抱える。

「ひかり!!しっかりしろ!!ステラ!治癒の魔法を!!」

小さな妖精ピクシー・ステラが、すぐに治癒の魔法を詠唱する。

プリンセス・リーナは黙ってその光景を眺めていた。特にステラの魔法を邪魔する事もせず、3人の戦士を静観している。

なぜなら、邪魔する必要を感じなかったから。

星空  ひかり(ほしそら  ひかり)に治癒の魔法は通じない。

既に死んだ人間を

生き返す魔法は無いのだから。




『高天原(タガマガハラ)』の世界で始まった『聖なる加護』の戦士達と『天帝の加護』の戦士達の戦いは、開戦したばかり。


最初の犠牲者の名は

星空  ひかり(ほしそら  ひかり)。

本名エレナ・エリュテイア。










エレナ・エリュテイア(左)
ピクシー・ステラ(中央)
李  羽花(右)