Seventh World エミリー・エヴァリーナ

(遂に行ってしまった………。)

日賀  タケル(ひが  たける)は、白の世界(ホワイトワールド)に佇む巨大な扉『異世界の門』を眺めていた。

夢野  可憐(ゆめの  かれん)の活躍により、『寄生虫』の侵略から免れた『白の世界(ホワイトワールド)』。

ここには、天帝アマテラスと戦う為の戦闘集団『神々の聖戦(ゴッド・ジハード)』の最前線基地が造られていた。

しかし、聖戦のメンバー達はアマテラスの居る『高天原(タガマガハラ)』の世界へ行く事は出来ない。

新たに出現した『異世界の門』には、特殊な結界が張られていて普通の人間が門を越える事は出来ないからだ。

メンバーの一員であるタケルは、何も出来ない自分を歯がゆく思う。

(いつもそうだ……。肝心な時に自分は役に立たない。)

エミリー・エヴァリーナが、この門の向こうに居ると言うのに、タケルは門を潜る事すら出来ないのだ。

世界の行く末を左右する決戦を、タケル達は見守る事すら出来ない。ただ戦闘の結果を待つしか出来ない。

拳を握りしめた日賀  タケル(ひが  たける)は、門の中に消えて行った『聖なる加護』の戦士達を見送ると、静かにその場を後にする。




そして数時間後

聖都ホワイトキャッスルに戻ったタケルと『神々の聖戦(ゴッド・ジハード)』の隊員達は、予想外の光景を目の当たりにする。

「大変だ!」

「助けてくれ!」

いったい何が起きているのか。

まさか、『天帝の加護』の戦士達が、再び襲って来たのだろうか。

「どうした!何があった!?」

タケルは街行く人々に声を掛ける。

すると、人々は怯えた声で言う。

「あっちだ!街の外れで人々が襲われて居る!」

「襲われて居る!?敵は何者だ!誰に襲われて居るんだ!?」


そして人々は答える

人々を襲っているのは


異様な姿をした

『化け物』


「!!」


その『化け物』は、数ヶ月前に『白の世界(ホワイトワールド)』を襲った『化け物』と酷似している。

日賀  タケルは崩壊する直前の『裏の世界(バックワールド)』でも『化け物』と遭遇している。

タケル達の敵である『アマテラス』は、その『化け物』の事を『7つの大罪』と呼んでいると言う。



いったい『化け物』とは何なんだ!?


タケルは手に持っていた光の剣『ライトサーベル』を引き抜くと、無我夢中で『化け物』の方へと走った。

『化け物』とは『寄生虫』の成れの果てでは無いのか?

『化け物』を操っているのはアマテラスでは無いのか?

タケルの脳裏に様々な憶測が思い浮かんでは消えて行く。

今は、そんな事はどうでも良い。

人々を襲っている『化け物』を退治するのが先決だ。


「うぉりゃあぁぁぁ!」

バシュッ!

会心の一撃!

ライトサーベルの剣先が、見事に『化け物』に命中する。

ギギィ

しかし

ギギィ

『化け物』は痛みを感じる様子も無く、不気味な目のようなものをタケルに向ける。

そして

ジュバッ!!

「ぐおっ!」

『化け物』から伸びた触手が、タケルの持っていた『ライトサーベル』を呑み込んだ。

「あぶねー!」

少しでも避けるのが遅ければ呑み込まれたのはタケルであった。

長年鍛えた修行の成果なのか、人並み以上の反射神経がタケルを救う。

しかし、『ライトサーベル』を失ったタケルには、『化け物』を倒す手段が無い。

いや、そもそも『ライトサーベル』の直撃を喰らっても平気な様子の『化け物』は、その名の通り正に『化け物』だ。

(くっ!どうすれば良いんだ!!)


ギギィ

何とも不気味な目をした『化け物』。

こんな奴を、いったいどうやって倒したら良いのか。

ギギィ

(まずい……、殺される……)

タケルは、目の前の『化け物』に恐怖する。

何者かも分からない『化け物』に、タケルは殺されてしまうのか。

『聖なる加護』の戦士達と『天帝の加護』の戦士達との戦闘の結果も分からないままに。

エミリー・エヴァリーナと再び仲を取り戻す事も出来ないまま。

タケルは死ぬ。




ギギィ

そして

『化け物』は、まるで目の前の食料を補食するかのように

ビシュッ!

タケルに襲い掛かる。



ビカッ!

「ギャオォォーンッ!!」

「!!」


そして、タケルは、またしても予想外の出来事に遭遇する。

目の前に居た『化け物』が、突然の魔法攻撃により悲鳴を上げたのだ。

その魔法は黒い炎の魔法

(これは………ゼロ!?)

少年ゼロは、異空間の『異世界管理事務局』に待機しているはずだ。

タケルが振り向くと、そこにはタケルの良く見知った黒いトンガリ帽子と黒いローブを羽織った少女がニッコリと微笑んでいる。

「ほーほー。」

そして少女は言うのだ。

「私の魔法を受けても死なないなんて、魔法耐性はなかなかのようね。」

少女の魔法攻撃を受けた『化け物』の身体は、燃える矢先に次々と再生して行く。

しかし

少女は両手を天に広げ、更なる魔法を詠唱する。

「ギガフィアンマ!」

ボボボボボボッ!!

またしても灼熱の炎が『化け物』の身体を覆って行く。

ギギィ

バチバチバチッ!

そして今度も『化け物』は驚異的な能力で燃えた身体を再生して行く。

ギギィ!?

グギャッ!!

しかし、今度の炎は『化け物』の再生能力をも上回る速度で、『化け物』の身体を焼失させて行く。

「ギャオオォーンッ!!」

炎に耐えきれなくなった『化け物』が、攻撃を放った少女に向かって跳び跳ねた。

少女をまるごと呑み込むつもりだろう。

少女は平然と襲い掛かる『化け物』に手を差し向けると新たな魔法を発動する。

「雷神の雷(トゥオーノ)!!」

ビカビカビカッ!!

少女の手から現れた巨大な雷が、『化け物』の身体に直撃し

「ギャオオーンッ!」


そして

「ギギィ!…………ガ………………!!」

『化け物』の全身を

ボッガーンッ!!

消滅させる!



何と言う威力。

これほど強大な魔法を操れる者など、そうは居ない。

紛れも無くその少女は

タケルの良く知っている少女。


エミリー・エヴァリーナ


「な……何でエミリーがここに!?」

驚くタケルにエミリーは言う。

「やほー!何でって言われても」

エミリーの話はこうだ。

『天帝の加護』の戦士と『聖なる加護』の戦士達が『高天原(タガマガハラ)』の世界で戦っている間、残っているSeventh World(7つの世界)『白の世界(ホワイトワールド)』と『ワールド』は無防備になる。

その隙に『7つの大罪』の『化け物達』が2つの世界を襲うであろう。

そこでエミリーともう一人の戦士が、それぞれの世界を守る事にしたのだ。

『ワールド』の世界を守る戦士の名はゴッドマリア。何と彼女は、その名の通り神様だと言う。

そして、この『白の世界(ホワイトワールド)』を守る戦士に選ばれたのが

エミリー・エヴァリーナ。


「だって仕方ないじゃない。」

エミリーは屈託の無い笑顔で言う。

「十四人いる『加護』の戦士達の中でも、無数の『化け物』を相手に」


一人で対抗出来るのは


エミリーだけだけもの