Seventh World 夢野 可憐
天使の一族が支配する世界『白の世界(ホワイトワールド)』
聖都ホワイトキャッスルから東へ数十キロほど離れた山奥に『天使の一族』が管理する秘境がある。
その秘境の名は
―――――――『異世界の森』
Seventh World(7つの世界)に住む多くの種族の中でも、最も高度な魔法と科学を操る『天使の一族』は、異世界への移動手段を編み出した。
この『異世界の森』にある五つの門『異世界の門』を使えば、魔法を操れない者でも『異世界』へ移動する事が出来る。
黒服長身の天使パトリック・ルピアは、隣に立つ大天使『夢野 可憐(ゆめの かれん)』に、重大な報告をする。
「可憐様……、ご覧下さい。」
ルピアの指差す方向には、それぞれ異質のオーラを放つ五つの『異世界の門』がそびえ立っている。
可憐の育った世界『裏の世界(バックワールド)』の富士山の麓にある『異世界の門』とよく似た形の五つの門。
しかし、ルピアの意図する物は五つの『異世界の門』では無い。
その更に奧にある、新たに誕生した門。
―――――六つ目の『異世界の門』
一際輝く六つ目の『異世界の門』を見て可憐はルピアに確認する。
「あれが『天帝アマテラス』が住む『高天原(タガマガハラ)』の世界へと繋がる門なのですか?」
「はい、可憐様……。」
ルピアの話は、とても信じられない話であった。
その扉の向こうの世界から感じられる生命エネルギーは、Seventh World(7つの世界)最大の世界である『表の世界』と『裏の世界』を足したエネルギー質量と比べても、およそ20倍。
単純計算をするなら、人口50億人が住む2つの世界を足した20倍、すなわち2000億人の人間が住んでいる計算になる。
そのような巨大な世界は『天使の一族』のルピアでも聞いた事が無い。
「我々のよく知っている世界である Seventh World(7つ世界)の全てと、『天界』と『魔界』を足した全ての世界の合計よりも遥かに大きな世界。この門の向こうにある世界は、それほど巨大な世界なのです。」
「それはちょっと想像も出来ないかも……。」
可憐は、あまりにもスケールの大きな話に茫然とする。
「数ヶ月前に起きた『天帝の加護』の戦士達の聖都ホワイトキャッスル襲撃事件。あの事件の直後にこの門が発見されました。おそらく奴らは、この六つ目の『異世界の門』から『高天原(タガマガハラ)』の世界へと帰ったのでしょう……。」
問題は……
奴ら『天帝の加護』の戦士達が、この門を封鎖せずに、そのまま残した理由。
「可憐様……。これは罠の可能性が高い。『聖なる加護』の戦士達を誘き寄せて一網打尽にする腹づもりかも知れません。」
可憐は、パトリック・ルピアの懸念は その通りだと思う。今まで見つからなかった『高天原(タガマガハラ)』の世界。
その世界への門を、わざわさわ教える理由は考えられない。まさか、降参するつもりでも無いであろう。
可憐はルピアに質問をする。
「この門の向こう側。この先にはどのような世界が広がっているのでしょう?」
人口2000億人にも匹敵する生命エネルギーを放つ世界。そんな世界は想像も出来ない。
しかしルピアは首を横に振って答える。
「私には分かりませんな……。」
「分からない?」
「ええ……。この門に張られている結界は非常に強力です。私では先に進む事も中を覗く事も出来ません。」
「では………どうすれば………。」
可憐は背中に生えた大きな羽をふわりと羽ばたかせ、六つ目の『異世界の門』の前に舞い降りる。
(大きい………)
近くに寄ると、その門の巨大さが一層感じられた。
巨大な門を見上げる可憐。
かつて可憐は『異世界の門』を潜った事がある。『裏の世界(バックワールド)』の富士御嶽神社の地下に、ひっそりとそびえる『異世界の門』。その門と比べても六つ目の『異世界の門』の大きさは破格の大きさである。
そして、可憐はゆっくりと『異世界の門』の内側にある空間に手を差し伸べた。
ピカッ!
「!!」
すると驚く事に、巨大な『異世界の門』が光り輝き、可憐の右腕が吸い込まれるように門の中へ消えて行く。
「きゃっ!」
慌てて右腕を引っ込める可憐。
その様子を見たパトリック・ルピアは、ひとり頷いて可憐に言う。
「可憐様……。やはり、その門の結界を通り抜けられるのは『加護』の保持者だけのようですな。」
「やはり……?………それは、どう言う意味なのでしょう?」
「はい。その結界は『天帝の加護』の戦士達が出入り出来るようになっております。『聖なる加護』も『天帝の加護』も本質的には同じようなもの。」
「本質的に同じ……?」
「『天帝アマテラス』も元は天界の神々の一人。『加護』の力とは神々によって与えられた力と言う事です。」
神々によって与えられた力―――――
いわば今回の戦いは『天界の神々』同士の身内の戦い。『天帝アマテラス』が全ての神々に一人で喧嘩を売ったようなものである。
なぜアマテラスが、そのような暴挙に出たのか。その答えは六つ目の『異世界の門』の先にあるであろう。
「ルピア………。確かにこの門の先からは『神』の力を感じます。おそらく『天帝アマテラス』が私を招いているのでしょう。」
アマテラスの結界の封印によって『天界』に封じられている神々。唯一、封印から逃れた『ワールド』の世界の神ゴッドマリアは行方不明。
アマテラスが恐れるのは
神々に匹敵する力を持つ大天使『夢野 可憐』と神々に力を与えられた『聖なる加護』の戦士達。
この七人さえ居なくなればアマテラスの野望を防げる者は居ない。
「どうやら時が来たようです。ルピア……」
「はい、可憐様。」
「ボムボムさん達に連絡を……。そして、この世界……『白の世界(ホワイトワールド)』に『聖なる加護』の皆さんを呼んで下さい。」
『高天原(タガマガハラ)』の世界へ
『天帝アマテラス』の住む世界へ
『天帝の加護』の戦士達が待ち受ける世界へ
―――――――――私達は出発します!
ピカッ!
それは可憐本人も意識した訳では無いのであろう。
しかしパトリック・ルピアは、夢野 可憐(ゆめの かれん)から発せられる『聖なる光』を目の当たりにする。
『天使の一族』特有の『聖なる光』。
体内により生成された『聖なる光』は、その力が強ければ強い程、全身が光り輝く。
(これは、シルフレア様に匹敵する程の光……。やはり可憐様は、シルフレア様の双子の妹。古代の四大天使にも匹敵するポテンシャルをお持ちのようだ………。)
そして、パトリック・ルピアは、可憐に一つの武器を差し出した。
――――――――『大天使の剣』
大天使シルフレア・サーシャスの代名詞とも言える『天界の剣』は、誰もが扱える代物では無い。
「ルピア…………、これは……?」
『可憐様なら、この剣を扱えるでしょう。どうかシルフレア様の形見でもある『大天使の剣』をお持ち下さい。きっと役に立つでしょう。」
(シルフレア姉さんの形見………。)
可憐は一度ルピアの顔を見てから、『大天使の剣』へと手を伸ばす。
Seventh World (7つの世界)を救う為には『天帝アマテラス』を倒さなければならない。
アマテラスは神そのもの。
いかに『聖なる加護』の戦士達が、超人的な力を持つ優秀な戦士達であっても、神を倒す事が出来る戦士は、そうは居ないであろう。
可憐は心の中でそっと呟く。
おそらく
最後の最後に―――――
『天帝アマテラス』を殺すのは
――――――――――私の役割