Seventh World 神代 麗
アルゼリア歴3359年12月28日
マゼラン帝国 『 帝都アンドロメダ』にある、『近衛騎士団』本部内の決闘場。
「本当に宜しいのですかな?三人同時の攻撃を受ければ、命の保証は出来ませんぞ。」
マゼラン帝国『近衛騎士団』の騎士ゼブラは、異世界から来たと言う神代 麗(かみしろ れい)に忠告する。
「遠慮は入りません。殺すつもりでお願いします。」
「しかし……」
その華奢な身体に細身の剣。
屈強な帝国騎士の大剣を受けきれるとは到底思えない。ゼブラはちらりと団長であるシャルロット・ガードナーの顔を見る。
「本人が希望しているのです。構わないでしょう。」
シャルロットの許可を得てゼブラは大剣を上段に構える。
両横に控える騎士は、それぞれ大剣を真横に構え、神代 麗の側面から攻撃を仕掛ける態勢を取る。
三位一体の剣技『三翔剣(さんしょうけん)』
騎士特有の素早い動きで、三方向から同時に打ち込まれる大剣をかわすのは至難の業。
ましてや、相手は大陸最強と名高い『近衛騎士団』の精鋭達である。誰が見ても、麗が騎士の攻撃を凌げるとは思わないであろう。
「では、行きますぞ!」
三人の騎士が麗との間合いを詰めて、同時に技の名前を発する。
「「「三翔剣!!!」」」
ビュン!
ガキィーンッ!
バシッ!!
「おおっ!!」
ザワザワ
周りで決闘を見守っていた『近衛騎士団』の騎士達からどよめきが起こる。
ゼブラ達『近衛騎士団』の攻撃を紙一重でかわしたかと思うと、目にも止まらぬ速さで的確に急所を攻撃した麗。しかも、異国の剣は刃の付いてない裏側、俗に言う『峰打ち』で騎士達を仕留めたのだから、剣技の力量の差は明確である。
「うぐ……参りました。」
「鮮やかな剣裁き……。」
「大陸最強を誇る『近衛騎士』を子供扱いするとは恐れ入る。」
安倍晴明を祖とする神代一族(かみしろのいちぞく)73代目棟梁。
神代 麗(かみしろ れい)
幼少の頃より鍛えあげられた剣術は、異世界である『ワールド』の騎士達をも凌駕する。
パチパチパチ
両手を叩いて祝福するのはシャルロット・ガードナー。
「素晴らしい腕前です。あなたの剣技は、かつて日本から来た騎士『高峰 瞬(たかみね しゅん)』を彷彿させます。日本と言う国は、優秀な騎士が多数居るようですね。」
「シャルロット殿……。」
「ところで、麗さんが『近衛騎士』との決闘を申し込んだのは、どのような理由でしょう?戦う前から実力の差は明白。それくらい、麗さんも分かっていたはずですが……。」
ザワザワ
「それは……」
麗はシャルロットの顔を見据えて答える。
「シャルロット殿、あなたと戦う為です。」
ザワザワ
『近衛騎士団』の騎士達から、またしてもどよめきが起こる。
「ハッハッハッ。世界最強の騎士シャルロット団長に決闘を申し込む輩は五万と居る。しかし、止めた方が良い。自信を失うだけだ。」
この世界『ワールド』に於いて、シャルロット・ガードナーは雲の上の存在。この10年の間シャルロットの戦歴は無敗。ただの一度も負けた事が無いのだ。
真剣な表情の麗を見てシャルロットは言う。
「麗さん。私達は同じ『聖なる加護』の保持者。言わば仲間です。仲間同士で戦う意味はあるのでしょうか?」
しんと静まり返る決闘場。
騎士達は麗の返答に耳を傾ける。
「戦う意味……。そうですね。」
麗はシャルロットに言う。
「それは、強くなる為……。私は今よりも強くならなければならない。」
「!!」
『白の世界(ホワイトワールド)』にて、麗は旧友である李 羽花(リー・ユイファ)と戦い、そして結果は惨敗した。
陽炎(かげろう)の術で逃がれる事は出来たが、ピクシー・ステラが治癒魔法を施さなければ神代 麗(かみしろ れい)は死んでいただろう。
シャルロットは麗の言葉を聞いて心の芯が揺さぶられる思いであった。
(似ている……。この神代 麗と言う女性は、私に似ている。)
しかし……
そしてシャルロットは言う。
「麗さん。私の本気の剣を受けたら、おそらく麗さんは命を落とします。なぜなら麗さんは、本気で戦う事が出来ないからです。」
「………!?」
「話は聞きました。『天帝の加護』の戦士。李 羽花(リー ユイファ)に戦闘で負けたそうですね。なぜ、麗さんが負けたのか分かりますか?」
「…………」
「聞くところによると、麗さんは剣士では無い。優れた剣術を身に付けているとは言え、本来の姿は陰陽師と言う名の魔法使いでしょう?」
「それは………」
「麗さんは李 羽花(リー ユイファ)との戦闘で本気で戦っていない。なぜ得意の陰陽術を使わなかったのですか。」
「……!!」
「友達や仲間を相手に本気で戦えない今の麗さんなら、私と戦っても無駄でしょう。麗さんが負けたのは、おそらく戦闘術では無い。」
心の甘さが―――――
―――――麗さんの敗因でしょう
「!!」
『近衛騎士団』本部を後にする麗。
(確かに……)
ユイファは本気で私を殺すつもりだった。
友であり、かつての仲間である私や可憐の命を狙うユイファ。
ユイファが、なぜ敵に回ったのかは分からないが、少なくともユイファには、私達と戦う事に迷いは無いように見える。
それに比べて私は
本当に、ユイファやエミリーを
殺す事が出来るのだろうか―――――
麗が一人思い悩んでいると
「きゃあ!お姉ちゃん!ずるいわ!」
「空を飛ぶのは反則だよ!」
子供達の声が聞こえて来た。
「う~ん。だってお姉ちゃん足遅いから……。」
麗は子供達と一緒に居る女性を見て思わず声を掛ける。
「………可憐?こんな所で何をしているのです。」
「麗!ちょうど良かったわ。一緒に鬼ごっこをしませんか?」
「鬼ごっこ?」
「私達の世界の遊びを教えていた所です。楽しいですよ。」
なんと……
麗は思わず口元が緩む。
(もうすぐ『天帝の加護』の戦士達と戦うと言うのに、子供達と遊んでいるとは、何とも可憐らしい……。)
日が沈み、遊びを終えた可憐に麗は話し掛ける。
「可憐……」
「どうしたの?」
「可憐は、ユイファやエミリーが敵として現れたらどうするのです?怖くは無いのですか?」
「う~ん……」
少し考えてから可憐は言う。
「ユイファもエミリーちゃんも私の友達だから、きっと戦闘にはならないわ。友達を怖がる必要は無いんじゃないかな?」
「可憐……」
「大丈夫よ麗。私達は殺し合いをする為に戦っているんじゃない。世界を救う為に戦うの。私はきっと、ユイファもエミリーちゃんも救って見せます。」
「!!」
ユイファもエミリーも救う?
『天帝の加護』の戦士として、世界を崩壊させようとしているユイファとエミリー。
その二人を救う為に戦うと言うのか……。
(やはり…………、可憐は強いな………。)
「?……どうしたの?」
「いや………。」
そして麗は言う。
「そうね……可憐。私達は何も二人を殺す必要なんか無いわね。ならば迷う必要は有りません。」
ユイファとエミリー―――
――――――二人を救う為に
―――――――――――私は戦います
「麗ったら改まって……、変なの……。」
そして、にっこりと微笑んで可憐は言う。
「もう日が沈んだわ。みんなが心配しています。行きましょう。」
Seventh World (7つの世界)最古の世界と言われる『ワールド』。
二人の『聖なる加護』の戦士。
神代 麗(かみしろ れい)と夢野 可憐(ゆめの かれん)が通り過ぎて行く上空。
二人を見守るように見つめる二体の神の化身が居た。
朱雀は言う。
「どうですかな?我々の主はなかなか良い仲間を持っているようだ。流石は神代一族(かみしろのいちぞく)歴代最強の棟梁であるな。」
答えるのは、もう一体の神の化身。
「なに、案ずる事は無かろう。『神獣の導き』に従えば悪いようにはならぬ。』
それは、神代 麗(かみしろ れい)に使える五体目の霊獣。
この儂(わし)が付いている限り
麗の道は―――――
―――――明るく照らされるであろうぞ