Seventh World 異世界戦記の章
【決着の行方編①】
ふわり
陰陽師の式札が空に浮かぶ
その数は四枚
神代 麗(かみしろ れい)が術式を唱えると
式札はくるくると回転し、やがて四体の霊獣へと姿を変える。
青龍
―――――白虎
――――――――――玄武
―――――――――――――――朱雀
古代中国より伝わる神の化身
『四神』と呼ばれる霊獣達がうねりをあげて『黒い球体』へと襲い掛かる。
その球体の反対側で印を結ぶのはリュウギ・アルタロス。
『妖狐の一族』に伝わる三大妖術の一つ。
――――――――『 九尾の狐 』
その全長は巨大な『黒い球体』を覆い尽くすほど大きく、見るものを圧倒する。
妖力のこもった九本の尾は、一振りするだけで大地を抉り取ると言われている。
「行け!キュウビ!その『黒い球体』を破壊せよ!」
ギャオォオォォーンッ!!
『九尾の狐』が唸り声をあげて悪魔の造った『黒障球』に攻撃を開始する。
ビカッ
その時、夜の帝都アンドロメダの一角が美しい幻想的な光に包まれた。
「エレメンタル!オールフリー!!」
星空 ひかりの左手の甲にある『五芒星』が光り輝き 美しい長い髪がオーロラ色に変色して行く。
『ヘスペリアス』の世界最強の魔法使いエレナ・エリュテイアの魔法。
それは光の芸術と呼ぶに相応しい『オーロラ』の魔法。
自然界に存在する『五大精霊』の力を借りて発動する超高威力の魔法が『黒障球』に守られた悪魔ダンタリオンを包み込んで行く。
そして
シャルロット・ガードナーは光の世界に居た。
『光の粒子』により作り出される別世界。
シャルロットが見る光景の全てはスローモーションのように映し出され、些細な空気の動きすらシャルロットはハッキリと認識する。
細長い『レイピア』を構えたシャルロットは徐々にそのスピードを上げて行く。
『光速剣』による光の剣撃。
シュシュシュシュシュシュッ!!
「『光速剣・飛翔連撃』!!」
ブワッ!!
同時に繰り出される『光速剣』が、幾千もの『光の剣撃』となり『黒障球』へと飛んで行く。
その頃『黒障球』の内側では、妖精族のステラが光の魔法を詠唱していた。
光属性の魔法は、主に治癒魔法や補助魔法に優れており、攻撃魔法の威力はそれほどでは無い。そんな常識をも覆(くつがえ)すのがピクシー・ステラの魔法。
伝説の妖精族の王族シルビアとメタファーナをも上回るステラの魔力は、『ユグドラシル』の世界でも群を抜いていた。
『空間移動』の魔法で『黒障球』の内部に入り込んだステラは渾身の魔力を込めて『光の魔法』を放つ。
「ホーリーライトニング!!」
ビカッ!!
【決着の行方編②】
バチバチバチッ!!
「!!」
超至近距離で放たれたステラの攻撃魔法。
外からの攻撃に気を取られていた悪魔ダンタリオンにとっては全く予想外の攻撃。
(ギギ……、コイツ………イツノマニ………!?)
バチバチバチッ!
「グギグオォオォ!!」
二つの長い触覚を変形させて『黒障球』を造っていたダンタリオンにとって、無防備の身体を攻撃されたのだから、たまったものでは無い。
「ハヤク…コイツヲ……シトメネバ!」
シュシュッ!!
ダンタリオンのとった行動は極めて単純なものであった。
自在に形を変形出来る『黒障体』によって造られた『黒障球』の内側。
『黒い球』の内壁から無数の『鋭い棘(トゲ)』が現れ、ステラに向かって発射された。
「!!」
(ダメ!私の魔法では倒せない!!)
ステラがそう思った時、ステラの脳裏に銀河 昴の映像が流れ込んで来る。
「ステラ!逃げるんだ!!」
「え!昴!?」
「早く!『黒障球』の外へ!!」
ダンタリオンの放った『鋭い棘(トゲ)』がステラを突き刺す寸前。
「空間移動!」
すっ―――――
異空間を通って『黒障球』の外へ逃げ出すステラ。
(あぁ……、私の魔法では悪魔を倒す事は出来なかった。この作戦で倒せないなら、もう悪魔を倒す手段は無い。)
帝都アンドロメダの上空に現れたステラが、そんな事を考えていると
バチバチバチッ!
「え!?」
ドッガーンッ!!
悪魔を包んでいた『黒い球体』が大爆発を起こす。
「きゃっ!」
爆風に吹き飛ばされるステラ。
「ステラ!」
ガシッ!
そのステラを、空中でキャッチしたのは夢野 可憐(ゆめの かれん)。
「可憐……、いったい何が?何で爆発が!?」
驚くステラに可憐が言う。
「分からないわ。分からないけど、少しだけ『黒障球』の硬度が落ちたみたいね。おそらくステラ……」
―――――あなたのお陰よ
ダンタリオンが『黒障球』の内部に居るステラに攻撃を仕掛けた時、『黒障球』の外部の強度が弱まり、『聖なる加護』の戦士達の攻撃に耐えられなくなったのだろう。
モクモクと立ち込める爆炎の中から、不気味な姿の黒い悪魔『ダンタリオン』が姿を現す。
ギギ――――
その頭部にあった二本の触覚は、付け根から先が爆発により消失している。
ギギ――――
「マサカ 『黒障球』ガ壊サレルトワ思ワナカッタゾ………。」
ダンタリオンは、鋭い眼光で『聖なる加護』の戦士達を睨み付ける。
シャルロットはダンタリオンの前に歩み出て愛剣『レイピア』を構える。
「これで貴方の防御は無くなりました。覚悟しなさい!」
ギギ――――
すると
すっ―――――
「……!」
ダンタリオンの全身を覆っていた殺気が急速に萎んで行く。
(…………!?)
ギギ――――
「ワタシヲ召喚シタ人物……『カール・シュナイゲート』ハ死亡シタヨウダ。」
「え………?」
「ワタシハ魔界ニ帰ルトシヨウ……。」
シュウ―――――
「な!逃げるのですか!!」
全くの予想外。
『聖なる加護』の戦士達と戦っていた悪魔ダンタリオンの姿が、空間の中に消えて行く。
「む?どうなっているのだ!?」
「カール・シュナイゲートが死んだ?」
「ちょっと待ちなさい!」
消え行くダンタリオンとの間合いを詰めるシャルロット。
そのシャルロットにダンタリオンは言う。
「『天界ノ神々』ト『天帝アマテラス』ノ争イハ、ワレワレ悪魔ニトッテハ好都合ナノダヨ。」
セイゼイ、『神の一族』同士デ
―――――――――殺シ合ウガヨイ
【決着の行方編③】
「エミリーが……『天帝の加護』の戦士?」
日賀 タケル(ひが たける)はエミリーの言葉を聞いて愕然とする。
「そんな……バカな…………。」
すると、エミリーの後ろに二つの影が現れた。
アリス・クリオネ
チェリー・ブロッサム
「うぉ!誰だ!」
身構えるタケルを少年ゼロが右手で制する。
「タケルさん、不味(まず)いです。彼女達は僕達の敵。」
―――――『天帝の加護』の戦士です
「何だって!?」
驚いてばかりのタケルに対し、少年ゼロは冷静に状況を分析する。
(エミリー・エヴァリーナを味方に引き入れるのが今回の僕達の任務。その本人が『天帝の加護』の戦士だなんて話になりませんね。)
更に悪い事に、二人の『天帝の加護』の戦士が現れた。少年ゼロがエミリーと戦っている間に、タケルは他の二人に瞬殺されるであろう。
(これでは勝ち目が有りませんね………。)
「タケルさん、ここは下がって下さい。下手をしたら殺されますよ。」
「うるさい!エミリーは俺のっ!」
ボワッ!
「!?」
タケルが叫ぶと同時
エミリーはタケルに向けて『炎の魔法』を撃ち放つ。
「エミリー!?何を!!」
至近距離で放たれた魔法は、タケルの横をすり抜けて少し離れた地面を焼き焦がした。
驚くタケルに対してエミリーは言う。
「タケルはこの戦いから手を引くのです。戦いが終わったらエミリーは必ずタケルに会いに行くわ。」
そうでないと
エミリーは―――――
――――タケルを殺さなければならない
ゴクリ
あまりのエミリーの迫力に、タケルは言葉を失う。
「あら……」
声を発したのはチェリー・ブロッサム。
「アマテラス様がお認めになった最後の『天帝の加護』の戦士が、どれ程の戦士かと期待していたのだけれど。敵である『神々の聖戦(ゴッド・ジハード)』の戦士を見逃そうだなんて………」
―――――とんだ甘ちゃんだわ
ピクッ
エミリーはチェリーの言葉に反応する。
「あなた………」
―――――エミリーに殺されたいのかな?
ゴゴゴゴゴゴォ
ただならぬ雰囲気のエミリーとチェリー。
そこに割って入ったのはアリス・クリオネ。
「まぁ、良かったじゃない。無事に『天帝の加護』の戦士が揃ったのですから。アマテラス様もお喜びになるでしょう。」
そして、アリスはタケルの方を見て言う。
「今日は私達も争う気は有りません。『聖なる加護』の戦士達が駆け付ける前に退散しますわ。」
「くっ!」
それでも抵抗しようとするタケルにアリスは言う。
「勝負はお預けですわ。『聖なる加護』の戦士達に伝えて下さい。」
決着は―――――
『高天原(タガマガハラ)』の世界で
―――――――――――付けましょう